少し遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願いいたします。年末年始は妻の股関節痛のため帰省や親戚への挨拶はおろか、ほぼどこにも行かずデリバリー食材を活用しての引きこもり生活となり、徹底的に家でのんびりした結果、旧年中の疲れも抜けてなかなか良い休息となりました。そんな年末にラストスパートできたこともあって、2021年の読了数は381冊と昨年に続き自己最高を更新いたしました。ただ、今後は出社頻度や会食、もしかしたら出張も増えるやもしれず、次の自己記録更新は退職後になりそうです。でもそんなに先じゃないのが怖い。
さて、昨年末に王様のブランチBOOK大賞が発表となり、2021年はこのブログでも紹介したミステリー「六人の嘘つきな大学生」(浅倉秋成著 KADOKAWA)がその栄誉に輝きました。以下に並べた通り、毎回ブランチBOOK大賞受賞作は本屋大賞レースでも上位に食い込む一方(ここ10年で大賞4回、トップ3以上8回)、ミステリー作品はファン層がやや限定されるためか前評判は高くともトップ3に入らないケースも多く、まだ本屋大賞ノミネート作品発表前ですが「六人の嘘つきな大学生」を何位にするか早くも予想に悩み始めております(笑)。
2011年 「マザーズ」(金原ひとみ著 新潮社)→本屋大賞選外
2012年 「楽園のカンヴァス」(原田マハ著 新潮社)→同3位
2013年 「昨夜のカレー、明日のパン」(木皿泉著 河出書房新社)→同2位
2014年 「かたづの!」(中島京子著 集英社)→同選外
2015年 「羊と鋼の森」(宮下奈都著 文藝春秋)→同大賞
2016年 「みかづき」(森絵都著 集英社)→同2位
2017年 「かがみの孤城」(辻村深月著 ポプラ社)→同大賞
2018年 「そして、バトンは渡された」(瀬尾まいこ著 文芸春秋)→同大賞
2019年 「線は、僕を描く」(砥上裕将著 講談社)→同3位
2020年 「52ヘルツのクジラたち」(町田そのこ著 中央公論新社)→同大賞
さて、少し旅に思いを馳せようと新米旅行添乗員の成長を描く「たまごの旅人」(近藤史恵著 実業之日本社)を読み、連作短編の舞台となっているアイスランド、スロベニア、フランス、中国の雰囲気を思い浮かべてなかなか昨今ままならない旅行気分を堪能しました。添乗員泣かせのモンスターツーリストのわがままぶりに恐れおののきつつも楽しく読了することができ、それはそれで大満足だったのですが、この一冊の読書をきっかけに年始早々思わぬ展開となりました。金次郎は次の読書の参考にすべく巻末の著者紹介欄はいつも熟読するのですが、今回も近藤先生の略歴に目を通していたところ、本屋大賞2位という紹介が気になって「サクリファイス」(新潮社)について調べてみたのが運の尽きでした。この作品は、「シークレット・レース」(本ブログで紹介)を読んで以来微妙に気になっている自転車レースを題材にしたお話であることが分かり、更に金次郎の好きなジャンルである青春とミステリーを融合した傑作との高評価にもなっていて、これは読むしかないと、休み中に仕事関連のお勉強の本も色々読まなくてはならない点が若干気にはなりつつも、そんなにボリュームも多くないし大丈夫だろうとたかを括ったのが間違いの始まり。自転車競技におけるエースとアシストの役割分担や風よけの仕組み、クライマーやスプリンターといった脚質の違いやステージレースでの戦い方などの基本的な知識は「シークレット・レース」を読んである程度頭に入っていたこともあり、また解説的になり過ぎず文中で登場人物に専門知識について最低限の説明をさせる近藤先生のテクニックも巧みで、あっという間にストーリーに没入し夢中になって読んでしまいました。そして、読後にもう終わり?続きが読みたい!とサクリファイスロスになりかけ藁にもすがる思いで調べてみると、なんと本作以後もシリーズ作品が4冊も刊行されているではありませんか!と言うことで、箱根駅伝はおろか、勉強もそっちのけで金次郎の三が日を捧げることとなってしまった5作について、せめてもの罪滅ぼしにここで簡単に紹介させていただきます。宿題せずにゲームをやり続ける小学生のような中年ですみません(苦笑)。ちなみにサクリファイスの呪いは更に続いておりまして、その後に同じく自転車レースを題材とした超人気アニメ「弱虫ペダル」をアマプラで見始めてしまい、妻と共に今更ながらはまっておりお勉強の時間がどんどん削られております。アニメは第4期まで放映されていてまだ100話以上残っており、このロードレース地獄がいつまで続くのか正直先が見えずヤバいです。
