先週の2月6日(金)に本屋大賞2026のノミネート10作品が発表となりました。金次郎としては、そのうち既に8作品を読了済み、残り2作品も視野に入っていましたのでサプライズは有りませんでした。ただ、過去2年間金次郎の予想を翻弄してきた〈成瀬〉旋風が去ったのは良かったのですが、ここ数年の本屋大賞レースを牽引してきた凪良先生、町田先生、青山先生、一穂先生といった比較的順位予想の方針が立て易いメンバーが選外となり、オールドビッグネームと新興勢力が入り乱れたノミネートに、今年もまた順位予想の難易度が高いと頭を抱えたくなりました。ぱっと見て下位確定のような作品も無いですし、人間ドラマ、サスペンス、ミステリーとバランスの良いラインアップとなっているのも、順位を絞り込んでいく上では悩みポイントとなりがちなので本当に頭が痛いです。4月9日(木)の発表に向け、宿敵Mに加え恐ろしい速度で賢さを増している生成AIとの熱い戦いが始まりますが、今年も順位予想対決をお楽しみいただけると嬉しいです。さて、以下ノミネート作品の簡単な紹介です!
【本屋大賞2026ノミネート作品】
◆「暁星」(湊かなえ著 双葉社):既読。序盤は最近一審判決が出たあの事件を彷彿とさせる内容なのですが、そこからなんとなく2023年の大賞受賞作である「汝、星のごとく」(凪良ゆう著 講談社)を想起させる展開となるので、そういうイメージがプラスなのかマイナスなのかの評価も含め、どこまで冷静かつ中立的な視点で予想できるかが鍵となり、金次郎の精神力が問われそうです(笑)。湊先生があの衝撃作「告白」(双葉社)以来17年ぶりに栄冠を手にできるのか、じっくり再読して吟味したいと思います。
◆「ありか」(瀬尾まいこ著 水鈴社):未読。「そして、バトンは渡された」(文藝春秋)の大賞受賞は記憶に新しいと思っていたら、なんと2019年の話で既に7年も経過していて驚きます。全く内容が分かりませんが、家族の在り方をテーマにした感動作で、紆余曲折を経て愛の〈ありか〉に気付くストーリーを勝手に予想しながら読もうと思います。こういう先入観が予想を鈍らせるのですが(汗)。
◆「イン・ザ・メガチャーチ」(朝井リョウ著 日経BP 日本経済新聞出版):未読。この本が売れていることには気づいていたものの、「正欲」(新潮社)、「生殖記」(小学館)と続いた朝井先生の〈奇を衒う〉路線に食傷気味となっており、本作も文芸作品としてはやや珍しい版元にそのニオイを感じてしまったため、どうせ本屋大賞でノミネートされるのだろうからその際に読もうとこれまで放置しておりました(笑)。友人の、いまひとつ乗り切れず力強くページをめくれなかった、との感想にもかなり引きずられそうなので(汗)、なんとか気持ちを立て直してニュートラルに持っていかねばまた予想を外すことになると気合を入れなおしております。
◆「失われた貌」(櫻田智也著 新潮社):既読。本作は伏線回収の妙を堪能できる上質なミステリーであることに加え、重厚な人間ドラマも味わい深い秀作にて再読するのが楽しみです。予想としては、同じくミステリーである「探偵小石~」との位置関係を定めるところから先ずは始めたいと思います。
◆「エピクロスの処方箋」(夏川草介著 水鈴社):既読。2024年に4位に入った「スピノザの診察室」(水鈴社)の続編にあたる本作に対しては、シリーズ作品であることのメリットとデメリットをきちんと評価しないと正確な予想ができないと気を引き締めております。とは言え、主人公雄町の人間的魅力が増していて、スピノザと比してエピクロスの哲学の理解がかなり容易というプラス要因が多く、ついつい順位を上げたくなる気持ちをどう抑制するか、自制心が問われます。
◆「殺し屋の営業術」(野宮有著 講談社):既読。基本的には本屋大賞で上位に入る可能性の高い王様のブランチBOOK大賞受賞作です。思いもよらぬストーリー展開、スリリングなサスペンス要素、変貌する主人公の人間描写と高いレベルでバランスの取れた秀作であり、書店員好みの新鋭作家である点も含め順位予想対決においては鍵を握る一冊になると思います。
◆「さよならジャバウォック」(伊坂幸太郎著 双葉社):既読。ビッグネーム伊坂先生の久々のノミネート作品は、初読時には正直その面白さを充分に感じることができず、恥ずかしながら読書中に寝落ちしてしまいました。この寝落ちが本当に内容のせいなのか、はたまた加齢による老化に起因するものなのかを再読時にじっくり見極めたいと思います。
