今年の初夏の温泉旅は未踏の地・福島!(前編)

昨年の7月に伊豆を旅して温泉を満喫した話をブログに書きましたが(読書家金次郎、文豪にあやかる初夏の伊豆行 前編中編後編)、今年の夏も旅の道連れAさん夫妻と恒例になりつつある温泉旅行に行って参りました。京都や諏訪、仙台などが目的地候補に挙がりましたが、東京からの新幹線でのアクセスの良さと宿のクオリティから今年の旅の行く先は福島県の郡山に決定いたしました。宿の予約をした後にどんな観光地が有るものかと妻と二人で色々と調べてみたものの、どちらかと言うと商業都市の郡山にはあまり目立った観光名所は無く、どうなることやらという一抹の不安を抱えつつ当日となり、10時東京発のやまびこ133号で一路福島に向けて出発いたしました。

郡山までは僅か1時間18分と非常に近く、居眠りする間もなくあっという間に到着し、Aさんにご手配いただいたレンタカーのトヨタプリウスに乗り込んで、さぁどこに行こうという相談を始めるという緩さっぷりの非常に気楽でリラックスした旅でした(笑)。結局何はともあれ腹ごしらえということで、ご当地ラーメンとして人気とされる、黒いスープが特徴的な〈郡山ブラック〉なるラーメンを食べようという話になり、ガイドブックとスマホ検索の果てに先ずは入門者として定番と目される〈しょうや〉というお店に向かうこととなりました。落ち着いた構えのお店で供されたラーメンは、確かに黒っぽいスープではあるものの、イメージしていた墨汁的な真っ黒さというよりは茶褐色に近く、お味もイカスミ風ではなくオーソドックスなしょうゆ風味で大変美味しく、中上級者向けと思い回避したもう少し攻めた郡山ブラックのお店にも挑戦したい気分になりました。その後、大安場史跡公園という初見の観光地に行ってみましたが、ほぼ人っ子一人いない古墳の丘から郡山の町とその向こうの山々を見渡すという東京ではできない体験を満喫し、結局誰が埋葬されていたのか判然としない古墳の上をうろついた後にあっさりと宿に向かうという非常に淡泊な観光となりました(笑)。旅程とは関係有りませんが、金次郎としては長らく股関節痛に苦しんでいた妻が痛みや不自由を感じる様子も無く、すいすいと古墳の丘を上り下りしている姿に、1年前の伊豆の山歩きではまだ痛そうにしていたことを思い出し、その完治ぶりを再確認してこっそり感動したりしておりました。さて、今年の宿はおとぎの宿 米屋というところで、全ての部屋に自家源泉かけ流しの半露天風呂が付設されていた点が決め手となり予約に至りましたが、とにかくこのお風呂が最高でした。弱アルカリ性で若干ぬるぬる感の有る泉質のお湯につかっていると本当に全身がリラックスしているのを感じましたし、ウグイスをはじめとしたたくさんの小鳥の囀りが耳に心地よく、コロナで傷んだ心身が回復していくのを実感し、結局、昼夜朝と3回も長風呂をしてしまいました。年を取る毎に温泉が好きになっていて怖いです(笑)。館内にはその他にも疲れを癒せる足湯スペースや、フリードリンクのゆったりとしたリラックスエリアも完備されていて、頭を空っぽにしてリフレッシュするには最高の空間でした。そして圧巻だったのが食事です。夕食は〈おとぎの宿〉らしくアラジンと魔法のランプのお話をテーマにした創作和食で、見栄えは良いが味はいまいちというコンセプト重視料理の常識を覆す美味しさで4人でわいわい言いながら最初から最後まで堪能いたしました。すべては書ききれませんが、〈さぁ、ほら穴の中へ〉の場面を表現した、トマトを刳り貫いた中にハモとじゅんさいとお出汁ゼリーを盛り込んだ最初の一皿のインパクトはなかなかでした。そして、〈指輪をこすると〉で大根でできた指輪が豆とコーンのスープに添えてある演出で唸らされた後、圧巻の〈ひとつめの願いは〉では、新鮮なお造りが魔法の絨毯に見立てたかつら剥きの大根の上に並べてあり、ドライアイスの煙を雲に見立てる演出が本当に凝っていて、スモークを発生させる水を注ぐのが金色の魔法のランプという徹底ぶりで舌を巻きました。60代後半の料理長がおとぎ噺や絵本を読みながら3か月ごとにメニューと演出を考えられているということでそのクリエイティビティーに脱帽でした。また、〈米屋〉という屋号は元々お米屋さんであったことに由来するそうで、最後に供された福島県産のコシヒカリは米屋の名に恥じぬ美味しさで、それまでの料理で満腹以上になっていなければ何度もおかわりしたい程に主張の強い米粒でした。食事のお世話をしていただいたスタッフの皆さんも非常に真面目で感じも良く、お料理のコンセプトも丁寧に説明してくださり、相変わらず垢抜けぬ我々4人がスマートにティッシュに包んだチップをお渡しできなかったのが心残りです。

