金次郎は業務上のニーズからエネルギー関連の記事やニュースを結構まめにチェックしております。ご存じの通り、気候変動対策としての脱化石燃料のトレンドの中で、太陽光や風力を活用した再生エネルギーによる発電がブームになっていますが、先日米国のトランプ政権によって東海岸のロードアイランド沖合で進められているRevolution Windという洋上風力発電プロジェクトの建設工事が差し止められたというニュースには驚かされました。前バイデン政権時に許可取得の上でデンマークのOrsted社が中心となり進められてきたこのプロジェクトは、既に80%の工事が完了してしまっており、差し止め理由も安全保障に関わるというような曖昧なもので何とも腑に落ちぬ決定でした。
勿論、前政権によって強力に推進された再エネへの転換にブレーキを掛けるという党派抗争的な判断も有るのだと思いますが、どうやらこの決定には地政学的な思惑が絡んでいるようなのです。このプロジェクトを進めてきたOrsted社はデンマーク政府が株式の50.1%を保有する国営企業ですが、トランプ大統領が1期目の任期中から北極圏の足掛かりとしてグリーンランドの領有に強い興味を示してきたのに対し、グリーンランドを領有するデンマーク王国が断固拒否の姿勢を示していることへの報復としてこの嫌がらせ的な差し止め命令を出したとの背景が有るようです。北極圏での資源確保を目指し、同じくこの地域への進出を志向する中国やロシアとの競合を優位に進める戦略目的は理解できるものの、目的達成の手段としてこういうあからさまな難癖で圧力を掛けるというのは、報復の応酬を通じた将来の地政学リスクのエスカレーションが容易に想像できるのでなかなか怖い状況だと思います。さて、そんな思惑の対象となったグリーンランドは北大西洋と北極海の間に位置する世界最大の島でその面積は約217万km²と日本の6倍弱と大きいものの、国土の8割が氷床や万年雪に覆われている氷の島です。グリーンランドという地名は10世紀末にアイスランドの海賊である赤毛のエイリークが命名したとのことですが、どう考えてもグリーン=緑はおかしいと思うのは金次郎だけでしょうか?実際、この名前のせいでいたいけな小学生の金次郎は世界地図を眺めながら、この上の方に有る大きな島は緑に溢れているのだろうなと胸をときめかせており完全に事実誤認してしまっておりました(笑)。どうやらエイリークさんがこの島を発見した中世の地球は短い温暖期に入っていたようで、当時は若干緑の樹木が生えていたためにこういうネーミングになったという説が有るようです。断固ホワイトランドへの改称を希望しようかとも思いましたが、このまま温暖化が進んでしまうと氷床も解け出してまた〈グリーン〉に戻るのかもしれません。一番厚いところで3000メートル以上とされる氷床が全部解けると海面が10メートル程上昇して世界が終わってしまいますが(汗)。
さて本の紹介です。「スノーボール ウォーレン・バフェット伝」(アリス・シュローダー著 日本経済新聞出版社 上・下)は〈投資の神様〉、〈オマハの賢人〉と呼ばれるバークシャー・ハサウェイ社の会長兼CEOであるウォーレン・バフェット氏の伝記です。1930年8月30日生まれでちょうど95歳になる彼が、どういう哲学や原理に基づいて投資を実行してきたかに加え、文字通り雪玉が坂道を転がるように資産が急激に増えていった経緯の詳細を、私生活の細部にまで踏み込んで赤裸々に記述した非常に面白い本でした。師匠であるベンジャミン・グレアムの教えに忠実に、バリュー投資家として資産価値に比して割安な株を目ざとく見つけて長期保有ベースで購入するという彼のスタイルが、借金はしない、自分の不得意な分野には手を出さないとの原理原則と合わせ、最初にパートナーシップを組んで投資を始めてから今に至るまで変わっていないブレの無さは本当に凄いと思います。しかも、その間にはレバレッジやデリバティブを駆使して大きな利益を上げる競合が現れたり、割高なバリュエーションをものともせずIT企業を中心に株価が上がり続けるITバブル時代のように彼のスタイルにとっての逆風の期間が有ったにもかかわらず、信念を曲げずに一貫した投資方針を維持できたというのは神様の神様たる所以だと思います。手元の資金を高い利回りで増やし続けられることへの絶対的な自信の裏返しだとは思いますが、資金の浪費は許さないドケチぶりや、それに関連しての衣食住へのこだわりの無さは彼が紛れもない変人であることを示しています(笑)。一方で、大きな成功を手にするためには何事も徹底的にやり抜くことが必要と改めて感じさせられもしました。日本のバブル期に、ソニーの盛田会長のマンハッタンの別宅に招待された際に、ケータリングの職人が作った料理が生ものだったという理由で15皿連続で手を付けなかったり、中国訪問時の食事の場でさえハンバーガーとフライドポテトを食べていたとの逸話には畏敬の念すら感じます(笑)。コーラが好きというのは知っていましたが、ペプシからコカ・コーラに乗り換えていたとは知りませんでした(笑)。この本を読み通す中で彼の変人ぶりが当たり前になってしまい、スージー、アストリッドという二人の夫人にワシントン・ポストを保有するキャサリン・グラハムを加えた3人の女性と彼との常識的とはとても呼べない関係でさえ、投資家として高潔で誠実という動かぬ評価を得ている彼の人格の一部としてそれなりに理解できてしまうので不思議です。ソロモン・ブラザーズの危機に巻き込まれたエピソードも後半のクライマックスとして興奮しながら読みましたが、金次郎にとってはビル・ゲイツとの家族のような親交ぶりが非常に印象的でした。何と言っても米国トップ1・2の金持ちであった二人が、金銭でなく心の深いところで共鳴し合っているというのが〈金持ちになれる資質〉の存在を強く意識させられて面白いと思いました。
「今日未明」(辻堂ゆめ著 徳間書店)は、新聞の片隅に短くしか載らない事件であっても、その背景には想像もできないようないきさつや当事者間の愛憎のストーリーが存在するかもしれないという可能性を意識させられる5作の短編を収めたミステリーです。「夕焼け空と三輪車」は年老いた父親が殺され別居していた息子が逮捕されたという記事で始まるお話ですが、家族というものの難しさと親子の感情のすれ違いにいたたまれない気分になるイヤミスでした。「まだ見ぬ海と青い山」は、75歳の女性が男子中学生を車ではねて逮捕されるというありがちな高齢者の運転ミスを想起させる記事から始まりますが、一見成立しているかのように見える人間関係でも実は全く双方から見えている世界が違っているという非常に恐ろしく悲しい物語が描かれています。辻堂先生の作品は最近も「二人目の私が夜歩く」(中央公論新社)を面白く読んだのですが、「今日未明」の洗練度は断トツでデビュー10周年作品にふさわしい出来栄えでおすすめです。
和歌山のアドベンチャーワールドからパンダが突如中国に返還されることになったニュースは記憶に新しいと思います。真偽のほどは定かではありませんが、この背景として南紀白浜空港に定期便の前段階として台湾との間にチャーター便を飛ばしてしまったことが中国政府の気分を損ねたためという噂が有るようです。前述のグリーンランドの話もそうですが、かつては表面上はもう少し上品であった国際社会で、昨今は恥ずかしげもなく堂々とパワーゲームが展開されるようになっており、ダメージを負わず生き残るためには外交でもビジネスでもしたたかに立ち回る知恵が求められていると改めて感じました。
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