〈軟禁生活〉を軽やかにやり過ごす「モスクワの伯爵」に感銘を受ける

以前このブログで紹介しました趣味がマラソンの友人はシンガポール在住で、「人権より検疫」、「自粛しないと粛清」のお国柄の下、軟禁生活にストレスを溜めている模様です。(関連はこちら→ダイヤモンドプリンセスは呪われているのか?

日本もそこまでは厳しくないものの、それなりに不自由を強いられ、やりたいことが存分にできない環境ですので、ある意味軟禁に近い状態とも言えると思います。

そこで、世界中でマラソンレースも中止となっていて活躍の場が無く可哀そうなランナー友人(しかもありがたくもご夫婦でこのブログを読んでくれている)にエールを送る意味も込め、フィクションではあるものの、気の遠くなるような〈軟禁生活〉を大らかに、明るく、そして前向きに過ごした元ロシア貴族を描いた小説をご紹介します。

「モスクワの伯爵」(エイモア・トールズ著 早川書房)では、貴族の身分で名門ホテルであるメトロポールの最高級スイートの宿泊客であったアレキサンドル・ロストフ伯爵が、革命後に堕落した階級としてそのホテルの屋根裏部屋に押し込められ、32年にわたって軟禁生活を送るストーリーになっています。

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金次郎、懲りずに文学少女に本を紹介+楡周平作品を読む

依然としてアベノマスクが届かない我が家では、SHARPがマスクの製造・販売を始めたことが話題になり、妻が獲得競争に参戦の意を示しましたので、「SHARPのマスクは液晶でできてるらしいよ。」と言ってみたところ、「え?!かっこいい!」と真に受けられ、SHARPマスクが買えてしまう事態を恐れおののく毎日です。あ、これ読まれたらバレますね(笑)。

さて、折角の新中学生だったのに休講となり可哀そうな我が弟子文学少女ABさんに、少しでもヒマつぶしになればとまたもやおすすめの本を紹介させて頂きます。読むペースがとても速いので、紹介できる本のストックが減ってきているのは気になりますが、今回はちょっと多めの7冊です!このところ共にお世話になっているE美容師のところにも行けておらず、金次郎は髪の毛ボサボサの金田一的な感じになりつつあります。。。

(これまでの紹介記事はこちら)

金次郎、本の紹介を頼まれてないけどまた紹介+直木賞作「熱源」を読了!

金次郎、本の紹介を頼まれる+2019年4~5月振り返り

【文学少女ABさんへのおすすめ本7選】

「しゃべれどもしゃべれども」(佐藤多佳子著 新潮社)

感動作品の大家である佐藤先生による、不器用・頑固・意地っぱりと、どうにもこじらせて上手く行かなさそうな登場人物たちの何とも言えないハーモニーがぐっと来る名作です。ABさんもこれから色々悩むことも有ると思いますが、そういう時に思い出して手に取って読み返して欲しい作品です。

「夏の庭 The friends」(湯本香樹実著 徳間書店)

感動小説ランキングに常に入る名作なので既読かもしれませんが、大人が読んでも考えさせられる少年たちの成長物語です。〈身近な人の死〉に接し、それを受け入れて、なんとか消化し乗り越えて行く過程で変わってゆく少年たちの姿を通して、おぼろげにでも人生の意義について思いを馳せてもらえたら、という余りにもおじさん臭い推薦文ですみません(笑)。

「さよならドビュッシー」(中山七里著 宝島社)

前回紹介した中で「カラスの親指」が一番面白かったという程のミステリー好きで、しかもピアノもやっているということなので、それならこの作品しか無かろう、と自信を持っておすすめします。名探偵かつ名ピアニストである岬洋介シリーズは何冊か出ているので、興味が湧けばそれらも読まれるといいですね。

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アメリカで500万部売れた「ザリガニの鳴くところ」を読む

コロナで家にこもる毎日が続いており、さぞやオンライン英会話のニーズが増えて懐が潤っているだろうと思い、授業中に先生に聞いてみたところ、「私もそう思っていたんだけど、生徒以上に先生が増えてるみたいで授業の予約が減っている。」と言われてしまい、なるほど&悲しい気持ちになりました。

同じくコロナも影響して昨晩WTI原油価格がマイナス圏に突入し、世界のマーケットを騒然とさせたアメリカですが、駐在経験の有る会社の先輩が、アメリカでは日本にいると想像もできないようなことがたびたび起こる、と言っていたことを改めて思い出しました。恐るべしアメリカ、ということで、取って付けたような感じとなりましたが、本日はアメリカが舞台の小説をご紹介です。

