「寿司屋のかみさん さよなら大将」を読み、改めて会ったことの無い大将を偲ぶ

前回のブログでワクチン接種副反応について書いたところ、複数の方からご心配のメッセージをいただきました。どうもありがとうございます。一般に出回っているデータ通り約2日経過後は若干胃の違和感が残っている以外はすっかり回復いたしました。これから2発目に向けメンタルを整えていきたいと思います(涙)。

「寿司屋のかみさん」シリーズを読んで2019年12月に高校時代の友人と東中野の寿司の名店である名登利寿司を訪問した話はこのブログを始めた頃に書きましたが、最新刊「寿司屋のかみさん さよなら大将」(佐川芳枝著 講談社)が出ていたので読んでみました。もうあのお店でお寿司をいただいてから1年7か月も経っているのかと思うと恐ろしいですが、うかがった際もエッセイの中で大変魅力的にいい味を出されていた初代大将が前年に亡くなったと聞き、本シリーズを愛読し過ぎてすっかり知り合い気分になっていたためとても悲しい気持ちになったのを改めて思い出す、大将とのお別れを中心に綴られている一冊です。

いつもの日常が突然奪われる当惑、闘病中の家族の不安と負担、大将の職人魂、亡くなった後の喪失感、が淡々とした文章から伝わってきて、寂しくてたまらないけど大将のことを書いて思い出を形に残そうという著者である女将さんの強い思いが溢れています。そして、これを書けるようになるまでにはたくさんの気持ちを整理されたのだと思いますが、その辿り着いた前向きさが読者にも伝わるからなのか、ただ悲嘆にくれるというのではなくて、寧ろこのコロナ禍に立ち向かおうという元気をもらえるほっこりとした読後感で何かと刺々しいこのご時世におすすめの本でもあります。季節の移り変わりと共に旬のタネを提供し続けるというお寿司屋さんの営みが否応も無く気持ちを前に向かせる部分はあるのかな、と少し思いました。

勿論、常連さんを中心としたお客さんとの関りも大きな力になっていて、金次郎も早くワクチン接種を終わらせて末席ながらその輪に加わりたいと意を強くいたしました。ただ、故橋本元首相が「寿司屋のかみさん」シリーズを読んで読者カードはがきを送ったのをきっかけに通い始め、その後常連になったとのエピソードが紹介されており、若輩者の常連への道は果てしなく遠く険しいですが。。。お店のHPを見ると緊急事態宣言下でも頑張って営業されているようなので、前回また来ますと言ってお店を出たのを有言実行すべく、できればシンコがある間に伺いたいところです。これを書いていると有り得ないほどお寿司が食べたくなり非常に辛いです(笑)。

さて続きましてはミステリーを数冊紹介します。「おれたちの歌をうたえ」(呉勝浩著 文芸春秋)は惜しくも直木賞受賞はなりませんでしたが、昭和・平成・令和をまたぐ約50年を描くスケールの大きい大河ミステリーです。還暦間近の元刑事が、高校生の時に起こったある事件の謎を解き明かそうとする過程で思いもよらない事実や人間の多面性に直面し苦しみながらも少しずつ事件の真相に近づいていくというストーリーで、とにかく先が気になってしょうがないのでどんどん読めて600ページもあっという間という感覚です。金次郎も自分の人生に何か謎はなかったかとひとしきり記憶を遡ってみましたが、そういう気分にさせる郷愁を誘う作品でもあります。

しかし、過去のしがらみに捕らわれてただ先細りの人生を送るのか、それに抗って未来に眼を向けるのか、中年として身につまされるテーマではありました。最近しがないオジさん主人公への感情移入が加速していてヤバいです(苦笑)。

「隻眼の少女」(麻耶雄嵩著 文芸春秋)は山奥の村に伝わる伝説にちなんだ事件が発生するというそれなりによくあるパターンの内容なのですが、とにかく見事に騙され驚かされて完敗でした。完敗するためにミステリーを読んでいるわけですが、今回は展開が安易で巧くないなと通ぶって注文つけながら読んだ部分が最後は全部メイクセンスで心をへし折られました。ミステリーの常でなかなか中身を解説できないのが残念ですが、ネコジャラシに翻弄されるネコちゃんのようにミスリードされまくってしまいました。この作品はお薦めです。

「夏を取り戻す」(岡崎琢磨著 東京創元社)はある団地での小学生連続失踪事件の謎を中心にストーリーが展開しますが、二転三転しつつより大きな謎、そしてタイトルに関連した真の目的が明らかになるに至り、最後は感動で終わるという、普通のミステリーの読後感とは一線を画す内容となっています。著者作品は初読でしたが、才能溢れるミステリー作家がこの国にはいったい何人いるのだろう、と驚かされた一冊です。

「夜の声を聴く」(宇佐美まこと著 朝日新聞出版)は、引きこもり少年が定時制高校で出会った親友との関りを通じて少しずつ前向きに変わっていくというよくある話かと思いきや、そこは宇佐美作品、不穏過ぎる伏線と謎がドミノのように解明される後半は一気読み必至の吸引力でした。どう考えてもその人怪しいよね、というのは比較的早期に分かってしまいますが、そこは上手く仕掛けがしてあってちゃんと満足できる謎解きになっていますので安心してお読み下さい。ちょっと歪んだ恋バナで引っ張っていくのかと思わされる衝撃的なオープニングの割には、その路線が急激にトーンダウンして雲散霧消したのにはちょっと笑いました。

少し雰囲気を変えて「カルカッタの殺人」(アビール・ムカジー著 早川書房)は1919年のカルカッタを舞台にした歴史ミステリーです。イギリス階層社会がそのままインドに持ち込まれ、その階層の下にインド固有のカースト制度を基盤とする社会があるという複雑かつ歪な構造のカルカッタでイギリス高官が殺害されるという事件が起こります。この事件を、イギリスから渡航してきたばかりで妻を亡くした痛手から立ち直れない警部とバラモン一族出身ながらイギリス人に差別され複雑な思いを抱くインド人青年部長刑事のバディが解き明かすという展開でなかなかに奥が深いです。その他にもイギリス貴族、混血の美女、インド人車夫など多種多様な人々が登場し、インドならではの混沌が立ち上がってきて引き込まれます。どうやら本作はシリーズ化されているようなので是非続編も読んでみたいと思います。

「スモールワールズ」も「おれたちの歌をうたえ」も直木賞を取れず、未だ読めていない受賞作の「テスカトリポカ」(佐藤究著 KADOKAWA)は上記2作より面白いとの評価なわけで、一刻も早く読まねばと思います。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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