今年読んだ本の中で一番のおすすめ「遺伝子―親密なる人類史―」を紹介

先週発表された直木賞作の「少年と犬」(馳星周著 文芸春秋)を早速読んだのですが、選考委員の宮部みゆき先生も「動物ものはずるいよー」と仰っていた通り、ノアールの巨匠馳先生の作品としては若干微妙な内容だったかなと思います。犬の多聞を軸にした連作短編なのですが、それぞれに描かれる〈死〉に必然性が無く、それは大震災の犠牲者の方々が直面したであろう理不尽な〈死〉が意識されているのだろうとは思うものの、どうもつながりが見えにくい。。。犬と大震災を描く、というところから発想された物語で、上手く落とせなかったという感じですかね。「三つ編み」に続いて新井賞を取ったレティシア・コロンバニ先生の「彼女たちの部屋」(早川書房)が未読なのでこちらを楽しみにすることにします。

「遺伝子―親密なる人類史―」(シッダールタ・ムカジ著 早川書房 上巻下巻)はグレゴール・メンデルとチャールズ・ダーウィンに始まる遺伝学の歴史、現在遺伝子について解明されていることと遺伝子関連技術を使ってできるようになったこと、そしてこの技術の将来の可能性と課題について書かれた最高に面白い科学ノンフィクション作品です。これまで何冊か本を読んで断片的に頭に入れてきた遺伝子の構造や機能、それが作用する仕組みについて、統合的に理解するための軸を通してくれる内容で今年読んだ本の中で最も役に立つ一冊でした。ビル・ゲイツ絶賛というのも頷けます。と偉そうに言いつつ、よく理解できない部分も有り二度読んだのですが(苦笑)。

 

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〈心の闇〉の宇佐美まこと先生と〈こじらせ〉の寺地はるな先生を読む

妻の趣味が音楽ライブ鑑賞や関連する音楽DVD視聴ということもあり、金次郎宅のテレビは、ちょっと悲しいですがオリンピックに向けて開発されたと思われるややハイスペックモデルを奮発して設置しております。この週末はライブイベントが中止となり振替的に行われた配信ライブを夫婦で視聴してそれなりに盛り上がり、音質的にもテレビ変えて良かったなと実感したところです。このテレビにして気づいたことは、番組やCMによってサウンドの質が全くばらばらに違うという点です。正直この宣伝にそんなクオリティは不要だろうと思うようなCMの音がものすごく重厚感に溢れていたりしてギャップを感じることが結構多く驚きます。一番ビクっとするのは、NHKの「ダーウィンが来た!」で、7時のニュースが終わって気を抜いていると、突然の轟音に心臓が止まるかと思ったこともたびたび。そもそも世界中のいきものの珍しい生態を紹介するどう考えても映像中心のこの番組、オープニングの音楽やヒゲじいのダジャレを最高の音響で届ける意味がよく分かりません(笑)。

 

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スウェーデンの傑作「ミレニアム」シリーズ完結

先日、金次郎のプレ誕生日祝いということで、名店エーグルドゥース@目白のケーキを妻と共に食べまして、その美味しさにただただ二人で感動いたしました。看板モンブランはイートインのみ(たぶん)のようで、妻が買ってきてくれたのがいちごショートケーキ、チーズケーキ、チョコレートケーキなど6点!二日に分けてちびちびと味わいましたが、どれもバランス良く上品で至福の時間を過ごしました。イデミ・スギノ@宝町の方が極限までたくさんの素材の調和を追求しているという点ではエッジが立っていますが、エーグルドゥースの最高級オーソドックスも全く負けておらず甲乙つけ難い仕上がりです。