◆「熟柿」(佐藤正午著 KADOKAWA):既読。直木賞候補ともなった本作は、佐藤先生らしい重厚な人間ドラマと、変転する人生のめぐり合わせの妙をじっくりと味わえるストーリーになっています。この手の話では、2024年に「存在のすべてを」(塩田武士著 朝日新聞出版)が3位に入っており、内容がやや地味だからといって安易に軽視できないのが悩みどころです。
◆「探偵小石は恋しない」(森バジル著 小学館):既読。読者層が限られることから、本格ミステリーは本屋大賞レースでは基本的に不利との認識ですが、本作は特殊設定とキャラクター造形の工夫がその不利を補って余りあるクオリティであるため、簡単に〈下位グループ〉とは括れません。どんでん返しも効いていて読後の満足感も高く、森先生の実力と知名度にギャップが存在する点も書店員の発掘心を刺激する可能性大でやはり侮れません。
◆「PRIZE―プライズ―」(村山由佳著 文藝春秋):既読。「星々の舟」(文藝春秋)で第129回直木賞を受賞した著者が、作家にとって直木賞とは如何なる存在なのかを主人公の狂おしいほどの執着を通じて描き出す内容です。正に書店員好みのテーマであり、共感票がどの程度入ると見るかも順位予想のポイントになると思います。今回のノミネートでは、「熟柿」の佐藤先生が「月の満ち欠け」(岩波書店)で第157回直木賞を取られていますが、なんと湊先生、伊坂先生の両ビッグネームは意外にも受賞されておらず、なんとなく順位予想で下駄を履かせてあげようという気持ちになりかけ慌てて自分を戒めております(汗)。
いつも同じような本の紹介で恐縮ですが(笑)、藤木直人主演でドラマ化された「最後の鑑定人」(岩井圭也著 KADOKAWA)は、警視庁科捜研で抜群の実績を残し、彼に鑑定できなければ誰にもできないという意味の〈最後の鑑定人〉との二つ名を得るも、ある事件をきっかけに職を辞した土門が、民間の鑑定人という制約された立場ながら、その卓越した鑑定の技量で解決の糸口が見えない難事件の謎を解きほぐしていくサスペンスです。言動から一切の無駄を排除し、他人への配慮や愛想に価値を見出さない、間違いなく奇人変人に分類される土門ですが、科学を信じて真相を追求する情熱や、ごく稀に垣間見える内に秘めた心の温かさが何とも言えぬ魅力を醸し出しています。残念ながらドラマは見そびれたのですが、土門の助手を務める高倉のキャストが白石麻衣というのがイメージとぴったりで、主役を食ってしまったのではと要らぬ心配をいたしました(笑)。連作短編の中身はというと、DNA検査の矛盾を鋭く突いた「遺された痕」、火事の焼け跡の丹念な調査・分析から思わぬ真実に辿り着く「愚者の炎」、土門の幅広い知見、細部を疎かにしない拘り、実績に裏打ちされた人脈が解決につながる「死人に訊け」はいずれも一気に読んでしまう面白さでした。「風化した夜」では、土門が科捜研を辞める契機となった7年前の事件の謎に時間を越えて迫る展開で、よく練られたプロットに加え、彼の鑑定人としての矜持に触れ心揺さぶられる秀作でした。
続編の「追憶の鑑定人」(同)では、土門の学生時代のゼミ同期メンバー3人が登場し、それぞれが関わった土門とのかつてのエピソードが語られる中で、その人物像が奥行きを増し、単なる変人というだけではない土門の人間臭さが前面に出てくるため、彼のことがますます好きになります。人間同士が接触すると、必ず何らかの痕跡が物理的・化学的な微細物として残るというエドモンド・ロカールによって提唱された〈ロカールの交換原理〉をモチーフにした「交換原理」では、「科学は嘘をつかない、嘘をつくのは人間だけ」という土門の信条が隠された真相を暴きます。「雑踏に消ゆ」では言い逃れをしようとする犯人を土門の広範な知識と怜悧な頭脳が追い詰め、「見知らぬ水底」では溺死した被害者の自宅の丹念かつ執拗な捜索で真犯人に繋がる証拠を見つけます。「灰色の追憶」では、かつて土門の人生に大きな影響を与える発言をした同期の猪狩愛が、火事の後遺症で記憶を失う中で放火の嫌疑をかけられます。科学的捜査によって状況的には怪しいと言わざるを得ない猪狩を追い詰めかねない事態に迷いながらも、科学でさえ人間の営みの一部であると腹を括り、葛藤を超克しようとする土門の姿が神々しくすらあり感動させられました。
ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪が開幕しましたが、既視感を禁じ得ず、その背景を考えてみると2006年に同じくイタリアのトリノでも冬季五輪をやっていたことを思い出しました。20年で2度も同じ国で五輪を開催するというのは珍しいのではないかと思って調べてみると、ウィンタースポーツが盛んな国が限られているせいか過去にも結構そういうケースは有りました。コルティナダンペッツォも今回で70年ぶり2回目の開催です!