金次郎、高野秀行ワールドにのめり込み高野作品を乱読

ファーブル昆虫記に多大な影響を受けて育った金次郎は、小学生ぐらいまでネイチャー関連のドキュメンタリーを制作するような仕事に就きたいと夢見ていた時期が有りました。成長するに連れそんな純粋な思いは後退し、かなり即物的な方向のキャリア選択となってしまいましたが(汗)、未知なる事象への好奇心や憧憬は心の中にそれなりに残り続けております。そんな金次郎にとって、〈辺境〉をこよなく愛し、危険を顧みず現地に赴いてそこで体験したことを面白くかつ分かり易く読者に提示してくれる高野秀行作品との出会いは破れた夢を疑似体験を通じ取り戻させてくれる大変貴重かつ有難い機会でした。読書することの意義を改めて噛みしめつつ、感動が冷めないうちに感想を書いていこうと思います。

「イラク水滸伝」(高野秀行著 文藝春秋)では、イラク南部の謎の湿地帯であるアフワールを旅した著者が現地の様々な人々との触れ合いの中で経験した〈中東の混沌〉を惜しみなく綴ったノンフィクションです。馬も戦車も入り込めず、足を踏み入れた瞬間から方向感覚を失わせる湿地帯の特徴は反政府勢力が隠れ場所にするにはもってこいで、ティグリス・ユーフラテス川が育んできたそんな湿地帯を拠点としたレジスタンスの歴史は数千年にも亘るとされ壮大です。レジスタンスの他にも、謎の平和主義宗教を信じるマンダ教徒や、水牛と共に昔ながらの暮らしを続ける被差別民マアダンなど多種多様な人々を包摂してきた湿地帯での生活は、この本を読む限り細かい変化は有りながらもメソポタミア文明時代の面影を遺すものであり非常に感慨深いです。高野先生の凄いところは、徹底的に現地の暮らしを体感しようとする姿勢ですが、今回の旅においてもそんな姿勢は健在で、主要なローカル料理とはいえ全く味が想像できない謎の鯉料理を食べまくっている適応力に感服すると同時に快適ゾーンが狭い自分にはこの仕事は絶対できないと敗北感にも似た残念な気分になりました。現在現地で実際に使われているものより伝統的な川舟の調達にこだわり、伝手を辿ってどうにかそれを成し遂げる高野先生の執念は凄いですが、そんな舟が舟大工達によって割と適当に製作される様子もコミカルに描かれていて印象的でした。破天荒ぶりが際立つ高野先生ですが、早大探検部出身ということで声を出して笑ってしまうエンタメ的な表現の中にも知性が垣間見えたり、カオスの極致である湿地帯での人々の暮らしを大局的な視点で歴史の中に位置づけようと思索を巡らせたりと、非常に金次郎好みの内容で、以下読み漁った高野作品は何れも大満足でございました。

「謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア」(同 集英社)では、日本人にとっては海賊行為が頻発するアデン湾に面する無法地帯でありアフリカの角と呼ばれならず者に支配された地域として雑に認識されているソマリアに何度も赴いた著者が、そんなイメージとは全く異なる現地の驚くべき実情を生々しく描く内容となっております。そもそもソマリアは幾つかの地域に分かれそれぞれ独自に統治されていますが、本書では北部ソマリランド、北東部プントランドそして南部ソマリアが主な舞台で、ほぼソマリ人という同じ民族が暮らしているにもかかわらず各地域の特徴に大きな相違が存在する点が非常に興味深いです。特に旧英領のソマリランドは貧しいけれども平和で安全という意外過ぎる状況にあり、しかも日本をはじめとしたどの先進国よりも進んでいるように見える複数政党、二院制による民主主義に基づく政治が実際に機能していて驚くばかりです。高野先生らしく氏族の繋がりを最重要視するソマリ人の社会制度を理解すべくヒアリングを重ね、そうして得た知識をベースに如何にしてそのような制度が根付くに至ったのかを冷静に分析していてその手法も深さも大変勉強になりました。ただ、カートと呼ばれる覚醒効果の有る葉っぱを現地の人々と共に常用することを通じて、コミュニケーションの機会を作り情報収集を行う手法は凄いですが真似できません(汗)。ただ、カートはそこまで悪質なドラッグではないようで、以前に読んだ記事にイエメン人は成人男性の半分以上がカート常習者で堕落していると書かれていたのを鵜呑みにしていた自分がやや恥ずかしくなりました(ソマリランドを含むソマリア地域はイエメンのほぼ対岸です)。旧伊領のソマリアについても多くの示唆に富むエピソードが紹介されていますが、「恋するソマリア」(同 集英社)と合わせて読まれると高野先生のソマリ人愛がひしひしと感じられて更に楽しめると思います。