さて本の話です。2017年に一気に読んだミレニアム・シリーズは本格ミステリー、ハードボイルド、政治的陰謀、圧巻の法廷対決などなど盛りだくさんで読み応え十分の傑作でした。全編を通してかなりリベラルな内容ですが、ジャーナリズムのあるべき姿への信念、女性の強さへの敬意が溢れていて素晴らしい。主役のミカエル・ブルムクヴィストは40代のジャーナリストですが、とても若々しく活躍していて好感が持てました(笑)。残念なことに著者のスティーグ・ラーソンさんは初期三部作を世に出した後心筋梗塞で急逝されてしまったのですが(享年50)、この作品の凄いところは、別の作家が次の三部作を同じ主要登場人物、設定で引き継いだ点です。今回読んだ第二部の著者のダヴィド・ラーゲルクランツさんは元々ノンフィクション作家ということで、どんな内容になるのか少し心配でしたが、昨年完結した三部作も全く違和感無く読み進められてたいへん満足できました。ストーリーの軸足がドラゴンのタトゥーを背負ったスーパーハッカーであるリスベット・サランデルの生い立ちとその宿業に少しずつ移り、ミカエルから主役の座を奪う展開ですが、リスベットも葛藤を抱えるたいへん魅力的なキャラクターであり、これはこれで良しだと思います。六作合計で一億部を突破しているというのは本当に凄い。ミステリー好きとしては、とにかく「ドラゴン・タトゥーの女」をぜひ読んで頂きたいところです。

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どうにかこのブログも半年続きました(感謝)

意を決して昨年12月から始めたこのブログもはや半年以上続いており、意外と頑張っている自分を少しだけほめている今日この頃ですが、更新ペースもやや落ち気味となり、更に続けていくにはやり方を少し変える必要が有るのかな、と思ったりもしています。仕事も少しだけ忙しくなりましたし、毎回の分量がそれなりに多いのがやや重荷になっているところも有るので、今回はちょっとショートバージョンを試してみます。

先日も書きましたが、小説には視点という物が有り、この視点をぶれさせないことが、読者が物語世界に没頭し続けるための重要な条件となります。最近読んだ本の中では、「逆ソクラテス」(伊坂幸太郎著 集英社)は小学生が主役の短編集で、後書きでも触れられている通り、視点が子供なので難しい言葉や大人しか使わない表現抜きでの描写が求められるという制約の中で、深い人生の機微を伝えようとする著者の試みはなかなか見上げたものだと思います。それぞれの短編の表題に〈逆〉とか〈非〉や〈アン〉のような否定を表す言葉が配されていて、無意識に流してしまう思い込みを鮮やかに反転させられるストーリー展開になっており、独特の伊坂流が遺憾なく発揮されていて最近の作品の中では好きな方に入る一冊でした。短くてすぐ読めるのでおすすめです。

 

ちょっと古い作品ですが、「パーフェクト・ブルー」(宮部みゆき著 東京創元社)は元警察犬の目線で物語が語られるという突飛な設定のミステリーです。非常に中立的な間合いでバランス良く登場人物を描写する効果を生んでおり、他の誰の視点をメインにしても、完全な三人称複数視点にしても、この作品のジャズバンド感は出せなかったのではないかと著者の工夫に感服いたしました。また、犬が実際に出来事を見聞きできるポジションにいないと物語を進められないのですが、非常に自然に犬が同伴できる状況を作っているところに著者の苦心と巧さが感じられ、唸らされっぱなしで読みました。ちょっとした不祥事で直ぐに大会出場を辞退する高校野球の異常な雰囲気に若かりし金次郎が違和感を感じていたちょうどその頃にまさに出版されたこの本を読んで、当時の気分を思い出しました。

全く話は変わりますが、現役医師の作家さんと言うと「神様のカルテ」シリーズの草川先生が思い浮かぶところですが、金次郎は久坂部羊先生が結構好きでよく読みます。医療ものは死生観をつきつけられるので苦しい時も有りますが、日ごろ目を背けがちな老いや病について強制的に考えさせられるので時々読むようにしています。

「悪医」(朝日新聞出版)と「祝葬」(講談社)はガン治療の功罪を医師ならではの視点で描いている秀作で、特に「祝葬」の方は短命医者一族の死の謎に迫るというサスペンス要素も有り面白いです。「破裂」(幻冬舎)と「テロリストの処方」(集英社)は治療中の事故や病院経営、終身制になっている医師免許の信頼性など、医療現場の課題に光を当てるミステリーです。「怖い患者」(集英社)は医療にまつわる医師や患者の狂気を描いた短編集で本当に怖い気分でぞくぞくできるホラー作品。「無痛」(幻冬舎)はドラマ化もされたサスペンスミステリーで先天性無痛症の役柄を中村蒼さんが熱演、今かなり来ている浜辺美波ちゃんも金髪姿で登場していました。

いつもの半分ぐらいですが、これぐらいならさすがに負担は少ないです。内容が薄くなっていたらすみません。。。

 

 

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