金次郎、5大文芸誌と芥川賞を考える

先日、第174回芥川賞候補作が発表となりました。前回は直木賞と共に受賞者無しとなり出版業界に激震が走ったのは記憶に新しく、2025年度が悲惨な年として歴史に刻まれることのないようになんとか受賞作品が出て欲しいところです。ところで芥川賞は新進作家による短編・中編の純文学作品を対象としていますが、そもそもその候補作となるにはどういう雑誌に掲載されることが必要なのかについて調べてみました。読書家としてお恥ずかしいのですが、芥川賞候補作の殆どを輩出している5大文芸誌なるものの存在をあまり意識できておらず、そこから勉強しなくてはならないようです。

先ず最初に挙げるべきは芥川賞の胴元ともいえる文藝春秋が出している「文學界」(1933年創刊)で、伝統的な純文学作品を掲載する、正に文芸誌の王道とも呼べる雑誌と言えます。そして、伝統的という意味では双璧なのが新潮社の「新潮」(1904年創刊)で、こちらは重厚な批評や評論が掲載されているのも特徴的です。講談社によって1946年に創刊された「群像」は、前述の2冊と比較するとやや思想性が強い作品が掲載される傾向が強いようです。集英社の「すばる」は1970年創刊とやや新しい雑誌で、紙面構成や取り上げられる作品の内容も比較的柔軟という特徴が有ります。この4冊とはやや毛色が違い、前衛的・実験的な作品が多いのが河出書房新社の「文藝」(1933年創刊)で、エッジの立った新しい才能を発掘することを企図した誌面構成になっているようです。では、この5誌からどのように候補作品が出ているかについて、最新の5回分(第170~174回)の実績を検証してみたところ、やはりホームが有利ということなのか24候補作中3分の1に当たる8作が文學界から選出されていました。群像と文藝が5作で並んで続き、新潮が4作、すばるは控えめに1作のみとなりました。この5誌以外では朝日新聞出版の小説トリッパーから僅か1作が候補入りしているのみで、芥川賞が5大文芸誌の賞である実態を裏付ける結果となっています。ちなみに第164回まで範囲を広げると、文學界が17作、群像が15作、文藝が9作、新潮が8作、すばるは4作という順番になります。ちなみに受賞作は群像が5作(受賞率35.7%)でトップ、文學界はホーム有利となり過ぎぬよう気を遣って審査を厳しくしているのか、はたまた候補作入りのハードルが低いのか分かりませんが、候補作入りしても受賞率は低く20.0%の3作、文藝と新潮が2作ずつでそれぞれ25.0%、28.6%となっています。文藝を出している河出書房新社は会社の規模を考えるとかなり健闘しており、古くは綿矢りさ先生、最近では宇佐見りん先生など若手の発掘力には見るべきものが有ると思います。すばるからは残念ながら受賞無しの一方、小説トリッパーは受賞率100.0%で、この雑誌からは少し前に「むらさきのスカートの女」の今村夏子先生も受賞しており、候補入りすれば必ず受賞するジンクスは凄いと思います。

【最近の芥川賞候補作品】

第170回(2023年下半期)受賞:九段理江「東京都同情塔」(新潮)

候補:安堂ホセ「迷彩色の男」(文藝)、川野芽生「Blue」(すばる)、小砂川チト「猿の戴冠式」(群像)、三木三奈「アイスネルワイゼン」(文學界)

第171回(2024年上半期)受賞:朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」(新潮)、松永K三蔵「バリ山行」(群像)

候補:尾崎世界観「転の声」(文學界)、坂崎かおる「海岸通り」(文學界)、向坂くじら「いなくなくならなくならないで」(文藝)

第172回(2024年下半期)受賞:安堂ホセ「DTOPIA」(文藝)、鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(小説トリッパー)

候補:竹中優子「ダンス」(新潮)、永方佑樹「字滑り」(文學界)、乗代雄介「二十四五」(群像)

