早いものでこの9月でシンガポールから帰任して18年が経ちました。帰国当初の借り上げ社宅から現在の自宅マンションに引越してからも既に11年半ほど経過しており、つくづくあっという間だなと感じます。とはいえ時間はしっかりと流れているようで、入居後10年の節目を迎えたあたりから自宅の色々なところで綻びが目につくようになってきております。最初にダメになったのは故障家電の定番である洗濯機で、起動ボタンを微妙なバランスで半押しした状態でないと機能しなくなり、可哀そうな金次郎妻が毎回40分間洗濯機の前から動くことなく、ボタンの半押し状態を手動で維持するという苦行が暫く続くこととなりました。
そんな辛さに長くは耐えられる筈もなく、やむなく3週間待ちと言われた希望機種は泣く泣く断念して、これまた故障が懸念されるパナソニック製の不本意機種に涙を呑んでの買い替えとなりました。次に成仏されたのが以前このブログでもその異音発生について触れたエアコンで、一気に2台を買い替えることとなり大きな経済的ダメージに苦しみました。それら大物家電の買い替えが一段落して一息ついたところで気になり始めたのがレースカーテンです。洗濯するたびに破れや裂け目が確実に増加し続けており、ほぼ同時に全ての部屋のカーテンの劣化が顕在化している状況で製品固有の寿命の存在を実感すると共に、想定以上に高額なカーテンの買い替えコストを突き付けられ、サッシや窓に新聞紙を貼り付けたい気分になりました(涙)。更にここに来て衰えが著しいのは、一般に寿命が正に10年程度とされるLEDライトで、シーリングライトの光量が一気に弱々しくなってきており、毎日中年らしい黄昏の気分に浸っております。また、購入した際は築10年の中古マンションでしたので、リフォームとして入居前に目立つフローリングの傷を特殊な樹脂で補修してもらったのですが、この樹脂が一気に崩壊期を迎え突然部屋の床が傷だらけのみすぼらしい感じとなり、先述の黄昏ライトと合わせ寂寥感漂う雰囲気の侘び寂び住宅となっております(笑)。これらすべてを修繕・交換するのにいったい幾らかかるのか考えただけでぞっとしますが、恐らく最後に突然死を迎えるのが時々犬の唸り声のような音を出し始めている冷蔵庫です。まだまだいけるという現実逃避したい気持ちを振り切らないと、大量に買い置きしてある大好きなハーゲンダッツアイスの様々な期間限定商品が台無しになりかねず、キッチンのスペースにオーダーメイドであるかのようにピタっとはまっているベスト冷蔵庫の代わりを探すという長く苦しい旅路に向け(妻が)気持ちを奮い立たせているところです。
さて今回は7月に発表された第171回芥川賞を受賞した2作品が印象的だったので紹介します。「バリ山行」(松永K三蔵著 講談社)はバリ島の話かと思って読み始めたところ内容が全く違い(笑)、建物の修繕を請け負う中小企業に転職した主人公の波多が、自分を殺して気の進まない社内の付き合いにも顔を出しながら生活のために働く人生に鬱屈とする中で、非日常を感じられるバリ=バリエーション登山という道なき道を行く危険な山行に惹かれていくというお話です。憑かれたようにバリに赴き危険に身を置くことで生を実感し、会社の業績や社内での軋轢など人生に関わる雑事を大事でないと一段下に見ようとするベテラン社員の妻鹿(めが)に憧れと同時に反発を感じる波多の葛藤がダイレクトに伝わってくる秀作でした。険しい山行の中で自然に一身を預ける感覚が瑞々しい風景描写の効果も有り抜群の臨場感で立ち上がってきますし、命の生々しさがリスクに晒されることでより鮮烈に感じられた点も印象的でした。そんな大自然の描写もさることながら、コップの中の嵐に右往左往する典型的なまずい組織や主体性に欠けた社員の姿にリアリティが有って恐れ入りました(笑)。
「サンショウウオの四十九日」(朝比奈秋著 新潮社)は、双子が一つの身体を共有して生きる結合双生児から見える世界を、双生児姉妹それぞれの視点から描くことで、捉えどころの無い〈意識〉というものの実態をリアリティを以て表現することに成功した秀作だと思います。現役の医師である朝比奈先生だからこそ表現し得る部分も勿論有りますが、医学的知識だけでは絶対に到達できない結合双生児の心象風景に想像を超えた想像力で辿り着き、それを見事に言語化した筆力は素直に凄いと感じました。姉妹の父親が胎児内胎児であったといういきさつが序盤に語られることで、ある意味突飛な結合双生児の世界にすんなり読者を引き込む工夫が凝らされていて非常に巧いと唸らされました。以前紹介した「植物少女」(朝日新聞出版)も良かったですが、ある時突然他人の左手を移植された男を描くことで領土を巡る紛争や人間の尊厳の本質を表現した「あなたの燃える左手で」(河出書房新社)も印象的な作品で、今後の朝比奈先生の活躍には再注目していきたいと思います。
「『すべての野蛮人を根絶やしにせよ』:『闇の奥』とヨーロッパの大量虐殺」(スヴェン・リンドクヴィスト著 青土社)はジョゼフ・コンラッドの「闇の奥」(新潮社)が題材とした欧州列強によるアフリカ植民地支配の根底に流れる思想に思いを馳せ、ナチスドイツによるホロコーストやソ連侵攻も同根の思想に端を発しており、必ずしも突発的個別事象でないと主張する刺激的な内容になっています。そのような思想と対置するように配された、アフリカを旅する語り手の視点で市井の人々の日常と実存を穏かに描く紀行文的なパートが非常に効果的でスウェーデンの国民的作家である著者の実力を見せつけられた読後感でした。
マンションにハトが来ないようにベランダにヘビのおもちゃを置いていると以前書きましたが、ハトにおもちゃと悟られぬよう定期的に位置を変える必要が有るのだそうです。簡単に行き来できないエアコン室外機用の小ベランダに置いていたおもちゃのヘビをうちの妻が長めの棒でつついて動かす作業をやっていたところ、勢い余ってヘビが地面に落下してしまいました。住人でも簡単には入り込めない場所に落ちてしまった1.3メートルのヘビは、上から見ると薄暗い場所でニョロリとトグロを巻いており、住民の方がたまたま見つけて驚かれるのではないかと気が気でない今日この頃です(汗)。
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