金次郎、声を取り戻そうとする皆さんの努力に感服する

先日、タクシーに乗った際に運転手さんの声がロボットのような電子音で少しだけ驚きました。ただ、金次郎家までの道筋を伝えるやり取りにも全く支障が無く、恐らく喉のご病気で声帯を切除されているのだと推察したのですが、その状態からスムーズに会話ができるようになるまでの運転手さんの努力を想像し凄いと敬服いたしました。発声の仕組みとしては、声帯が振動して出す〈喉頭原音〉という声の素が、舌や唇の形によって変化して様々な声になるのだそうです。そんな〈喉頭原音〉を生み出す声帯を切除せざるを得なかった方々のために、電気式人工喉頭という機器が存在しているようで、これを喉に当てると〈喉頭原音〉に類似した音が口腔内に伝わるので、後は普通に舌と唇を動かすことで様々な声を出すことができるのだそうです。

ただし、この電気式人工喉頭を使った場合は、振動が一定であるためにアウトプットが画一的になってしまいロボットのような声になるということで、運転手さんのケースはそれだったのだと理解いたしました。ただ、普通に考えると機器を喉に当てる操作の際は片手が塞がってしまうと思われ、運転はどうされていたのだろうと不思議に思いました。とは言え、最近ではそのような機器を活用してカラオケも歌えるようになっているそうなので、技術的に進化しているのだろうと勝手に納得いたしました。更に、この人工〈喉頭原音〉をオリジナルの声の録音データ解析を通じてその人固有の振動にカスタマイズできるような技術の開発が進んでいるとのことで、声帯を失ったとしてもロボット音声でなくその人らしい声での会話が可能になる時代も近いようです。病気を乗り越える努力も凄いし、昨日までできなかったことが可能になる技術開発のペースも凄いと驚かされました。一方、声帯を切除されたことでニュースにもなった歌手のつんく♂さんは、そのような機器を活用するやり方でなく、あくまで自分の声に拘わって〈食道発声法〉に取り組まれているとのことでした。この方法は、通常は肺から声帯に空気を送り声帯を震わせ〈喉頭原音〉を出すのに対し、胃から食道に空気を送ることで食道そのものを震わせて〈喉頭原音〉を生み出すやり方なのだそうです。この方法は習得が難しいことに加え、どうしても大きな声が出しにくく騒がしい場所では相手に声が届きにくいなどのハードルは有るようですが、それでも諦めずに頑張っておられる方がつんく♂さんの他にもたくさんいることを知り勝手に胸が熱くなりました。

さて本の紹介です。金次郎が来年の本屋大賞2025にノミネートされると力強く予想する「イグアナの花園」(上畠菜緒著 集英社)は、動物の声が聞こえるという生得の能力故に、動物と語り自然と触れ合う生き方を好む一方で、家族や周囲の人々との関係に悩む美苑の成長を描いた静かだけれど優しい物語です。植物学者の父親が急逝した後、厳格な華道師範である母親と上手く関係を構築することができず、空気が読めない人とのレッテルを貼られ友人もできない美苑が、ひょんなことから飼い始めた美しいグリーンイグアナの〈ソノ〉と心を通わせる中で、〈ソノ〉との平穏な暮らしを守ろうとする努力を通じて少しずつ人間というものを理解し周囲に心を開いていく様子が抑制された文章で描かれた秀作だと思います。昨年2位の「水車小屋のネネ」と若干コンセプトが被る点は気になるところではありますが、上畠先生がほぼ無名という点も含め、ノミネート10作品入りは勿論上位進出も狙えるのではと今から楽しみにしております。

大沢在昌先生の人気ハードボイルドシリーズである「魔女シリーズ」全4冊を一気に読了いたしました。最新刊の「魔女の後悔」から読んだのですが、どうしても過去作が気になってしまい週末全てを魔女に捧げることになってしまいました(笑)。主人公は裏社会のコンサルタントである水原で、彼女は一度そこに売られたら二度と本土には戻れないとされる〈地獄島〉から島抜けした伝説の元娼婦で、その経験から一見するだけで大抵の男性の人となりを見抜いてしまうという特殊能力の持ち主という設定になっています。そんな悲惨な過去のトラウマを抱えながらも、一般的な正義感やヒロイズムでなく、失う物の無い強さと生き延びるという強い信念に従ってひるむことなく腕力や権力を持つ敵と対峙する彼女の姿に非常に胸のすく作品でした。水原のみならず、元警官のオネエ私立探偵の星川や、水原の運転手兼アシスタントの木崎などの脇役達がキャラが立っていて魅力的なのも本シリーズの人気の一因だと思います。水原と星川の何とも言えない友情(?)もいいですし、謎に包まれた木崎についてのエピソードも続編のどこかで書いて欲しいと切に願っております。

「魔女の笑窪」(大沢在昌著 文藝春秋)では幾つかのエピソードを経て水原の出自が語られる連作短編的な展開ですが、最後は国内外の裏社会勢力とせめぎ合いながら、彼女のトラウマの元となった地獄島の因習と正面から向き合う展開となります。間を置きつつ書かれた10作の短編がまとまって単行本となったためか、少しずつ彼女のキャラが変わっているのを感じるのもまた一興です。

「魔女の盟約」(同)では、前作のしがらみで韓国釜山に行くことになった水原が、そこで出会った元警官の中国人といがみ合いながらも行きがかり上タッグを組み彼女の復讐を助けることになります。物語は釜山から上海、そして日本へと展開するという、シリーズ髄一のダイナミックなスケール感が売りの作品だと思います。日本の国家機関も手玉に取りつつ、時には強引なやり方も辞さずの姿勢で日中韓の裏社会勢力の間を悠々と泳ぐ水原に圧倒される内容となっています。

「魔女の封印」(同)は1億人に1人とされる頂点捕食者という特殊能力の持ち主が登場するややSF的な内容で若干好き嫌いの分かれるところだと思います。この謎の能力者の特質によって物語のプロットはより複雑になっていますが、それを精緻に汲み上げる大沢先生の手腕に脱帽いたしました。中国当局、日本の外務省や公安に加え、お馴染みの裏社会勢力が入り乱れる中で、クールにぶれない水原の魅力が際立っていると感じました。

「魔女の後悔」(同)では、ある女子中学生の護衛を依頼された水原が、その子に運命的な何かを感じ、損得抜きに守り抜く覚悟で様々な対抗勢力と死闘を繰り広げるという内容です。相変わらずの大スケールで日韓を股に掛けた2000億円の詐欺事件をテーマに大掛かりなプロットを構想できる大沢先生の想像力には脱帽ですが、これまでもちょくちょく垣間見えており、水原の魅力の一つともなっていた〈情〉の部分がより強調される展開で、失う物の無さを強みとしてきた彼女が〈守るべき物〉を見つけてしまい葛藤するという点でも前3作とは少し趣を異にしていると感じました。

うちの妻が、来年2月に迫ったイトーヨーカドーのデリバリーサービス終了に向け、イオンネットスーパーへの乗り換えを開始していますが、その使い勝手の悪さにかなり機嫌を損ねています(汗)。金次郎家の平穏のために、早くヨーカドーの後続サービスであるOniGOとのコラボ事業が立ち上がって欲しいと祈っております。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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