【アフター4読書恒例企画】本屋大賞2024予想対決の結果を発表!

今週4月10日(水)に発表となった記念すべき第20回の本屋大賞2024ですが、今年の大賞は「成瀬は天下を取りにいく」(宮島未奈著 新潮社)が525.5点の高得点で戴冠となり、昨年の凪良先生の2度目の受賞から一転、宮島先生がデビュー作での受賞という非常にフレッシュな結果となりました。

宿敵Mは事前の書店巡りも奏功したのか見事に大賞を的中させた一方、これまで大賞はおろかノミネートさえほぼされてこなかったラノベ風の佇まいと成瀬のおっさんキャラにどうしても心が動かなかった金次郎は3位と予想し大きな勝負の分かれ目となりました。様々なメディアからの発信に右往左往させられ、炎上や集団からの孤立に怯えて暮らす現代人にとって、読むべき空気の存在すら意に介さずぶれずに信じた道を進む成瀬の姿が心のオアシスとなり支持を集めたものと整理いたしました。続編の「成瀬は信じた道をいく」も同様に成瀬の存在が巷に溢れる狭量さを駆逐していく内容であり、このチャンスに2作まとめて売りまくるぞとの書店員の皆さんのハングリー精神を再認識させられると同時に、金次郎と書店員の間に横たわる深い溝を実感し、来年以降の勝負にやや不安を感じ始めております(汗)。色々と負け惜しみを書きましたが、宮島先生おめでとうございます!惜しくも411点で2位となったのは金次郎が大賞に推した「水車小屋のネネ」(津村記久子著 毎日新聞出版)で、読み終えてだいぶ経ちますが未だにネネの可愛らしい姿が思い出される癒され感抜群の作品で当然の上位進出であったと思います。改めて動物系候補作の賞レースでの強さを実感すると共に、やや冗長とけなしながらもしぶとく3位に予想しここで傷を負わなかったMのしたたかな戦略は敵ながら天晴でした。本作は津村先生が手掛けられた初の長編であり、僭越ながら作風的にも一皮むけた印象ですので、次回は更なる高みを目指す意欲作を期待したいと思います。3位には金次郎もMも7位と高い評価をしなかった「存在のすべてを」(塩田武士著 朝日新聞出版)が403点を獲得して食い込みやや意外な結果となりました。今更ですが後知恵的に振り返ると、唯一のサスペンスであった点は充分支持を集めるに足る要因であったと痛惜の念を禁じえません。この作品の一つのモチーフとなっている「月と六ペンス」(ウィリアム・サマセット・モーム著 光文社)を読んでみて、創作への衝動にかられ全てを擲って絵を描き続けるチャールズ・ストリックランドの掴みどころの無い姿と〈人間はその存在のすべてを他人(の認識)に負っている〉という一文に触れ、あらゆる視点から対象の存在すべてを描き出そうとする写実絵画の奥深さという本作のテーマと重ね合わせ、もう少し上の順位にしておけば良かったと思ったのも後の祭りでした(笑)。さて、金次郎と宿敵Mによる順位予想対決の行方はというと、二人とも予想の方向はほぼ外しておらず、注目された「レーエンデ国物語」と「リカバリー・カバヒコ」の対決も概ね痛み分けの結果となりかなり僅差の戦いとなりましたが、今回は大賞を的中させたMが接戦を制し対戦成績を3勝3敗の五分に戻しました。金次郎が120点だったのに対しMは107点と、昨年の106点vs110点に続き本当に微妙な戦いで(点数が少ない方が勝ち、点数計算ルールは本記事の最後に記載しています)、ちなみに1位と2位が逆だったと仮定すると、結果は100点vs127点で金次郎の勝利となるところでした(涙)。勝負にたらればは禁物ですので、今回は潔く負けを認め、お互い予想の精度が上がる中で更に厳しい戦いとなることが想定される次回にしっかり備えていこうと思います。以下Mの勝利の弁並びに4位以降の結果です。

【Mの勝利の弁】

今年もまた接戦でした(大汗)。 大賞を当てたことを素直に喜びつつも、『黄色い家』『存在のすべてを』は割と外していますので、これらを金次郎先輩と同順位にしていたことが不幸中の幸いでした。あとは懸案の青山美智子『リカバリー・カバヒコ』、これはある意味自分の好き嫌いを捨てて勝負に出て結果負けたわけですが、致命傷にならずに済んで良かったといったところでしょうか。いずれにせよ年350冊読了の金次郎先輩に勝ったことは事実で(ドヤ顔)、通算成績を3勝3敗と振り出しに戻しましたので来年はスコア100点切りを目指しつつこの勢いで連勝と行きたいと思います。

4位(金6、M5)「スピノザの診察室」(夏川草介著 水鈴社)340点:やはり「神様のカルテ」の二番煎じ感は否めないものの、思えば「神様~」が出てからもう15年も経過しており時効と言えば時効で逆に目新しいのかもという可能性は盲点であったと反省しました。また、雄町の過去や多様な登場人物達に纏わるエピソードなど無限に物語世界が広がる本作の可能性を考慮すると、シリーズ化やマルチメディア展開が書店員として最も美味しい流れであるという商業主義の現実の前では極めて妥当な結果であったと言わざるを得ません。「神様~」の榛名と比較してヒロインがやや弱いのが今後の課題でしょうか。