先ずは、会社の同僚に薦められて読んだ「ザリガニの鳴くところ」(ディーリア・オーエンズ著 早川書房)です。

〈ザリガニの鳴くところ〉というのは人が足を踏み入れない原生的な湿地のことをそう呼ぶとのことで、 まさに、1952年から1969年のノースカロライナ州のそんな場所を舞台に、わずか6歳の〈湿地の少女〉カイアが、偏見や差別、そして孤独と必死に折り合いを付けるサバイバルの中で、〈孤高のヒロイン〉へと成長する生き様を描いた、全米500万部のベストセラー小説です。

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「興亡の世界史」シリーズ(全21巻)を遂に読了~後編

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(ブレイディ・ミカコ著 新潮社)は今とても売れている、と言うか売れ続けているノンフィクション作品ですが、とにかく本書の主役である中学生の息子くんが最高なのです。

アイデンティティの定まらない、東洋系で時には差別の対象にもなりかねないいたいけな中学生が、日本とは比較にならない多種多様な人種や階層、価値観のるつぼであるイギリス社会で、勿論本人なりには悩んでいるのだとは思うものの、我々大人が分別くさく難しい顔で理屈をこねながら、我が身やその言動を縛ると嘆いてみせるしがらみの数々を、 いとも簡単に、屈託無く、素知らぬ様子で軽やかに飛び越えて見せる姿に、 本当に胸のすく思いがする、そして我々が暗いと思い込んでいる世界の未来に希望を持たせてくれる本です。

自分の子供の頃を振り返ると、現代イギリスほどでは無いものの、当時の小中学校には確かに色々なバックグラウンドの子供たちが通っており、勿論そんな背景は気にせず日々の生活を送っていたわけですが、そういう違いに少年金次郎がただの無知だったのに対し、この息子くんはかなり分かっている、分かっているのにひょいと前に進んでいるところが本当にすごいと思います。

著者ミカコさんは金次郎と同じ福岡出身で年代も近いので、なんとなくギャップへの戸惑いというか驚きに共感するところ大ですが、 そのポジティブな驚きが成長する息子くんの姿への〈母ちゃん〉のなんとも言えない眼差しを通じて描かれている本作は、さすが売れているだけのことはある面白さでおすすめです。

そして、前回に引き続き、「興亡の世界史」シリーズ読破記念として、以下11~20巻の感想です。 (00~10巻の感想はこちらです→「興亡の世界史」シリーズ(全21巻)を遂に読了~前編

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「興亡の世界史」シリーズ(全21巻)を遂に読了~前編

緊急事態宣言下の東京で引きこもりの生活が続いておりますが、 おかげさまで今のところ夫婦共々元気に過ごしております。コロナになると嗅覚異常が出るとのことで、二人してやたらと色々なもののニオイを嗅ぎまくるというおかしなことにはなっておりますが(笑)。

2006年にシンガポールから帰国した際、海外での食道楽と運動不足生活がたたり大きく体重を増やしていた金次郎は、妻の友人の推薦すすめで「踏み台昇降運動」(通称フミショー)によるダイエットを始めました。

フミショーは床に置いた踏み台の昇り降りを40分前後繰り返すだけの単調な運動なのですが、これが存外有効で、体重は渡星前のレベルに戻り、その後もフミショーを継続しているおかげで、それなりに不摂生もしてきましたが標準体重を維持できている状況です。

フミショーにはインナーマッスルが刺激できるとか、太腿の筋肉がついて代謝が上がるとか、科学的にも色々と利点は有ると言われているそうなのですが、金次郎が特に気に入っているのは以下のポイントです。

●思い立ったらすぐできる

ダイエットで最も重要なことの一つは継続することで、それがなかなか難しいのが人情というものですが、 フミショーは運動することのハードルが極めて低い、すなわちやりたい時にすぐできる、特別な準備やジムに行く等のプロセスが不要、 ということで継続が容易という特徴が有り優れものです。外が暑かろうが、雨が降っていようが関係無く年中いつでも簡単にできるのもいいですね。

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金次郎と宿敵Mによる本屋大賞2020予想対決、結果発表!

