金次郎、イラン大統領のヘリコプター墜落事故に思いを馳せる

かつて上野近辺に溢れ、偽造テレホンカードを売りまくっていたイラン人の存在を(そしてテレホンカードそのものも)覚えておられる方も少なくなってきていると思いますが、先日そんなイランのエブラヒム・ライシ現職大統領(第8代)が隣国アゼルバイジャンからの帰路、北西部の山岳地帯でヘリコプターの墜落事故に遭い亡くなってしまうというショッキングなニュースが報じられました。同乗していた外相も同時に亡くなるという国家の一大事であると同時に、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアと鋭く対立しているイランの指導者の死が仮にこれら敵対諸国による謀略の結果であった場合には、ただでさえイスラエルとハマスの間の紛争で緊張している中東地域が全面戦争に突入するという最悪の事態に陥りかねず、その影響をもろに受ける原油市況が金次郎の仕事に深く関係していることからどうにも気になってしまい、その背景を調べると同時に成り行きを固唾を呑んで見守っておりました。

各種報道でも事故の背景が取り沙汰され、降雨や濃霧といった悪天候による視界不良、国内反対勢力による暗殺、イスラエル等国外勢力による暗殺等様々な可能性が挙げられていましたが、女性のスカーフ(ヒジャブ)着用強制に対しての民衆による反政府デモを激しく弾圧したこと等から国民に極めて不人気であり、最高権力者である宗教指導者アリー・ハメネイ師(第3代大統領)に絶対服従の立場で、内外政策に関し最終決定権を持たないライシ氏を排除したとしても国外対立勢力が得られるメリットは少なく、全面戦争に突入するリスクに見合うリターンが無いことから、謀殺でなく不幸な事故という可能性が高いようで不謹慎ではあるものの少し安心いたしました。政治的にはハメネイ師の言いなり、軍事的にはイスラム革命防衛隊の影響下にあり、実権を持たないライシ氏は、一応3年前の自由選挙で大統領に選出されてはいるものの、シーア派(12イマーム派)の宗教指導者12名によって構成される監督評議会が宗教的観点で不適切と思われる人物を立候補者リストから除外できるというイラン独自のシステムを通じ有力対抗馬が排除された出来レース選挙に勝利しただけの、名目的なお飾り大統領であったことが今回調べてよく分かりました。ところが、イラン憲法の規定により公認大統領を選ぶ選挙は50日以内に実行されねばならず(6月28日に実施と発表有り)、準備期間が短いため前回のように保守強硬派が周到に出来レースのシナリオを描き切るのは難しいと思われ、保守派、穏健派、改革派から候補者が乱立する中で現支配者層の想定外の結果となる可能性も否定できず、イランの政治情勢がより不透明になる事態が懸念されます。まして、11月のアメリカ大統領選でよりイランに敵対的なトランプ氏が勝利するような場合には、イランを巡る国際的な対立が更にエスカレートするリスクについても認識しておく必要が有ると考えています。イスラエルと戦争状態にあるハマスを支援しているとされ、イラン国内で強い影響力を維持しているイスラム革命防衛隊は自ら大統領を出してしまうと不振の只中にある経済に対する国民の不満の矢面に立つこととなり、求心力を維持する上でそれは得策でないと考え軍人からは大統領候補を出さない方針とも言われており、このあたりは軍部でありながら猪突猛進という訳ではなく、非常にしたたかなペルシャ人らしさを感じさせられます。他方、ライシ氏は85歳と高齢のハメネイ師の次の宗教指導者の有力候補者2名の一翼でしたが、彼の死により事実上唯一の後継候補となるモジタバ氏はハメネイ師の血のつながった次男で、世襲王家を打倒し革命を成し遂げたイラン・イスラム共和国の最高権力が世襲されるという矛盾を抱えながら国家を主導していくこととなり、これはこれで難しい舵取りであることは間違いなく政情不安定化の一つの要因にもなり得ると思います。しかし、前回のガルクラから一転非常にお堅い話題となってしまいすみません。最後にイランと言えばということでダルビッシュ投手、日米通算200勝おめでとうございます!

