金次郎、剣道への恨みから〈面倒臭い〉を勘違いする

金次郎が小学生の頃に習っていた剣道で泣かず飛ばずの弱さに苦しみ、昇級試験でその後も心の傷となるトラウマを抱えた話については以前このブログで書きました。そんな剣道への恨みからか、自他共に認める面倒臭がりな金次郎は、この〈面倒臭い〉という言葉をずっと〈面胴臭い〉だと誤解しており、胴よりも小手の方が圧倒的に臭いのでどうせなら〈面小手臭い〉なのではないだろうかと子供心に考えたりもしておりました。大人になるにつれ、〈面胴〉ではなく〈面倒〉だという事実は学習していきましたが、そもそも煩わしいことを意味するこの〈面倒臭い〉という言葉の語源までは踏み込んで考えたことが有りませんでした。

この〈面倒〉は元々〈めんどう〉という表現の当て字なのだそうで、由来は〈めどうな〉が転じたものとされているようです。〈めどうな〉は〈め〉+〈どうな〉の複合語であり、〈め〉=目にするのも、〈どうな〉=無駄である、という意味の言葉がそもそもの始まりと知りなんとなくニュアンスは分かるなと納得いたしました。ちなみに〈臭い〉は実際に剣道の面が臭うというような意味ではなく、強調の意味も込めた~のようだ、という用法とのことでした。その他にも動詞の〈めでる〉から転じたという説も有るようで、この言葉が含む好ましさや愛情といった様々な感情を複雑でややこしいものと捉え、それこそ〈面倒なもの〉を表現する言葉になったとのことですが、若干センチメンタルでもありこじつけ感が強過ぎるとも感じました。そんな金次郎はヘボ剣士だったわけですが、この〈ヘボい〉というイマイチなものを表すどことなく昭和の趣を感じる表現を会社の大先輩が使われていたのを聞き、何故だか気に入ってしまい、その先輩が退職されたこともあって〈ヘボい〉の伝道者を自認して結構会社で使っております(笑)。これも語源を知らずに使っていた言葉の一つですが、なんとシンプルに〈平凡〉の音から派生した言葉のようで非常に腹落ちいたしました。語源シリーズでいきますと、〈ダサい〉は〈田舎〉の音読みである〈だしゃ〉に由来しているという説が有ると以前どこかで書いたような気がします。他に思いつく語源不明の言葉としては、〈しゃらくさい〉が挙げられますが、〈しゃら〉は遊女を意味しているのだそうで、江戸時代に一般人が遊女のように派手な身なりをすることに対し生意気だというニュアンスで使われていた言葉のようです。現代のポリティカルコレクトネス全盛の時代においては絶対に使えない言葉だなと肝を冷やしましたが、まぁ使いませんね(笑)。さて、最後によく話題に上る、ぎゃふんと言わせてやる、の〈ぎゃふん〉ですが、これは驚きを表す〈ぎゃ〉と納得を表現する〈ふん(ふむ)〉の合わさった言葉で、相手を驚嘆させつつぐぅの音も出ないほどの理屈で納得させる状態を意味しており、確かに〈ぎゃふんと言わせられる〉状態はかなり完全な敗北を意味するようです。

さて本の紹介です。「地面師たち ファイナル・ベッツ」(新庄耕著 集英社)は、大反響ドラマの原作となった前作の続編で、再びハリソン山中の狂気に触れることとなり大変ぞくぞくする一冊でした。世界中の金持ちが集まるシンガポールのカジノにもごく自然に溶け込んだ山中は、バカラで負けて無一文になった気合だけのダメ人間Jリーガーである稲田をまんまと仲間に引き入れます。そんな新地面師チームの次なるターゲットは苫小牧でのカジノ誘致というネタでしたが、思わぬところで計画が頓挫してしまい、切羽詰まった山中らは同じく北海道の釧路を舞台に伸るか反るかの一発勝負に出ることになり、カモとしてシンガポールの大金持ちが登場するなど、金額もストーリーもスケールアップした不動産詐欺が繰り広げられていきます。恐らく実際の事件にある程度沿って描かれた前作と比べると、本作の内容はややフィクション色が強くリアリティでは落ちると言わざるを得ませんが、その分ダイナミックなエンタメ的展開の刺激が強くページをめくる手が止まらなくなりました。温暖化による北極海航路開拓の進展が北海道釧路の開発に繋がるという壮大なほら話は、完全にほらとも言い切れない微妙な信憑性がなかなか巧みで引き込まれますし、北海道に関連して中国人やロシア人が登場するという展開も非常にスムーズでよく練られていると感心しました。ただ、山中のヤバさを強調する目的で挿入されたと思われる釧路でのヒグマのエピソードは正直不要だったかなと思いました。ビジネスの厳しさを直視することなく、禅のような精神世界に逃げ込んで物事の真理を分かったつもりになったところでまんまとハニトラに引っかかるという金持ちのボンボンが実際にもいそうな感じでまさかモデルがいるのではと勘繰ってしまいました(笑)。

北海道が舞台という意味では「越境」(砂川文次著 文藝春秋)は印象的な作品でした。「小隊」(同)で描かれたロシアによる侵攻から10年経った北海道は、ロシア軍、自衛隊の残党、民兵、マフィア、ヤクザが入り乱れる無法地帯で、そんなルール無用の状況の中で道東・道北地域で繰り広げられる息つく間もないサバイバルの模様がなんとも生々しい作品です。人間の本性が露わになった際の人心の荒廃ぶりに目を覆いたくなる一方で、全ての責任を自分で引き受けなければならない状況の描写が、いかに現代人が様々な意思決定を他者や社会や何らかのシステムに委ねているかを浮き彫りにしていて落ち着かない気分にさせられます。また、戦場とそうでない地域に線を引いて、線の向こう側は自分には関係の無い領域と問題を直視せずにやり過ごす姿勢は正にウクライナやパレスチナを遠くから眺める日本人の姿であり、いい子ぶるつもりは全く無いですがこのままでいいのだろうかという問題意識を植え付けられる内容でした。

「地雷グリコ」(青崎有吾著 KADOKAWA)は適当系に見える女子高生の真兎(まと)が実は洞察に優れる凄腕の勝負師である事実が、数々の風変わりなゲームの勝負を通じて描かれる痛快エンタメ作品です。タイトルにもなっている〈地雷グリコ〉は、小さい頃によく遊んだじゃんけんの結果で3段(グー)か6段(チョキ・パー)の何れかの段数だけ階段を上って先に上り切った方が勝ちというシンプルな遊びに、プレイヤーのそれぞれがどこかの段に地雷を仕掛けそこを踏んだら10段下がらせられるというルールが追加されたゲームで非常に戦略的で面白いと思いました。その他にも〈坊主衰弱〉、〈自由律ジャンケン〉などの工夫に富むゲームが盛りだくさんで、そんなクリエイティブなゲームと、いつも驚かされる真兎の勝ちっぷりを考え出した青崎先生は天才だと感心しました。頭脳バトルがお好きな方には大変おすすめの一冊です。

先日さるアメリカ人の同僚と会話する機会が有ったのですが、結構彼の英語が聞き取れず自らのリスニング力の無さに落胆しておりましたが、別の同僚から彼の英語はかなり訛っているという話を聞いて若干気を取り直しました。確かに最初の子音以外は殆ど発音してくれず、ボーブワーと言われて何のこっちゃと思っていたらどうやらbottle of wineのことのようでした(笑)。でも偉い日本人上司の前ではもう少し明確に発音していると聞き及び複雑な心境となりました。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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