最近はちょっとした言葉の行き違いのために恐ろしい炎上に繋がったり、思いもよらぬ揚げ足取りをされたりする怖い時代となっておりますが、とにかく攻撃されるリスクを極力回避することが習い性となった結果、会議や議論の中で若干不適切と思われるフレーズが使われるケースが結構有って気になります。例えば会議の最初に必ずと言っていい程出る「本日はお忙しいところお集まりいただきありがとうございます」には聞く度に猛烈に違和感を覚えます。これがメールの冒頭でよく使われる「いつもお世話になっております」と同様のほぼ無意味な祝詞的な位置づけで使われている場合は百歩譲って良しとしますが、実際にそう思っての発言と見受けられるケースも多く、確かに会議の時間を貴重なものと捉えて生産性の高い議論を効率的に行う意識は大変重要であるものの、参加者はそれぞれが意義や目的を持って会議に出ているケースが殆どであり、主催者が参加者に一方的に感謝をすることがあまりにも強調されるのはちょっと違うのではないかと感じます。
似たようなケースに「ご質問いただきありがとうございます」というのが有りますが、確かに説明をして質問が出ないのは非常に悲しく焦る気持ちにはなるものの、だからと言って全ての質問にやみくもにこのフレーズを返すのは、説明への自信の無さに起因する薄いリアクションへの怯えがだだ漏れ過ぎる印象になるのではないかと考え、極力使わないようにしております。建設的なコメントをいただいた際のリアル感謝の表現として使うべく、大切に取っておきたいフレーズだと思います。ちょっと話はそれますが、「お集まりいただいてありがとう」とへりくだり感謝している主催者が、その舌の根も乾かぬうちに質問に対して「非常にいい質問です」と超上から目線のコメントをするケースも結構多くて面食らいます。確かに質問した際に「いい質問」と言われるのは嬉しいので問題無いような気もしますが、金次郎は「重要なご指摘」や「鋭い質問」の方を意識して使うようにしております。あとは、やたらと「個人的には」を濫発する人も結構おられますが、組織を代表して会議に参加しているという立場を考えると、自らの存在意義を大いに棄損しかねないリスクの高い発言だと思いますし、シンプルに自信が無いことを印象付けてしまい発言価値の低下に直結するのでなるべく使わないようにしています。もっとカジュアルな議論においては、〈個人的意見〉であることは言わずもがなであり、リアルに無意味なので尚更使わないですね。この「個人的~」が枕詞に付くコメントが鋭い意見であることはほぼ無いので余裕で構えておいていいのですが、注意を要するのは「素人発言で恐縮ですが」と言い出す人が登場した場合です。このフレーズの後には、一瞬相手を油断させておいてぐさりと本質を突く鋭い質問やコメントが続くことが多いので、このフレーズが発せられると、質問を受ける立場にいるとかなりの緊張感が走ります。「個人的~」が徹底的にリスク回避的な性格を持つのに対し、「素人的~」の方は明らかに〈玄人〉の水準を意識してのへりくだりである点が発言者のレベルの違いを象徴しているように思います。その他にも細かい点としては、「要するに」とか「要は」を多用する人のコメントは全くまとまっていない傾向が顕著なのは非常に面白いところです(笑)。
さて本の紹介はだいぶ読み進んできた百鬼夜行シリーズ第5弾となる「絡新婦の理」(京極夏彦著 講談社)です。そもそも、〈じょろうぐものことわり〉というタイトルがまともに読めない時点で最初から守勢と言わざるを得ませんが(笑)、京極先生の壮大な構想力に終始押されっ放しのうちにあり得ない分厚さの本を一気に読み終えてしまっているという大変優れた長編ミステリー小説だと思います。房総の旧家織作家と同一族が理事長を勤める聖ベルナール女学院を舞台にした奇怪な事件と、刑事木場が追う〈目潰し魔〉による連続殺人事件が徐々に絡み合いの度を増しながら展開していく流れはいつも通りですが、今回はほぼ全ての登場人物が蜘蛛の巣の中央に潜む絡新婦に操られており、マトリョーシカのように次々と黒幕候補が実は傀儡であったと知らされ続けるどんでん返しの連続は圧巻以外の何物でも有りません。