アメリカ人の英会話の先生が、あの日本人のスモールガールは凄い、リスペクトだ、アンビリーバブルだ、と激賞しているので、それはいったい誰のことかと思ってよく聞いてみると、スケートボードの13歳金メダリストのもみちゃんこと西矢椛選手のことでした。何故そんなに肩入れしているのかと聞くと、アメリカ人は子供の頃からみなスケボーをやっている、どの通りでも公園でもみなスケボーしかやっていないぐらいの勢いだ、スケボーばかり20年も30年もやっている人もざらにいる中でたった13年しか生きておらず当然スケボー歴も圧倒的に短い筈のしかも日本人の西矢選手が金を取るのは有り得ないほどすごいことなんだ、とのこと。アメリカ人ってそんなにスケボーばかりやってるのか、と若干の違和感は覚えつつも、本場の人がそう言うのだからそうなのだろうと納得し、ちょっとスケボーがオリンピック種目ってどうなの、と思っていた認識を改め、もみちゃんスゴイ!と心からの賞賛を送ることとしました。珍しいお名前だと思い調べてみると、椛は樺(カバ)のつくりの華を同じ読みの花に変化させて作られた〈国字〉という日本独自の漢字で本場中国には存在しないそうで、なんと2004年に人名として使えるようになったばかりとのこと。もみちゃんは2007年8月30日生まれですので、ご両親の新しいものを取り入れる姿勢が素晴らしいと変なところで感心しつつ、目新しいのにDQN的な印象にならないのも素敵だなと思いました。
ところで、アメリカ人発言について改めて考えてみると、20年も30年もスケボーばかりやっている人の日本代表が恐らくパワーワードで話題のNHKの中継でスケボー解説を務めた瀬尻稜さんということになるのだと気づきちょっと笑えました。正統な日本語の最後の砦であるNHKであまりにも自由に繰り出される、ゴン攻め、びたびたにはまっている、鬼やばい、との異次元のワードチョイスは、スケボーと一体化する達人の境地で得た身体感覚をニュートラルに素直に言語化する力なのだなと感心し妙に納得しました。邪念無く素直な心で一つのことに継続的に取り組むことの奥深さを感じたスケボー競技でしたが、一点だけ付け加えると、もみちゃんは、ごん攻め、について聞かれ、どういうことか分かりません、と答えたそうで、やはり素晴らしいと思いました(笑)。
本題の本の話ですが、今回は「孔子」(井上靖著 新潮社)の紹介です。高校生の頃、書店に並ぶ重厚なたたずまいのこの本を目にして、自分にはまだこれを読みこなす力量が備わっていないと勝手に怖気づき、父親が購入して机上にあったものも見ないふりをして、その後読書からも遠ざかってしまい手に取る機会が無かったのですが、今に至るまで心のどこかにずっと引っかかっている本でした。この10年ほどはかなり大量の本を読んでいたわけで、本来はすかさず読了してもおかしくなかったのですが、やはりなんとなく気おされて読めずにいた金次郎にとっての〈大人の壁〉となっていたこの名著を遂に読むことができました。きっかけは、ネットで聞いていたBBCラジオで井上先生の芥川賞作である「闘牛」(新潮社)の英訳版「Bull Fight」が朗読されているのを聞いて井上靖著作リストで「闘牛」を眺めていた際にたまたま「孔子」が目に入り、なんとなく今でしょ、と思ったという他愛ないものでしたが、読後感はちょっと運命的な感じでした。