年末年始のお休みに向け、今回の文学女子への紹介本はミステリー祭り

以前このブログで書きましたが、金次郎の妻は髪色を変えたいと切望しているものの、なかなか思うようにならず悶々と苦しんでおります。そんな妻を尻目に先日E美容師のところに行った際、金次郎は颯爽と髪型&ちょっぴり髪色を変えてみました。自分ではよく分かりませんが、微妙に若返ったと真偽不明の評価をいただいておりますので、直接金次郎を知る皆さんは是非会社で後ろ指を指しつつ確認していただければと存じます(笑)。

ちなみに8月にオープンした新E美容室は外苑前の閑静な地区に店舗を構えており、近所には明治公園(明治神宮ではない)やペントハウスが数十億円という超高級マンションが有りなかなかの好立地です。地下鉄からのアクセスもそこそこ良く、店内も広くて落ち着くので、納得行くまでじっくりと吟味の上で決めた物件であろう点は実感できて良いのですが、その吟味期間が長かった分だけ我々があの渋谷の魔窟ビルの面貸し美容室に歯を食いしばって通わねばならなかったわけで、これぐらいでなくては困るという気分でもあります(笑)。そんなことはおくびにも出さず髪を切ってもらいながら色々と話していたところ、なんと金次郎が訪問した日の午前中に我が読書の弟子である文学女子ABさんが髪を切りに来たとの情報を入手し、これは年末年始のお休みに向けて本を紹介しなさいという神のお導きと勝手に解釈して(笑)、恒例の紹介企画をやることにしました。今回で第12弾となりますが、最近「葬送のフリーレン」というテレビアニメでじんわりと深く感動し、51歳にしてようやく〈エモい〉という言葉のニュアンスを体得した中年金次郎にとって、もう既に〈エモい〉は古いと捨て去っている世代である文学JKへの紹介ハードルはこの上無く高いですが、小説の登場人物のJKたちを思い出しその気持ちになりきって好適そうなものを選んでみようと思います。これはちょっと〈キモい〉ですね(汗)。(最近の紹介企画はこちら:⑨金次郎、時々訪れる神宮外苑の再開発に興味を持つ/⑩金次郎、文学女子ABさんに受験勉強の疲れを癒す本を紹介/⑪高校生になった文学女子ABさんに恐る恐る本を紹介

【文学女子ABさんへの紹介本5選】

「緋色の残響」(長岡弘樹著 双葉社):シングルマザー刑事とその一人娘の菜月が奇抜かつ鋭い着眼点から推理を働かせ犯罪の謎を解いていくミステリー連作短編集です。さすがは「教場」シリーズで著名な短編の名手長岡先生だけのことはあり、その切れ味は抜群でミステリー好きで目が肥えているABさんにも気に入っていただけると思い選出しました。表題作は伏線もよく効いていて解決の意外性も十分な秀作だと思います。気に入っていただけた場合は、このコンビが活躍するシリーズの初出であり、傑作の呼び声高い短編である「傍聞き」(同)をぜひ読んでいただきたいところです。また、この母娘の関係が金次郎イメージのABさんとお母さんの関係性にちょっとだけ重なったのも選出理由の一つですので、ぜひ読んで「全然違うじゃん!」と突っ込んでいただければと思います(笑)。

「可燃物」(米澤穂信著 文藝春秋):不慮の事故でお父上を亡くされてお辛いであろう米澤先生は本当にお気の毒で、事故が本作出版直後だったこともあり読みながら胸に迫るものが有りますが、そういう気分を割り引いても流石は2023年ミステリーランキング3冠達成の傑作で満足度がとても高い作品です。群馬県警の葛警部を主人公にしたミステリー連作短編集ですが、連続放火事件の見えざる共通項を怜悧に見抜いたその推理が冴える表題作や意外な凶器の謎が新鮮な「崖の下」などいずれ劣らぬ5作が収められており非常にお薦めです。

「十戒」(夕木春央著 講談社):衝撃作「方舟」(同)で昨年話題をさらった著者が同じく宗教色の強いタイトルでクローズド・サークルでの殺人事件を描いたミステリー長編です。〈殺人犯を見つけてはならない〉などの犯人から課された戒律に縛られ登場人物たちが犯人を捜そうとしないという謎解きミステリーにあるまじき前代未聞の展開ですが、その戒律が上手く機能するような設定をデザインした著者の工夫が本作の素晴らしい点だと思います。最後のどんでん返しもきっちり効いており、充分満足できる出来栄えですが、設定に凝るあまり最低限のリアリティが確保できていなかったかもというのが金次郎の印象です。このあたりの感想もぜひ聞かせていただきたいところです。本作は来年2月1日に発表される本屋大賞2024候補ノミネート作品に入る可能性が有ると思います。