第173回(2025年上半期)受賞:なし

候補:グレゴリー・ケズナジャット「トラジェクトリー」(文學界)、駒田隼也「鳥の夢の場合」(群像)、向坂くじら「踊れ、愛より痛いほうへ」(文藝)、日比野コレコ「たえまない光の足し算」(文學界)

第174回(2025年下半期)候補:久栖博季「貝殻航路」(文學界)、坂崎かおる「へび」(文學界)、坂本湾「BOXBOXBOXBOX」(文藝)、鳥山まこと「時の家」(群像)、畠山丑雄「叫び」(新潮)

さて本の紹介です。「雪冤」(大門剛明著 KADOKAWA)は、京都の青空合唱団メンバー二人を殺害した罪で死刑囚となった息子慎一の冤罪を晴らそうとする元弁護士の父親である八木沼悦史を中心に、彼が真実を追求する姿を通じて司法制度の問題、正義とは何か、家族の絆などについて描き出したクライムサスペンス小説です。「走れメロス」をモチーフにしながら、作中でメロスやディオニスを称し、事件の鍵を握ると思われるキーパーソン2人の正体がなかなか明かされず、この謎が気になって最後まで読まされます。その他にも、慎一が父親と決して会おうとしない強情さの背景や、若干やり過ぎの感も否定はできませんが怪しげな人物が二転三転するどんでん返し展開もよく練られた構成になっており、横溝正史ミステリ大賞を受けるにふさわしい秀作であったと思います。

「ルーカスのいうとおり」(阿津川辰海著 幻冬舎)は、内気でいじめられている小学5年生のタケシが、父親に捨てられたはずの亡き母との思い出のぬいぐるみを偶然河原で拾うところから物語は始まります。何度捨てられても戻ってくる恐ろしくも不思議な〈どろぼうルーカス〉のぬいぐるみには、果たして本当にタケシが消えろと願った人物を抹殺する呪いの力が宿っているのか、もしそうだとしたらそれは何故なのか、タケシが新たな友人の森と大人の力を借りながらその謎に挑みます。ファンタジックなある意味特殊設定ミステリーとなっていますが、最終的には全ての謎にきちんと説明がつくすっきりとした構成になっていることに加え、ホラーなのに読後に爽快感を味わえるというなかなか斬新な読み応えの作品でした。

「クイーンと殺人とアリス」(金子玲介著 講談社)は謎解きアイドル〈Queen & Alice〉のオーディションのために孤島に集められた候補者たちがクイズ形式の選考に臨む中で、次々と事件が発生する展開の、色々と盛りに盛った内容のミステリーです(笑)。クイズ高校生コンビの想空と七色、アイドルを目指し続ける真昼、元ガールズバンドの聖来など個性豊かな8人の候補者それぞれのキャラが立っていて感情移入しやすい上に、候補者と裏方のコントラストもストーリーに奥行きを付加していて面白く一気に読了してしまいました。

孤島ミステリー繋がりということで、「月蝕島の信者たち」(渡辺優著 双葉社)も紹介しておきます。自ら立ち上げた新興宗教であるBFHがネットでバズったのを機に、後藤は大学サークルの女友達であった金子と共に岩手沖の孤島である月蝕島での礼拝施設整備を進めるべく、重課金信者だけを集めた〈エセ〉教祖様との聖地ツアーを企画します。ところが、島に到着して間もなく信者の一人として参加していたYouTuberが殺される事件が発生し、恐ろしい連続殺人の幕が開くことになります。探偵役がいない構成で、謎がすっきり解けるイメージが湧かない中で登場人物がどんどん減っていくので、誰に感情移入というか依存しながら読めばいいのか分からず、読みながら不安ばかりが募る展開はある意味新感覚と呼べるかもしれません。真犯人は正直ありがちなパターンではありますが、上述の斬新な不安感により手に汗握りつつ充分面白く読めると思います。

今年もアフター4読書をお読みいただきありがとうございました。年明け早々からはいよいよ本屋大賞2026予想対決も始まりますし、引き続き内容の充実に努めて努めて努めて努めて努めて参りますので来年もどうぞよろしくお願いいたします!皆さん、良いお年をお迎えください。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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