「わたしの名は紅」(オルハン・パムク著 藤原書店)

この週末は未読だった本屋大賞ノミネート作を2冊読み、驚いて笑って泣いて大変でしたw。 近いうちに感想を書こうと思いますが、ネタばれ無し主義者としては、特にミステリーは 面白ければ面白いほど書けることが減る構造になってしまうのでジレンマですね。

さて、「わたしの名は紅」(オルハン・パムク著 藤原書房)は、トルコのノーベル文学賞作家の手によるオスマン帝国時代を描いた歴史ミステリー小説ということで、好みのテーマが詰まっていると思い読み始めたものの、情報量が非常に多く消化しながら読み進めるのがなかなか手間取る作品でした。

ただ、世界的大ベストセラーとなったこちらも歴史ミステリーである「薔薇の名前」(ウンベルト・エーコ著 東京創元社 巻・下巻のイスラム版と言えるほど当時の宗教観、つまりは世界観や社会規範の描写が詳しく、知的好奇心を刺激される内容で、もう少し教養を深めた上で改めて挑戦しようと思わされる一冊でした。ミステリー比率が低いので、それなりに書くことが有ったのは助かりましたw。

物語の舞台となる1591年はムラト3世の治世で、チャルドランの戦いでサファビー朝を後退させ、エジプトのマムルーク朝を滅ぼしたセリム1世、第一次ウィーン包囲、ロードス島攻略で名高いスレイマン1世の黄金時代を経て、オスマン帝国の繁栄にやや影の差し始めている時期であり、体制締め付けのために、元々宗教的には寛容であった帝国がイスラム国家としての性格を強めているのが特徴的です。

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金次郎、本の紹介を頼まれる+2019年4~5月ふりかえり

先日、嬉しいことに金次郎が散髪しているヘアサロンの美容師さんが別のお客さんに金次郎おすすめ本を紹介してくれたところ、その方がそれらの本を気に入ってくれたようで、新たな紹介の依頼があったそうなのです!ありがたいことに、金次郎を読書の師匠と呼んでくれているとのことで、 初めての弟子(会ったことないけどw)への本ソムリエ活動に気合が入りました。

ただ・・・、なんと!その一番弟子は未来への希望溢れる小学生の文学少女だそうで、既に人生引き算ステージに入っている中年の金次郎とは 読書の趣味がエリザベス女王とメーガンさんほどかけ離れていると懸念されることから、洗髪中に大いに悩んで、炭酸泉を浴びながら以下をチョイスしました。気に入ってくれるかどうかドキドキです。

【金次郎から文学少女Aへのおすすめ作品5選】

「線は、僕を描く」(砥上裕将著 講談社)

説明不要のいま売れている作品です。プロットも分かり易く、世代関係無く楽しめると思い選択。頼りない男子が好きならはまるかも?

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本屋大賞2020ノミネート作品発表!

いよいよ本屋大賞のノミネート10作品が発表となりました!既読のものも未読のものもありますが、いずれ劣らぬ話題作揃いで4月7日の大賞発表が待ち遠しいところです。

さて、先日このブログでも書きました友人Mとの順位当て対決ですが、ルールは簡単で以下の通りです。

・それぞれがノミネート全作品を読み、1~10位の順位予想を4月3日までに提出する

・4月7日に発表される各作品の順位(N)とそれぞれが付けた順位の差を計算し、その差の絶対値に(11-N)を掛ける

(例)「作品A」を金次郎が7位、Mが3位と予想し、結果が1位だった場合

【金】:(7-1)×(11-1)=60

【M】:(3-1)×(11-1)=20

・上記の計算を10作品全てに実行し、その総和が少ない方が勝利!黄金の栞、をget!

