金次郎、新入社員の意外な属性に隔世の感を抱く

今年も新入社員が研修を終えて各部署に配属される季節がやって参りました。部署で新人を受け入れるにあたり、できる限り入社当時の期待と不安が入り混じったフレッシュな気持ちを思い出して彼ら、彼女らの心情に寄り添ってみようと試みたものの、金次郎が入社したのはもう29年も前の20世紀の出来事であり、あまりにも昔過ぎてひとかけらの記憶も掘り起こせず、挨拶に来た新人の前で何か言わねばと無理やりに捻りだした結果のおっさんコメント連発となり、口を開く度に増す若者の当惑ぶりに肝を冷やす悲しい事態となりました(汗)。ところで、部門全体に配属された新人20名超の自己紹介を聞く機会が有ったのですが、特に印象に残ったのはダンス経験者とスタババイト経験者の多さで、その何れも29年前には全く存在しなかったカテゴリーであり正に隔世の感でした。

ダンスについては、正式に学校教育に組み込まれていることからも推察される通り、協調性やリーダーシップに加え継続的に努力をする能力が求められるだけでなく、独創性やセンスの良さと密接な関係が有るとされるリズム感を育むことも期待されるので、ダンスに秀でた人が商社パーソンとしてクリエイティブに活躍し組織の活性化に貢献してくれるイメージが湧き易い部分は確かに有ります。また、ダンスそのものが魅せる活動ということもあり、アピールという点では就活においても有意に有利だったのだろうとこちらはそれなりに納得感が有りました。一方で、スタバでのバイト経験は就活で有利と一般情報としては聞いていたものの、実際にそういう新人に相対する機会が生じると、どういう背景でスタバがそれ程評価されていて、コーヒーショップでの経験が商社の仕事とどう関連するのかが気になり出し少し調べてみることといたしました。スタババイトの端的な特徴としては、①マニュアルが無く顧客エクスペリエンスにフォーカスした臨機応変な対応が求められる、②バリスタトレーナー(人材育成)、ブラックエプロン(スペシャリスト)、シフトスーパーバイザー(店舗経営)といった多岐にわたる働き方に主体的に取り組めるシステムが有る、③充実した研修プログラムを通じた従業員(スタバではパートナーと呼ぶそうですが)の成長支援等が挙げられ、確かに①は実際のビジネスシーンにおいても役立ちそうな雰囲気は感じました。また、やや古い本ですが「スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?」(ジョン・ムーア著 ディスカヴァー・トゥエンティワン)によると、スタバは従業員に、誠実さや信頼感、情熱と挑戦、約束以上のパフォーマンスへのコミットメント、顧客のニーズでなくウォンツに注目する姿勢等を求めていて、一定の基準を充足しない従業員は迅速に解雇するという方針のようなので、スタバで確り経験を積んでいることは、スペシャリティコーヒー事業の枠を越えて我々のビジネスにおいても充分通用する汎用性の高い能力を身に着けていると判断する一つの要素にはなり得るのだろうなと感じました。更に顧客エクスペリエンスの拡充に注目する意識は、この先商社として避けては通れない消費者ビジネスへの注力という方向性の中では必須であり、そういう若者が当社の将来、ひいては金次郎世代の年金を支える存在に成長してくれると有難いとの打算も含め新人の皆さんには心の底から期待しております(笑)。なんとなくTDLのスタッフにも同じ匂いを感じますが、そちらも就職には有利なのですかね。

