最近のニュースで、トランプ大統領と喧嘩をしつつ、したたかに北京を訪問して中国との外交的緊張の緩和を図るインドのモディ首相の人間力に感銘を受けたこともあり、仕事でも重要度を増すインドについてもっと知るべきと思い立ち、「インドの野心」(石原孝著 朝日新聞出版)を読みました。2050年時点でインド・パキスタン・バングラデシュのたった3か国で人口が23億人に到達すると改めて認識し(アフリカは50数か国で推計25億人)、中でも約17億人を占めることになるインドのポテンシャルを再確認いたしました。勿論、地域毎に社会的、文化的背景が異なる多様性やそれに起因する制度的な複雑さ、インド人の激しい上昇志向や強い労組、拡大する貧富の格差、激化する宗教対立などビジネス的に難しいポイントを挙げればきりが無いですが、やはり市場の成長性は何物にも勝る魅力だと思います。
この本を読み、家族の一大事である結婚には日本人には想像すらできない多くの制約が課されるためにマッチングアプリが大人気であることや、圧力鍋に喩えられる激しい受験戦争の現状、グローバルかつ多方面でのインド系の人々の活躍ぶりなどを知ることができインドをちょっと分かったつもりになりました。かつてこのブログでアメリカ50州それぞれの特徴などについて書きましたが、ワンパターンではあるものの、インドを深く知るために全28州の名前とその由来について覚えるところから始めたいと思います(笑)。日本人でこれを全部言える人は殆どいないでしょうが、先ずはインド北部の6州から。2.3億人という尋常でない人口を誇るウッタル・プラデーシュ州は北の州、ラージャスターン州は王の土地、パンジャーブ州は5つの川の土地を意味しているそうです。ハリヤーナー州は神の住む場所、ウッタラーカンド州は北の土地、ヒマーチャル・プラデーシュ州は雪山の州の意味ということでなんとなくヒマラヤにも響きが近く、だいぶイメージが湧いてきました(笑)。西部インドは3州のみで、マハーラーシュトラ州は偉大な国の意で商業の中心都市ムンバイはこの州に位置し、人口も1.3億人と日本並みです。大工業地帯のグジャラート州はグルジャラ族の土地という意味で全く知らない部族名が出てきて驚きます。ゴア州はゴマチーという古代の川の名前に由来しているそうです。南部インドは5州で、チェンナイが有名なタミル・ナードゥ州はタミル人の土地、ケーララ州はココナッツの土地という意味です。IT集積地として名高いバンガロールを擁し、紛らわしいですが25年前に金次郎が訪れたマンガロールも有るカルナータカ州の名前は、諸説有るようですがカンナダ語の土地に由来、アーンドラ・プラデーシュ州は南の州との意味なのだそうで、ちょっとずつ法則的なものも見えてきた気がします。テランガーナ州は3つの言語の土地という意味だそうですが、金次郎はテランガーナは知らんがなと憶えるようにしております(笑)。もう少しだけお付き合いいただきたいと思いますが、東部インドは4州です。西(ウエスト)ベンガル州は言わずもがなでベンガルの西の意味ですが、何故ここだけウエストという英語が使われているか不明です。州別人口第2位のビハール州はサンスクリット語の僧院に由来しており仏教の中心地であったことがうかがえます。ジャールカンド州は森の土地、オディシャ州は古代のオドラ王国に由来しているのだそうです。中央インドは2州で、文字通り中央の州という意味のマディヤ・プラデーシュ州、そしてそこから分かれたチャッティースガル州の由来は36の砦ということでやや物騒です。これ以上書くと完全に飽きられてしまいますので、北東辺境部8州については州名だけにしておきます。アッサム州、メーガーラヤ州、マニプル州、トリプラ州、ナガランド州、ミゾラム州、アルナーチャル・プラデーシュ州、シッキム州でコンプリートです!アッサムはお茶でなんとなく親近感有りますね。金次郎が尊敬する高野秀行先生がミャンマーから国境を越えて到達されたのはナガ族の土地であるナガランド州でした。
