昨年夏に一時的に復活したカラオケでしたが、せっかくちょっと練習してカラオケ筋力が回復してきていたのに、その後は歌唱機会をほぼ持てず、結局カラオケ筋は元通りの萎縮状態に戻ってしまいました。もう一生歌うこともないのかと一抹の寂しさを感じていたところに、突然AI採点カラオケの得点で家族対決するというハードな状況に追い込まれてしまい、スケートも滑れないのにフィギュアの試合に出るようななんとも心細い気分になっております。いくら無謀な戦いであっても、「諦めたらそこで試合終了ですよ」ということで、何はともあれ先ずはルールを熟知するのが先決と考え、DAMのAI採点メカニズムについて勉強することにいたしました。
当たり前ではあるものの、最重要ポイントはやはり〈正確率〉で、音程が正確で、かつピッチが安定していることが特に重視されるようです。先ずは原曲の構造を正しく理解して、自分で勝手に思い込んだ節回しを常に疑うことを意識することから始めるべきと肝に銘じました。熱血カラオケ世代の金次郎が苦労しそうなポイントが、次なる重要項目である〈抑揚〉です。ザ・ブルーハーツの時代あたりからカラオケ戦線に参入した金次郎は、とにかく最初から最後まで全力で歌うという魂の歌唱がしみついてしまっており、これがAIにとっては完全NGなのだそうです。Aメロはかなり声を抑え、Bメロで少し音量を上げ、そしてサビで全力を開放するという歌い方が得点に繋がりやすいのだそうで、Aメロは殆どささやくぐらいでいいという生成AIのアドバイスには驚愕いたしました。同世代の皆さんにはお分かりいただけると思うのですが、例えばリンダリンダ♪の出だしをささやき声で歌うというのはあり得ない話で(笑)、点数が出る歌と感動を呼ぶ歌は全く違うということを改めて認識いたしました。もちろんリンダリンダ♪のサビを爆音で歌って抑揚を付けることは可能ですが、その場合は1曲でノドから出血する事態を覚悟する必要が有ると思われます(汗)。〈正確率〉は減点法なのに対し〈抑揚〉は加点法なわけですが、その他にも、低い音から入って直ぐに正しい音に当てる〈しゃくり〉、音を瞬間的に上下させる〈こぶし〉、フレーズの末尾を若干落とす〈フォール〉に加え、安定性が求められ、息を抜くことが許されない〈ロングトーン〉や出しどころと安定した波長がポイントとなる〈ビブラート〉などの加点テクが有り、これらを組み合わせなければ高得点は見込めないようで非常に先が思いやられます。しかも、これらの加点テクは、いずれも失敗すると音程ミスと判定され減点というリスクが常につきまとう諸刃の剣であり、適切なタイミングで高い技術力に裏打ちされた安定の技を繰り出さねばならず、はっきり言ってこれはもう無理と思いました(涙)。やはり、どう考えても選曲が重要ということで、AIに好適曲を聞いてみると、tuki.の晩餐歌♪がテンポが一定、音域が比較的狭くロングトーンが多い、抑揚を自然に付けやすい構成、などの理由でおすすめと言われ真っ青になりました。もうダメそうです。
さて本の紹介です。「生きとるわ」(又吉直樹著 文藝春秋)は、猥雑で混沌とした大阪の雰囲気を舞台装置に、それぞれが何らかの欠落を抱えた登場人物たちが、信頼と裏切り、善意と悪意、本物と偽物などの間で翻弄され迷い間違えながらも、どっこいしたたかにしぶとく生きていく姿を描いた人間ドラマです。公認会計士として一見堅実な生活を送っているように見える岡田は、実は高校時代からの腐れ縁の友人である横井との間に金銭トラブルを抱えており、阪神タイガースが優勝を決めた夜に、それまで行方が分からなかった横井が道頓堀にダイブしている姿を偶然見かけます。調子のいい嘘つきで人たらしである一方で、冷酷な一面を併せ持つ横井とは距離を置くべきと頭では理解している岡田ですが、どうしても横井との縁が切れず、危ういと分かっているのに横井の口車にやすやすと乗せられ、坂道を転がるように転落していく彼の姿に読みながら頭を抱えたい気分にさせられます。とにかく、誰も彼もが破綻に向かって突っ走っていて、文面からは破滅的な狂気が満ち溢れているのですが、不思議とそんな危うさの中に滑稽なおかしみのエッセンスが常在していて、絶望的な読後感にならないのは又吉文学ならではの特徴と言えると思います。会話部分が若干コント的になっている部分は面白いものの、文学としてはちょっとやり過ぎかなとは感じました(笑)。
「暦のしずく」(沢木耕太郎著 朝日新聞出版)は、沢木先生初の時代小説で、江戸中期に実在した講釈師・馬場文耕の半生をモチーフに、権力に抗い弱者に寄り添って真実を語る、現代では残念ながら絶滅しかけているジャーナリズムの真髄に触れる内容となっています。剣の達人であった文耕はある事情により剣も士分も捨て、人生に倦んだ世捨て人として、さして人気も無い太平記など軍記物の講釈をすることで日銭を稼ぐ生活を送っていました。ところが、あるきっかけでたまたま語った実際に有った市井の人情話が、思いのほか聴衆の興味を惹いたことから、文耕は事実・真実の持つ力とそれを語る興奮に魅せられていきます。そんな文耕の講釈は次第にエスカレートし、過去の大名の不正にとどまらず、現在進行中の大名のお家騒動や百姓一揆にまで言及するようになり、お上にとって好ましくない存在として目を付けられるようになります。そんな状況で、講釈内容のリアルさを追求するあまり、一揆を主導する百姓と関わり、事件の中枢に関与することとなった文耕は、社会不安を煽った罪で江戸の芸能人として唯一死罪(獄門)という重い刑罰に問われる結果となります。公権を恐れず弱者に寄り添って真実を追求する文耕の姿にはもちろん感動するのですが、人物像の輪郭が若干曖昧な印象であった点と、将軍家重との絡みが中途半端であった点は少し残念に感じました。文耕の人となりの魅力やそのモテ男ぶり、幼馴染として登場する田沼意次との友情も読みどころなのですが、金次郎としては文耕の住まいが、先日このブログで紹介した松島神社の有る松島町の長屋で、人形町通りをはじめとして馴染み深い近所の地名が頻出する点も目が離せないポイントでした。
採点カラオケのもう一方の雄であるJOYSOUNDでは、音程が40点、安定性が30点とこの2項目の比重が非常に高く、真っすぐな音で(ビブラートなどは意識せずに)正しく歌うことを心掛けると高得点が出るのだそうです。
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