先日の郡山旅行の投稿で、日本三大饅頭に数えられる柏屋の薄皮饅頭を80個抱えて帰京したにも関わらず、そんな貴重と思っていた饅頭が東京で余裕で買えると知って愕然とした悲しい経験について書きました。このブログの読者の皆様にはもうお分かりと思いますが、常にネタの枯渇に苦しんでいる金次郎にとってこういう〈三大〉的なテーマは非常に好ましく、虎視眈々とこれら饅頭について書く機会を窺っておりました。そんな折、一緒に郡山旅行に行ったAさんから思いがけずこれまた三大饅頭の一角を占める岡山伊部屋の大手まんぢゅうをお土産にいただくという幸運に恵まれ、これは残る一つの志ほせ饅頭も食した上で本ブログにてレポートせねばと、妻にお願いして早速調達してもらいました。
現在は東京都中央区明石町の塩瀬総本家で作られているこの饅頭は、なんと14世紀に奈良にやってきた中国からの渡来僧が、長芋と米粉を皮に用いるレシピで作り始めた製法を今も受け継ぐもので日本最古の饅頭ということになっているそうです。渡来僧からこの技術を引き継いだ一族が京都に移り住んで饅頭屋を営んでいたところに応仁の乱が発生し、京都を焼け野原にしたこの戦禍を避けるために疎開したのが三河の塩瀬村であったことから屋号が塩瀬となったとのことで、そこから数えても500年以上の歴史を誇る正に饅頭の祖先と呼べる代物です。皇室や将軍家御用達でもあったようですが、金次郎の食べた物は一口サイズでかなり小さく、長芋特有のふんわりした雰囲気は感じられたものの、味覚の鈍い今の状態ではそのこしあんの繊細な甘みは今ひとつ感じ取れず、現段階では三大饅頭の中では第3位の位置づけとさせていただきます。一方、Aさんからいただいた岡山市伊部屋の大手まんぢゅうは甘酒風味の薄皮にしっとりとしたしっかり甘いこしあんがたっぷりと詰まった逸品で食べ応えと満足度充分の美味しいお饅頭でした。伊部屋が大手まんぢゅうを造り始めたのは1837年で塩瀬ほどの歴史は有りませんが、それでも200年近く続く老舗であり、作家内田百閒も好んだとされる名品です。岡山と言えば桃太郎でお馴染みのきびだんごが有名ですが、通は大手まんぢゅうを選ぶのだそうで、幼少期に岡山に住んでおり岡山城址にも何度も足を運んだ金次郎でしたが、当時は全くその存在を知らなかったこの大手まんぢゅうに45年の時を経て漸く出会えたことは望外の喜びです。さて金次郎が必死の思いで持ち帰ってきた柏屋の薄皮饅頭は、これまた1852年創業と長い歴史を誇る老舗の看板商品で、長らく東北一の饅頭の座に君臨してきたようです。こしあんを包む皮がその薄さ以上に主張に乏しいとの第一印象でしたが、薄皮が黒糖をベースに作られているとのことで、味覚がやや鈍い今の金次郎には全てがあんこの塊と感じられたのも納得です。大手まんぢゅうと比べるとこしあんはかなりさっぱりした味わいで、気を抜くと幾つでも連続で食べられてしまうのでダイエットには大敵の恐ろしい饅頭だと思います。金次郎は薄皮、大手、志ほせの順位、妻は大手、薄皮、志ほせの順番というのが我が家の食べ比べ結果となりました。
さて本の紹介です。「海と月の迷路」(大沢在昌著 講談社)は、非常に狭小な土地で炭鉱事業が行われていたために一時は世界で最も人口密度の高い場所であった長崎の軍艦島という特殊環境を舞台にしたミステリーです。史実とは無関係のフィクションということですが、人間関係が濃密であるが故により苛烈になる階層差別やプライバシーの侵害が、あたかも現実であるかのようにリアルに描かれているところに大沢先生の筆力を感じます。満月の晩に発生した少女殺害事件の捜査に若き新任駐在である荒巻が本土と島を股にかけて奮闘するストーリーですが、過去の事件と絡んでより深刻な犯罪である可能性が浮上するにも関わらず、警察権力をも取り込んだ島独自の社会の壁に阻まれ思い通りの捜査ができないことへの荒巻の苦悩がよく描けていると思います。炭鉱会社の従業員と下請業者の対立、1キロ四方程度の小島に密集して林立する住居、そんな過酷な環境でも懸命に生きる人々と、そんな彼らの営みをあざ笑うかのような台風の猛威の描写など読みどころ満載の秀作だったと思います。
「四日間家族」(川瀬七緒著 KADOKAWA)は金次郎が大好きな「法医昆虫学捜査官」シリーズを世に出した川瀬先生の作品ということで楽しみにして読みました。自殺を決意しボロ車で死に場所と定めた山奥に辿り着いた見ず知らずの訳アリ4人が、突然聞こえた赤ちゃんの泣き声をきっかけにぶつかり合い罵り合いながらそれぞれの荷物を降ろし、少しずつしがらみから自由になっていくお話です。川瀬先生らしくミステリー要素がしっかり盛り込まれていることに加え、SNSにおける炎上や特定屋の恐ろしさも臨場感抜群の表現で描かれており、比較的ありがちなストーリーラインでありながらそのリーダビリティと刺激によりどんどん読ませる構造に仕上がっていると思います。完全に痛い人で構成された4人組なのに、最後は感動させられてしまうというのは癪に障りますね(笑)。
大変気分の悪くなる本なので全くお薦めではありませんが、「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」(豊田正義著 新潮社)は北九州で発生した史上最悪の連続殺人事件を事細かに描いたホラー・ノンフィクションです。メディアを騒がせたのがちょうど金次郎がシンガポールに駐在していた時期であったため、当時はNHKしか視聴できなかったことが幸いしこのおぞましい事件について知らずに済んでいたようです。正にタイトルの通りで、ある田舎の真面目な一家が稀代の殺人鬼に完全に抹殺されてしまうという恐ろしい話なのですが、金次郎としては昔全く読めなかったこういうグロい事件について描写した本を多くの読書経験を経て比較的容易に読みこなせるようになった自分自身の変化に驚いています(汗)。しかし、主犯Mの支配欲と暴力性、あー言えばこう言うの詐欺師的順応性ところころと態度を変える多面性には恐怖を禁じ得ませんが、サイコパスやソシオパスといった言葉が使われるようになったのはこの事件がきっかけかもしれません。
猛暑が続きますが、最近知人宅のエアコンが故障したという命に関わる事例を何件も耳にし、しかも修理の人が来てくれるまで一週間かかるという地獄ぶりに、昨年エアコンを2台一気買いした我が妻の大人買い癖に今となっては感謝しております(笑)。
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