「西南シルクロードは密林に消える」(同 講談社)は、中国四川省の成都からビルマ北部経由インドに到達するという、一般的に知られている草原の道や海の道といったシルクロード像とは少し違う西南密林シルクロードについて高野先生が現地を歩いて綴った紀行文です。そもそも中国からビルマへは密入国ですし、反政府ゲリラが支配する地域を進むため、普通の道路を車で行くことはできずひたすらジャングルの中を多数のヒルに襲われながら歩き続けるという悲惨な強行軍にロクに準備もせずに臨む高野先生の胆力にはいつもながら驚かされてばかりです。

「アヘン王国潜入記」(同 集英社)は麻薬の黄金の三角地帯と呼ばれるビルマ北部のワ州と呼ばれる地域に赴いた高野先生が、アヘン中毒になりながらその種まきから収穫までを実際に体験した様子を描いたノンフィクションです。写真を撮ってあげたり、言葉を教えてあげたり、農作業を一緒にやったり、共にアヘンを吸引したりしながら現地の人々と関係を結び、その歴史や文化、社会の仕組みや課題に至るまで掘り起こしてしまういつもながらの高野ワールドに今回も感銘を受けました。ワ州を支配する反政府ゲリラが農民からアヘンを搾取して大儲けしている実態や、アヘン栽培が収入を得るための糧として生活に不可欠なものになっているという実情、更には決して豊かではない中でもしたたかに生きる現地のワ州人のリアルな姿の描写にはコミカルな表現に笑わされながらも感動を禁じ得ないというのが正直な感想です。紙幅の関係で紹介できませんが「ミャンマーの柳生一族」(同 集英社)もおすすめです!こちらではミャンマーへの旅に同行された早大探検部の先輩に当たる船戸与一先生の輪をかけた豪放磊落感に衝撃を受けること間違い無しです(笑)。

最後に簡単に。「告白撃」(住野よる著 KADOKAWA)は、結婚を決めた千鶴が、親友である響貴に告白させた上で断りたい、というなんとも傲慢に聞こえる思惑を持つところから物語が始まり、そんな千鶴に学生時代からの付き合いである友人たちが巻き込まれ振り回される様子をコミカルに描いた大人の青春小説です。住野先生の人間関係に対する繊細過ぎると思える程に細やかな感覚が本作でも最初から最後まで木目細かく行き届いていますが、これが現代の若者のスタンダードな気遣いなのだとするともうどうやってもジェネレーションギャップを埋められる気がしません(汗)。でも、変な話だなと思いながら読み進めるうちに、何となくそれぞれがそれぞれのやり方で友人を思いやっている健気さというかピュアさにほだされてしまい、読み終えた時には清々しい爽快感で充たされていました。「君の膵臓を食べたい」から間もなく10年になりますが、やはり住野よる恐るべしです。

チョコ好きで有名なかのカリスマ田中みな実さんが最も好きというチョコがバレンタイン期間に手に入ったので食べてみました。板チョコ1枚5000円という高額に期待しながらの一口目でしたがその第一印象は〈普通〉で、みな実盛りやがったなと正直思いました(笑)。しかし、他のチョコと食べ比べたり、毎日少しずつ食べ進めているうちに、その雑味の無い上質さがもたらす持続する満足感にはたと気づき、我が家では田中みな実やはり恐るべしという結論に至りました(笑)。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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