金次郎、父に電話をする+「興亡の世界史」シリーズ(全21巻 講談社)もいよいよ終盤

昨晩はユリコショックにより、海外赴任する友人の送別会が急遽キャンセルとなり(海外赴任そのものも当面難しそうですが)、在宅勤務終了後、在宅だらだらを楽しみつつ、実家@福岡の父に連絡してみました。

福岡はコロナ患者が11件というまずまずの優秀県ということもあり、幸い父はすこぶる元気そうにしており安心したのですが、逆に「東京は大変なことになっとらんか?あの街に集まっている若者はなんばしよっとか?電車にはどげんして乗りよるとか?」と立て続けに質問&激しく心配され親のありがたみが身に染みると同時に、地方からは東京はそれほどデンジャラスに見えているのだな、と改めて感じました。

SARSが流行した2003年にシンガポールに駐在しておりまして、感覚的にはあの時より危機感は高い気がしており、ネットメディアによる情報過多のせいか、年を取ったせいか、はたまた本当に危険な状態なのか、正直分かりませんが、親に心配かけぬよう感染防止には最大限気を付けたいと思います。 (あの時は、コンラッドホテルで食事した後、車寄せのおじさんに当日の宿泊者数を聞いたところ「5人!」と言われて絶句したことを鮮明に覚えています。)

コロナは勿論大変なのですが、読書が趣味というのはとても都合が良く、外出できないストレスも無く、在宅勤務修了時点で一瞬で趣味の時間に移行できるというのは非常に幸せです。おかげさまで今月は目標の25冊を既にクリアし、28冊目に突入しているというハイペースになっており、今年も300冊が見えてきたぞと密かに喜んでいるところです。

さて、いよいよこのシリーズも終盤に差し掛かってきましたが、ずっと読んでいる「興亡の世界史」(講談社)の紹介です。

#17「大清帝国と中華の混迷」(平野聡著):

万里の長城を越え、異民族でありながら漢人・朱子学・華夷思想が支配した明の後継国家となった清が、朝貢国としてチベット・モンゴルを従え、東アジア国家から内陸アジア国家に転換しつつ版図を拡張していく中で、仏教の保護者、騎馬民族のハン、そして中国皇帝という性格の異なる統治者という矛盾を内包していたこと、 やがて朱子学の引力が満州人の漢人化をもたらし、19世紀後半から再び東アジア国家となって西欧列強と日本を含む帝国主義抗争に巻き込まれたとの流れ、が分かりやすく解説してある本作は、このシリーズの特徴である教科書に無い歴史における視座を与えてくれるという意味で非常に面白いと思います。

物理的な版図は現代の中国が受け継いでいるものの、チベット仏教の影響を受けた中外一体思想や一君万民のある意味での平等主義は現代と大きなギャップが有り、中国によるチベットの完全支配への拘りの背景が少し理解できた気がして興味深いです。

#18「大日本・満州帝国の遺産」(姜尚中・玄武岩著):

五族協和・王道楽土の理想郷として日本、続いて朝鮮半島から多くの移民が流入した満州国が産み落とした、昭和の妖怪岸信介と独裁者朴正煕が、大戦後の高度成長を主導した歴史に光を当て、それぞれの統治理念、統治手法における戦前、戦後の連続性を浮かび上がらせる姜尚中先生の力作です。

左右両翼を包含する保守合同の理念が象徴する岸の国家社会主義と官僚主導の統制経済、 朴の革命思想、自主国防と重化学工業化はいずれも満州時代に育まれたものであり、 現代までつながるこれらの体制を思うと、遠い昔の話と考えていた満州国時代が目を背けず学ぶべき対象として改めて認識され、良い刺激になりました。

さて、2019年の読書を振り返っての本紹介も今回でいよいよ終了です!3月中に完了できて良かった。

【2019年10~12月に読んだおすすめ本】

「BLUE」(葉真中顕著 光文社)は平成と言う時代の世相を振り返りながら、格差、貧困、虐待、外国人労働、無戸籍等、この時代に顕著となった社会的課題を問い直すサスペンスです。 やや小ネタを盛り込みすぎの感も有りますが、読み進める毎に懐かしい平成の出来事に触れる楽しみを感じられる作品。そして自分が年を取ったことを実感します。

