高校生になった文学女子ABさんに恐る恐る本を紹介

同じ美容室に通っているというだけの接点で、会ったこともない双子女子ABさんに気に入ってもらえそうな本を不定期で紹介するこの企画も今回でもう第11弾となりました。小学生だったお二人も春からは高校生となりどんどん新しい世界を切り拓いているのに対し、割と立ち止まっている中年として焦る気持ちも有りますが、読書の師匠としての威厳を保つべく今回も全力で臨もうと思います。金次郎が高校に入ったのは1988年ですが、当時はえせヤンキー中坊から真面目県立高校生となり、学業も運動も周囲にそこそこ手強い奴等がいるぞという雰囲気が漂う中、色々真剣に取り組まないとちょっとまずいかも、などとぼんやり考えていたことを思い出します。

そんな折、えせヤンキーを引きずっていて乱れた服装をしていたのが災いしたのか、2年のM先輩から応援団に入れと熱心に勧誘され、当時意外にもナイーブであった金次郎は、入団したくない気持ちをきちんと伝えてうまくお断りすることができず、入部したての陸上部の3年であるA先輩のお手を煩わせる形で間に入って断っていただいた記憶が蘇りました。決してMさんが高圧的だったということはなく寧ろ優しかったのですが、未熟さゆえにやりたいことは応援団ではないという気持ちが自分の中で上手くまとまらず、思春期らしくぐちゃぐちゃと絡まった思いを伝えきれないもどかしさや、自らの始末を付けられなかった情けなさから、恥ずかしながら教室の壁をゴンゴンと拳で殴りながら涙が止まらなくなったことが懐かしく思い出されます。今にして思うと、自分のことは自分で決めたいという拘りや、かなり最近まで他人に頼るのが苦手だった性格の根っこには、もしかしたらそんなちょっとビターな若かりし頃の経験が影響しているのかもと得心いたしました。どうでもいい話でしたが(笑)、ABさんも新しい環境や新しい人間関係の中で、感性が柔軟なうちに色々な経験を積むことを通じて、自分の意外な一面や思いもよらない感情の動きなどを味わい尽くす青春時代をエンジョイしていただければいいなと老婆心ながら願っております。

(最近の紹介企画はこちら:⑨金次郎、時々訪れる神宮外苑の再開発に興味を持つ/⑩金次郎、文学女子ABさんに受験勉強の疲れを癒す本を紹介

(文学女子ABさんへの紹介本5選)

「名探偵外来 泌尿器科医の事件簿」(似鳥鶏著 光文社):金次郎もABさんも気に入っている似鳥先生の作品ですが、相変わらずエッジが立っていてなんと主人公は泌尿器科医です(笑)。キャラの濃い登場人物たちに真面目な主人公鮎川がかすみがちになりつつも、たくさん出版されている医療ミステリーではあまりお目にかからない種類の謎を解いていく展開が新鮮です。似鳥先生が一生懸命医学について勉強されたことが文章から滲み出ていて応援したくなる一冊でした。

「一心同体だった」(山内マリコ著 光文社):女の子同士の繊細過ぎて脆過ぎる友達関係を10歳から40歳までの女子たちの様々な友情の形を切り取ることを通じて描こうとした連作短編集です。短編毎に語り手がリレー形式で変わっていくので、微妙な関係が立体的にイメージできて、思いがすれ違ってしまう構造がよく分かります。一心同体のように親密だった友達関係があっけなく破綻する様を象徴するタイトルから漂う無常観も切なく、一番読んで欲しい一冊となっております(笑)。

「不知火判事の比類なき被告人質問」(矢樹純著 双葉社):ちょっと冴えない不思議ちゃん左陪審の不知火判事が公判の最終盤で放つ一言の質問で、世界の見え方をがらりと変えてしまう展開の妙が痛快などんでん返しミステリーの連作短編集です。傍聴マニアのおじさん達のキャラが立っていて、ともすれば淡泊になりがちなストーリーに彩りを添えています。シリーズ化やドラマ化も期待できるので先物買いでどうぞ。

「北緯43度のコールドケース」(伏尾美紀著 講談社):北海道で発生した少女誘拐殺人事件が迷宮入りとなる中、男社会の警察組織内で苦悩しながらも事件の真相解明に挑む博士くずれ警部補沢村依理子の奮闘を描いた江戸川乱歩賞作品です。警察内部の事情が大変リアルに描けていると思うのでABさんが警察小説初心者なら入門編として是非読んで欲しい一冊です。このジャンルに興味が出ると読みたくなる本の量が爆発的に増えて読書の楽しみが増すこと請け合いです。ちなみに続編の「数学の女王」(同)はジェンダーバイアスをテーマにミスリードが効いた秀作でした。

「女帝の古代王権史」(義江明子著 河出書房新社):これは読んでもらえなそうと薄々気づきながらもどうしても趣味でリストに入れてしまういつものあのパターンです(笑)。一つ前の紹介でも触れたジェンダーバイアスを排除して古代を眺めることで、これまで中継ぎ程度の位置づけしかされてこなかった古代における女性天皇の実権の伴った統治者としての実像に光を当てると同時に、律令制導入を契機に日本の古代社会がいかに大きな変貌を遂げたかについて指摘した良書だと思います。ABさんが歴史に興味無かったら本当にすみません。

