先日、実に7年ぶりに福岡に帰省し、父親や妹、そしてこの春から新社会人となる甥っ子とも久々に会い、たくさん話して楽しい時間を過ごしました。(そのせいでブログは1週お休みになってしまいすみませんでした。)随分ご無沙汰してしまっていたこともあり、滞在時間のかなりの部分をお墓参りに費やすこととなりました。父方の祖母のお墓は紆余曲折を経て現在は樹木葬となっており、油山(あぶらやま)の中腹の非常に見晴らしの良い場所に有りました。祖母の名前が刻まれたお墓は、自然がいっぱいの霊園の中でも特に賑やかな花壇のような一角に有り、薄暗い納骨堂より断然気持ちの良い環境で、まだかなり先の話ではありますが、金次郎がお墓に入る際も選択肢の一つにしようと思います(笑)。
ところで、小さい頃からこの油山の名前にそこはかとない引っ掛かりを感じていたのですが、今回のお墓参りを機に調べてみたところ、その由来はなんと6世紀まで遡るのだそうです。清賀上人というお坊さんが、山に群生していた椿から灯火用の油を搾る手法を伝え広めた史実に因んでいるとのことで、その後この油山周辺地域が九州の仏教信仰の中心になったという歴史と合わせて全く知らない話でしたので、良い勉強になりました。その後、今度は父方の祖父のお墓が有る正應寺というお寺に向かったのですが、運転をお願いしていた甥っ子のZ世代らしいグーグルマップのナビ活用が裏目となり、ふと気づくと信じられない程道幅が狭く、舗装の痕跡が僅かに残るのみの獣道のようなところを走っており、進むことも戻ることもJAFを呼ぶことすらままならない詰んだ状態になりかけました(汗)。少しでもハンドル操作をミスれば崖下に転落というピンチで、高齢者お散歩程度のスピードしか出せぬ危機でしたが、甥っ子の慎重かつシュアな運転と、金次郎の妹による行く手を遮る障害物を取り除く献身的な水先案内のおかげで何とか事無きを得ました。目的地のお寺も、ポツンと一軒家に出てくるようなやや秘境めいた場所に鎮座しているのですが、人類史上ずっとそんな田舎だったのかと思いきや、信じられないことに、この地域は平安・中世期から筑前と肥前を結ぶ要衝で、その昔は今よりかなり栄えていたと知り驚きました。この近辺で生まれ育った金次郎の父の母校である安徳小学校の名称は、安徳台という地名からきているのですが、平安末期の源平合戦の頃に、九州北部まで都落ちしていた平家が当時の安徳天皇を迎える仮御所としてこの地の豪族である原田氏の居館を活用する予定であったことに由来しているのだそうで、現在の過疎ぶりからは想像もつきません。その近辺の岩門城では、鎌倉時代の北条氏家臣団の内紛である霜月騒動が飛び火し、有力豪族である少弐一族の経資と景資の兄弟がこの地で戦ったのだそうで、小さいころからの、父親の実家は昔も今もとんでもない田舎であったとの認識を覆され嬉しい驚きでした。「少弐氏の興亡と一族」(市丸昭太郎著 佐賀新聞社)に詳しいので、これを読んで改めて興奮すると共に自分のルーツについて思いを馳せた帰省となりました。
さて本の紹介です。「アフター・ユー」(一穂ミチ著 文藝春秋)は、突然の海難事故で恋人を失い、しかも彼女が遭難時に見知らぬ男性と一緒であったと知らされた主人公の青吾が、その見知らぬ男性の妻と称する沙都子と共に、事故現場でもありその男性の故郷でもある五島列島の遠鹿島に赴き、事故の真相とその奥に隠された意外な事実に迫るというストーリーです。幼い頃に父親を亡くし、母親にも捨てられた苦い記憶から、他人と前向きな関係を結ぶことができなかった青吾は、漸く出会えた心を許せる恋人であった多実を失った喪失感と、自分の知らない彼女の姿への戸惑いの感情を上手く整理できず苦しみます。同じ喪失を抱える沙都子と共に、島民の記憶の中から大切な人の断片を集め、その来し方や内に秘めた思いを含めた人物像を再構築していくプロセスを通じ、謎が少しずつ解れていく一方で、喪失感がよりリアルに胸に迫ってくる展開は非常にエモいと言わざるを得ません。喪失を受け止め悲しみを乗り越えていく青吾と沙都子の姿が感動的なのですが、行方不明の多実と少しだけ会話ができる電話ボックスというファンタジー設定については、もう少し工夫してリアルな世界線の中で物語を完結させて欲しかったとも感じました。本屋大賞の常連である一穂先生渾身の本作が、今年のノミネートから漏れた要因もこのあたりにあるのではと邪推しております。そんな邪推をいくらしても順位予想の精度は上がりませんが(汗)。
「海のシンバル」(久々原仁介著 幻冬舎)は、下関の海沿いに立つこだわりのファッションホテル・ピシナムを舞台に、コミュ障の青年ホテルマンである磯辺と、毎週水曜に決まって売春目的でこのホテルを利用する女子高生Rとの悲しい恋を描いた恋愛小説です。お互い顔も声も知らぬまま、ホテルの受付と客室を繋ぐ気送管を通じた短い手紙のやり取りだけで静かに思いを募らせる二人を描く過去パートと、既にピシナムが営業を終了している4年後の現在が並行して物語は展開していきますが、心に深刻な欠落を抱えているように見えるRと、色々な意味でそんなRとの距離や彼女への思いの折り合いを付けられない磯辺の懊悩が、気送管のみというコミュニケーションの制約によりすれ違い続ける様子がなんとも切ないと感じました。東日本大震災が重要なモチーフになっていたり、磯辺には絶対に勝てない恋敵が現れたりと、なかなかにしんどい要素が多く、正直様々な謎が明かされるラストで得られる感動と、そんな読みながらの辛さや磯辺とRの言動の必然性への違和感などのマイナス面を差し引きして本当にプラスが残るのかという疑念は払拭できないものの、心に沁み入る内容という点では、王様のブランチで推薦されるだけのことはあったと思います。
妹と甥っ子には大変申し訳なかったのですが、わざわざ博多阪急まで行って20個も買ってきてもらった、我々夫婦の大好物である蜂楽饅頭は相変わらずの激ウマぶりで、うちの冷凍庫で保存されている残り14個の在庫を食べつくすのが今から楽しみです。毎日2個ずつ食べており、あっという間に底をつきそうで怖いです。
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