【アフター4読書恒例企画】本屋大賞2024順位予想対決!

今年もこの日がやって参りました。4月10日(水)の本屋大賞2024結果発表を前に、それなりにやる事はたくさん有った仕事の合間を縫い、特に宿敵Mは多忙な私事をかなり疎かにしつつ、どうにかそれぞれ順位予想を完成させることができました。過去5回の対決は金次郎が3勝2敗と勝ち越しており、今回も軽々と3連勝といきたいところです。以下がその予想となりますが、トップ3の顔触れは両者同じで、なんとなく予想のポイントも似通ってきており6回目ともなるとお互いに習熟度が上がってきていると感じました。かなり僅差の戦いになりそうですが、勝敗の鍵はほぼ逆の予想となった「レーエンデ国物語」と「リカバリー・カバヒコ」の位置関係に絞られると思います。Mが好みより青山マジックを優先したのが吉と出るか、金次郎が青山作品が町田カーブをなぞって下位に沈むと見たのが図に当たるか、読者の皆さんもぜひ注目いただければと思います。

【金次郎の総評】多様性が叫ばれ始めて久しいが、今年の候補作のジャンルはファンタジー、サスペンス、児童書、続編、医療、動物と非常にバラエティに富み、結果として順位予想は困難を極めた。世相的にもコロナ明けや株高といった前向きな要素と、戦争、インフレ、中国経済不振等の暗い要素が混在し、定まらぬ方向感に書店員の投票を予想するヒントが見出しづらく苦労した。特に悩んだのは実力伯仲であった「水車小屋のネネ」と「黄色い家」の優劣だが、家族に起因する問題を〈喪失〉でなく〈癒しと包摂〉で乗り越えた前者がより時代に求められていると見て大賞とした。「成瀬は~」は新味も有り人気だが、他者の存在を認識し変わり始めた成瀬が個性的なヒロインであり続けられるのか既刊の続編に評価を譲りたい。前作抜きでは世界観が完成しない「星を編む」の位置づけにも頭を悩ませたが、前作の読者は続編である本作も購入すると思われ書店員の推しもやや弱いと判断した。

【Mの総評】今年は欠点がない、あるいはその長所が欠点を補って余りあるような、ずば抜けて良い作品は正直なかったように思う(一次投票でのノミネート作品選定の問題か、本当にいい作品に乏しかったか。ところでさほど読書量が多くない私だが佐藤究の直木賞受賞後第一作『幽玄F』はとても印象に残った)。…が故に、予想は困難を極めた。ひとまず候補作品群の中で水準が高いと思った『成瀬』『黄色い家』『水車小屋のネネ』の3作を上位と予想し、加えて、書店員さんが選ぶというこの賞の性質を踏まえ軽めの作風の作品が傾向として票を集めやすいだろうという点も加味し、軽いトーンながら読み応えも十分あり、さらに続編も出ておりまさに売りたい作品ということで、『成瀬』を1位と予想。ごく私的大賞は『黄色い家』(単なる川上未映子ファンという説も)だが、2月と若干早いタイミングでの発売、かつブランチ本屋大賞も取っており、既に評価を固めているのが予想を難しくした。『リカバリー・カバヒコ』は、こんな文学でもなんでもない本を売らなくてはならない書店員の心境に思いを馳せつつ、スピリチュアル・占い全盛のこの時代において、青山美智子はなんと4年連続のノミネートということもあり(過去3年は順番に2位、5位、5位)、十分上位入賞もあり得ると思い不承不承4位とした(毎年言っているが、単に相性が悪いだけという説も。ファンの方ごめんなさい)。5位以下は作品としての魅力より欠点が目に付くものが多く、傷が浅いと思った順に並べた。過去2回大賞を取った凪良ゆう『星を編む』は、昨年の大賞作と比べると明らかに落ちるが、作風と本屋大賞との相性を考えると上位入賞もあるかもしれず6位に置いた。小川哲先生や知念実希人先生は是非本格長編作品の直球勝負で大賞を狙って欲しいなというファン心理が働き、すみませんが下位で。難しい年だったが、昨年までで2勝3敗と負け越しており、何とか今年でイーブンに戻したいところ。

【金次郎順位予想】

大賞 「水車小屋のネネ」(津村記久子著 毎日新聞出版)

2位 「黄色い家」(川上未映子著 中央公論新社)

3位 「成瀬は天下を取りにいく」(宮島未奈著 新潮社)

4位 「レーエンデ国物語」(多崎礼著 講談社)

5位 「星を編む」(凪良ゆう著 講談社)

6位 「スピノザの診察室」(夏川草介著 水鈴社)

7位 「存在のすべてを」(塩田武士著 朝日新聞出版)

8位 「放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件」(知念実希人著 ライツ社)

9位 「リカバリー・カバヒコ」(青山美智子著 光文社)

10位 「君が手にするはずだった黄金について」(小川哲著 新潮社)

【M順位予想】

大賞 「成瀬は天下を取りにいく」(宮島未奈著 新潮社)

2位 「黄色い家」(川上未映子著 中央公論新社)

3位 「水車小屋のネネ」(津村記久子著 毎日新聞出版)

4位 「リカバリー・カバヒコ」(青山美智子著 光文社)

5位 「スピノザの診察室」(夏川草介著 水鈴社)

6位 「星を編む」(凪良ゆう著 講談社)

7位 「存在のすべてを」(塩田武士著 朝日新聞出版)

8位 「レーエンデ国物語」(多崎礼著 講談社)

9位 「君が手にするはずだった黄金について」(小川哲著 新潮社)

10位 「放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件」(知念実希人著 ライツ社)

【候補作別評価】

「黄色い家」(川上未映子著 中央公論新社)

(金 2位)貧困こそが不幸の源でありカネを手にすることこそ求めてやまぬ幸福へのパスであると信じ身を粉にし悪事にすら手を染めて働き続ける花と、生存本能に従って淡々と人生を送る黄美子の生き様が対照的で印象に残る。大切な物を見失い、媒介に過ぎぬカネそれ自体が持つ魔力に囚われた花の変貌ぶりの迫力は凄まじい。個性的な登場人物それぞれの人間を描き切った川上先生の手腕は大賞に値するが全体の雰囲気が暗い点を割引き次点とした。

(M 2位)タイトルと冒頭の感じからは拉致監禁的なことがテーマかなと思ったらそれは違って、八方ふさがりな状態に追い込まれつつ気が付けばお金と占い的なものにしか縋るものがなくなった主人公の変容、それに比して実はまったくブレていない黄美子という人物描写の対比が鮮やか。女性ばかりの環境で、家父長制的な主従関係が自然と生まれてくることも興味深い。エピローグへなだれ込むテンポ感も素晴らしく、電書の頁を捲る手が止まらず。エンディングは賛否両論あると思うが、救いがあって個人的には是としたい。

「君が手にするはずだった黄金について」(小川哲著 新潮社)

(金 10位)相当つまらないのではと感じる一方で深淵なる真理が語られている可能性も否定できない不可思議な作品。虚構の構築や自分探しという私事の切り売りを生業とすることへの不安や羞恥を前面に出しつつも、創造性を刺激し未知の地平を切り拓き得る虚構の持つ力への賛美も示され著者自身の揺れながら高みを目指す小説観が語られる。金次郎は好きだが冒頭からクレツキを持ち出し読者に知のマウントを取る姿勢は本屋大賞としてはNGだろう。

(M 9位)作家小川哲のこれまでの来し方をめぐる私小説風オムニバス。それぞれの話はそれなりに気が利いてはいるが、佳品の域は出ないか。ファンなら楽しめるのかもしれないが。作家としての原点をテクニカルな感じで振り返るのも良いが、まだ若いので、もっと重厚感のある超大作で是非来年以降本屋大賞を狙ってもらえればと、年の近いいちファンとして改めてエールを送りたい。

「水車小屋のネネ」(津村記久子著 毎日新聞出版)

(金 大賞)家族との関係に傷ついた人々が水車小屋で石臼の番をするヨウムのネネと出会い、賢く無垢なネネに癒され前を向く様を描く物語。全編を通じお喋りなネネの愛らしさに感動スイッチがオンになりっ放しとなる構成の妙に加え、何の変哲も無い自然に抱かれた田舎町を包み込むエモさが素晴らしい。ひたむきさが報われる温かな読後感という点で候補作随一であり実力は折り紙付きの津村先生が更なる高みを目指す契機とすべく大賞に推したい。

(M 3位)水車小屋のおしゃべりヨウムのネネを軸とした40年間の物語で、こちらは救いのない環境でもちゃんと手を差し伸べてくれる人がいてポジティブな人間関係が繋がって層をなしていくという、“じんわり効いてくる”感じの長編。主人公(姉)とその夫となる人がどのようにして夫婦になっていったかというくだりが個人的には本作のハイライト。他方、後半は登場人物が多すぎていささか込み合ってきた感もあり、思い切って中盤ぐらいで話を終えても良かったかもしれない。

「スピノザの診察室」(夏川草介著 水鈴社)

(金 6位)科学者たる医師としてだけでなく哲学者としても非凡と称される凄腕内科医・雄町が患者の心にそっと寄り添う姿がとにかくかっこいい作品ではあるが、「神様のカルテ」のスーパードクター版という二番煎じ感をどう捉えるかが評価の分かれ目。スピノザの思想が難解過ぎて加点要因となりにくい点、コロナ後の自由を謳歌する読者層が医療というテーマに食傷気味になりかねぬ点も加味し、自己評価よりやや順位を落とす予想とした。

(M 5位)医者なのにお菓子に目がない設定(医者の不養生)以外は人格的に既に完成された主人公の倫理観に読者が諭されるスタイル。肝心の主人公の言動から立ち上がる死生観や医師としての使命、みたいなところにそれでは新しさがあるかというと微妙かなという印象を持ったが、青山美智子が合法ドラッグだとするとこちらは毒にも薬にもというところでおすすめ度は微妙に高め。作中の京都の街並みや生活の描写はとても良かった(京都へ往復する新幹線で読んだのでなおさら)。

「存在のすべてを」(塩田武士著 朝日新聞出版)

(金 7位)記者門田が地道に事件の道筋を辿り未解決のままの誘拐事件の本質を描き出そうとする姿勢が、全ての先入観や思惑や事実の取捨選択や歪曲を排除し、対象物の有りの儘の姿を写し取ろうとする写実絵画の精神と重ね合わされ描写される、サスペンスの形式を借りてのノンフィクション論。ラストで明かされる真実が放つ正にその写実性に裏打ちされた迫力と奥行には圧倒されたが、読み応えが申し分無い一方で上位進出には地味さにやや難有り。

(M 7位)ミステリとヒューマンドラマのマリアージュはなかなか良かったが、肝心のミステリ側のご都合主義的展開が若干鼻につき、食い足りない感じ。本作に通底する重要テーマたる写実絵画についても、どうしてそこまでキーマンたちが写実にこだわるのか、もう少しきちんと掘ってあるとより作品に立体感が出たか。ヒロイン編のサイドストーリー(含むストーカー描写)も本当に必要だったかと言われるとどうか…。横山秀夫崩れ、という感じかも。

「成瀬は天下を取りにいく」(宮島未奈著 新潮社)

(金 3位)閉店する西武大津店に中3の夏を捧げる、200歳まで生きると宣言する、坊主頭で高校に入学するなど変人で浮き気味の成瀬が無自覚に周囲をかき乱す様と彼女を包摂し見守る親友島崎の温かな眼差しを描いた連作短編集。KYで共感力も低い成瀬が島崎の存在の大きさに気付き内省する姿を成長と見るか変説と捉えるか整理が難しいが、デビュー作で新たなヒロイン像を提示した本屋大賞らしさを軽視するのは危険と見てトップ3入りとした。

(M 大賞)主人公の成瀬の人間的魅力(欠点も含め)は当然よく描けているが、地味に準主人公たる島崎のキャラの良さも本作のさわやかな読後感を後押しした印象。クレイジーな成瀬のキャラクターを邪魔しないような淡白な描写で物語は進行するが、逆に成瀬とそれを取り巻く人々のありようをリアリティをもって描き出す効果がありその点も成功していると感じた。続編も出ており、実際販売数もそれなりに出ている中で、今年は本作が1位ということで違和感ないでしょう。(2022年大賞『同志少女』を大外しした反省も踏まえ)

「放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件」(知念実希人著 ライツ社)