一応普通の読了本の紹介もしておきましょう。今回は実力派作家の短編集を選んでみました。「うたかたモザイク」(一穂ミチ著 講談社)は様々なジャンルやテーマを取りそろえた13作の短編が収められた正にタイトルにある〈モザイク〉という言葉にふさわしい作品集になっております。sweet、spicy、bitter、salty、tastyの5パートに分かれており、文字通り違った味わいを楽しめるのが特徴です。いくつか気になった短編を紹介しますと、「人魚」は、自分は人魚だと言い張る彼女との恋愛ストーリーで、SFかと思いきやそうでもなく、リアリティが有るような無いような不思議な雰囲気の中で、いきなり恋愛に対する覚悟が問われてどぎまぎし、最後はぐっとくるというなかなか印象的なお話でした。「Sofa&」はソファーの視点で一人の女性の人生を描いた異色作ですが、そこはかとなく漂う切なさのみならず、大切な人と共に過ごす時間を積み重ねていくことの幸福を改めて感じさせられるところが更に良しでした。「神さんはそんな優しない」は死んだ後猫に生まれ変わって未亡人となった元妻に拾われるというお話で、ペット視点で諸々振り返るというのは比較的ありがちなプロットでイマイチかと思いきや、スパイスの効いたサプライズのエンディングでドキリとさせられて意外と心に残るお話でした。最後の「透子」は勉強が苦手な女の子が主人公のやるせなくて胸が痛いけれど、最後はすっきりして心がじわりと温かくなるお話でした。本屋さんが出てくる小説は何でも好きです(笑)。

と一穂作品を讃えましたが、短編集の出来という意味では11作が収められた「チョウセンアサガオの咲く夏」(柚月裕子著 KADOKAWA)に軍配が上がると思います。研ぎ澄まされた表現で人間の狂気や哀愁を描き上げる柚月先生の実力に恐れ入る作品集ですが、特に表題作はサスペンスミステリーホラーと言っても過言ではない盛沢山な内容が短い文章の中でしっかりと過不足無く表現されており結構怖いけど秀逸です。時代小説の「泣き虫の鈴」と「影にそう」の2作はいずれも盲目の女旅芸人である瞽女を描いていて、厳しい生活の中にあっても一本筋の通った登場人物たちの姿勢に背筋が伸びる清々しい作品でした。「愛しのルナ」は金次郎の大好きな猫の出てくる話ですが、とにかく最後の場面が怖すぎてぞっとします。短編好きの方もそうでない方も、柚月先生好きな方もそうでない方も、ぜひ読んでいただきたいおすすめ作品でした。

最近は週2回のペースで飲み会を入れているのですが、帰宅後英会話、踏み台昇降、読書、ブログ、30分弱の入浴、ドラマ&アニメ観賞をこなさねばならず、どう頑張っても時間が足りません。一体どうすればいいのか分からず途方に暮れております(涙)。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

「高校生になった文学女子ABさんに恐る恐る本を紹介」への4件のフィードバック

  1. 金次郎さん、毎度のご挨拶ですがご無沙汰しております。先日E美容師さんと「明日、師匠が来ますよ」「あら、ABちゃんは明後日なのに…」と会話してきました。まさかの金次郎さんの前日と翌日に来院とは。なかなか会えないものですね。
    ABちゃんはなんと、あまり本が読めていません。ひたすら勉強しております。バス+電車通で、バスは15分ほど座っていくので読書タイムかと思っておりましたが、貴重なお勉強タイムのよう。田舎高校生だった私とは違い、似たような学力帯の子たちが集まる環境では学校の求めるレベルに持っていくのが大変なようで。でも有れば読むと思うので、手配します。

    1. 恵子さん、コメントいただきありがとうございます。いつもニアミスですが、実際お会いしたら師匠のくせに超緊張してしまうと思いますし、ましてやJKのABさんとは何をどう話していいか分からず挙動不審になること受け合いなので少し安堵したりもしております(笑)。
      本も読まずに勉強とはなかなかに辛い話ですね。でも、若い頃に身に着けたこつこつ努力する習慣は一生の財産になるとも思いますので応援しております。と言いつつ紹介企画は今後も押し売り的に続けさせていただきます!

      1. こんにちは。
        ABちゃんはただいま、「一心同体だった」を読んでおります。夏休み中、読書が捗るようで、本屋さんでもいろいろ調達しております。
        私は「北緯43度のコールドケース」がツボでした。地図がアタマの中に広がり、お菓子に反応し、会話文を北海道弁で脳内再生し… ABちゃんに「ばりばり北海道弁だったねー」と言ったところ、「そう?」と伝わらなかった模様。どうやらイントネーションの問題なようで、音読してあげてようやく理解してもらえました。
        明日はE美容院のお披露目会に伺う予定です。

        1. 恵子さん、コメントいただきありがとうございます。こんなに暑い夏には家で涼しく読書が一番ですね。紹介本を気に入っていただけて良かったです。また北海道を舞台にした小説を探しておきますね。私は伊豆に旅行に行ったせいで源平ものばかり読んでしまっております。。。E美容室いよいよ明日開店ですね。正直渋谷は色々厳しかったのでホッとできる空間の復活を祈っております。

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