京極堂のうんちくも相変わらず冴えわたっており、キリスト教に仏教、果てはカバラに至る広範な領域をカバーしており凄いの一言でした。メタストーリー的には、釣り堀屋の伊佐間や骨董屋の今川がシリーズを通じての渋い脇役として世界観の通奏低音作りに貢献していますし、次作である「塗仏の宴」に続いていく展開も相変わらず奥行き抜群なのですが、特に本作では冒頭のやり取りで提示された一読しただけでは全く意味が分からない謎が、物語の終盤にかけてどんどん存在感を増してくるので、読み終わらぬうちから早く冒頭を読み直したいという気分にさせられる巧妙に練られたプロットが目を引く内容だったと思います。
「本日は、お日柄もよく」(原田マハ著 徳間書店)は密かに思いを寄せていた幼馴染の結婚式にもやもやした気分で出席していた主人公の二ノ宮こと葉が、あまりにつまらない来賓のスピーチで眠くなりスープの皿に顔面を突っ込むという醜態を晒し笑いを取る場面から始まるお話で、コメディならばちょっと気分と違うなと失望しかけたものの、その披露宴を締めくくる感動のスピーチを行った伝説のスピーチライターである久遠久美の登場で一気に小説世界に引き込まれました。ストーリーとしては久遠のスピーチと言葉の力に魅せられたこと葉が、安定した事務職の仕事を辞める決断をし、最終的には国政選挙にスピーチライターとして携わる中で悩みながらも成長していく姿を描いたお仕事小説です。心に届く言葉で聞く人を感動させるスピーチがテーマということで、日頃プレゼンをすることの多い金次郎にとっては冒頭のスピーチ10か条をはじめとして参考になる部分も多い読み応え十分の内容でした。ただ、主人公が基本的には大きな挫折を経験せず、仕事も恋もかなりご都合主義的に展開する流れなので、エンタメ小説にどこまで求めるかという問題は有りますが、人間の本質に迫る深みという点では今ひとつ物足りず、もう100ページぐらい書き込んで起承転結の転を充実させていればもっと面白いお話になったような気がします。
先日プロ野球のドラフト会議が行われましたが、「スカウト・デイズ」(本城雅人著 講談社)と「スカウト・バトル」(同)は、この年に一度のドラフト会議に向けて、自球団に有望選手をかき集めるのみならず、他球団にババを引かせようと情報戦を仕掛け、時にはルール無用の汚い手練手管を駆使することも厭わないプロ野球スカウトたちの姿をドラマチックに描いた連作短編集です。モデルがいるのかどうか分かりませんが、毎回〈隠し球〉の指名で世間を騒がせる剛腕スカウト堂神の老練なスカウティングを中心に、全く事情を説明されずに意味不明の指示を受け右往左往する新米スカウトの苦悩と成長、同球団のスカウト同士でも手の内を明かさない秘密主義、ドラフト指名されるか否かそして何巡目で指名されるのかに心揺れるアマチュア選手の心情などなどが新聞記者出身の著者の手によりリアルに描かれており大変興味深い内容でした。家族の経済状態や反社会勢力との関係などを細部にわたり調査して相手を出し抜く機会を窺う徹底ぶりや選手にギブスをはめさせて故障を装わせ単独指名を狙う奇抜な戦術など非常に面白かったです。ちなみに同じ著者の「ノーバディノウズ」(同 文藝春秋)は米国球界を舞台にしたミステリーでメジャーリーグの裏側を垣間見た気分になる秀作でした。
先日行きつけのレストランで松茸、ポルチーニ茸、白トリュフなど季節の食材を調子に乗って食べまくったところ当たり前ですがなかなかのお値段となりました(汗)。白トリュフは最近少し下がってきたものの1キロ150万円程度するのだとか。でも、最高に美味しくて楽しかったので大満足でした!
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