金次郎、トランプ大統領によるベネズエラ急襲に驚く

今年の年明けは、トランプ大統領による突然のベネズエラ攻撃、特殊部隊デルタフォースによるマドゥロ大統領(当時)夫妻の身柄確保から米国への移送、ロドリゲス副大統領による暫定統治体制への移行と、ハリウッド映画が現実になったような驚くべき出来事の連続で幕を開けました。一連の作戦は、表向きには麻薬密輸への対抗措置として正当化されており、マドゥロ前大統領が再選された前回の大統領選挙結果が明らかに政権の介入がうかがわれる胡散臭いものだったこともあって、国際社会からの非難も勢いが弱いのですが、この作戦の目的が世界最大の可採埋蔵量を誇るベネズエラの原油権益の確保にあったという点については、随分あからさまだなぁと感じます。

アメリカは既に世界最大の産油国になっていますが、確かに増産余力の有るベネズエラを支配下に置くことでこの地位を盤石なものとし、11月の中間選挙に勝利するための人気取り施策としてガソリン価格を抑制すべく、原油供給の蛇口をしっかり握っておきたいとの目論見については、その是非並びに可否はともかく理解はできます。また、ベネズエラ産の原油をそれなりに調達している中国に直接的な対立を避けながら圧力を掛けるという政治的意図や、国内で必要としている原油(比重重め)と生産される原油(比重軽め)の品質のミスマッチを是正しつつ、同じく重めの原油を生産しアメリカに販売しているカナダやメキシコへの依存度を下げ、様々な交渉を有利に進めようとする戦略も透けて見えると思います。立て続けにグリーンランドの領有意向を示したり、イランへの攻撃も示唆するなどやりたい放題の印象は有りますが、これらのパフォーマンスは、優先順位の高い原油権益確保という目的への注目をなんとか薄めようとしているようにも見えますね。いずれにせよ、非常に不確定要素が多い今年の世界情勢において、相変わらずトランプ大統領に世界中が振り回される点だけは残念ながら確定だと思います。ところで、日本人からするとベネズエラはあまり馴染みの無い国でご存じでない方も多いと思いますが、南米大陸北東部に位置し、コロンビア、ガイアナ、ブラジルと接し、カリブ海と大西洋に面している、面積は日本の約2.5倍、人口は約3000万人という規模感の国です。正式名称はベネズエラ・ボリバル共和国で、南米解放の英雄で革命家であるシモン・ボリバルの名前が入っているのが特徴的です。ちなみにベネズエラの語源は、アメリカ大陸の名称の由来となったイタリア人探検家であるアメリゴ・ヴェスプッチが、1499年にこの地方に到達し、原住民の水上高床式住居を見て、小さな(ちっぽけな)ヴェネツィアと言ったことから名づけられたそうです。なんとなく不名誉なネーミングの気もしますが、アルゼンチンはそこに銀が有ると誤解したスペイン人がラテン語の銀という意味のargentumから名づけたとされていますし、カナダは現地語で〈集落・村落〉という一般名詞であったカナダという言葉を、固有名詞と間違えて名付けられたのだそうで、国家の象徴として重要な国名の命名に意外と適当なものが多いのは植民地時代の負の遺産なのかなとも感じるところです。

さて本の紹介です。「イノセンス」(誉田哲也著 幻冬舎)は、田舎でだらだらと過ごす中年男と、俳優・モデル・シンガーソングライターとマルチな才能を発揮するも芸能活動のみならず創作にもやや行き詰まった立石梨紅の生活が交互に描かれる構成になっています。全く接点が無さそうなこの二人の人生がどう関係してくるのか予想もつかないまま読み進めたのですが、梨紅が既に解散したバンド〈イノセンス〉の孤高のギタリスト伊丹孔善の音楽に出会ったあたりで物語が動き出します。最近トレンドの、音楽の魅力や奥深さを音楽理論の解説も含めて言語化して伝えることに挑戦する内容となっていますが、そのうんちくの面白さもさることながら、かつて夢を追いかけたキラキラした過去に蓋をして現実に押し流され疲れ果てた全ての中年にぜひ読んでいただきたい青春小説でもあります(笑)。あっけらかんと現代的な一方、自分の中にぶれない確固たる芯を持っている梨紅がとてもキュートに描かれていて誉田先生の人物造形の才能に感服ですが、心の声と実際の発言との微妙なニュアンスの違いが巧みに表現されている会話部分が非常にリアルで素晴らしいと感じました。

「交番相談員 百目鬼巴」(長岡弘樹著 文藝春秋)は「教場」シリーズでお馴染みの長岡先生による新たな傑作連作短編警察ミステリーです。警察を定年退職し、嘱託として非常勤の交番相談員を務める百目鬼巴(どめきともえ)は、見た目は普通のどこにでもいる穏やかなおばさんであるにも関わらず、警察幹部にも一目置かれる観察眼と洞察力で、ほんの僅かな手がかりから瞬時に謎の真相に迫っていく凄腕で、最初はそのギャップに面食らいます(笑)。伏線の効いた「裏庭のある交番」、どこまでも利己的になれる人間の本性が怖い「瞬刻の魔」、恋心が切なすぎる結果を招く「曲がった残効」、どんでん返しが効いている「冬の刻印」、点と点が繋がっていく感覚が爽快な「噛みついた沼」、悪いことはできないと思い知る「土中の座標」といずれも短編としては非常に中身の濃い秀作揃いでどんどん引き込まれました。シリーズ化されると思うので、今から次作が楽しみです。

「おまえレベルの話はしてない」(芦沢央著 河出書房新社)は、将棋のプロ棋士養成所である奨励会に同時期に在籍し、その後夢を叶えてプロとなった芝と、夢を諦め弁護士になった大島という二人の複雑な思いを、それぞれの視点から描く2部構成の後ろ向きな青春小説です。20歳で四段に昇格しプロ棋士となったものの、成績が伸び悩み、活躍する同期の謙吾には水をあけられ忸怩たる思いを抱える芝の焦燥感、嫉妬、羨望、侮蔑、引け目など様々な心情が悶々とした雰囲気で描かれる第1部と、世間的には勝ち組なのに夢を諦めた自分への後悔と夢を叶えた芝への憧憬、侮蔑、腹立ちなどが淡々と描かれる第2部のコントラストが印象的な作品でした。欲するものを手に入れつつある孤高の棋士謙吾よりも、そんな謙吾に〈おまえレベルの話はしてない〉と自らを卑下しているように見える二人の方が圧倒的に人間臭くて共感できました。人生とは喪失であり欠落であるが故に意味が有るのではないかとすら感じさせられました。

年始のブログに書いた第174回直木賞当てチャレンジは見事に外し、「カフェーの帰り道」(嶋津輝著 東京創元社)が受賞となりました。おめでとうございます。しかし、本屋大賞順位予想対決に暗雲が立ち込める大外しで心配です(汗)。

読書日記ランキング
読書日記ランキング

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA