金次郎と宿敵Mによる本屋大賞2020予想対決!

いよいよ金次郎と宿敵Mとの本屋大賞予想対決の時がやって参りました!今日は余計なことは書かず、それぞれの総評、順位予想と一言コメントを紹介させて頂きます。

4月7日(火)に公式順位が発表される予定となっており、予め合意したルールに従って点数を計算、決着を付けることになります。 (詳細は→本屋大賞2020ノミネート作品発表!)

本を背負って本を読みながら本の山を積み上げる金次郎が勝つのか、老獪な言葉の魔術師Mがその感性の冴えを見せつけるのか、結果が待ち遠しいところです。

金次郎

【総評】

上位6作はすんなり選べたのですが、いずれ劣らぬ秀作揃いでそこからの順位付けに悩みに悩みました。結果、一番心に深く刺さったという基準で大賞は「夏物語」、当てに行く気持ちを少し忘れて、こんな時だから明るくなれる「店長が」を次点に推しました。多くの人に受け入れられるエンタメ作品として「線は、」は外せず第3位です。直木賞でスケールの大きさが売りの「熱源」は逆に壮大過ぎて理解が追い付かないかもと第4位、「ライオン」は素晴らしいが新井賞作は上位に来ないジンクスを信じ勝負に徹して第5位にしました。ミステリーは本屋大賞に弱い実績から「Medium」は泣く泣く第6位とさせて頂いております。

【順位予想】

本屋大賞:「夏物語」(川上未映子著 文藝春秋)

静かな社会現象である非配偶者人工授精を切り口に、生まれてくることを自ら選択できない子供の完全な受動性というある意味究極の理不尽に光を当てた本作は、家族の在り方を世に問う社会派小説であると共に、そもそも不条理な人生に苦悩しつつも立ち向かう覚悟の美しさに気付かせてくれる感動と導きの書でもあります。

第2位:「店長がバカすぎて」(早見和真著 角川春樹事務所)

バカという名の理不尽に振り回され、怒り、悩み、焦り、疲れ果て自分を見失いながらも、仕事に真摯に向き合い続ける苦境の契約社員書店員谷原さんがなんともチャーミングな本作は、同時にノミネート作中随一の笑える作品でもあります。そして、自分の部署には無理だけど、隣の部署にはいて欲しい山本店長は本当にバカで最高です。

第3位:「線は、僕を描く」(砥上裕將著 講談社)

老師に才能を見出される若者の成長を描くという少年漫画プロットの本作が、普通のエンタメ作品と一線を画す高みにあるのは、描かれなかったものと何も描かれていない余白にその本質を見出すという、奥深い水墨画の世界を、その世界に身を置く芸術家である著者の感性で鮮やかに疑似体験させてもらえるからだと思います。

第4位:「熱源」(川越宗一著 文藝春秋)

魂の純粋さと、その魂を動かす〈熱〉の普遍性を描くことを通じ、改めて人種や主義信条等の隔たりを超えることのできる人間という存在のポテンシャルを、圧倒的なスケールとアイヌ、ポーランド、日本という多様性を表現しきる力で突き付けてくるエネルギー溢れる作品です。実在の人物を登場させ、物語を引き寄せやすくする工夫が効いていますね。

第5位:「ライオンのおやつ」(小川糸著 ポプラ社)

離島、ホスピス、余命いくばくも無い若い女性、と悲しさマックスモードで始まって、そこからたくさんの〈死〉と向き合うことになるにも関わらず、心は不思議と重くなりません。全ての終わりでなく魂の通過点として死を意識することで、自分や周りの人生に意味を与える死生観は感動作「西の魔女が死んだ」を彷彿とさせます。

第6位:「medium霊媒探偵城塚翡翠」(相沢沙呼著 講談社)

質の高い作品であればあるほど紹介文を書きにくいのがミステリー評の悩みであり、その意味では、何一つ書けることが無い事実が本作の完成度を示していると思います。論理そのものであるミステリーと論理的ではあり得ない霊媒を鮮やかに結び付けるプロットの巧みさや、犯人と共に戦慄することになる最終章の迫力に惚れ惚れします。

第7位:「むかしむかしあるところに、死体がありました。」(青柳碧人著 双葉社)

桃太郎や鶴の恩返しなどの超ポピュラーな昔話をモチーフに、アリバイ、密室、倒叙といった本格推理の要素を組み込む形式の本作は、読者が幼年期から刷り込まれてきた既成のストーリー展開に無意識に引っ張られてしまう効果に翻弄され、意外性という最大限の賛辞を与えざるを得ない秀作ですが、諸刃の剣でやや重厚さに欠ける点が難と感じました。

第8位:「ムゲンのi」(知念実希人著 双葉社)

プロットは凝ってます、可愛いキャラも登場します、主人公のターニングポイントも描けています、でも、本作がどうしても「かがみの孤城」を越えられない要因は、乗り越えるべきトラウマに感情移入しにくい点に尽きると思います。もっとストーリーの幹をミステリーに寄せていれば、例えば主人公が医者でなければ、もっと良かったのに残念です。

第9位:「流浪の月「(凪良ゆう著 東京創元社)

社会的にあるいは精神的にスティグマを刻まれた主人公二人が、試行錯誤の末に前を向いて進み始めるとの内容なのですが、苦悩ポイントがニッチ過ぎると言うか、本質に迫っているようでそうでもない気がするというか、新たなパートナーシップの形を提示しきれた訳でもなく、どこから感情移入したら良いのか分かりにくい作品ではありました。