本日14時より待ちに待った本屋大賞2020の発表があり、金次郎もMも仲良く〈イマイち〉として9位に予想した「流浪の月」が大賞に選ばれました(苦笑)。

昨年は揃って大賞を当てたのに今年は大外し、〈この本を全国の読者に届けたい〉という気持ちがかなり足りていなかったと反省するのも何か変なので、まぁいいか。

さて、予想対決の結果ですが、、、

マイナス196点 VS マイナス142点の大差でMの圧勝となりました(涙)。

お互い1位に予想した作品は下位に沈み互角だったものの、 金次郎は「店長が~」と「ノース~」の外れのダメージが大きく、全体に手堅くまとめたMに軍配が上がる結果となりました。「ノース~」を譲位に、「店長が~」はきちんと下位に予想していて当たっています。 悔しいですが、コロナが落ち着いたところで〈金の栞〉を進呈させて頂くこととします。来年は負けません。

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コロナの時代にカミュの「ペスト」とデフォーの「ペストの記憶」を読む

毎日コロナ一色ですが、昔の人は疫病の蔓延にどう対処したのかなと思い、最近売れていると噂の1947年に出版された「ペスト」(アルベール・カミュ著 新潮社)と、1720年出版の「ペストの記憶」(ダニエル・デフォー著 研究社)を読んでみることにしました。

「ペスト」は、仏領アルジェリアのゴラン市を舞台に、 突然ふりかかったペストの災厄の凄まじさと、 その猛威に立ち向かう人々の姿を描いた実存主義小説ですが、 極度な楽観主義、現実を直視しない姿勢、形式主義のお役所が後手後手に回る様子など、 前半に記されている内容はまさに我々がここ数週間で経験した事象であり、 時代も病気も違うので物語中盤から後半にかけて描写される、為す術の無い感染の蔓延が実際に起こるとは思いたくないものの、 何とも不安にさせられます。

アルコール消毒と言いつつ酒を飲んだり、 誰彼構わず抱き着いて病気をうつそうとしたり、 自分だけは大丈夫だから感染しないと思い込んでいる人がいたり、 とこの辺の感じは現在とあまり変わらないですね。

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金次郎と宿敵Mによる本屋大賞2020予想対決!

いよいよ金次郎と宿敵Mとの本屋大賞予想対決の時がやって参りました!今日は余計なことは書かず、それぞれの総評、順位予想と一言コメントを紹介させて頂きます。

4月7日(火)に公式順位が発表される予定となっており、予め合意したルールに従って点数を計算、決着を付けることになります。 (詳細は→本屋大賞2020ノミネート作品発表!)

本を背負って本を読みながら本の山を積み上げる金次郎が勝つのか、老獪な言葉の魔術師Mがその感性の冴えを見せつけるのか、結果が待ち遠しいところです。

金次郎

【総評】

上位6作はすんなり選べたのですが、いずれ劣らぬ秀作揃いでそこからの順位付けに悩みに悩みました。結果、一番心に深く刺さったという基準で大賞は「夏物語」、当てに行く気持ちを少し忘れて、こんな時だから明るくなれる「店長が」を次点に推しました。多くの人に受け入れられるエンタメ作品として「線は、」は外せず第3位です。直木賞でスケールの大きさが売りの「熱源」は逆に壮大過ぎて理解が追い付かないかもと第4位、「ライオン」は素晴らしいが新井賞作は上位に来ないジンクスを信じ勝負に徹して第5位にしました。ミステリーは本屋大賞に弱い実績から「Medium」は泣く泣く第6位とさせて頂いております。

【順位予想】

本屋大賞:「夏物語」(川上未映子著 文藝春秋)

静かな社会現象である非配偶者人工授精を切り口に、生まれてくることを自ら選択できない子供の完全な受動性というある意味究極の理不尽に光を当てた本作は、家族の在り方を世に問う社会派小説であると共に、そもそも不条理な人生に苦悩しつつも立ち向かう覚悟の美しさに気付かせてくれる感動と導きの書でもあります。

第2位:「店長がバカすぎて」(早見和真著 角川春樹事務所)

バカという名の理不尽に振り回され、怒り、悩み、焦り、疲れ果て自分を見失いながらも、仕事に真摯に向き合い続ける苦境の契約社員書店員谷原さんがなんともチャーミングな本作は、同時にノミネート作中随一の笑える作品でもあります。そして、自分の部署には無理だけど、隣の部署にはいて欲しい山本店長は本当にバカで最高です。

第3位:「線は、僕を描く」(砥上裕將著 講談社)

老師に才能を見出される若者の成長を描くという少年漫画プロットの本作が、普通のエンタメ作品と一線を画す高みにあるのは、描かれなかったものと何も描かれていない余白にその本質を見出すという、奥深い水墨画の世界を、その世界に身を置く芸術家である著者の感性で鮮やかに疑似体験させてもらえるからだと思います。

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