さて、本の紹介です。「宙わたる教室」(伊与原新著 文藝春秋)は、科学をモチーフとしたオリジナリティ溢れる小説で注目の伊与原先生が実話を元にまとめた感動の青春小説です。様々な事情から高校進学、卒業を諦めざるを得なかった老若男女が、学校という場所の持つ不思議な引力に引き寄せられて都立東新宿高校の定時制に通う中で学びたいという情熱に改めて気づき、知識を積み上げて新たな世界の扉を開くことの喜びを知り成長していくというストーリーになっています。ディスレクシアを放置された結果まともに学ぶことができずドロップアウトを余儀なくされた岳人は、淡々として捉えどころの無い理科教師の藤竹と出会い、いつしか彼のペースに引き込まれているうちに学ぶことの楽しさを知りその科学の才能を開花させていきます。そんな岳人が部長を務める科学部の活動として、なんと学会に参加し自分たちの研究成果を発表するというかなりチャレンジングなプロジェクトが動き出し、冒頭が不良学生の描写で始まったこともあって金次郎もそれは無理だろうと偏見を抱いてしまい後に反省いたしました。その研究テーマは、火星のクレーターを実験器具内で再現するという高度なもので、金次郎には何をどうすればそれができるのかさっぱり分かりませんでしたが、科学部のメンバーは試行錯誤を重ねながら一つ一つ問題を解決し着実に結果を出していくので読んでいて頼もしい限りでした。勿論お定まりの起承転結は有って、転として科学部崩壊の危機にも直面することになりますが、藤竹の過去の苦い経験が明かされるというこちらも定番展開で活動は求心力を取り戻します。科学の持つ圧倒的なsense of wonderの力を十二分にしかも分かりやすく表現しきっているところが、この小説のそんなお約束展開のもたらす既視感をものともしない魅力の源泉なのだと思います。窪田正孝さん主演で今年の秋にドラマ化されることが決まっているようで今から観るのが楽しみです。

この「宙わたる教室」の中でも度々参照される重要なモチーフとなっている作品が「火星の人」(アンディ・ウィアー著 早川書房)です。このSF小説はリドリー・スコット監督、マット・デイモン主演の映画「オデッセイ」の原作で、オペレーション中の不運な事故で不毛の火星に取り残された植物学者マークが絶望的な状況にもめげずたった一人でサバイバルを敢行する様を描く内容になっています。とにかく極限環境で次々と発生する致命的とも思えるトラブルに対し、常にユーモアを忘れず明るく前向きに対処するマークが非常に魅力的で、宇宙人も陰謀も全く出てこずサバイバルのみにフォーカスした内容であるにも関わらず1ミリも飽きることなく一気に読了してしまいました。排泄物で土地を肥やしてカロリー摂取に不可欠なじゃがいもを育てたり、燃料の水素を少しずつ燃やして水分を得たり、危険極まりないプルトニウム燃料を上手に使いこなしたりと彼の独創的な発想にはわくわくさせられますし、それでいて科学者らしく緻密な確認作業も怠らない姿勢には学ぶべきところも多かったと思います。通信がままならず現場の状況が把握できない中でメディアや世論のプレッシャーに晒されるNASAの混乱ぶりや、マークを置き去りにして地球帰還の途に就いた5人の宇宙飛行士の葛藤など人間ドラマもしっかり描かれストーリーの奥行きも確保されていて、SFの枠を超えて読み応え十分の作品であったと思います。

少しずつ嗅覚が戻りつつありますが、まだまだ完治には程遠く、匂いのかげるスパイシーなカレーやコーヒー、天香回味のラーメンのようなものばかり食べています(笑)。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

「今年の初夏の温泉旅は未踏の地・福島!(前編)」への2件のフィードバック

  1. 金次郎さん 返事遅れました。ブログ記載ありがとうございます。夕食に食べた米粒思い出した。家内にも読んでもらいます。

    1. Aさん、コメントいただき有難うございます。後編にも旅の思い出を綴りましたので色々と思い出していただけると嬉しいです。猪苗代湖さびれてましたね。また行きましょう!

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