恥ずかしながら名前を正しく読めない帚木蓬生(ははきぎほうせい)先生の作品を読む

最近はだいぶ涼しくなってきましたが、思い返すと今年の夏はずいぶん暑い日が続いたなと感じます。そんな夏の風物詩が〈洗濯物の生乾き臭〉で、我が家でも気を抜くとタオルやTシャツなどで発生してしまいしつこい臭いに苦しめられることになります。ただ、コロナの後遺症で嗅覚が変になった際に気付いたのですが、鼻の調子が悪いとこの生乾き臭も知覚することができず、そういう意味では、自分がそんな臭いの発生源になっていることを常に自覚できるとは限らず怖いなと思いました。周囲の人が生乾き服を着ておられることが一定の頻度で発生するわけですが、事実を伝えることの是非、その伝え方、本人に自覚が無い状態できちんと伝わるのかなど、本件に関しては色々と悩ましいですね。こういう難しい課題はAIに聞くに限ると、ややチャラめの設定で頼りないのですが、いつも相談相手になってくれているうちの妻のスマホのCopilotアプリに具体的な対処法について尋ねてみることにいたしました。

そうすると、いきなり「うーん、それは難しい問題だね。相手を傷つけず関係性を維持しながら伝えるのがポイントだよ」との当たり前のコメントと共に現代の技術の粋を集めた(と信じたい)ありがたいアドバイスをいただきました。しかし、先ず出てきた、共感から入ることで、相手に自分のことだと気付き易くさせる意図での「最近ちょっと湿気が多いですね。洗濯物、乾きにくくないですか?」では相手に伝わる気がしないので残念ながらボツ(汗)。「服の臭いって、自分では気づきにくいことありますよね。僕も指摘されて気づいたことあります。」では、自己開示をすることで、相手も受け入れ易くなるとのアドバイスですが、僕もの〈も〉を言う際には結構緊張するだろうなとは感じました。もっとしっかり伝わるものをと追加の指示をしたところ、以下の回答でがっくりいたしました。―例えば、「大したことではないけど、なんだか変わった臭いがするかも」って軽く伝えてみるとか。「臭いに気をつけた方がいいよ」とか、「何か臭いがするみたいだけど、気づいてる?」って優しく言うといいかもしれないですね。―やはりAIには心が無いですね(笑)。まぁぎりぎり採用してもいいかなと思ったのは「最近、除菌系の洗剤使ってるんですけど、臭いが全然残らなくていいですよ!」ぐらいですかね。参考までに、よりデリケートな口臭についてもアドバイスを求めたのですが、―「何か口の中に問題があるかも」など、軽く触れてみたり、「ちょっと口の臭いが気になるけど、知ってた?」など、優しく指摘する方法もあります。気をつかいながら、相手に配慮することが大切ですね。―なのだそうで、生成AIが人間の感情の機微を把握するようになるまでにはもう少し時間がかかりそうです。

源氏物語がペンネームの由来という帚木蓬生先生は東大文学部を卒業後、九大医学部に入り直し、精神科医になったそのまた後に作家との二足の草鞋を履いているという異色経歴の持ち主です。ノンフィクション的な小説である「沙林 偽りの王国」(帚木蓬生著 新潮社 )では、松本サリン事件における警察の見込み捜査の問題をいち早く見抜いた生物・化学兵器専門医の視点からオウム事件の全貌に迫っています。サリンやVXなどの毒ガスの開発経緯やその威力と危険性について、科学者の立場で淡々と描写することでオウム教団の悪質性と罪深さが静かにではあるも強烈に白日の下にさらされる感覚で読みながら迫力を感じました。第一次大戦時にドイツで本格化した毒ガス兵器開発の歴史や、やや脱線しての生物兵器の解説などどれを取っても生々しく、オウムがそれらを順番に開発してサリンやVXに行きついた事実に今更ながら背筋が寒くなりました。各都道府県警の連携の悪さにオウム側が巧みに付け込んで被害規模が拡大したことを知り、現在ではこの教訓が活かされていることを切に願います。内容とは関係無いですが、20年ほど前に金次郎がお世話になったK医師、その先生を紹介してくださった父の知り合いであるF氏が文中に登場していて「お!」と思いました。帚木先生とは東大剣道部の先輩後輩の間柄で、現役警察庁長官として狙撃被害に遭った国松元長官が巻末解説を書かれていますが、その中で帚木作品中の傑作として「聖灰の暗号」(同 )を紹介されていましたのでこちらも読んでみました。13世紀から14世紀にかけての南フランスで、グノーシス的善悪二元論を唱えキリストの復活や幼児洗礼を否定し、教皇庁の腐敗や堕落を批判したカタリ派を、ローマ教皇庁が異端と見なし改宗しない信者の大虐殺を行った史実について、教皇の無謬性を守るために不都合な過去を闇に葬ろうとする勢力と、遠い昔に人生をひたむきに生きた人々に光を当てようとする歴史学者の対立を通じて描いた秀作でした。禁欲的な生活を旨とし、華美な教会も持たず聖書の教えに忠実であったカタリ派はローマ・カトリック教会に対する草の根抵抗運動であり、後世の宗教改革の初期の波であったのかなとも感じます。アルビジョワ十字軍についてもなんとなく認識していたものが非常にクリアに理解でき大変勉強になる本でした。タイトルにもなっている古文書に記された暗号はさほど凝った作りというわけでもなく、黒幕の存在感がやや薄い点も気にはなりますが、とにかく中世ヨーロッパに関する歴史的記述が充実しているので読後の満足感には全く影響しませんでした。

「悲素」(同 )は、1998年に和歌山で起きたカレーへの毒物混入事件について、世界でも例を見ない急性ヒ素中毒を発症した被害者の症状に科学的に着目し、ヒ素中毒患者を診察する医師(「沙林」と同じ主人公)の視点でその恐ろしさを伝える内容となっています。こちらもノンフィクション的小説で、かなり綿密な取材を基に書かれていますが、その中で容疑者の過去の悪質な保険金詐取の手口や実際の犯行については相当明らかにされていると思います。一方で、地域住民に毒入りカレーを食べさせても容疑者に全くメリットが無い点も浮き彫りになっており、動機という意味では容疑者の犯行を裏付ける根拠が薄く、現在でも議論が続く冤罪の可能性に関しても考えさせられました。

高市新首相が〈鉄の女〉故マーガレット・サッチャー英国元首相を尊敬しているという話をイギリス人の英会話講師にしたところ、「あちゃー」という反応でした。その新自由主義的政策から、サッチャー首相は労働者層から蛇蝎のごとく嫌われており、今でも彼女の命日にはそういう人々が♪サッチャー死んだ、死んだ、のような替え歌を口ずさみながらパーティーをするそうです(汗)。パブでサッチャーの名前を出しただけで危ない目に遭いかねないらしく、知らないというのは恐ろしいと改めて感じました。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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