第10位:「ノースライト」(横山秀夫著 新潮社)

精緻なプロットで編み上げられる複雑なストーリーが、最終的に整った形で大団円を迎える巨匠の技術の高さは改めてここで書くまでもないのですが、まさにそのこてこての技巧感と主人公の飛んだり跳ねたりぶりが、明かされる〈謎〉のインパクトの弱さと釣り合わない点がそこはかとない物足りなさを感じさせる原因になってしまっていると思います。

M

【総評】

昨年のM1覇者ミルクボーイの漫才のすごさは、ほぼ色々なことがやりつくされたと思っていたお笑いの世界で、まだ笑いの“類型”があるということを提示した点にあると思う。

それからわずか3か月、いよいよコロナが世界を席巻し生きるか死ぬかという問題に向き合うことを余儀なくされる段において、芸術全般が一体何の役に立つのかという問いが否が応でも頭をもたげてくる。

コロナ以前から複雑な現代社会における実存というテーマが選り好まれるのは自然で、今回のノミネート作も例外ではなかったが、上述するようなコロナ下の現在においては、時代や場所を超えた生きるヒントになる”型”を、どれだけ手触り感や生々しさを残しつつ示せているか、という点を特に重視した。

*但し、本屋大賞の二次投票締め切り=3/1は日本においては”プレ”コロナであり、(勝ちに行くべく)私個人の好みをある程度は抑え、シリーズ化や商業展開などの可能性なども相応に加味した。

【順位予想】

本屋大賞:「medium霊媒探偵城塚翡翠」

単純にミステリーとして完成度高い。キャラ造形もしっかりしていて主人公も魅力的にて、シリーズ展開及びメディア展開に期待。個人的には準賞だが、今後の展開ポテンシャルから栄えある1位と予想。

第2位:「ライオンのおやつ」

主人公の思考の流れをトレースする正確さ、リアリティが秀逸。それから、死をオーガズムに近いものとして描こうとする試みは、個人的には好意的に受け止めた。 ごく私的には(書店員の新井さんと同じく)1位だが、やや淡白なストーリー展開で、また感動の押し売りと思う人もいるかもしれない。ということで1位は泣く泣く他作品に譲りたい。

第3位:「熱源」

“周縁性”というテーマに向き合った作品で、舞台は20世紀初頭のサハリンが中心ではあるが、現代の諸課題について自分が具体的に持っているhomeworkに引き付けて考えるヒントを与えてくれる小説という印象。 あえて1点難癖をつけるとすると、デビュー2作目ということもあり文体がやや没個性の感あり。今後もっと独特の文体が出てくると大化けする予感。

第4位:「線は、僕を描く」

ストーリー・人物造形がやや平板で個人的には好きでは無いが、漫画等への商業展開も着実に進んでおり、上位に入ってくるのではと予想。

第5位:「ノースライト」

恥ずかしながら初横山秀夫作品だったが、安定した筆致でストーリーに引き込まれ一気読み。登場人物も魅力的。作品の鍵となるドイツの建築家ブルーノタウトを巡る物語も面白かった。ちょっとハードボイルド感が“古い”感じもあり、バブル世代以後の読者に受けるかどうかという余計な心配も。

第6位:「ムゲンのi」

ファンタジーミステリーへの挑戦は買うが人物造形の底の浅さと設定の作品甘さがどうも気になる。ファンタジーパートの描写全般も個人的にはネガティブ。結局この作品で何が言いたいのかもイマイチわからず(タイトルも鼻につく)。 と、ここまで書いて、私は昨年のノミネート作もあまり良いと思わず、単に知念作品と相性が悪いだけのような気も。ある程度世間受けはしそうなので、不承不承の6位。

第7位:「夏物語」

思考の流れが揺らぎのある文体と一致した、押しては引く波のような小説。登場人物も殆ど女性で、まさに女性による女性のための作品という感もあり。産む側と産まれる側の非対称というテーマも色々と考えさせられる点あり。 個人的にはベスト3に入るが、未映子姐さんの本気剛速球を受け止めるキャパシティーはちょっと本屋大賞にはないのではと思う。

第8位:「むかしむかしあるところに、死体がありました。」

泣かせる話もあったりして技のデパートという感じ。ただし技巧が前面に出た野球で言うと2番か8番バッター的な作品は、残念ながら上位にはいかないと思う。特に鶴の恩返しが良かったかな。

第9位:「流浪の月」

小児性愛、ネットの風評被害など現代的かつ若干タブー的で取扱いが難しいテーマをうまくまとめ上げた力量はあっぱれ。 ただ、巻末の著者紹介に「巧みな人物造形」とあるが、特に女性の描写がややテンプレート的(作者が女性だからか、あるいはBL作家だからか)で、巧みとは正直思わず。(この点、小川糸や川上未映子に軍配)

第10位:「店長がバカすぎて」

気軽に読み切れたが、ちょっと伏線がわかりやすすぎてオチが読めてしまった。アニメor映画化の線はあるかもしれない。ネタバレは避けるが、この本が本屋大賞にエントリーされるのはちょっと”下駄をはかせてもらった”感あり。

以上、二人の予想でした。こんなに長くてマニアックな記事を最期まで読んで頂きありがとうございました。7日の結果報告もご期待下さい!

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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