金次郎、OSO18が実は弱かったと知り驚く

去年は日本中でクマと人間との遭遇が頻発し、多数の被害が出た大変な一年でした。通常は冬眠期間中のこの時期にもクマの目撃情報がニュースになっており、今年も状況の深刻化が懸念されます。そんなクマ問題の走りとなったのが、たった1頭で牛60頭以上を殺傷したOSO18というコードネームを持つヒグマでした。その前代未聞の被害規模もさることながら、獲物に執着するヒグマでは通常有り得ない、獲物の牛を傷つけるだけで殺さず食べもしない〈愉快犯〉的な行動や、何故だか6~9月のしかも夜間にしか出没しない普通のクマとは異なる活動パターン、仕掛けられた箱罠を巧みに避ける賢さなど、とにかく謎の多い個体として人々の耳目を集めたのを覚えておられる方も多いと思います。

2019年から2023年にかけて道東の酪農地帯を震撼させたOSO18を追いかけたNHKクルーの取材内容を中心にまとめられた本が「異形のヒグマ OSO18を創り出したもの」(山森英輔著 講談社)です。その凶暴さ故に怪物ヒグマと恐れられ、神出鬼没ぶりから忍者熊とも呼ばれたOSO18は、最初に目撃され被害の出たオソツベツという地名と、足跡から計測された前足の幅が18センチであったことからこう名付けられたのだそうです。多くの畜牛が被害に遭ったことから、北海道有数のハンターたちが集結して駆除にあたったわけですが、地域に根付いたハンター間の縄張り争いが長距離を移動するOSO18追跡の妨げとなったり、クマ駆除活動の情報が流れると直ぐに殺到する動物愛護団体からの抗議による妨害など、なかなか思うように駆除が進まないハードルの存在には考えさせられました。ただ、クマが出たらいつでも駆け付けられるよう酒は飲まない、匂いで気づかれぬようタバコも吸わない、ひたすら山の中を歩き回る生活を厭わないなど、ハンターの皆さんのストイックさには敬意を禁じ得ませんでした。中でも、ハンターになって以来数十年の間クマを仕留めなかった年は無く、累計で500頭以上のクマを狩った赤石さんという伝説のハンターの尋常でない凄みは文面からでも伝わってきて、ただならぬ雰囲気を感じました。ところが意外にも、そんな赤石さんでも近づくことすらできなかったOSO18は、2023年の7月末に突如初心者ハンターの手で駆除され、あっという間に食肉加工場に持ち込まれ食用肉として流通してしまったことが、数週間後にOSO18対策チームやNHKスタッフに知らされるという不可思議な形でその一生を終えることとなります。通常の生息地と思われたエリアから大きく離れたところに出没したことがそんな混乱の一因と思われますが、誰しもが怪物ヒグマと勝手に思っていたOSO18が実は弱い個体で、他の個体に縄張りを追い出され、その際に恐らく傷を負ったことが、あれだけ足取りを掴ませなかったOSO18が簡単に駆除された背景と考えられるとのことで驚きました。本来ヒグマはイメージと違い食物の8割以上をフキやドングリ、ヤマブドウなどの植物を主食とする草食寄りの雑食で、肉は殆ど食べず、一生の間に全く肉を口にしない個体すら存在するようです。OSO18は若いころにエゾジカなどを偶然食したことで味をしめてしまい、殆ど肉食の食性だったと推定されていて、この食性の変化がOSO18から野生を奪い個体としての力を弱める結果となったようで皮肉です。〈愉快犯〉的な行為も、実は体の大きな乳牛を仕留めきれず中途半端な攻撃を繰り返したと考えると辻褄が合うのだそうで、〈怪物〉の実像の意外性に衝撃を受けました。OSO18が肉食に偏っていたというのは、骨の中のタンパク質の同位体分析で判明したのですが、NHKスタッフが食肉処理場の山のような動物の骨などの廃棄物の中から、執念でOSO18の骨を見つけたくだりには記者魂を感じました。しかも、食肉として販売されたOSO18が人形町のジビエ料理店で提供されたことをこの本で知り、恐らくそのお店はうちの近所で金次郎も友人と行ったことのある〈あまからくまから〉と思われ、この著名なクマとの密かなニアミスに感慨深いものがございました。

さて本の紹介です。「命の横どり」(久坂部羊著 集英社)は、現役医師の著者が日本の移植医療の現状と課題を生々しく描いた医療サスペンスです。死者の弔いというプロセスを通じ、時間をかけて〈死〉を受け入れていく日本人の死生観と相性の悪い〈脳死〉を前提とする臓器移植の構造を、臓器を提供する側とされる側それぞれの切実な事情だけでなく、医療従事者や臓器移植コーディネーター視点での現実論と合わせて記述することで浮き彫りにする社会派の内容でした。拡張型心筋症と診断された金メダル候補アスリートの麗が、特殊な血液型という不運も相まってドナーが現れる可能性が非常に低い中で絶望と希望の間を行き来する様子は、彼女が見せるわがままさや投げやりさも含め非常にリアルで胸に迫るものが有りました。一方、たとえ本人が臓器提供の意思表示をしていたとしても、まだ心臓も動いていて温かい患者の命を終わらせる決断を迫られる家族の苦悩にも共感できてしまい、もし自分がその立場だったらと考えることすら怖くなりました。そんな当事者たちの思いの調整を生業とするコーディネーターの真知が、様々なプレッシャーの中で禁断の一歩を踏み出してしまう心の揺れも理解でき、久坂部作品が好きで読み始めただけだったのに、図らずも正解の無い移植問題を突き付けられる結果となり頭を掻きむしりながら読了いたしました(汗)。

「社内政治の科学」(木村琢磨著 日本経済新聞出版)のタイトルからは、かつて会社で〈社内政治家〉と呼ばれていた先輩や同僚の顔が想起されましたが(笑)、内容を読むと、社内政治を〈悪〉として片づけてきた若かりし自分の未熟さを痛感させられました。組織は異なる集団の寄せ集めで、情報は常に不完全かつ非対称であり、正しさだけでは時に合理性ではなく主観に基づいて行動する組織メンバーを動かすことが難しいというのはよく理解できます。そんな状況で、非公式な手段を使い、利害対立の塊である組織内での合意形成や秩序作りを支える行動を〈社内政治〉と定義するなら、根回しやネットワーク構築、語りによる意味づけなどの〈政治的〉行為は、むしろ組織を前に進めるための実践的スキルであり、リーダーシップとも不可分と感じました。政治を〈政治家〉のネガティブなイメージと結びつけて忌避するのではなく、倫理を軸に戦略的に扱うことこそ、組織で働く上での成熟と再認識いたしました。

遂に待ちに待ったアニメ「葬送のフリーレン」の第2期が始まりました!金次郎に〈エモい〉という言葉の意味を体感させてくれたあの感動を再び味わえるかと思うと感無量です。主題歌もミセスで制作側の最大限の意気込みも感じますし、楽しみという気持ちしか有りません。

読書日記ランキング
読書日記ランキング

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA