「休養学」を読み〈攻めの休養〉を学ぶ

先月腸炎で入院した妻の体力回復が金次郎家の目下の目標で、担当医からは体力のみならず免疫も低下しているので気を付けるようにと脅されていることもあり、恐らく年末年始の9連休はおとなしく都内で過ごすことになりそうです。少しでも早く回復するにはどうすれば良いのかを色々と検討してみたのですが、やはり栄養、運動そして休養が重要という当たり前の基本に立ち戻ることとなりました。そこで、audiobook.jpが発表した今年のオーディオブック大賞の一冊である「休養学」(片野秀樹著 東洋経済新報社)を読んでみたのですが、〈攻めの休養〉という切り口が斬新で面白く、かつ非常にためになる内容でした。

上述した健康に欠かせない3つのポイントに関し、最初の2つは栄養学や運動生理学のように学問分野として広く認知され、科学的に研究が行われている一方、疲労が痛みや発熱と共に身体からの危険を知らせる重要な警告であるにもかかわらず、疲労やその回復のメカニズムを研究する公的な枠組みが存在していないという問題提起には納得感が有りました。社会構造が変化し、肉体疲労と精神疲労のバランスが変わり日本人の8割が疲れを感じているのは、活動→疲労→休養→活動という従来型のサイクルがもはや充分でなくなっているためで、休養と活動の間に活力回復に向けた〈積極的休養〉のプロセスが必要というのが本書の主旨の一つとなっています。朝きちんと日光を浴びる、逆に夜間はスマホのような強い光は避けるなどのサーカディアンリズムを意識した規則正しい生活を送ることの重要性についての科学的根拠や、ストレスホルモンであるコルチゾールをコントロールするのに必要な交感神経と副交感神経のバランスを取るのに適した行動の解説はかなりためになりました。また、浅いノンレム睡眠→深いノンレム睡眠→浅いノンレム睡眠→レム睡眠という睡眠サイクルは人それぞれ微妙に所要時間が違うようなのですが、自分のサイクルがどの程度なのかを見定めることの意義についてもようやく正しく理解できた気がします。疲労の原因となる多くのストレッサーを取り除き、活力を生理的、心理的、社会的に回復する施策を意識しながら、それらを組み合わせて実施するというメソッドには腹落ち感が有りました。これまではとにかく追い込んだ運動をすることが金次郎にとってのほぼ唯一無二のストレス解消=活力回復策であったわけですが、今後は血行促進目的の軽めの運動も取り入れつつ、副交感神経を優位にして質の良い睡眠を取り(取り過ぎてもだめなのですが)、食事を腹八分目にし、少しの間でも他人とコミュニケーションの機会を持ち、旅行や趣味にいそしむという、完全にリア充中年になるまでやらないと〈攻めの休養〉の効果が上がらないと分かり、それ自体がちょっとストレスになりました(笑)。疲れていることが前提の「お疲れさまです」という挨拶や、休まないことを美徳とする「皆勤賞」の概念などは確かに日本の社会にがっちりと根付いており、積極的に疲労を取って生産性を上げるには、かなりドラスティックに意識を変える必要が有るなと感じております。

さて本の紹介です。「最後の一色」(和田竜著 小学館 )は、戦国時代末期の丹後に現れた〈戦国最後の怪物〉一色五郎の生きざまを描いた歴史小説です。足利氏に連なり室町幕府では四職を務めた名門の一色氏も家勢は衰え、領国は丹後一国となっていましたが、弱冠17歳で当主となった五郎が、その圧倒的な戦闘力と器量で信長にも認められ存在感を増していきます。物語はそんな五郎をライバル視する同年代の長岡忠興が抱く嫉妬、憧憬、畏怖といった複雑な感情を描くことで五郎の人となりを浮き彫りにする構成で、裏切りが横行する乱世の世情もあいまって、生々しくも鮮やかな人間ドラマに仕上がっていると思います。さすがは「村上海賊の娘」(新潮社 )で本屋大賞に輝いた和田先生で、埋もれていた歴史上の人物に光を当て歴史を違った視点から眺めることで、本作における信長や忠興のように定着しきった感の有る同時代人の人物像すら揺さぶってくる筆力は圧巻でした。

「みずいらず」(染井為人著 祥伝社)は夫婦についての物語が収められた連作短編ですが、ストーリーが進むにつれ読み手が勝手に思い描く夫婦の関係や夫婦間に生じる問題について、後半のどんでん返しによりその認識が激しく揺さぶられるという、ミステリーの手法を用いて愛の形を描いたなかなか面白い本でした。王様のブランチでも紹介された「おかしいのはどっち」では、一人でどんどん煮詰まっていく妻の心を癒す夫の一言が印象的でした。定年後四六時中家にいる夫を疎む妻というありがちなお話が思わぬ展開を見せる「夫婦の再開」、更年期を理由に全ての家事を放棄した妻に当惑する父娘の物語である「いつまでもあると思うな。妻と金」、嫌々夫の終活に付き合わされる妻の記憶にまつわる「思い出の抽斗」など非常に印象的で、これまでの作品がかなりサスペンスに寄っていた染井先生だけに新鮮な読後感でした。夫婦のお話としては「妻はりんごを食べない」(瀧羽麻子著 幻冬舎)では、穏やかな暮らしを送っていた夫婦に突如訪れる妻の失踪という大問題が主人公に気付きを与え、前に進むきっかけになるという展開で、サスペンスタッチでどんどん読ませるなかなかの秀作でした。

「翠雨の人」(伊与原新著 新潮社)は、女性科学者の草分け的存在である猿橋勝子をモデルにその生涯を描いた、自然科学作家伊与原先生らしさが存分に発揮された作品です。女性が高等教育を受けたり外で仕事をすることが一般的でなかった時代に、幼少期からの自然現象への興味に忠実に科学研究の道を志し、緻密で正確な実験・分析技術を武器に国際的にも著名な学者となった勝子ですが、敗戦国民であることに加え女性であることへの偏見に苦しみながらも、ひたむきな努力でそんな不利を跳ね返した彼女の根性と信念には頭が下がる思いで読みました。それだけに、放射性物質の研究で2度ノーベル賞を受けたマリー・キュリーへの敬意を胸に、最先端設備を有し豊富な研究人員を擁する米国著名学者との分析勝負に勝利した場面には、感動を禁じ得ず心から喝采を送らせていただきました。〈猿橋賞〉を創設し後進の育成にも力を注いだ真の研究者である勝子のような人物を掘り起こし、光を当ててその価値を世に問い直す小説の力を改めて感じさせられる一冊でした。

最後に簡単に。「営繕かるかや怪異譚 その肆」(小野不由美著 KADOKAWA)は家にまつわる様々な怪異を営繕屋の尾端が地味に解決していくシリーズの第4作です。本作では尾端の活躍というよりは怪異の怖さの方に重点が置かれる構成で、シリーズ既刊作よりも問題が未解決気味で、怖さがより後を引くと感じました。特に、藁人形と怨念が恐ろしい「鉄輪」、夢のマイホームが読経の声と共に恐怖の場所に一転する「風来たりて」はヤバかったです。

今年もこの季節がやって参りました。新百合ヶ丘の名店リリエンベルグからクリスマス洋菓子であるシュトーレンをお取り寄せし、早速夫婦で食べ始めました。このお店を創業されたパティシエが急逝され、後継者であるご子息の力量が試されるところでしたが、例年通りの美味しさに大変満足いたしました。ダイエット継続中のため、1センチ弱程度の薄切りバージョンしか日々食べられず食べ足りませんが、季節感は無視して1月いっぱいかけてじっくり楽しもうと思います。ちなみに2本購入しました(笑)。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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