〈心の闇〉の宇佐美まこと先生と〈こじらせ〉の寺地はるな先生を読む

妻の趣味が音楽ライブ鑑賞や関連する音楽DVD視聴ということもあり、金次郎宅のテレビは、ちょっと悲しいですがオリンピックに向けて開発されたと思われるややハイスペックモデルを奮発して設置しております。この週末はライブイベントが中止となり振替的に行われた配信ライブを夫婦で視聴してそれなりに盛り上がり、音質的にもテレビ変えて良かったなと実感したところです。このテレビにして気づいたことは、番組やCMによってサウンドの質が全くばらばらに違うという点です。正直この宣伝にそんなクオリティは不要だろうと思うようなCMの音がものすごく重厚感に溢れていたりしてギャップを感じることが結構多く驚きます。一番ビクっとするのは、NHKの「ダーウィンが来た!」で、7時のニュースが終わって気を抜いていると、突然の轟音に心臓が止まるかと思ったこともたびたび。そもそも世界中のいきものの珍しい生態を紹介するどう考えても映像中心のこの番組、オープニングの音楽やヒゲじいのダジャレを最高の音響で届ける意味がよく分かりません(笑)。

 

さて、今回は〈心の闇〉vs〈こじらせ〉です。〈心の闇〉代表は宇佐美まこと先生。「黒鳥の湖」(祥伝社)では、バレエの名作「白鳥の湖」に登場する黒鳥オディールをモチーフに、白鳥に見せかけた善人面の裏に潜む人間の本性の恐ろしさを描いています。ミステリーとしての筋はやや読めてしまう部分も有りますが、主人公が過去の過ちを明かすかどうかの葛藤の末に追い込まれて行く様子や、全編を通じて漂う不気味な雰囲気が醸し出す緊迫感、最終盤のストーリー展開の勢いなどはサスペンスとして十分な読み応えです。「少女たちは夜歩く」(実業之日本社)は、タイトルがやや似ている「夜は短し歩けよ乙女」のノリで読み始めてしまうと、人の心に潜む暗部を見せつけられる怪奇小説で真逆なイメージとのギャップに呆然となります。また、宇佐美先生のミステリーと言えば「愚者の毒」(祥伝社)は抜群に面白いです。人間の弱さと狂気、人生の絶望を描く救われない内容であるにもかかわらず、それほど暗い読後感でないところがとても不思議な作品であり、淡々と闇を表現できる著者の才能に感心します。謎の時間的、空間的スケールと複雑さ、巧妙に埋め込まれた伏線の回収共に素晴らしく、満足度がとても高い小説です。

〈こじらせ〉代表は寺地はるな先生。少し前にこのブログにも書きましたが(「大人は泣かないと思っていた」~)、どうにも素直に生きられない、わだかまりを抱えた人間を描くのが巧い作家さんです。「水を縫う」(集英社)では、〈こじらせ〉の原因でも結果でもある〈決めつけ〉に囚われ、愛情が無いわけでも頑張っていないわけでもないのに上手くいかない家族の関係が、姉の結婚を機に刺繍が趣味である主人公の男子高校生がウェディングドレスを手作りするという突飛な展開から少しずつ変わり始める、というお話です。譲れない信念は勿論重要ですが、自分の殻に閉じこもるのではなく、常に動き続けること、人と関わり続けることの大切さを改めて認識させられる感動作です。「夜が暗いとはかぎらない」(ポプラ社)は、地方都市を舞台に様々な屈託を抱える町の住人たちが、少しづつ関わり合いになりながら変わっていく様子を描いた連作短編集です。ちょっと微妙な感じの町のゆるキャラであるアカツキンが色々な場面で出没しますが、登場人物がとても多いこの物語がボヤけてしまわないように時間的、空間的な軸としての役割をきちんと果たしていて、なかなかに練られているな、と感じました。「希望のゆくえ」(新潮社)は、こじらせ兄である誠実(まさみ)が、誰からも必要とされる弟の希望(のぞみ)に対して抱えていた複雑な気持ちを、突然謎の失踪を遂げた希望の足跡を辿る捜索活動の中でその実像に触れ、少しずつ解きほぐしていく、というストーリーです。利己心や勝手な期待や思い込みで作り上げてしまう他人像が、知らぬ間にその人を苦しめてしまっている、無自覚がゆえの罪深さに自分の日常を省みさせられる作品です。最後まで希望の人となりはかなり掴めませんが。。。

前回ケーキについて書きましたエーグルドゥースは焼き菓子も美味でした。甘いものついでに、今晩は50分冷蔵庫に入れて最適な柔らかさに整ったハーゲンダッツ(ストロベリー)を食べて大満足です。皆さんもぜひやってみて下さい。リッチミルクやラムレーズンなら45分でいいと思います(笑)。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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