(金 8位)プールにたくさんの金魚が放たれるという奇妙な事件の謎を、小学生のミステリクラブメンバーが解き明かしていくストーリー。魅力的な謎、個性豊かな登場人物達、ミスリードの仕掛けにより演出された驚き、そして探偵役による胸のすくような明快な推理と平易な文章の中にミステリーの魅力が過不足無く盛り込まれており児童向け入門書としては出色の出来栄え。予想はかなり悩んだが万年8位の知念ジンクスに全面依存することとした。

(M 10位)採点不能。児童文学には児童文学なりのセオリーや読ませるツボ(際立って個性があるキャラクターとか?)があるのだと思うが、ミステリーとしても特に唸らされるポイントがなく、素人目でも少し児童書舐めてませんかね?という感想。器用な知念先生だが普通に本格ミステリを量産していただいたほうが若年層の読書人口を増やすことに結局はつながるのでは、と、やや皮肉めいた感想を持つのみでなんかごめんなさい。

「星を編む」(凪良ゆう著 講談社)

(金 5位)昨年の大賞作「汝、星のごとく」の続編で北原先生の過去と登場人物達のその後を三部構成で描く。個人の意思の尊重とあらゆる柵からの自由を主題とする第1話・第3話に挟まれる形で配された表題作は青埜櫂と因縁を持つ二人の編集者が守るべき矜持と現実の狭間で苦悩しつつ折り合いをつけるお仕事小説で最も心に刺さった。本作の出来の良さは認めるが、前作抜きにこの本のみを手に取る読者への書店員の配慮も想定しこの順位とした。

(M 6位)昨年の大賞作『汝、星のごとく』が涙腺崩壊ものだったのでその余韻の中でノミネートされた本作はやはりどうしても前作に劣る感。阿部サダヲのドラマではないが、登場人物の発話の主語が急に大きくなるくだりも頻出し戸惑う。あと細かいがお酒の描写が変(酒飲みはいきなりおにぎりは頼まない、日本酒に“水っぽい”はネガティブなニュアンス、シャンパンに氷?)。解像度が低いオーストラリアの法制度のくだりとかも蛇足としか思えず、どうしてもそういう細かいところが気になってしまった。

「リカバリー・カバヒコ」(青山美智子著 光文社)

(金 9位)様々な不調や悩みを抱えた人々が目立たぬ公園の薄汚れたカバ型アニマルライドとの出会いを契機に少しずつ回復していく様子を描いた連作短編集。本屋大賞では上位常連の青山作品であるが、それぞれが抱える問題があまりにも一般論で深みに欠け定番過ぎて心に全く響かない上に新たな挑戦がダジャレの連呼である点にも失望を禁じ得ない。登場人物の共通点である同じマンションの住人という設定も活かされておらずこの順位もやむ無し。

(M 4位)遊具のカバ(カバヒコ)を”神格化”してそこに人生の諸課題の解決の糸口を見つけるという内容で(実際は少し違うのだが笑)、(テンプレ感が拭えない印象のある)それぞれのお話で言おうとしているテーマは所謂マインドフルネスで語られることの焼き直しという印象。心のバランスをとるために小説に“縋る”という読者もいる中で、わかりやすいところに手ごろな“ドラッグ”を置くのは作家としてやってはいけないのではないかなと…。悩ましいですが。

「レーエンデ国物語」(多崎礼著 講談社)

(金 4位)呪われし土地レーエンデを舞台としたファンタジーで、かつての大賞作「鹿の王」との比較が評価の目安となる。銀呪病や政治的対立等設定はよく作り込まれていて引き込まれるが、登場人物の人物像が平板で既視感を禁じ得ないのが気にかかる。特にトリスタンが不死身かつ不幸過ぎる点とユリアの成長の唐突感は看過できない。内容が濃い一方で、続編も含めた大きな物語の一部分という印象も否めず、惜しくも番狂わせには一歩届かず。

(M 8位)文章の流麗さや独特の世界観にはもちろん見るべきところがあるが、いかんせん人物造形が浅く、また登場人物のパーソナリティに一貫性がないのも気になる。唯一成長しないということである意味一貫しているヒロインのハチャメチャな振る舞いを見るにつけ『コードギアス』に出てくる血染めのユフィ(※閲覧注意なので検索しないほうがいいです)が脳裏にちらついてしまい話に没入できず。シリーズものだが、続編はまぁいいかな、、という感じ。

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最後までお読みいただき有難うございました。来週結果を発表します!

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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