【アフター4読書恒例企画】本屋大賞2021順位予想対決!

いよいよこの日がやって参りました。今年は4月14日(水)に発表となる本屋大賞の順位を予想してしまおうという大それた企画を始めて3年目になりますが、さてさてどうなることやら。宿敵Mもドイツから予想を届けてくれましたので、今回はいつもより少し長いですが、どうぞ最後までお付き合い下さい。昨年の予想ブログを読んでいただいた方から、作品毎の評価を読み比べたいとの要望が多かったので今年はそのような構成にしております。では、前置き抜きで早速予想です。

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いよいよ本屋大賞2021ノミネート作品発表!

金次郎と宿敵Mによる本屋大賞2020予想対決、結果発表!

金次郎と宿敵Mによる本屋大賞2020予想対決!

【金次郎の総評】

年間300冊以上の本を読み続ける中で、どんな本にでも面白さを見出す技術を期せずして磨いてしまった金次郎にとって、この本屋大賞予想対決は年に一度の楽しみであると同時に、一年を代表する候補作の数えきれない面白さを無理矢理カウントして順位を付けねばならないという意味で最大の鬼門イベントでもあります。

こんな言い訳から入らざるを得ないほど、今年は売れまくっている芥川賞作の「推し、燃ゆ」や昨年大賞を取った凪良ゆうの次作をはじめとした話題作が多数な上に、どうしても評価にバイアスがかかってしまうアイドル加藤シゲアキの「オルタネート」の候補作入りもあいまって、本当に難儀な予想作業となりました。中途覚醒症状の悪化が止まりません。

緩慢にフラストレーションが蓄積していくコロナ禍の社会で求められているものは何なのか、これまで読書に割く時間があまり取れなかった人も本を手に取ることが多くなったという変化を順位にどう反映させるべきか、などのポイントを真面目に考え、悩みに悩んだ結果、作品の質は勿論ですが、前向きな希望や救いの存在、ストーリーの分かり易さを重視して予想を組み立てることとしました。

そうして約一か月、考えて書いてつまずいて(♪スキマスイッチ「ボクノート」より)、並べた結果が紙クズとならぬことを祈りつつ、大賞には「滅びの前のシャングリラ」を推薦します!昨年大賞の「流浪の月」を9位と予想してしまった贖罪の気持ちはさて置き、舞台設定の面白さと、絶望の中で際立つ救いを描いた点を評価しました。悲惨な話を暗く描かないために時折配置されたセンス溢れるユーモアも大好きな作品です。

惜しくも2位となったのは「推し、燃ゆ」。本作が傑作であることには疑問の余地無しで、宇佐見りんの文章が放つ圧倒的な力は他の候補作を凌駕していると感じます。しかしながら、誰もがすんなり受け入れられる分かり易いお話かと問われれば否と答えざるを得ず、数十万部も売れた本を更に売りたいと書店員が推すかについても若干の懸念が残るため、作品の質というよりは順位予想というゲームの性格から次点としました。

3位は王様のブランチBOOK大賞に輝いた「52ヘルツのクジラたち」。希望、救い、分かり易さと三拍子そろった秀作ですが、少しだけご都合主義との印象が残り、どうしても許容したくない登場人物の多さもマイナスに働きこの順位となっております。

読書家の最大の敵ともいうべき偏見に囚われ、アイドルの書く小説なんてとこれまで敬遠していたことを正直に白状し、そんな自分の眼の曇りに気づかせてくれた加藤先生に感謝の念を表します。4位の「オルタネート」、エンタメ作品として非常に面白かったです。

【Mの総評】

今年で本企画3回目ですが、今までで一番悩みました。明確に生きづらさが増しているいまの世の中に真正面から向き合い、且つ文芸として高い水準でそれを結晶化させた宇佐美りん「推し、燃ゆ」が個人的最「推し」でしたが、「売り場からベストセラーをつくる!」という本屋大賞のコンセプトを考えると既に芥川賞をとり評判もついてきている同作が受賞は難しいかなと。

従い、次いで完成度が高いと思った町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」を1位としました。町田そのこはほかの作品は読んだことはないのですが、キャリア的にここで本屋大賞を取って一段上のステージに上がるという展開はあるような気がします。

伊吹有喜「犬がいた季節」は2年前に大賞となった瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」と同系統の、普通の生活の中の人間関係のあれこれを丁寧に描いた“ほのぼの感動系”で、過去の本屋大賞の傾向を踏まえると上位に食い込む予感がします。

何故か電子書籍化されておらず不承不承当地ドイツまで取り寄せた加藤シゲアキ「オルタネート」は案外好みでしたが(*送料はもとが取れたと思います。正直に言うと色物だと思ってました、すみません。)、直木賞ノミネート作品(&こちらも割と既に売れている)ということで4位。凪良ゆう「滅びの前のシャングリラ」は流石読ませる筆致でエンタメとして楽しめましたが、2年連続大賞受賞への書店員さんたちの心理的ハードルは高いと予想し、5位としました。が、1~5位はどれが大賞を取ってもおかしくはないと思います。

全体としては短編集・オムニバス形式の作品が4編もノミネートされていることが少し気になりました。たぶん、読者側に長編をこなす体力がなくなってきておりウケる小説の形も変容してきているのだと想像します。そんな中、山本文緒「自転しながら公転する」は、既に作家としてそれなりのキャリアがあることを加味して若干辛めの7位としましたが、だらだらと行ったり来たりする主人公の感情の波に振られ続けているといつの間にか読了していたというある意味”伝統芸能”的小説で、こういう長編もまだまだちゃんと世の中に出てきてくれると一読者として嬉しいなと思いました。

【金次郎順位予想】

大賞 「滅びの前のシャングリラ」

2位 「推し、燃ゆ」

3位 「52ヘルツのクジラたち」

4位 「オルタネート」

5位 「お探し物は図書室まで」

6位 「犬がいた季節」

7位 「八月の銀の雪」

8位 「逆ソクラテス」

9位 「この本を盗む者は」

10位 「自転しながら公転する」

【M順位予想】

大賞 「52ヘルツのクジラたち」

2位 「推し、燃ゆ」

3位 「犬がいた季節」

4位 「オルタネート」

5位 「滅びの前のシャングリラ」

6位 「お探し物は図書室まで」

7位 「自転しながら公転する」

8位 「八月の銀の雪」

9位 「この本を盗む者は」

10位 「逆ソクラテス」

【候補作別評価】

「犬がいた季節」(伊吹有喜著 双葉社)

(金)6位:犬のコーシローの視点で描かれる場面での気持ちの〈届かなさ〉効果もあり、上質なロングラブストーリーに仕上がったこの作品は、青春群像劇ならではのキラキラ感も充分で、推され本の一要件であるワンコの存在もプラスとして上位選出も考えましたが、平成を懐古するという構成が前向きなパワーを欲する時代の要請に応えきれておらず6位との評価です。

(M)3位:コーシローという犬を中心に色々な出来事が線や面となり、それが三重のとあるコミュニティの歴史になっていくという仕掛けが面白かったです。キャラクター造形がややテンプレ的(読んでいて裏切りがない)のが少々食い足りないかも。未読ですが昨年出た「雲を紡ぐ」が評判が良かったと聞くので、同作で惜しくも直木賞受賞を逃した分、本屋大賞で捲土重来を果たす可能性もあるかもしれません。

「お探し物は図書室まで」(青山美智子著 ポプラ社)

(金)5位:異形ともいえる描写に神性すら感じる風変わりな司書さんの超ポジティブなメッセージと謎チョイスの本から得たヒントをきっかけに、登場人物達の人生が、陰から陽に軌道を変えていく様子に暖かさと希望を感じる、まさにこんな時代にこそ読まれるべき作品だと思います。連作短編という形式が、人と人との縁が繋がる流れを巧みに表現していて素晴らしい。

(M)6位:オムニバス形式で登場する登場人物の様々な悩みにさりげなくヒントを与える司書さんのキャラクターは良かったです。私は読みながらベイマックスを連想していました。一方それぞれの話の深堀りは弱く、新聞の取材記事を読んでいるような気分になりました。作者は実際に新聞記者・雑誌編集者というキャリアを歩んできた人のようで、納得です。意外とこのくらい軽い飲み口の作品のほうが、上位に入ってくるかもしれないなという予感があり、少し下駄を履かせて6位としました。

「推し、燃ゆ」(宇佐見りん著 河出書房新社)

(金)2位:難解とされがちな純文学で、所謂一般受けとも呼べないストーリーのこの作品が多くの読者の心を掴んでいるのは、著者が鮮やかに切り取った世界への理屈なき共感であり、誤解を恐れずに言うなら内容よりも著者の才能を愛でるための作品だと思います。この点と認知済みの本への書店員玄人気質からの敬遠を加味し、敢えて予想としては2位としました。

(M)2位:初見で物語に引き込まれ一気読みし、二周目では一語一語を舐めるように読みました。言葉に対するフェティシズム、拘りが物凄い作品です。ひとりの「オタク」の姿を描くことで、その背後にある生きることへの根源的な辛さ(そしてそれでもなお生きていかなくてはならないということ)に迫っていたと思います。文体と内容とが融合し昇華した2020年代の大傑作。すべての人にお勧めしたいです。

「オルタネート」(加藤シゲアキ著 新潮社)

(金)4位:直木賞を争い、見事文学新人賞に輝いただけのことはあり、部活、バンド、恋愛、家族関係と高校生活の全てを凝縮した眩しさで読者を物語に引き込む力強さが光る作品です。青春らしく、不安定な登場人物と多様なエピソードを盛り込んだ著者の意図は理解できるも、その反作用としてのストーリーの忙しさが若干の減点要因となりこの順位に落ち着きました。

(M)4位:作者の属性からどうしても色眼鏡で見られがちですが、正統派な青春小説として普通に楽しく読めました。クライマックスへの流れは昨夏一部で話題になっていた映画「アルプススタンドのはしの方」とパラレルな感じがあり個人的には好みでした。作品中で取り上げられる題材自体はどれも新しいものの、その内側にある根源的なところは昭和や平成の高校生のそれと大差ない印象があり、その点本当に正確に高校生の”いま”を描けているかどうかがちょっとモヤっとしました(自分ももはや分からないので)。

「逆ソクラテス」(伊坂幸太郎著 集英社)

(金)8位:子供の視点という表現の制約の中で人生の機微を伝えようとする著者の挑戦は成功していますし、子供の純粋さが故に暴き出すことのできた生々しい世界も描けているとは思いますが、短編集だからなのか、著者一流の天地逆転的なストーリー展開の妙を十分に堪能できず、期待の裏返しで少し残念に感じた気持ちを素直に順位に反映させてもらいました。

(M)10位:すべてのお話で小学生を主人公とした短編集ですが…すみません、全然ハマりませんでした。ネット上のレビューでも伊坂幸太郎最高傑作などと激賞している人が多いですが、個人的には手練れで流しながら書いたとしか思えず…。各お話ごとのつながりなど色々ありますが、カラクリがわかってもモヤモヤしたまま終わります。デビュー20周年の伊坂幸太郎先生はこれからいったい何を目指しているのかを、熱心なファンに聞いてみたいところです。少なくとも上述の本屋大賞のコンセプトに本作は合わない気がします。

◆「52ヘルツのクジラたち」(町田そのこ著 中央公論新社)

(金)3位:理不尽な虐待や歪んだ愛に苦しみ、誰にも届かないとの絶望の中で声無き声で救いを求め叫び続ける人々をはぐれクジラに例えて描いたこの作品は、誰しもが魂のつがいに出会える希望を描くと同時に、届かぬ声に耳を澄ませる覚悟とそれを支える愛情を心に育むことを世に求める啓蒙の書とも言えます。美晴の美しき友情でご都合主義を相殺し3位です。

(M)大賞:シリアスな展開の連続で、読み手としてはともするとその痛みを共感するのが難しい可能性もあるところ、リアリティーある筆致で読者を最後まで物語につなぎ留める強さがあります。作者の文体もどことなく「キラキラ」している感じがあって、そこが救いとして作用しているのかもしれません。個人的には最終章が無い方が良いかと思いましたが、意見が分かれるところだとは思います。

「この本を盗む者は」(深緑野分著 KADOKAWA)

(金)9位:ファンタジーミステリーという新境地と、物語の中の物語という難しい構成に挑戦した著者の意欲を評価せねばと思いつつも、好きになれないこのジャンル、中途半端な謎、そして何より強引に読ませる吸引力を感じないストーリーと三拍子そろってしまっては、本屋大賞常連の深緑作品をこの順位にすることに怯みながらも、勇気を奮って9位としました。

(M)9位:特設サイトのカラテカ矢部太郎の漫画には「読ませる力がすごい、この本の世界にグイグイ引き込まれます!」とありますが、まったく逆の感想でした。展開が早すぎて全然引き込まれません。しんどさを我慢して最後まで読み進めるも、ぽかんという感じでした。深緑先生の本への愛がどういうものなのか、私に伝わりませんでした。2年前に本屋大賞にノミネートされた同氏の「ベルリンは晴れているか」はやや冗長な感じはありながらも綿密な取材に基づいており迫力もあり、そちらをお勧めします。

「自転しながら公転する」(山本文緒著 新潮社)

(金)10位:アラサー女性の屈託を詰め込んだぐずぐずの恋愛小説にお仕事小説のエッセンスを加え、日越の往来という空間的、名作「金色夜叉」を下敷きにするという時間的広がりも盛り込んだ百貨店感の割には、プロローグで提示される謎以外に推進力の乏しい平板でコンサバな内容となったのは残念。極端な登場人物設定もやや減点要因でこの順位となりました。

(M)7位:前半は結構ぐいぐい読み進められたのですが途中から主人公の感情の波の振れ幅が激しすぎて船酔いのような気分に…。令和版「渡る世間は鬼ばかり」を作るならこんな感じなんでしょうね。主人公都の人格が途中から一貫性のない感じになっていたのが気になった反面、もう一人の主人公貫一の描き方は(その名の通り)ある意味一貫していて良かったです。あとプロローグ・エピローグは蛇足、というか、はっきり不要だと思いました。

「八月の銀の雪」(伊与原新著 新潮社)

(金)7位:表題作を含む5作の短編から成るこの本は、自然科学を切り口に自然と人間のアナロジーを描き、人間に生まれながらに備わった強さや美しさについて気付かせてくれるポジティブ理系ストーリーです。人との出会いが新たな知識の地平を拓き、迷いや呪縛から人を解き放つという当たり前のプロセスに無性に感動させられるのはこんな時代のせいでしょうか。

(M)8位:こちらも短編集ですが、どのお話もほぼ同じパターン(メッセージ)で、しかも説教臭い感じもあり正直全然乗れませんでした。「お探し物は図書室まで」を希釈したようなイメージでしょうか。並行して読んだ同氏の長編「お台場アイランドベイビー」のほうが断然面白かったので、未読の方はそちらをお勧めします。あとクジラネタが「52ヘルツのクジラたち」と被っていて、当然そのテーマにより正面きって取り組んだ「52ヘルツ」のほうが良く見えてしまうという点で気の毒だったと思います。

「滅びの前のシャングリラ」(凪良ゆう著 中央公論新社)

(金)大賞:1か月後に地球が消滅するというこれ以上無い絶望的な状況を描くことで、人は未来が有るから生きるわけでも、大いなる力が生かしてくれるわけでもなく、生きている証を刻み、自分らしい営みを自ら紡ぎ続けていこうとする意志そのものが人生の意味であるとの力強いエールをこの時代に届けてくれた凪良ゆうにぜひ連覇を成し遂げてもらいましょう。

(M)5位:エンタメとしては面白く一気に読ませる力はありますが、昨年の同氏の本屋大賞受賞作「流浪の月」と同じく登場人物の描写がやや平板な感があります。アニメ・映画への展開を念頭に書いているのかもしれません。隕石がぶつかることになってからの日本の色々な描写はそれなりにリアリティーはあると思いながら、まだまだ食い足りない感じはありました。なお本作でもアイドルが題材になっているのですが、関係ないですが赤坂アカ&横槍メンゴの「推しの子」という漫画が非常に面白いのでお勧めです。

長文を最後まで読んでいただきありがとうございました!結果発表を楽しみにお待ち下さい。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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