「罪の轍」(奥田英朗著 新潮社)も、同じく、最近流行の平成とか前回のオリンピックの時代を振り返るコンセプトのクライムサスペンスです。 さびれゆく北海道の離島とオリンピックを目前に経済成長を謳歌する東京とのコントラストから始まり、〈吉展ちゃん事件〉を下敷きに情報通信・交通網の進化が警察組織や犯罪捜査の在り方に変革を迫る様子を描いています。

インターネット環境の拡充とAI技術の急速な普及が進む東京オリンピック直前の(延期になっちゃいましたが)現在とのアナロジーも感じられる内容ですが、1963年の上野、新宿近辺の混沌とした猥雑さの何とも言えないエネルギーは現代とは少し違って、その点はやや寂しいところ。

著者の作品は伊良部一郎シリーズのちょっとふざけた感じのものしか読んだことがなく、犯人、警察、庶民それぞれの視点でシリアスな内容をきちんと描く実力に驚きました。犯罪者心理についてはちょっと消化しきれていない部分有りますが、やや長い点を除けばなかなかおすすめです。

ビジネス書としては少し古いですが「ザ・ゴール」(エリヤフ・ゴールドラット著 ダイヤモンド社)は、制約条件の理論(TOC=Theory of constraints)に基づき製造プロセス上のボトルネック を発見・活用・拡張し、この作業を全体最適の視点を意識して実行することでオペレーションの効率化を達成する、という内容ですが、個別最適・効率化とコストベースの会計制度に異を唱えていて、当時としては相当画期的な発想だったというのが、 物語内で次々と課題が解決されていくことからも分かります。小説形式で読みやすく、ボトルネックにfocusするというのは現在でも重要な視点と思いますので未読の方にはおすすめです。

「本当の翻訳の話をしよう」(村上春樹/柴田元幸著 スイッチ・パブリッシング)

は第1章でいきなり米文学の超オタクトークから始まる対談集ですが、途中に二葉亭四迷(ロシア語)、森鴎外(ドイツ語)、夏目漱石(英語)の話など、日本における翻訳文学の歴史みたいな話題もはさみつつ、第8章では両先生がレイモンド・チャンドラーやスコット・フィッツジェラルド の文章をそれぞれ翻訳して比較する、という何とも言えない最高の企画で終わるという、本好きにはたまらない一冊です。

かの有名な「プレイバック」(レイモンド・チャンドラー著・村上春樹訳 早川書房)の中の〈タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きている意味が無い〉 が両先生によってそれぞれどう訳されるのか、「グレート・ギャツビー」(スコット・フィッツジェラルド著・村上春樹訳 中央公論新社)の有名な冒頭でポイントになる部分はどこか、等とにかく面白い。

村上春樹がどのように小説を構想しているかや、どういう視点で小説を読むか、とかについても語られていて、本を読む楽しみが増える点もおすすめです。映画化された「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」がフィッツジェラルドの作品だったとは知りませんでした。

「福沢諭吉の事件簿」(鷲田小弥太著 言視舎) は諭吉先生の目線で幕末から日清戦争までの出来事を描いた歴史小説です。タイトルからちょっと軽めの内容かと思って読み始めたのですが、意表をつかれる重厚な中身に姿勢を正して読むことに。

必ずしもストレートで分かりやすい人物ではなかった諭吉先生の文明開化、憲法と国会、脱亜論等に関する心境や主張の変化を、架空の登場人物との対話を通じて鮮やかに表現する手法は、さすが哲学者の手による作品と感服します。諭吉先生と坂本龍馬の思想のシンクロや慶應義塾設立、時事新報の発行にまつわる苦労話などもなかなか面白く読めます。見方の分かれる伊藤博文公の評価がかなり高い点も興味深いです。

いつも最初に記事を読んでもらう妻に「長い」、「情報量が多過ぎて読みにくい」と厳しい批判を頂戴しており、次回から少し短めにすることを考えております。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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