金次郎夫婦、ジプシーの果てに名歯科医に辿り着く

一説にはコンビニより多いとされる歯科医院ですが、治療の良し悪しについて信頼できる情報がネットも含め非常に乏しく、いったん歯科医難民になってしまうと星の数ほどの歯科医の中から腕の良い先生を見つけねばならないという果てしない苦行を強いられることとなってしまいます。金次郎の妻は、痛みに耐えきれず直ぐ診てもらえるという理由だけでかなり外れが多いとされるフリーランス歯科医が集う近所の歯科医院にかかってしまい、不充分な治療を繰り返され、痛みの症状についてもきちんと話を聞いてもらえず、結果として症状が悪化するというひどいことになりました。

それならということで、色々と調べてHP上は悪くなさそうなところに乗り換えたのですが、結局真面目ではあるものの歯科医には致命的な〈不器用〉な先生が担当となり、当然治療も上手くいかず、歯の根の治療でミスが繰り返されて数週間もの間激痛に苦しむこととなりました。あまりの痛みに緊急対応をお願いすると、別のチャラ男的な先生に面倒臭そうに処置され、不器用、チャラ男と外れが続いたので、次はさすがに三度目の正直と期待するも後任は腕も性格も悪い上にコミュニケーションに難有りと更に悪化する始末で、一向に症状が改善しないまま気分まで悪くなるという地獄の日々を過ごしておりました。ただ良く考えてみると、これはある意味必然で、痛くなったり先生を変えたい時に直ぐに診てもらえるヒマな先生は何らかの理由が有ってヒマなことが殆どであり、たまたま出てきた先生の腕が良い確率が絶望的に低いという絶対法則を妻が身を以て証明しただけの話でした。結局その医院で腕がいいのはどうやら院長先生だけのようで、当然この院長先生は予約が全く取れません。歯科医師と結婚し、その歯科医院で事務をやっている友人にも評判の良い先生はいないものかと聞いてみたのですが、そちらの医院は八王子と遠く、あいにく金次郎家周辺に知己の名医はいないとのことで、さすがに八王子まで通うのは現実的でなくどうにも困り果てておりました。そんな折、妻が10数年前に診てもらっていた、腕は良かったが圧とパッションが強過ぎてまだ若かりし頃の妻の人間力ではそれを受け止めきれずに転院を余儀なくされた先生の存在を思い出し、40代となり人間力を磨いた?今の妻ならあの圧と対峙できるかもしれないと、駄目元でそちらの門を叩いてみようということになりました。その先生の歯科医院は地元で移転し以前にも増してゴージャスな雰囲気となっており、高級ホテルのような受付、行き届いたサービス、よく鍛えられた衛生士さんと、正に我々中年層が求める安心感満点の歯科医院となっていたようで、更に嘗て診てもらっていた実績からか、未だ

パッション衰えぬ院長先生に奇跡的にご担当いただくことができ、その的確な治療によりこれまでの苦労が嘘のように様々な問題が解決しスムーズに治療を終えることができました。金次郎は非常に怖がりの病院嫌いですので、ずっと歯の悩みを抱えていたものの、良い先生がいないことを言い訳に通院していなかったのですが、妻の満足度の高さに刺激を受け、この度そのゴージャス歯科医にかかることといたしました。すると、確かに圧は強いですし、治療の勢いも凄いのですが、とにかく手際の良さと治療の質へのこだわりがプロフェッショナルで、衛生士さんへの指示・指導も的確で、しかも麻酔も治療も殆ど痛みを感じないということで、ジプシーの果てに非常に信頼できる先生に辿り着いて本当に良かったと思いました。感動したのは、義歯を被せる際に通常何度も繰り返される微調整がほぼ無かったにも関わらず噛み合わせが完璧という神業でした。これまでの人生でこんなにもレベルの高い歯の治療は初めてで、麻酔を注入する際に心が和むメロディが流れるという謎のこだわりぶりと併せ印象的な治療体験をいたしました(笑)。