「祈りのカルテ」(知念実希人著 KADOKAWA):初期臨床研修で、内科、外科、小児科など、様々な科を回っている主人公の諏訪野良太が持ち前の〈人の心を聴く〉感受性を活かして驚くほど個性豊かな患者それぞれに寄り添い、謎に満ちた彼・彼女らの要求や行動の背景を解き明かし、その心を癒していく医療連作短編ミステリーです。類似の作品を読んだことの有るような既視感も否定はできませんが、爽やかさ+感動+ミステリーという合わせ技で高評価としておきます。これが気に入っていただけるようなら、より面白くなっている続編の「祈りのカルテ 再会のセラピー」(同)もぜひどうぞ。E美容師も癒し系ですので、ややパクり気味ではありますが「美容師Eのカットセラピー」を執筆すべくリタイア後を見据えてネタを集めておこうと思います(笑)。

「俳句という遊び:句会の空間」(小林恭二著 岩波書店):だいぶ前のブログでも紹介したので再掲となりますが、プレバト俳句コーナー推しの金次郎の独断と偏見で、いつもの絶対うけない趣味の本パートとしてこちらを紹介します。以前の投稿では〈徹底した対象の客観視、物事の本質に迫る意識、それらを可能にする微妙な間合いや距離感への拘り、形式美の追求と垣間見える遊び心、温故知新の精神などなど知性の真髄に触れる感覚でとてもおすすめの作品です。〉と書いておりますが、今回の紹介にあたって読み返してみて改めてかつて宿敵Mが語っていた、俳句は座の文芸である、というお言葉の意味を噛みしめることとなりました。誰かの句が句会で繰り返される脱構築プロセスを経て、句作者のイメージを離れ純化された言葉の連なりとなり、その言葉が〈座〉を象徴する存在として新たな意味を与えられるという創造的なコミュニケーションの可能性に感動すら覚えました。熱くと言うかうざく語ってすみません(汗)。万が一お気に召した場合は、「俳句という愉しみ:句会の醍醐味」(同)もどうぞ。

王様のブランチで湊かなえ先生の嫌ミス作品ランキングをやっており、そこで上位に入っていた2作を簡単に紹介します。「Nのために」(湊かなえ著 東京創元社)はタワマン高層階で発生した殺人事件に関わることとなった多数のイニシャルNを持つ登場人物たちが、モノローグ形式で自分自身や心に秘めたNへの思いを語る構成となっております。何が本当で何が嘘なのか分からなくなり、一つの事実に対してこんなにも受け取り手の認識に齟齬が出るのかと驚いて、日々の生活がちょっと怖くなる正に嫌ミス女王の面目躍如たる読後感でした。「白ゆき姫殺人事件」(同 集英社)では美人会社員が惨殺された不可解な殺人事件をテーマに、人の噂やネットでのつぶやき、メディアでの報道などが如何にいい加減なものか、そのいい加減な口コミやニュースに如何に大衆が踊らされるのか、を生々しく描いたかなり嫌な気分になる作品でした。人生残りあと30年、できれば人間の悪意に触れることなく生きていきたいと心から思いました。

今シーズン初のいちご大福を鈴懸で購入しいただきました。上品で少なめのこしあん、もちもちのお餅、そして凄まじい存在感のいちごという3部門それぞれがきちんと主張しつつ調和する、正に絶品の銘菓で瞬殺で2個食べてしまいました。ダイエットは継続中です(笑)。

読書日記ランキング
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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

「年末年始のお休みに向け、今回の文学女子への紹介本はミステリー祭り」への2件のフィードバック

  1. 金次郎さん、長らくご無沙汰しております。年末年始に5年だかぶりに両親が出てきて、外食嫌いな父のため文字どおり三食作り続け、入れ替わりに夫が休暇で帰国。ようやく3人生活に戻ってからは反動でぐうたら生活を送っておりました。気がつけば2月、なんということ…
    昨年最後の美容室訪問では金次郎さんと時間差だったようで、なかなかお目にかかる機会がないのが残念です。
    ABちゃん、金次郎さんからのご紹介で冬休みの読書を満喫でした。2人は「教場」シリーズファンで、「傍聞き」「緋色の残響」両方を。で、我が家の関係にイメージ重なりますか? どの辺りかなぁ?
    「祈りのカルテ」は読んでいたのですが「再会のセラピー」は知らず、早速読みました。ABちゃんの大好きな鷹央先生が散りばめられていて「うーむ、鷹央先生のエピソード忘れてる… もう一度読まなくちゃ…」と課題図書を増やしておりました。
    「俳句という遊び」が手に入らず、「俳句という愉しみ」を読みました。「けっこう面白い、が『前書で述べたので』と割愛されててわからないことがいろいろある」と残念そうでした。
    この冬は(私以外の人が)かなり読んだのですが、記録を残そうとしない人たちのため、何読んだかなぁ…

    1. 恵子さん、こちらこそご無沙汰しております。予約が前後しないとお会いできないのでなかなか確率が低いですね。
      私はいつも妻と一緒なので、もしお会いするとなると合計5名+E美容師となりややカオスになりそうです(笑)。
      色々と読んでいただけたようで嬉しいです。私は年末年始も年が明けた後もぐうたらに読書ばかりしておりまして今年に入って既に40冊強を読了してしまっております(暇)。俳句の本に興味を持ってもらえるとは意外でした。もしディープに極めたいということであれば、俳句甲子園優勝めんばーである宿敵Mをいつでもご紹介しますよ(笑)。本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

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