前回のブログに妻のことを少し書きましたが、読んでいただいた皆さんからたくさんの有用な情報をいただきました。お心遣いに大変感謝しております。どうもありがとうございました。できるだけ早くポジティブなご報告ができるよう夫婦二人で治療を頑張って参ります。
さて、海外の作品を読もうとして候補作の紹介文を眺めていると、○○賞受賞!という記載をよく目にします。そういった賞がたくさんあって何が何だか分からなくなりがちなので、思い立ってここで軽く整理してみたいと思います。(日本の文学賞についての説明はこちらで)
ノーベル文学賞は作品でなく作家に贈られるため奥が深すぎてここでの説明から除外しますが(苦笑)、その他の賞で最も目にする機会が多い印象なのはやはりブッカー賞でしょうか。イギリス連邦+アメリカの作家による長編小説が対象となるこの賞は厳正な審査が有名で様々な分野から選出された選考委員が多数のロングリスト作品を全部読んで、ショートリストした6作品の中から最終的に受賞作を選ぶ流れとなっているようです。賞金は5万ポンドとなかなか高額で、優れた作品を選ぶというコンセプトから芥川賞や直木賞と違って複数回受賞する作家も存在しています。金次郎は少なくとも以下の受賞作を読んでおり、いずれ劣らぬ面白い作品ばかりですので今後もこの賞は信頼して翻訳が出たらなるべく早めに読みたいと思います。
「日の名残り」(カズオ・イシグロ著 中央公論新社)1989年/「昏き目の暗殺者」(マーガレット・アトウッド著 早川書房)2000年/「パイの物語」(ヤン・マーテル著 竹書房)2002年/「グローバリズム出づる処の殺人者より」(アラヴィンド・アディガ著 文芸春秋)2008年/「七つの殺人に関する簡潔な記録」(マーロン・ジェームス著 早川書房)2015年(本ブログで紹介済み)
珍しいところを簡単に紹介しますと、「パイの物語」は本賞を取ったからか映画化もされています。16歳のインド人少年ピシル・モリトール・パテルが3歳のベンガルトラと7か月以上太平洋を漂流するという奇想天外なストーリーで、何と言っても狭いボートの上でのトラとの共生が生み出す極限の緊張状態がこれまでのサバイバル小説と一線を画していて新鮮です。漂流は第二部で描かれているのですが、一見意味の無さそうな第一部の内容が後になって非常に重要になってくる構造はなかなか手が込んでおり、クライマックスの第三部では人間性の限界が見事に描かれています。
「グローバリズム出づる処の殺人者より」はインド社会の現実と闇を、なんともリアルに描き出している秀作です。語り手の、淡々と皮肉っぽく悟ったような語り口が究極の格差社会の壮絶さを際立たせていて本賞受賞も納得です。気持ち悪いところも有りますが、読み始めたら止まりません。とある人がインド出張中に肥溜めに落ちたという話を思い出してぞっとしました(笑)。
このブッカー賞がお手本にしたというか、真似をしたとされるのがフランスのコンクール賞でフランスの作家による独創的な小説に贈られる賞です。こちらは賞金が10ユーロというのが笑えます。金次郎は、「地図と領土」(ミシェル・ウェルベック著 筑摩書房)2010年(本ブログで紹介済み)、「天国でまた会おう」(ピエール・ルメートル著 早川書房)2013年、を読んでおり、どちらも独特の雰囲気の有る作品で印象に残っておりました。「天国で~」は戦争で下顎を失った悲しい男の物語です。
この他にもよく話題になるのはアメリカの報道、写真、小説、音楽など21部門で選出されるピューリッツァー賞かと思います。色々なメディアでこの賞のことを目にする機会が多いのはやはり21部門も有って濫発されているからでしょうか(笑)。電気屋さんなどでよく見かけるグッドデザイン賞が応募数の約30%に授与されるというのを少し思い出しました。ピューリッツァー賞のフィクション部門にはあまり縁が無く、調べた最近の作品では「地下鉄道」(コルソン・ホワイトヘッド著)2017年(本ブログで紹介済み)しか読んでおりませんでした。一方、ノンフィクション部門にはなかなか興味深い作品が多く、「石油の世紀」(ダニエル・ヤーギン著 日本放送出版協会 上・下)1992年(本ブログで紹介済み)、「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド著 草思社 上・下)1998年、「病の皇帝〈ガン〉に挑む 人類4000年の苦闘」(シッダールタ・ムカジー著 早川書房 上・下)2011年(本ブログで紹介済み)、「一四一七年、その一冊がすべてを変えた」(スティーブン・グリーブラッド著 柏書房)2012年と読んでおりました。中でも「一四一七年~」は、馴染みの無い年号が気になって読んだだけだったのですが、古代ローマの詩人ルクレティウスによって紀元前に著され、1000年の行方不明期間を経てブックハンターによってドイツの修道院でたまたま〈発見〉された「物の本質について」が世界に与えた影響を描くという笑えるほど壮大な内容でした。この〈発見〉がその後に起きる宗教改革、ルネッサンス、自然科学の進歩と深く結びついていたと知って、歴史の運命的なつながりはやはり奥が深いと思いました。トマス・ジェファーソンも愛読していたようで、独立宣言の〈幸福の追求を支援~〉の部分はこの本の影響だそうです。
ちょっと力尽きましたので、詳細の紹介は省きますが、この他にもミステリー関連でイギリスCWA(Crime writers’ Association)が優れた犯罪小説に送っているゴールド・ダガー賞というのが有ります。ただ、これはイギリスの作品に限定されていて翻訳されている(あるいは金次郎が読んでいる)ものはそんなに多くはありません。一方、インターナショナル・ダガー賞は英語に翻訳された海外の犯罪小説に贈られる賞で、何故だかこちらは結構読んだことの有る本が多く受賞していました。ピエール・ルメートル先生のカミーユ・ベルーベン警部シリーズも受賞作品ですね。「その女アレックス」(文芸春秋)のネズミの描写は本当に怖かったです。横山秀夫先生の「64」、東野圭吾先生の「新参者」も候補作品としてノミネートされていたことを今回知って、なるほどと思う一方、なぜこれらの作品が特別に選ばれたのだろうと不思議にもなりました。
一応日本の作品も紹介しておきます。「廃遊園地の殺人」(斜線堂由紀著 実業之日本社)はミステリー界で大注目の著者による新感覚本格ミステリーです。ある事件がきっかけでオープン前に廃園となった遊園地に集められた腹に一物を抱えた面々が巻き込まれる事件の謎と20年前の悲劇の真実を、廃墟マニアのコンビニ店員である主人公が解き明かすという構成で、トリックも凝っており、重層的な種明かしもすっきりしていて、なかなかの読み応えでした。主人公が自分の行動を全てコンビニバイトあるあるで説明しようとするくだりが結構笑えました。
「革命前夜」(須賀しのぶ著 文芸春秋)では、冷戦下で密告が横行する東独ドレスデンの抑圧された雰囲気の中、自分自身そして自分の音を掴みきれずもがく音楽留学生真山が見た、国家に支配されることへの諦念と自由への渇望のせめぎ合いがバッハをはじめとする重厚な音楽の調べと共に情緒的に描かれます。終盤のまさに革命前夜の狂騒と、真山が友であり敵でもある二人の天才の心の奥底に垣間見た語られぬ苦悩との対比が非常に印象的な作品でした。若干暗いですがお薦めです。
たまには仕事関連ということで紹介いただいた「株式会社規範のコペルニクス的転回」(コリン・メイヤー著 東洋経済新報社)を読んでおりますが、果たしてこのブログで内容を説明できるか不安です。。。
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