年始早々の1月5日(日)に本屋大賞2025の書店員による1次投票が締め切られ、いよいよ今年の本屋大賞レースが本格化して参りました。ノミネート10作品の発表は2月3日(月)、大賞発表は4月9日(水)というスケジュールですので、これに沿って今年も適宜本屋大賞予想対決企画を本ブログにて発表していきたいと思います。宿敵Mとの対戦成績は昨年までで3勝3敗と拮抗しており、一歩抜け出すべく予想に全力を尽くしたいと思います。今年は話題のChat GPT o1にも参考までに予想をさせ、我々の予想と見比べるという非常に現代的な企画を考えておりますので楽しみにお待ちください!
話は変わりますが、さる1月15日(水)に第172回芥川賞・直木賞が発表となりました。芥川賞は安堂ホセ先生の「DTOPIA」(河出書房新社)と鈴木結生先生の「ゲーテはすべてを言った」(朝日新聞出版)が受賞となり、金次郎イチ推しの乗代先生はまたも受賞ならずで残念でした。一方の直木賞は以下5作の候補作から伊与原新先生の「藍を継ぐ海」(新潮社)が選出されましたが、今回は読書ブログらしく候補作それぞれの感想を書いていきたいと思います。
◆「よむよむかたる」(朝倉かすみ著 文藝春秋)は、小樽の古民家カフェで開催されているメンバーが92歳から78歳というお年寄りだらけの月例読書会をテーマにした読書小説です。ただ、名作に焦点を当て、その内容を切り口にストーリーを展開させる一般的な趣向と異なり、定期的に集まること、声を出して本を読むこと、本の内容のみならず朗読への感想をお互いに言い合うことなど、〈読書会〉という行為の基本に忠実な構成が、田舎のお年寄り達の地味だけれども実直に積み上げられてきた来し方のイメージと重なって何とも言えぬ味わいに繋がっていると感じました。細かいところには拘らず、老人ならではのハードルを乗り越えながら、それぞれに過去や現在の悩みを抱えつつも、さほど長くはないであろう残りの人生の時間を一歩一歩刻んでいく姿勢にじんわりと感動させられます。物語の語り手であり古民家カフェシトロンの店長である松生の過去に関係する謎が少しずつ明らかになる流れも読者を飽きさせぬ工夫になっていて最後までぐいぐい読まされました。
◆「藍を継ぐ海」(伊与原新著 新潮社)は伊与原先生お得意の科学をテーマにした短編集です。そもそも短編集でありながら、西は長崎から北は北海道まで、日本各地を舞台にそれぞれの地域固有の文化、歴史、社会的背景を丁寧に盛り込んで綴られたエピソードからは、いずれも長編を読み終えた後のような長くて深い余韻が得られる満足度の高い一冊になっています。また、時間の流れや社会的な価値観の変化と独立した科学法則という切り口を物語のプロットに組み込むことで、読者に極めて客観的でソリッドな視座を提供する手腕はいつもながら見事としか言いようが有りません。金次郎は自らの閉塞感からの解放をウミガメに託すべく、ウミガメの卵の孵化を試みる徳島の女子中学生が主人公の表題作が好きでした。もう1作挙げるとすると、父親を心配し決死の嘘をつく身重の女性を描いた「星隕つ駅逓」がやや現実感には欠けるものの、隕石のロマンとアイヌ文化の融合が加点ポイントで特にお薦めでした。
◆「飽くなき地景」(荻堂顕著 KADOKAWA)は土地開発と不動産事業で成り上がった烏丸家の嫡男でありやや頼りない青年の治道がロマンチストの祖父を敬慕し、リアリストの父親と対立するものの、年齢と経験を重ねる中で突きつけられる自らの依拠してきた世界観と全く異なる現実を前に苦悩するという、比較的有りがちな構成の物語です。重要なモチーフとして祖父の形見であり烏丸家の守り神とされる刀剣が登場し、この刀を軸にストーリーが展開していく点がユニークではあるものの、やや人間関係の脈絡に唐突感が否めないところと、東京オリンピック(初回)も含めた東京の都市開発の歴史が今ひとつ本筋の展開と相乗効果を生み出せなかった点が減点ポイントだったかと思います。それぞれに特徴的な登場人物達の〈人間〉はかなり生々しく描かれており、群像劇としないのであればもう少し絞り込んだテーマにそれぞれのドラマが収斂するような構成であればもっと没入できたような気がします。荻堂先生は初読でしたが、次回作への期待が高まる筆力でした。
◆「秘色の契り 阿波宝暦明和の変 顛末譚」(木下昌輝著 徳間書店)は、江戸期宝暦・明和年間の徳島蜂須賀藩を舞台に、30万両の借金を抱えた藩財政の再建を企図し藩政改革に乗り出した第10代藩主蜂須賀重喜とその家臣団との軋轢、並びに特産品である藍玉の利権を狙う悪徳商人との抗争を描いた歴史小説です。変わり者だが明晰であった養子藩主重喜の改革案が余りに急進的であったために、藩内改革派と守旧派の対立は勿論、改革派の中でも急進派と漸進派の足並みが揃わず藩政が混迷する様子にはノンフィクション的なリアリティを感じました。一方で、分かり易い二項対立的な図式に収まり切れない複雑な人間関係はともすれば物語への没入感を阻害する要因となり、重喜に加えタイトルに有る〈契〉の当事者である忠兵衛の何れも人間としての魅力が十分とは言えない中では、熱量不足のまま読み進めざるを得ず若干マイナス要因だったかと思います。嫌な奴ですが、世事に長けグローバルな視点を有する悪徳商人の金蔵の方が魅力は上で、どうしても領国の枠を越えられない18世紀の典型的な日本人である徳島藩士達との対比はなかなかに興味深かったです。本筋とは関係無いのですが、足利将軍家の子孫が平島公方として阿波藩に領地を与えられており、百姓上がりの秀吉の子分であった蜂須賀家を何かと下に見る旧弊な姿勢にはまた別の味わいが有りました。この家は次第に窮迫し、明治期に新華族にもなれず、最終的には帰農したという史実を読後調べて知り、歴史好きとしては非常に感慨深かったです。
◆「虚の伽藍」(月村了衛著 新潮社)は仏教の一大宗派での権力争いを軸に、古都京都の利権に群がる不動産開発業者、暴力団、闇社会のフィクサー、市役所職員などの魑魅魍魎達が繰り広げるどろどろの抗争劇を描いた重厚な社会派小説です。人々を救済するという信念の下、大義のためには些事には構わないの理屈で、悪事に手を染めどんどん黒く染まってゆく主人公の僧侶・志方凌玄のキャラが、脇役達の大いなるあくの強さにより完全に食われてしまっていたのが減点材料で惜しかったと思います。出自も弱く僧侶としての能力も抜群ではない凌玄が悪への染まり具合を増していくという一点突破で出世の道を駆け上がる展開にはやや感情移入しにくく、社会派とエンタメのバランスは難しいところではありますが、もう少し彼に卓越した何かを与えた方が読者としては読み易かったと思います。ただ金次郎としては、仏教も京都もどろどろの抗争も利権に絡む暴力団やフィクサーの暗躍も好きなジャンルではありますので(笑)、事前の予想としては本作推しで見事に外す結果となりました(汗)。いよいよ迫ってきた本屋大賞予想対決に向け不安が残る前哨戦結果となりました。
非常に軽い気持ちの思い付きで大腸内視鏡検査を受けたのですが、厳しい食事制限と当日の大量の下剤水飲用がなかなかに辛く後悔いたしました(涙)。とりあえず全く問題無しとの結果に満足することといたします。
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