金次郎夫婦、おしることぜんざいの間の歪みに落ち込む

先日、そろそろ寒くなってきたのでおしるこが食べたいと思いコレド室町の鶴屋吉信に閉店直前に駆け込みました。18:30のラストオーダーぎりぎりの時間だったため、既に品切れとなっているメニューも多く、お店の方から「すみません、ぜんざいならございますが」と言われてしまい、悩んだのですが数週間前の苦い記憶が甦り別の物を注文することとしました。苦い記憶というのは、このところの我々夫婦のお気に入りである赤坂砂場のそばと甘味を楽しむという至福時間の際に、おしるこの気分で誤ってぜんざいを注文してしまい、お椀をいくら傾けても甘いあずき汁が口に入ってこず、ほぼ90度傾けたところであずきの塊が鼻と唇の間にベチャッと落ちてくるという悲しい体験のことで(笑)、これを繰り返してはならじと練り切りを選択いたしました。

鶴屋吉信の練り切りはお抹茶と非常によく合う美味なのでそれはそれで良かったのですが、隣席のお客さんへの「ぜんざいお待たせしました」という店員さんの声に思わず驚愕してしまいました。それというのも、運ばれてきたブツが明らかに汁だくの紛れもないおしるこだったためです!妻と共に、これはいったいどういうことかと憤慨しながら調べてみると、関東ではこしあんの汁にお餅や白玉が入っているものは御前しるこ、つぶあん仕様のものが田舎しるこで、金次郎が砂場で食べた汁なし担々麺ならぬ汁なしおしるこのことをぜんざいと呼ぶのに対し、鶴屋吉信が本拠地を置く関西においては、こしあんの汁ものをおしるこ、つぶあんの汁ものをぜんざいと呼ぶという違いが有るようで、金次郎夫婦は東日本と西日本の文化の狭間のねじれにすっぽりとはまり込む不運に見舞われておりました。悔し紛れにぜんざいの名前の由来を調べたところ、仏教用語で〈よきかな=素晴らしい〉を意味する〈善哉〉から来ているという説が有力なようでした。ある僧侶があずき汁にもちを入れたものを食べて「善哉(ぜんざい)!」と叫んだという故事にちなんでいるようですが、金次郎にもそう叫ばせてほしかった(涙)。また、出雲地方の〈神在餅(じんざいもち)〉に由来するとの説も有るようで、出雲地方の神事である〈神在祭(かみありさい)〉で振る舞われた〈神在餅〉がじんざい→ずんざい→ぜんざいと変化したとの主張も有るようです。ただ、神在餅はあずきと餅を煮込んだもののようなので汁なしの関東風と思われ、現在の西日本での用法と整合的でなくこの説は却下かと思います(笑)。

さて本の紹介です。「女王様の電話番」(渡辺優著 集英社)は、新卒で入った不動産会社を辞め、SMの女王様をデリバリーする風俗店の電話受付として働く志川が自らのセクシャリティに悩み、全てを恋愛を基準とした価値観で線引きされるこの社会のスタンダードに苦しみながら、少しずつ自分自身を知り人生の方向性を定めていく成長物語です。性的マジョリティやマイノリティといった区分も大まかなものでしかなく、結局は個人個人がグラデーションの中に曖昧に位置づけられるだけで、更にそれぞれの性的指向の是非というか受け入れ可能か否かの感覚には無数のバリエーションが存在する現実においては、もはやそういった区分自体に意味が無いようにも感じさせられました。属性に依存した手抜きを排し、とにかく自分の目の前にいる人物を個人として尊重するニュートラルな意識の重要性を当然のことながら再認識させられる読書体験でした。作中に登場する掴みどころの無い美織という人物は、そういったことを考える題材としてはなかなか面白いと思います。

「探偵小石は恋しない」(森バジル著 小学館)はミステリーおたくの探偵である小石が、華麗な推理を披露し事件を解決に導きたいにもかかわらず、自分の探偵事務所には浮気や不倫の調査案件しか舞い込まない日常にフラストレーションを溜めているという状況から物語が始まります(笑)。自らの特殊能力から嫌々ながらもそういった依頼を引き受け続ける小石と、しっかり者の助手である蓮杖という迷コンビが図らずも脅迫事件に遭遇しストーリーは思わぬ展開になっていきます。本格ミステリーなので内容についてはほぼ言及できないのが残念ですが、連続するどんでん返しの妙と伏線回収の爽快感は保証しますので騙されたと思って読んでいただければと思います。

「パンチラインの言語学」(川添愛著 朝日新聞出版)では、映画、テレビドラマ、マンガ、アニメを題材に人々の心を捉えて離さない〈パンチライン〉が何故名台詞たり得るかについて、言語学的アプローチも使いながら解説した面白い本でした。例えば、「タッチ」に出てくる「めざせカッちゃん甲子園」という南ちゃんが書いた色紙の謎の語順に着目し、その日本人好みの七五調のパワーに言及されていて、南ちゃんの言動についての冷静な分析と合わせ興味深く読みました。また、「機動戦士ガンダム」の章では「偉い人にはそれが分からんのですよ」の〈よ〉に焦点を当てその効果について細かく分析していて大変納得いたしました。その他にも「ガラスの仮面」や「北斗の拳」など金次郎世代の心をくすぐる題材が盛りだくさんにて特に同世代の方にはご一読をおすすめいたします。

「バブルの王様 森下安道日本を操った地下金融」(森功著 小学館)は、かつてバブル絶頂期にニューヨークのトランプタワーの一部フロアを買い占め、ジャパンマネーの象徴となったノンバンク・アイチの会長であった森下安道の破天荒な生涯を綴ったノンフィクションです。アイチのピーク時の貸付総額は実に1兆円という桁外れの金額でしたが、そんな本業に留まることなく、ゴルフ会員権の仕組みを考案し、絵画ビジネスに打って出ながらイトマン事件をはじめとした多くの経済事件の裏で暗躍した森下会長の実像に迫りつつバブルという時代を振り返る本作は、日経平均が5万円を超えた今読むのがなかなかオツな一冊でした。以前このブログで取り上げた高橋兄弟をはじめとした〈バブル紳士〉たちとは一線を画すスケールと、資産を減らしながらも大往生を遂げた、そのしたたかさが大変印象に残りました。

優雅な国内クルージング旅行中の80代の義母から妻宛てに「天気がいいです、仙台にいます」という内容のLINEのボイスメッセージが、「今日は晴れです、仙台に寄港しています」、「いいお天気です、ここは仙台です」のように微妙にフレーズを変えながら立て続けに10件ほど送られてきて、夫婦二人で認知症発症の恐怖におののきましたが、単なるボイスメッセージの練習であったようです(汗)。練習なら練習と先に伝えておいて欲しかった。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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