お分かりの通り、上位にランクインした作品で順位の乖離が大きいとダメージ大きくなりますので、書店員さんになったつもりで、1位は外さない気概で予想したいと思います。ちなみに昨年は二人とも1位的中でした。

以下ノミネート作品と一言コメントです。

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「大人は泣かないと思っていた」(寺地はるな著 集英社)、いえ結構泣きますよ(笑)

タイトルを見てどうしても読まずにいられなくなったこの本。「大人は泣かないと思っていた」(寺地はるな著 集英社)は、閉鎖的な九州の田舎町で慣習や古い価値観などの旧弊、狭い町での濃厚な人間関係にがんじがらめにされながら生きざるを得ない登場人物たちが、じわじわとした下り坂の、特段の希望を見出せない日常の中で、‘泣かないはずの大人が泣く’瞬間をターニングポイントとして、少しだけ前に進む、というなかなかの感動作品です。

涙を見せない、ということそのものよりも、 大人が泣くことすら許されないほどの閉塞感、あるいはそれに象徴される自分の中で固まってしまっている拘り、を表現しているのは分かりつつも、 小説を読んだり、ドラマやアニメを見たりして 割と簡単に泣いてしまう金次郎にとって、 若干その自分で引いてしまっている越えてはいけない一線のイメージがわきづらかったのも事実ではあります(笑)。 出張に行く機中で「神様のカルテ」(夏川草介著 小学館)読んで号泣してしまい、全く涙が止まらずに往生したのを思い出しました。

さて、これまでどんな小説で泣いたかな、とリストを見直して見つけたのが以下です。

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芥川賞・直木賞・新井賞発表!

本日1月15日に第162回芥川賞・直木賞、そして書店員新井さんによる第11回新井賞が発表となりました。いずれも未読で悔しいのですが、以下が受賞作です。

【芥川賞】

「背高泡立草」(古川真人著 集英社)

【直樹賞】

「熱源」(川越宗一著 文芸春秋)

【新井賞】

「ライオンのおやつ」(小川糸著 ポプラ社) 

「熱源」はアイヌの人々が出てくる話のようで、最近読んだ「凍てつく太陽」(葉真中顕著 幻冬舎)や、「日本奥地紀行」(イザベラ・バード著 平凡社)でもアイヌ文化に触れる機会有り興味深かったので、これは直ぐに読まねばと思います。

【参考:「凍てつく太陽」】

社会派ミステリー作家である葉真中顕先生による北海道を舞台にした作品で、 戦時中の三国人差別問題、特高警察と軍部憲兵の対立構造等の 重いテーマを丁寧な調査に基づき社会派小説に仕上げた労作です。 アイヌの血を引く若者を主人公に据えることで、それぞれの魂が持つ使命のレベルで 思考することにfocusし、イデオロギー は都度着替えて良い衣服のようなものだと主張させるあたりかなり唸らせられました。どんでん返し有り伏線の回収も見事で秀逸なミステリーとして満足度高いです。

【参考:「日本奥地紀行」】

英国の女性探検家が明治初期に訪れた東北地方の農村や蝦夷地に暮らす人々の生活を描いた紀行文です。脊椎に持病を抱えながら、悪路を馬に乗って進む過酷な旅を3か月も続けた著者の冒険心や好奇心は驚異的です。また当時の西洋人としては極めて偏見を排した視点で日本人及び蝦夷地先住民について描写している姿勢が何より価値が高いと思います。日本人はとにかく子供をかわいがる(=英国人はもっと子供に厳しい)、日本人は馬などの家畜を物として扱う、飲酒に対する考え方の違い、等興味深い東西の比較が随所に見られて非常に面白い。とりわけ歴史的にも貴重とされるアイヌの人々についての記載は知らないことだらけで知的好奇心が充たされます。

前置きが異常に長くなってしまいましたが、書きたかったのは第161回芥川賞の今村夏子先生の作品についてです。

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2019年振り返り(2~3月)

読書の話をしていると、どうやって次に読む本を選んでいるか、と尋ねられることが結構多いです。これといって定まったやり方があるわけではなく、いつも少し返答に窮するのですが、強いて言うなら①その時興味を持っている分野について、キーワード検索してみてヒットした本を適当に読む、②面白かった本の最後に書いてある参考文献を読む、③推薦書まとめ本を読んで参考にする、④王様のブランチbookコーナーを見る、⑤いま売れている本を読む、⑥会社の同僚や友人との会話の中で短期間に複数回話題に上ったテーマについて何冊か集中して読む、という感じでしょうか。また、なんとなくでも傾向を把握するために、テーマや作家毎に複数冊まとめて読むことが多いです。