5位(金4、M8)「レーエンデ国物語」(多崎礼著 講談社)263点:金次郎としては既に続編が3冊も出ており、小野不由美先生の「十二国記」シリーズの後釜と期待する書店員のスケベ心を意識しつつ上位に推したわけですが、如何せん登場人物のキャラクターがオリジナリティとしなやかさに欠ける点はやはりマイナス要因となり、やや伸び悩んで中途半端な結果となりました。続編の「レーエンデ国物語 月と太陽」(同)を読んでみて、上述の課題が手つかずのまま残っている状態を再確認し、この点にもう少し早く気付けていれば書店員の期待度も勘案できたのにとこちらも後の祭りの反省でした。シリーズ化され続編が出ている作品については全て読破した上で全体のポテンシャルを見極めて予想に反映すべしというのが次回への教訓となりました。

6位(金2、M2)「黄色い家」(川上未映子著 中央公論新社)258.5点:ブランチBOOK大賞受賞作は上位に入るとのジンクスを破るまさかの6位という結果になってしまいました。「成瀬~」的な軽めの作品が好まれる(と書店員に認識されている)消費者志向の中にあっては、名作「夏物語」がかつて7位に沈み、本作も今ひとつ振るわなかった事実が示す通り、社会で光の当たらぬ陰の部分から目をそらさず全てを掬い取って描き切る川上先生の重厚な作風と本屋大賞の相性が悪いという、考えてみると至極当然の結果だったようにも思います。今回は残念な順位となりましたが、本作の文学としての価値は1ミリも減じるものではなく、自信を持っておすすめできる、じっくりと読んでいただきたい作品であったと胸を張りたいです。

7位(金9、M4)「リカバリー・カバヒコ」(青山美智子著 光文社)227点:金次郎の町田カーブ予想はほぼ的中し、ここ数年の本屋大賞で着実に右肩下がりの結果となっている青山作品ではありますが、世界中で光の当たる場所と影になる場所の濃淡のギャップがより顕著となり社会の歪みが加速する時代にあって、同じところに立ち止まって似たような作品を出し続けながら一定の評価を継続的に得るというのは、ある意味凄いことなのではと一周回って考えたりもいたしました。願わくは次回もぶれない作品でノミネートされ、Mの予想を惑わせる撹乱要因になっていただければと思います(笑)。

8位(金5、M6)「星を編む」(凪良ゆう著 講談社)172点:確かに北原先生の過去には興味が有りましたし、登場人物達のその後も教えてくれるというなら勿論知りたいところではあったのですが、やはり前作「汝、星のごとく」が偉大過ぎたために、どうしても読みながら頭に浮かんでくる〈蛇足〉という印象を払拭するに至らず予想は外しましたが納得の結果だったと思います。X上で一時体調を崩されているというポストを見ましたが、凪良先生には先ずは元気になっていただき、新たな驚きと感動を与えてくれるフレッシュな新作を世に出していただくことを祈念しております。

9位(金8、M10)「放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件」(知念実希人著 ライツ社)148点:Mに採点不能と切って捨てられた本作も、ある意味堂々の148点獲得で書店員の中にももっとミステリーファンのすそ野を広げたいとの野望を持つ層が一定数いることが確認された結果だったと思います。最高傑作「硝子の塔の殺人」でも8位と上位進出がならず、本賞に対してはやや燃え尽き感の有る知念先生ですが、医師として今ここに存在している社会の危機や課題に直接向き合っているポジショニングを活かした重厚で読み応えの有る次回作に期待したいと思います。

10位(金10、M9)「君が手にするはずだった黄金について」(小川哲著 新潮社)131.5点:小川先生の卓越した知性はそんな賢者に憧れるインテリ層には深く刺さる一方で、純粋に読書を楽しみたいボリュームゾーンの読者からは瞬く間に意味不明のレッテルを貼られてしまう、才能を持つ者しか背負うことのできない十字架なのだと思います。正直、金次郎としては本屋大賞での上位を狙った結果として見るべき所の無い作品を出されるよりは、もっともっと意味不明の方向に迷わず突き進んでいただきたいと強く願っており、それを支えるべく面白い作品なら、いや面白くなくとも、何冊も買って知り合いに配るくらいの腹は括りました(笑)。

今年も独断と偏見のみならず自己満足に溢れ返った我々の対決に最後までお付き合いいただき誠に有難うございました!次回も頑張ります。

(*)順位予想対決ルール:作品の予想順位と実際の順位の差の絶対値に(11-順位)を懸け合わせたものを合計し、合計点が少ない方が勝者。具体例を挙げると、5位となった「レーエンデ国物語」は金次郎が4位と予想したので|5-4|X6=6、一方Mは8位としており|5-8|X6=18となる。6位の「黄色い家」はどちらも2位としたので|6-2|X5=20となる。これを全作品について計算し合計得点が少ない方が勝者。特に上位予想の外れ度合いが小さいことが重要。このルールでの最高点は0点(大賞から10位まで全部当てるケース)、最低点は298点となる。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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