さて本の紹介です。「顔に降りかかる雨」(桐野夏生著 講談社)は桐野先生が乱歩賞を取ってデビューした記念すべき作品です。ヤクザの調査員をしていた父親の事務所で生活する村野ミロは、親友の耀子と共謀して大金を持ち逃げしたとの嫌疑をかけられ、失踪した耀子の行方をヤクザの成瀬と共に追うことになります。30年前には相当斬新だったと思われる女性探偵としてのミロのハードボイルドで筋を通した振る舞いのクールさは今読んでも全く色褪せませんし、サスペンスミステリーのプロットも非常に重厚で読み応えが有ります。前夫の自殺という心の闇を抱えながら、見失った自分を取り戻すべく毅然として生きるミロの姿はシリーズ化されたのも納得のカッコ良さでした。続編の「天使に見捨てられた夜」(同)は社会問題化する前にAV出演に関する人権の問題を取り上げた意欲作で、社会の闇を掘り下げる桐野先生のスタイルの萌芽が見られます。探偵を生業として生きることを決めたミロが、依頼人が殺害される逆境にもめげずに業界の暗部の奥深くに躊躇無く足を踏み入れていく様子がスリリングに描かれています。サスペンスミステリーとしての出来栄えも素晴らしいですが、ミロの事務所兼住居の有る新宿2丁目のマンションの隣人でゲイバーを経営している友部(トモさん)とミロとの関係にほっこりさせられました。次作の「ローズガーデン」(同)は短編集ながら、ミロの亡くなった前夫や、義父である村野善三との関係が明かされる内容なので絶対に読み飛ばせない一冊です。
「ダーク」(同)は40歳になったら死ぬと決めていたミロが、自分でも制御できない怒りから夜叉と化し、これまでの人間関係をぶち壊しまくるという、シリーズの愛読者にはなかなか衝撃的な内容になっています。桐野作品には嫌な奴ばかりが出てくるというのはもはや常識ですが(笑)、本作もミロの醜悪な、ある意味人間的な部分が手加減無く描かれていて、中身もサスペンスミステリーというよりはノアール的な色合いが強く、とにかくシリーズの心地よい部分が根こそぎ消滅して呆然とさせられます。金次郎の中の悪が共感してしまうのか(汗)、それでもどんどん読まされてしまうわけですが、ミロのみならず、善三の内縁の妻である久恵、ヤクザの鄭、そしてかつての盟友友部までが悪意と欲望にまみれて韓国に逃げたミロを追いかけるという展開で、登場人物の誰にも共感したくないという恐ろしい読書体験でした。怒りのままに罪を犯したミロが、最後の最後で下す決断が非常に印象的でシリーズ完結にふさわしい作品だと思いました。
この「ダーク」でシリーズは完結していた筈でしたが、桐野先生がまたミロを書いてみたくなったということで、今年20年ぶりに続編の「ダークネス」(新潮社)が刊行され驚きました。そして、なんと版元が講談社から新潮社に変わっており、いったい桐野先生と講談社の間に何が起こったのだろうと、そちらの方にだいぶ興味を持っていかれて最初はストーリーに集中できませんでした(笑)。過去と決別し、沖縄で息子のハルオと静かに暮らしてきたミロでしたが、やはりどんなに目を背けても、生きることで生まれるしがらみや自ら背負った業から逃れることはできず、過去は沖縄までミロを追いかけてきます。還暦を迎え守るべき息子の存在を心情的にも感覚的にも認識したミロが、自らの悔恨にどう向き合い、過去とどう決着をつけるのか、読みながら終わって欲しくないと思わされる圧巻の内容でした。しかし、こんなにシリーズのオールスターキャスト勢ぞろいの作品なのに自社で出せなかった講談社はさぞ悔しかっただろうなと他人事ながら同情いたしました。
元陸上部の金次郎にとって、世界陸上はなかなかに興奮するイベントでしたが、感動のあまり急に無理な運動を始めてしまった結果、大怪我をして整形外科で「あなたもですか」と言われる中年にならぬよう気を付けます(笑)。
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