◆「サクリファイス」(新潮社):プロの自転車競技チームであるオッジに所属する主人公白石は自分の進むべき道を見定められず迷いの中で日々を過ごしていますが、直情的な同期の伊庭やチームの絶対的エースである石尾との関りの中で彼の世界が動き出し、同時に石尾が引き起こした過去の惨劇の真実が徐々に明らかになっていく、という色々な意味で引き込まれる作品です。石尾は自らのレースでの勝利のために他人を犠牲にする本物の暴君なのか、白石はロードレーサーとしての将来をどう描くのか、など読み応え満点で、巧みな心理描写、レースの場面での緊迫感、ミステリーとしての完成度、いずれを取っても評判通りの傑作でした。読み終わった後、タイトルのサクリファイス=犠牲、という言葉の意味が何重にも折り重なって胸に迫ってくるのが圧巻です。非常にどうでもいい話ですが、本作の出版は2007年、「弱ペダ」のチャンピオンでの連載開始は2008年ですので近藤先生の方に若干先見の明が有ったと言えるかと思います。
◆「エデン」(同):白石がヨーロッパのプロチームに所属して活躍するとの設定で、舞台が自転車レースの最高峰であるツール・ド・フランスということもあり、前作を越えるスケールで、しかもステージレースの醍醐味を堪能できる内容になっており非常にお薦めです。「シークレット・レース」でも主要テーマであったドーピングについてや、ヨーロッパのプロチーム事情に関しても詳述してあり、「サクリファイス」後の近藤先生がされたであろう猛勉強の知識が惜しみなく提供されているので、これを吸収すればそれなりの俄かロードレース通ぐらいにはなれるかと思います(笑)。
◆「サヴァイブ」(同):石尾の過去を中心に展開する全2作の外伝的短編集となっており、より深く本シリーズを楽しむ上では必読の内容となっています。白石もちゃんと登場して「エデン」の後日譚が語られるのも嬉しい。
◆「キアズマ」(同):若干趣が変わり、大学の自転車競技部を舞台にした青春色の強いストーリーです。自転車初心者の正樹がひょんなことから自転車部に入部することとなり、クセの有る先輩達との関りの中でどんどん競技にのめり込んでいく、というスポーツものとしては非常に王道の内容です。ヤンキーで真面目で自転車が速い先輩桜井の複雑なキャラや、重い過去に捉われている正樹の心理を近藤先生らしく丁寧に描いていてさすがだなと思いました。「サクリファイス」シリーズの登場人物としては赤城がちらりと顔を出しています。
◆「スティグマータ」(同):「エデン」の続編という位置づけで、伊庭も日本チャンピオンになった後ヨーロッパのプロチームに所属し白石同様ツール・ド・フランスに挑戦するというわくわくの内容になっています。本作では、ドーピングで資格停止となっていたかつてのスーパースターが突然のレース復帰に秘めた思惑とはいったい何なのか、という謎を中心にストーリーが展開しますが、タイムトライアル、平地、山岳それぞれのステージでの各チームの戦略や、千々に乱れる選手の心理状態、レース中の駆け引きなどの描写は相変わらずの読み応えです。しかし、レース中に自転車に乗りながら談笑したり食事をしたり、また落車した選手を皆で待ったり、チーム毎に集団を引っ張る暗黙のルールがあったり、尊敬されている選手は集団の中でいいポジションが取れる一方嫌われている選手はその逆となる、などルールでがんじがらめになっているという一般的なスポーツのイメージとだいぶかけ離れているのでなかなか新鮮で面白いと思いました。
年末ジャンボも外れてしまい、E美容師に新たなお店を出させてあげるとの約束は空手形と散りました(涙)。
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