さて本の紹介です。「キューバ紀行」(堀田善衛著 集英社)は詩人でもある著者が1960年代半ばのキューバを訪れ、フィデル・カストロによる革命の実状、キューバ人の生活や国民性などについて感性豊かに記した、ユーモアの中にも生々しさが感じられる素晴らしい紀行文です。この作品を読むと、事実上米国の植民地として米国資本に搾取されていた理不尽な体制の打倒を目指す中で、現実的に採り得る唯一の選択肢としての革命であったことが良くわかり、米国を中心とした西側の経済封鎖により東側経済圏に組み込まれざるを得なかったが故のマルクス・レーニン主義の受け入れというキューバの実態は、米国中心史観により刷り込まれた急進左翼の悪玉キューバという認識とはだいぶ乖離していて、歴史を知る上で新たな視点を得るという読書の醍醐味をまた体感してしまいました。革命後に国を離れた人々は米国利権と関係した資本家が多く、結果的に国に残ったのが労働者階級だけであったために〈働かざる者食うべからず〉というある意味純粋なプロレタリアート社会が理念抜きに実現したというのは非常に面白いと思いました。軍部はどうしても権力や米国と癒着しがちになることから、カストロはあくまで前線指揮官である少佐の立場に留まり将官への昇進を拒絶し続けたというエピソードや、彼が無学な民衆との対話を面倒くさがることなく、何度でも同じ説明を繰り返すことを厭わないフラットな目線を持つ人物であったとの話はイメージとだいぶ違っていて驚きましたし、何より革命の結果として国は貧しくとも白人も黒人も混血も分け隔てない平等な社会が実現したという事実には様々な偏見を排して真摯に向き合う必要が有ると強く思いました。個人的には、革命のヒーローであるゲバラの姿がちらちらと見え隠れするのがたまらなく良かったです。

「なぜ支店長は飛ばされたのか」(加藤直樹著 廣済堂)はメガバンクの一角であるM銀行における銀行実務の詳細やどろどろした出世競争について、テレビドラマで一躍有名となった半沢直樹のモデルとも噂される著者の銀行員人生を振り返る形で生々しく描く限りなくノンフィクションに近い経済小説です。私大卒の非エリートで入社時は出世レースの最下層におり、忖度や迎合を嫌って銀行内ではタブーとされる上司への反抗も日常茶飯事であった著者が、嫌味な上司の度重なる罠や圧力を潜り抜け、金融庁検査もどうにかやり過ごして、150人の同期のうち一人にしかその席が与えられない役員目前の地位まで出世したものの、最後は組織の闇の力に屈して出向を命じられるという正にドラマを彷彿とさせる内容が語られており面白く読めました。誰もリスクを取ろうとせず、行員の誰もが顧客や会社を顧みること無く自分のことしか考えず、他人の足を引っ張る讒言やトラップは当たり前という恐ろしい銀行の実態を知り、銀行員であった金次郎の父も大変な思いをしながら我々兄妹を養ってくれていたのだなと変なところで感心したりいたしました(笑)。著者の本名も直樹であり、先輩に当たる方が編集者で池井戸先生とも面識が有ったとのことで、現在同銀行のトップである半沢氏ではなく、こちらの加藤先生の方が半沢直樹のモデルという話にも一定の信ぴょう性が有ると思います。

「ヒロイン」(桜木紫乃著 毎日新聞出版)は母親からの過剰な期待とその期待に応えられないために向けられる刃のような失望に耐えかね、実家を出奔して新興宗教の出家信者となった啓美が、意図せずして巻き込まれた毒ガステロの犯人として追われる立場となり、家族も過去も名前も捨て別人として生きる中で、彼女がこの世界と自分の存在との繋がりを希求する姿を描くやや重い内容のお話です。金次郎の安穏とした生活とはかけ離れた展開であるにも関わらず、どうにもこの主人公から目が離せず、気づけば何故だかすっかり応援しつつ感情移入し物語に没入してしまっておりました。もしかしたら、定年しただの無職のおっさんになった際に果たして自分に何が残るのか潜在意識では不安に思っているのかなと考えたりもして(汗)、しっかり自分に向き合わねばと感じた次第です。

GW中に名探偵コナンの映画「100万ドルの五稜星」を観て参りました。ネタバレできないのでほぼ何も書けませんが、今回はとにかく情報量が多過ぎて途中でパニックになりました。凄いことが起こるのでファンの方は絶対に見逃してはいけない作品だと思います。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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