いよいよ本屋大賞2023ノミネート作品発表!

今年もこの季節がやって参りました。金次郎と宿敵Mによる本屋大賞予想対決のキックオフとなるノミネート10作品発表が予定通り1月20日(金)に行われ、読書家のプライドを賭けた順位予想と読者の皆さんに楽しんでいただけるシャープな選評作成が頭を離れない、緊張と高揚感とストレスを感じ続ける3か月が始まりました。今年はノミネート10作のうち、既読がたったの4作しか無く、これからじっくり読み込んでいくのが楽しみです。構図としてはもはや本屋大賞の常連となった青山先生、凪良先生、町田先生の三羽ガラスに昨年「スモールワールズ」で彗星の如く現れた一穂先生や直木賞を取ったばかりの小川先生、更には人気作を連発している呉先生や寺地先生が挑む構図ですが、残りの3作も超話題作でありどんな結果になるかは全く予断を許しません。フレッシュな面々が並ぶ一方で伊坂先生、知念先生、森美先生などの常連組が選外となっていて競争の熾烈さを感じます。

【本屋大賞2023ノミネート作品】

「川のほとりに立つ者は」(寺地はるな著 双葉社):未読。人気の寺地作品が本屋大賞でどこまで通用するのか、今から読むのが非常に楽しみ。

「君のクイズ」(小川哲著 朝日新聞出版):未読。「地図と拳」で直木賞を受賞し勢いに乗る小川先生の作品なので面白さは折り紙付きも、時に超難解なので一般受けするのかが評価のしどころ。

「宙ごはん」(町田そのこ著 小学館):既読。いつもの町田ワールドを少し切り口を変えて表現した工夫を感じる作品。じっくりと再読したいが読みながらお腹がすくのが難点。

「月の立つ林で」(青山美智子著 ポプラ社):未読。2年連続2位に甘んじている青山先生が満を持して大賞を狙う作品。タイトルはなんとなく悪くなさそう(笑)。

「汝、星のごとく」(凪良ゆう著 講談社):既読。金次郎やや低評価のブランチBOOK大賞作。改めて心を無にしてゼロベースで読み返してみます。

「方舟」(夕木春央著 講談社):未読。ずっと読みたくて読めていない作品。渇望から入ることで評価が偏らぬよう深呼吸しながら読む所存。

「#真相をお話しします」(結城真一郎著 新潮社):既読。ただでさえ予想が難しいミステリーな上に、〈既に売れている〉ことから評価に悩む作品。

「爆弾」(呉勝浩著 講談社):既読。スズキタゴサクとまた対峙するのかと思うとやや憂鬱になるも(笑)、あの緊迫感をまた味わえるのは楽しみ。

「光のとこにいてね」(一穂ミチ著 文藝春秋):未読。昨年3位となった後に出た作品も全て高いクオリティを維持していて、これが続いていれば大賞への期待も高まる。

「ラブカは静かに弓を持つ」(安壇美緒著 集英社):未読。全く未知数のダークホース作品。今回の予想対決のカギを握るか?

一応読んだ本の紹介もしておきます。

「あの本は読まれているか」(ラーラ・プレスコット著 東京創元社)は冷戦時代にアメリカCIAが極秘に進めていた、文学の力で旧ソ連の政治体制を草の根から突き崩そうとした作戦を、その作戦に直接、間接に関与した女性たちの人生を軸に描くノンフィクション的な物語です。戦争と革命という激動期のソ連にあっても変わることの無かった人間愛を表現し、ノーベル文学賞作となった「ドクトル・ジバゴ」を著し激しい言論統制の対象となった詩人で作家のボリス・パステルナークを愛したオリガの苦難に満ちた人生と、CIAから才能を見出され同書をソ連に持ち込むスパイとなったロシア系アメリカ人イリーナの数奇な人生が交互に描かれる構成となっています。上記からも分かる通り、スパイ小説や恋愛小説としても読めるのですが、自由の国アメリカの意外な女性差別やハラスメントそして同性愛への強い偏見をも白日の下に晒す一流のフェミニズム小説でもあります。オリガは強制収容所に送られながらも道ならぬ愛を貫いていて、その佇まいが美しいのですが、お相手のボリスの方はというと、非常に煮え切らず、激しい弾圧をうけたとはいえ思想的にも変説してしまいちょっと応援しにくい人物として描かれています(笑)。一方で西側代表として登場するイリーナについては、何者でもなかった一人の女性が、スパイという徹底的に自分を殺さねばならない職業を得て自らの実存を確認するというアンビバレントな感覚に気持ちをかき乱されますが、最後は超克の爽快感を感じられると思います。ちなみに著者であるラーラ・プレスコットさんの名前の由来は「ドクトル~」の主人公から取られたとのことで運命に導かれて書かれた作品だと感じました。ここまで来たらさすがに「ドクトル~」を読むべきかと思いましたが、上下巻で1000ページ超えのボリュームと正直面白くないだろうとの予感に(笑)やや躊躇しております。

「教誨」(柚月裕子著 小学館)は自分の娘を含む幼女二人を殺した罪で死刑となった響子が刑執行の直前に語ったという「約束」の謎を追うクライムサスペンス小説です。響子と遠縁にあたる香純はかつて一度だけ法事で出会った彼女の印象と殺人とのギャップに疑問を感じ、彼女が暮らし事件の現場となった地方の町に赴いて素人ながらに色々と調べ始めます。考えられない田舎町の閉鎖性に阻まれつつ、厳しい女性差別の実状に面食らいながらも、香純が少しずつ真実に迫っていく様子が苦しく切なく描かれます。必ずしもすっきりと腹落ちする結末ではなくややモヤモヤした読後感となり、金次郎は死刑囚に〈教誨〉をほどこすことも重要ですが、自分ではどうにもならない苦境に陥っている人々の悩みを掬い上げて導く存在がもっともっと色々な形で一般化することの方が大事なのではないかと感じました。

「殺意の対談」(藤崎翔著 KADOKAWA)は建前の会話とその裏に隠された本音が両方記載されていて、先ずはそのどす黒いギャップに笑わせられるのですが、各短編におけるどんでん返しもいい感じにはまって驚きが有り、藤崎先生の元お笑い芸人という経歴に裏打ちされたネタ力を実感します。また、連作短編形式で物語が進行するうちに、ストーリーは更に大掛かりな展開となり、最後は伏線も見事に回収されてミステリーとしても楽しめる、期待せずに読んだわりには、意外と面白くて得した気分を味わえる一冊となっております。「殺意の~」が面白かったので、同じく藤崎先生による「こんにちは刑事ちゃん」(同 中央公論新社)も読んでみました。刑事(=デカ)ちゃんということで、勿論赤ちゃんに引っ掛けているのですが、犯人に銃撃されて殉職したと思ったら、直属の部下の息子として生まれ変わってしまったベテラン刑事の羽田が、精神年齢50歳の赤ちゃんとして周囲で起こる事件を解決していくというユーモアミステリー小説です(笑)。おっさんの視点で思考する赤ちゃんというコンセプトが非常に面白く、また生まれ変わりに気づいた部下が赤ちゃんである自分の息子に敬語で話しかける場面など、全編くすくす笑いながら読める上に、伏線の配置も唸らされる巧みさで、最後はなんと泣けてしまうというおまけ付きの内容でエンターテインメントとしての完成度が高い作品でおすすめです。

今回の直木賞のもう1作は「しろがねの葉」(千早茜著 新潮社)で遂に千早先生が、しかも新境地の歴史大河で受賞ということでこれも読むのがとても楽しみな作品です!

 


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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