さて気分を換えて本の紹介です(笑)。「互換性の王子」(雫井脩介著 水鈴社)は準大手飲料メーカーの二代目御曹司である成功(なりとし)が突然別荘の地下室に監禁され、半年間外部との連絡を絶たれた後ようやく解放されたと思ったら、これまでほぼ没交渉であった異母兄の実行(さねゆき)が突然現れ、事業部長という成功が失踪前に就いていたポジションにまんまと収まっているばかりか、成功が思いを寄せていた意中の人まで奪われそうになっているという悲惨かつ意味不明な状態から物語は始まります。御曹司として神輿に乗せられ周囲から全てお膳立てされた仕事をこなすだけというゆるゆるの会社生活を送ってきた成功が、そんなピンチに一念発起しビジネスの面白さに目覚め、最下層の下積みから巻き返しを図るという内容がややご都合主義的である点は否定しませんが、監禁や異母兄登場の謎もさることながら、飲料業界の営業やマーケティング、新製品開発やプロモーションの詳細が描かれているところは経済小説としても充分面白く、不覚にも一気に読了してしまいました。少しややこしいのですが、成功と実行という異母兄弟だけでなく、競合の大手飲料メーカーの重役として実行の異父弟も登場する展開で、この微妙に血が繋がっているようないないようなの3人がそれぞれ全く似ていないのはどうかと思いつつも、親の世代にまで遡る兄弟達の因縁が大手VS準大手という構図の熾烈な競争の中で絡み合い解きほぐされていく展開には引き込まれるものが有りお薦めです。

「二律背反」(本城雅人著 祥伝社)はプロ野球チームの投手コーチである二見がかつての盟友であり野球界を永久追放された曰く付きの人物でもある檀野の不可解な死の謎に迫るというミステリーなのですが、二見の身体づくりへの拘りや独自の野球理論とコーチ哲学がペナントレースの試合における意思決定プロセスの中で語られていて分かり易く、スポーツエンタメ小説としても出色の出来栄えだと思います。抑え投手を酷使したがる監督との衝突、チーム内での投手と野手との対立、メジャーリーグでの経験から野球賭博まで野球関連のうんちくが詰まっており野球ファンの方はより楽しめるのではと思います。また、著者お得意の新聞記者関係のディテールもふんだんに盛り込まれておりミステリー部分も含めなかなか重層的で読み応えの有る仕上がりになっていると思います。

「キスに煙」(織守きょうや著 文藝春秋)はフィギュアスケート小説でもあり、BL小説でもあり、かつある男の死を巡るサスペンス小説でもあるという策士である織守先生らしい最後まで気の抜けないお話でした。かつてのトップスケーターであり今はデザインの仕事をしている塩澤の、未だ現役王者の地位に君臨しているライバル志藤のスケーターとしての力量への敬意と、自らのセクシャリティやそんな彼に対する恋心をひた隠しにしながら友人関係を続ける中で揺れ動く思いとが、塩澤の内面に踏み込む形でこれでもかと繊細に描かれる一方で、そんなこととは全く気付かずあっけらかんと塩澤への友情や敬意を表現する志藤の無邪気さが好対照をなしていて面白いです。バレエを題材とした小説もそうですが、フィギュアスケートも躍動感や身体の細部を上手く描けないと簡単に駄作になってしまうわけですが、なんとなくどんでん返し重視のミステリー作家という印象であった織守先生の思わぬ表現力の深さとバラエティに僭越ながら感嘆いたしました。勿論サスペンスとしても秀逸で、愛した人が殺人者かもしれないという謎でぐいぐい引っ張られるリーダビリティはさすがでした。

会社の社員証は5年に一度更新されますが、今週写真撮影し更新を済ませてふと定年までに更新があと一回だけという事実に気づき、時間の流れの早さを突き付けられややぞっといたしました。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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