今年8月に88歳で亡くなったノーベル賞作家トニ・モリスンを偲ぶ

ちなみにこのブログは書き溜めた感想メモを基に書いているものも多く、短期間でこの量を読んでいるわけではありません。念のため。

黒人差別問題に正面から取り組んだ偉大な作家の作品をこの機会に読んでみようと思い立って挑戦してはみたものの、読解力と社会的文化的背景の認識不足により、以下のような薄い感想となってしまいました。まだまだ修行が足りません。

第三長編「ソロモンの歌」(早川書房)は北部の金持ち黒人の家に生まれ、社会のどこにも自分の土台を見出せずにいる、ミルクマンという仇名通りの甘ちゃん主人公が、自らのルーツを辿る旅の果てに、漸く自我に目覚め、様々なことを理解し受け入れる、という悲しいけれど成長物語です。こちらは’死’をテーマにした構成になっていますが、一方で、第五長編「ビラブド(愛されし者)」(ハヤカワepi文庫)では南北戦争前後の悲惨な黒人奴隷の運命を中心に物語が展開するものの、こちらのテーマは’生’や’自由’そして’愛’とポジティブ側に寄っています。奴隷解放という時代的、南部と北部という地域的な境界の世界で、生者と死者の世界を分ける124番地を舞台に語られる登場人物の過去は過酷ですが、それが故に小さな自由への希望と、未来を夢見て愛する自由への喜びが強く感じられる内容になっていてこっちの方が好きでした。 第六長編の「ジャズ」(早川書房)に至っては、ノーベル賞受賞後の作品ということもあり、かなり凝った難解な内容で正直ちょっと分かりにくかったです。解説を読むと’喪失と回復’の物語のようなのですが、愛人の殺害、遺体の損傷、に込められた登場人物の心の傷という作者の意図を理解するに至らず、ジャズ音楽についても勉強した上で再挑戦と読み直しリスト入り。

トニ・モリスンとは関係無いですが、読みやすい黒人差別関連ということで紹介すると、2017年のピューリッツァー賞、オバマ前大統領の推薦図書でもある「地下鉄道」(コラソン・ホワイトヘッド著 早川書房)は虐げられる南部黒人の悲惨な生活と黒人奴隷の北部自由州への逃亡を助ける秘密結社’地下鉄道’の活動を描いた小説です。奴隷制廃止を掲げつつ心底に差別感情を残すサウスカロライナの 偽善、自由黒人と遅れてきたアイルランド系などの移民との微妙な確執も印象的でしたが、葛藤し怯えながらも命を賭けて逃亡を助けた鉄道の人々の志は心に刺さります。地下を走る鉄道というのは比喩なのですが、どこに続いているか分からない真っ暗な道を逃げ続ける逃亡奴隷の心情をよく表現していると思います。

私も含め大多数の日本人はこういう根っこのところをよく理解していないし、理解する努力のやり方がよく分からないので、未だ根深いアメリカでの人種間対立を現実感を持って捉えることが苦手ですね。私も読書を通じてもう少し世界のあれこれを知りたいと思います。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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