あとは、「ローマ人の物語」(塩野七生著 新潮社、全15巻)、「興亡の世界史」(講談社、全21巻)、「徳川家康」(山岡荘八著 講談社、全26巻)等のように長く楽しめる面白いシリーズものを狙って読んでみるのも効率的です。上記⑥とも関係しますが、最近田中角栄元総理について会話する機会が多く、ちょっと関連書籍を読んでいて、今はまっているのが「小説吉田学校」(戸川猪佐武著 学陽書房、全8巻)です。感想またどこかで書きますね。

さて、そんな感じで去年の2~3月に選んで読んだ本の中で印象に残っているものをいくつか紹介します。

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又吉直樹「人間」 VS 尾崎世界観「祐介」

いよいよ来週15日に迫った芥川賞・直木賞、そして同日に発表されるカリスマ書店員新井さんによる新井賞の発表がたいへん待ち遠しいですが、私にとってそれより重要なイベントが本屋大賞のノミネート10作品の発表です。

こちらは1月21日(火)の予定ですが、去年に引き続き今年も宿敵Mとの順位当て対決を「純金の栞」(あるいはそんなに!と驚くぐらい高額の栞)を賭けて実施する予定です!対決の模様につきましては、追ってルールや予想、結果など、このブログで報告していきますので興味をお持ちいただけるレアな皆様は乞うご期待です!

さて、前置きが長くなってしまいましたが、芥川賞ということで同賞受賞作家である又吉直樹先生初の長編である「人間」(毎日新聞出版)を読んでみました。同作は、文中に100回以上読んだとでてきますが太宰治の「人間失格」(新潮文庫)へのオマージュ的一面を持つ小説です。

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今年の目標は脳科学思考?

一年の計は元旦にあり、というのは人生100年の長期視点からも、高速PDCA重視の短期視点からもオワコンならぬオワ格だ、と今年も計画を立てられなかった自分を慰めつつ、明日から五日も連続で会社に行って仕事ができるのだろうかと怯えながらこれを書いております。

以下の本を紹介しようとしていたこともあり、とりあえず年男ということで、寄る年波に少しでも逆らうために今年は脳の仕組みに沿ったより効率的な思考や行動を心がけよう、というのが金次郎の即席目標です!

さて、「脳には妙なクセがある」(池谷裕二著 新潮文庫)では、人間の脳の意外な仕組みを26章に分けてわかり易く解説してあり、毎日の生活でも活用できるヒント満載の内容になっています。

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どうやらタブローとは絵画のことのようです

本日は妻の実家に年始の挨拶に行ってきました。相変わらず義父母・親戚の皆さんは自分の話が大好きかつ一番で、誰にも拾われることなく消えて行く言葉たちにはお構いなしに自己アピールプレゼンが前後左右から発信され続けるカオス。 そんなカオスな状況でストーリーを完結させられる自信なく、 言葉を発することすらできず折れた心の地蔵としてお供え物のように並んだ食べ物を眺めるだけの繊細過ぎる私金次郎。例年通りですが、今年も年始は無我の悟りの境地からスタートです。

さて、タブローってなに?田口トモロヲ?を調べるところから始まった今回の読書、「美しき愚かものたちのタブロー」(原田マハ著 文芸春秋)は、日本に本物の西洋美術を持ち込むという壮大な目標に夢中になった薩閥松方正義の息子である松方幸次郎と、幸次郎が欧米コレクターと五部以上にわたり合って収集した松方コレクションを守るために数奇な運命を辿ることになった日置釭三郎の半生について、かなり史実に沿う形で描かれたノンフィクション的な小説です。

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今年もよろしくお願いします 2019年読書振り返り(1月)

あけましておめでとうございます!

最初は、人間の幅広げてみる?的な軽い気持ちで手当たり次第に本を読み始め、ちょっと読書の質上がるかも?と感想を書くようになり、せっかくなので色々な本の面白いところを紹介しちゃおうと昨年末からこのブログを始めるに至りました。私の趣味がかなり偏っているので若干心配ですが、読んで頂いているみなさんに少しでも参考になれば嬉しいです。

年始にあたり2019年の読書を振り返ってみると、なんと340冊読んでおりました!ただ、悲しいことにリストを見ても内容を忘れてしまっている本もそれなりに有り、今年はこのブログで書くことも意識して一冊一冊をじっくり味わって読んでみようと思います。

それでは、まず2019年1月に読んだ中で特に印象に残った本を簡単に紹介します!

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