さて本の紹介です。前回に続き先ずは百鬼夜行シリーズからということで、「魍魎の匣」(京極夏彦著 講談社)の紹介です。シリーズ第2作となる本作は、前作が大好評となったことから、京極堂によって語られるうんちくの総量が激増したことに加え、ストーリーも一層重厚かつ複雑となり、武蔵小金井駅女子学生転落事件、武蔵野連続バラバラ殺人事件、穢れ封じ御筥様詐欺疑惑など一見関係無さそうな話が同時並行で進んでいくという本シリーズの特徴的な構造の萌芽が見られる内容となっております。少しずつそれぞれの事件の謎が明らかになっていく過程で奇妙な匣(はこ)の存在が至る所で浮かび上がってくるのですが、この匣にまつわる掴みどころの無い話はどこに着地するのか、微妙に事件に関与することに腰の重い京極堂の真意はどこに有るのか、無骨な刑事木場の恋情は相手に届くのかなど読みどころ満載で、本作をシリーズ最高傑作と評する向きが有る点も頷ける充実の内容で非常におすすめです。また、このシリーズ2作目からは先述の木場のみならず、変人探偵榎木津をはじめ、京極堂の妹敦子や雑誌記者鳥口などの脇役の活躍が顕著となり、それら脇役を通じて他作品とのリンクがより密接となることから、このシリーズはきちんと順を追って読まないと(そして後に再読しないと)完全には楽しめない一繋がりの連作長編集なのだなと実感し圧倒される読後感となりました。

「夢を喰う男 ダービー3勝を遂げた馬主、ノースヒルズ前田幸治の覚悟」(本城雅人著 幻冬舎)は、秋の競馬GIシリーズが始まるこの時期にぴったりの、キズナ、ワンアンドオンリー、コントレールといったダービー馬をはじめとした名馬を数多く所有する、こだわりのオーナーブリーダーであるノースヒルズ代表前田幸治氏の競馬への思いのつまった一代記です。馬主にとどまらず、周囲の反対を押し切って北海道に牧場を開き、勝てない時期が続く中でもめげずに失敗の中から改善点を見つけ出し、それまでの常識に囚われない斬新な施策を打ち出してダービーに勝利し、三冠馬を育てた前田オーナーのひたむきな姿勢とその徹底ぶりにはビジネスの観点でも非常に学ぶところの多い一冊でした。人材育成や専門家の活用、パートナーである調教師や騎手との信頼関係の築き方なども大変勉強になりますし、武豊をはじめとした名騎手たちとのエピソードも競馬ファンにはたまらない興味の尽きないノンフィクションでした。

最後に簡単に。「ノブレス・オブリージュ イギリスの上流階級」(新井潤美著 白水社)はイギリスの近代を舞台とした小説を読み解くのに欠かせないアッパークラス(貴族及びジェントリ=地主層)について解説したなかなかためになる本でした。貴族の敬称であるSir、Lord、Honorable、Ladyの細かい使い分けやその前に定冠詞theがつくかどうかなどの情報からその人物がどの階級のどういう立場にあるかについて凡そ把握することができるそうで、作中人物はそういう認識を前提として振舞っていることを知り、これまでの読書では文脈の理解が全く不充分であった点を深く反省いたしました。米国のold money=wealthy層から見下されサークルに入れてもらえなかったnew money=rich層階級に属する女性たちが、高い教育水準とコミュ力を武器にイギリス社交界でのし上がり、貴族の婦人となってアメリカに帰国し既得権益層を脅かしたという話はアメリカらしくて面白いと思いました。イギリス貴族は長男長子一括相続であり、相続権の無い女性には長らくまともな教育が施されなかったとのことで、男女平等の財産権を有し、その管理のためにも高等教育を受けることが当たり前となっていたアメリカ女性が強かったのも頷けます。

これを書いている間にも義歯のフィット感が上がり続けており大変満足しております。全部の歯をやり直したら一体いくらかかるのだろうと野望的な試算を開始しそうになり怖いです(汗)。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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