金次郎、人形町界隈のお食事処地殻変動に呆然とする

金次郎の住む人形町では現在建て替え工事中である親子丼の老舗玉ひでの新店舗がいよいよ今年の秋にオープンとなる予定とのことで、名物が本格的に戻ってくると思うと嬉しい限りです。と言うのも、人形町には先日のブログで書いた甘味処初音や言わずと知れたすき焼きの名店である今半のような昔ながらの店舗が多いという一般的な印象に反し、時代の移り変わりや不動産再開発の波と共に急速に飲食店の顔触れが変化してきているためです。例えば、江戸前洋食と言われた芳味亭も後継者不在で閉店の危機に瀕していたところを、今半グループの支援でどうにか営業継続にこぎつけたという薄氷の状況だったようです。

特に波を被っているのが昔ながらの昭和レトロな喫茶店で、おしゃれカフェに衣替えしたものはまだ良いとして、直近では何とファミリータウンの象徴とも言えるサーティワンアイスクリームに変貌を遂げるところも出てくるなど、なかなか複雑な気分にさせられる変化が多発しております。そんな変化の果てに、人形町を中心とした界隈はいつの間にかパン屋激戦区と化していて、昔ながらの味を守り続けるまつむらが奮闘してはいるものの、インバウンド狙いの新しいホテルの中や、大通り沿いの好立地のみならずかなり狭い路地裏に至るまで様々な場所から美味しそうなパンの香りが漂うという激しい競争状態となっております。しかし、人形町近辺に越してきた20年前は甘酒横丁から広がるお茶の香りに衝撃を受けたものですが、それと比べると変化の大きさに驚かされます。そんなパン屋の中でも一際異彩を放っているのが堀留公園の横に数年前にオープンしたパークレットベーカリーで、どちらかと言うと野暮ったい人形町のイメージとはかけ離れたおしゃれな雰囲気の店舗におしゃれな味のパンが並んでいて昔ながらの路地を歩いていたら突然青山か表参道に迷い込んだような気分にさせられる、空間の歪みを体感できる不思議スポットになっておりますので(笑)、ぜひ一度試していただければと思います。そんな再開発も悪いことばかりではなく、人形町通りの吉野家が営業しなくなって途方に暮れていたところ、先述した親子丼の玉ひでの近所に看板がオレンジでなく黒の新業態吉野家がオープンし、更にその近くに天丼(正確には天ぷらめし)の名店である金子半之助が開店し、割と近接している2軒の松屋や人形町交差点で存在感を示し続けている天丼てんや、そしてロイヤルパークホテルの対面のカツ丼店と合わせ、一気に丼タウンとして生まれ変わろうとしている点は丼好きの金次郎としては朗報でした。

さて本の紹介です。「バブル兄弟 〝五輪を喰った兄〟高橋治之と〝長銀を潰した弟〟高橋治則」(西﨑伸彦著 文藝春秋)を読んでみました。東京オリンピックを巡る贈収賄の疑いで元電通役員の高橋治之被告が逮捕されたのは記憶に新しいと思います。本書では関係者へのインタビューを含む地道な取材を通じて、彼がスポーツエンタメ界のキーパーソンに上り詰め世界を股にかける影響力を持つに至った背景がその生い立ちと共に語られる内容となっています。当時まだそれほど盛り上がっていなかったサッカーのイベントを成功に導き、そのノウハウを日韓共同開催のワールドカップに繋げていった手腕は見事ですし、更にそこで築いた世界のスポーツ人脈を駆使して東京五輪招致を成就させてしまう構想力と実現力は凡人の自分には及びもつかないレベルで脱帽でした。彼の収賄容疑は未だ係争中で結論は出ていないと思いますが、本件が表に出てきた背景として高橋家とは浅からぬ縁の有った安倍元首相が非業の死を遂げた事件が関係している点には政治の闇を感じました。加えてこの本には、彼の実弟である故高橋治則氏がバブルの追い風も最大限活用しながらビジネスで成功し、ゴルフ場開発や海外不動産に信じられない巨額を投じた時代の寵児であり、長銀の事実上の破綻に深く関与した人物である点についても詳述されており、一冊で2度楽しめる内容でした。この兄弟が陰に陽にタッグを組み、由緒有る血筋とその慶応人脈を活用し、構想力や資金力を遺憾無く発揮して縦横に活躍した90年代前半は凄い時代だったのだなと改めて感じると同時に、95年に社会人になった金次郎はあと10年早く生まれていればと悔しい気持ちでいっぱいになりました(笑)。

「対馬の海に沈む」(窪田新之助著 集英社)は国境の島である長崎県対馬のJAで繰り広げられた被害総額22億円とされる巨額横領事件の全貌を、その首謀者とされ最終的には自ら命を絶つ道を選んだJA職員の表と裏、光と影を地道で丹念な取材を通じて描き出すことで明らかにした第22回 開高健ノンフィクション賞受賞作です。この職員は長年に亘って国内トップクラスの営業成績を叩き出し続け、〈JAの神様〉と呼ばれ崇められていましたが、人口僅か3万人という対馬にあって何故そんな実績を継続できたのか読者の皆さんも不思議に思われるのではないでしょうか。この本を読み進める中で、そんな神様ならぬ怪物を生み出した背景としてのJAにおける厳しいノルマの存在、非常に複雑で手の込んだインチキの手口、そして何よりそんな錬金術の常態化を可能たらしめた社会の闇が次第に明らかとなり、その闇の濃さに冗談でなく背筋が寒くなりました。ワンピースのルフィに憧れ、富と力を追い求めた結果最後は孤独に海に沈んだこの職員は果たして稀代の悪党だったのか、はたまたダークサイドに堕ちながらも仲間を大切にするマイルドヤンキーかはともかく、読了後にどうにも彼一人を糾弾する気分にならないところが、きちんと隠された真実にまで光を届かせた本作の凄味であると感じました。

「魔者」(小林由香著 幻冬舎)は自らの秘している過去と酷似した内容がある小説の中で表現されていることを不審に感じた主人公の週刊誌記者である柊志が、封印した27年前の事件の謎に迫る中で人間として成長を遂げるサスペンスミステリーです。インパクトの有るミスリードやどんでん返しだけでなく、人間ドラマとしてもお仕事小説としても成立しており、盛沢山の中身に楽しめました。ただ、被害者家族と加害者家族の問題や学校でのいじめ、ネグレクトや貧困といった社会派的な領域にもやや欲張って踏み込んでしまったために、ストーリー展開上ある程度は必要だったにせよ消化不良との印象が残り少し勿体ないなとも感じました。実力は折り紙付きの小林先生ですので、もう少し絞り込んだテーマを深掘った方が骨太な印象になったとは思います。

最近は甘味づいており、先日の竹むらに続いてみはし上野本店を訪問して参りました。こしあん仕立ての御前しるこはさすがの美味でしたが、やや量が多めで口の中が甘ったるくなる瞬間は有ったものの、箸休めのカリカリ小梅が抜群の威力を発揮して最後までしっかり楽しめ完食できました。お持ち帰りのあんみつは、寒天とみつの相性も良く求肥も美味で5点中4点の満足感でした。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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