「日本列島回復論 この国で生き続けるために」(井上岳一著)とその関連本を読む

このブログで書いてから少し間があいてしまったので、あれやらないのかな?と思っている読者の方もいらっしゃるかもしれませんが、〈本屋大賞対決〉、忘れておりません。

先週末に「流浪の月」を読了し、ノミネート10作品全てを読み終えましたので、これから順位予想を悩みに悩もうと思います。対決の相手であるMに確認したところ、「熱源」を残し9冊読み終えたとのことで、我々二人だけの非常に狭い世界でのどうでもいいニッチな争いではありますが、コロナのせいで刺激の少ない日常が続く中、4月7日の発表までこのネタで気分を上げて行こうと思います。

さて、学生時代のの先輩が推奨されていたので「日本列島回復論 この国で生き続けるために」(井上岳一著 新潮社)を読んでみました。

著者が4年の期間を費やして思いのたけを詰め込んだだけのことはあり、平易ながらも非常に理知的な文章で綴られる内容は多岐にわたり、情報の量と幅広さに、 気を抜くと圧倒されて迷子になってしまいそうです。

日本の国土の7割弱を占める森林が人々の生活の基盤であった時代から紐解き、 明治維新後の富国強兵、立身出世の流れの中で山村を中心とする地方の〈労働力源〉化が始まり、 回遊マグロのように安価な労働力を求め続けざるを得ない資本主義の進展と、 石油へのエネルギー転換、貿易自由化があいまってこの傾向が加速し、都市と地方の二極化構造が生まれた経緯を分かりやすく解説してあります。

更に、田中角栄の土建国家モデルを通じた再分配の試みとその限界、 新自由主義とグローバル化礼賛によって、土地やふるさとといった拠り所を失った都市住民に〈格差〉問題が直撃している現状、 といった現代社会の構図についても筋道立った説明で流れがよく分かります。

また、この本を読むと、同時に地方で並行して進行した、過疎化、高齢化、里山の奥山化(→獣害の深刻化)等の問題の背景も分かる仕組みになっており、 まさに維新後150年の間に日本列島で起きてきたこと、を俯瞰できる大変ためになる内容です。

本題である〈日本列島回復〉に向けては、古来から我々の生活の基盤であったにもかかわらず経済成長プロセスの中で見捨てられてきた、〈山水郷〉に最新のIT技術と共に回帰し、その資源を活用しながら、多業、コニュニティでのintimacy、小さい組織での迅速な意思決定、を通じて地方からイノベーションを推進することで新たな未来を切り開く、という非常に前向きなメッセージで元気が出ます。

金次郎の名前を頂戴した、二宮尊徳先生の〈天道と人道〉が紹介されていたり、 会社の先輩方に人気が有ると最近知った〈フーテンの寅さん〉的存在の消滅が無縁社会の象徴として取り上げられていたりと個人的にも親近感が持てる内容でメリハリの利いた読書ができました。

ただ、全体のバランスもあってか、もっと知りたかった具体論のところに紙幅が充分に割かれていなかったのがやや消化不良でもあり、本文中でも紹介されていた「限界集落株式会社」(黒野伸一著 小学館)を読んでみることに。

谷原章介主演でドラマ化もされたこの本は、MBA金融マンがBMWで過疎限界集落に乗り込み、生産・流通の合理化、ブランディングを含むマーケティングの概念導入といった〈経営〉の手法を用いて崩壊寸前の農村を復活させる、という内容です。

勿論100%のリアリティを求めてはいけませんが、日本農業復活に向けたポイントは提示されていますし、〈経営〉と〈現場〉の対立軸も印象的に描かれていて、エンタメ的なラブストーリーもちゃんと挿入されているのでとにかく面白くて楽しめる本です。

ちょっと長くなってしまったのでこれぐらいにしますが、 「脱・限界集落株式会社」(黒野伸一著 小学館)はシャッター通り復活、地方都市再生のお話、「となりの革命農家」(同 廣済堂)は日本農業の構造問題についての内容で、楽しみながらこれら重要テーマについて現状の一端とその解決策のヒントが得られるという意味で興味の在る方にとっては有意義な本だと思います。

同じく本文中で紹介されていた「里山資本主義 日本経済は〈安心の原理〉で動く」(藻谷浩介著 KADOKAWA)はマネー資本主義のサブシステムとして〈里山資本主義〉と著者が呼ぶ、GDPには表れない地産地消のシステムを整備する、との主張で、地方を活性化しようとする魅力的な活動の数々が紹介されています。

来週は毎日在宅勤務となりました。ひるおび、の恵さんに洗脳されてしまいそうです(笑)。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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