金次郎、自らの非常識極まる若気の至り記憶に苦しめられる

歳を重ねるうちに、若かりし頃無知であったこと、あるいは知的好奇心を発揮して自分に関係する様々な物事について深く知ろうとしなかったことを振り返って反省したり後悔したりする機会がどんどん増えて悲しくなります。特にこのブログのネタが尽きてきて、無理矢理に昔のことを思い出そうとすることがより頻繁となった最近はその傾向が更に顕著となり、本当に、涙滂沱として禁ぜず、の心境です(号泣)。本日はそんな悲しい話の中でもとびきりのネタなのですが、金次郎は大学生の頃に旧筑前黒田藩の保有していた資産を基に設立された黒田奨学会(現公益財団法人黒田奨学会)より有難い奨学金を頂戴しておりました。

黒田藩は古くは金子堅太郎(後に大日本帝国憲法を起草)をハーバード大学に、団琢磨(後に三井財閥総帥)をMITにそれぞれ留学させるなど明治期以降継続的に社会に貢献し得る人材の育成に熱意を注いできた歴史が有ります(黒田奨学会は大正4年に設立)。恐れ多くも金次郎は錚錚たる郷土の先輩方と同様の趣旨の奨学金をいただいていたわけなのですが、このブログをお読みの方はお気づきの通り、当時の金次郎はそんな趣旨をものともしないダメ学生であり、カラオケに1週間で10回行ったり、ボーリングを1日で16ゲームもやったりと遊びちらかし、郷土の期待に応えるべくきちんと学業に励めなかったことについては本当に申し訳ない反省の気持ちでいっぱいです。更に、ただ遊び呆けていただけならまだしも、この奨学会の総裁を務めておられた黒田長久元侯爵(第19代黒田家当主)とは定期的に赤坂で親睦会としてフレンチディナーをご一緒する機会を設けていただいていたのですが、非常識学生の金次郎は、50歳の今となっても尻込みしてしまうほど相当にフォーマルであったこの会食に、いかに無知とはいえ茶髪、皮ジャン、デニムで颯爽と参加する暴挙を繰り返しておりました。また、若気の至りとはいえ無駄な反骨魂もあいまって不遜発言を繰り返し、高名な鳥類学者でもいらっしゃった総裁にかなり怪訝な表情をさせてしまうという無礼を働いたクロ歴史を今思い出して青くなっております(汗)。具体的な発言内容は記憶が強制消去されたのかよく覚えておらず思い出したくもないですが、まさか総裁を殿!とお呼びするような切腹ものの非常識を働いていないことを切に祈るばかりです。勿論当時の浅はかな金次郎は知る由もなかったことですが、今恐る恐る調べてみると、あーなんと、総裁は現在の上皇陛下、つまり当時の天皇陛下とは〈はとこ〉にあたる高貴な血筋でいらっしゃったとのこと!そういえば総裁は山階鳥類研究所の所長もされており、そこにご結婚前の紀宮内親王(現黒田清子さん)が勤務されていましたね。。。知りたくなかった、知るべきでなかったこの事実に、剣道トラウマの数倍ショックを受け穴が有ったらというより自ら穴を掘って埋められてしまいたい気分となりましたが、あの時の宇宙人を見るような総裁の痛過ぎる眼差しを忘れることなく、良識と教養を身に着けた大人として、きちんと社会に貢献できる人間となるべく努力精進しようと心に誓いました。人間変わるのに遅すぎるということはないと信じたい。

さて、傷心しつつ本の紹介もいたします。「クロコダイル・ティアーズ」(雫井脩介著 文藝春秋)は直木賞候補作のサスペンス小説です。老舗陶器店の跡取り息子が殺害され、容疑者として逮捕された男が被害者の妻である想代子に唆されたと証言します。疑心暗鬼になりまくりの想代子の義理の両親及び義母の姉の視点から、家族ならではの様々に揺れ動く濃厚で生々しい認識や思惑が静かな中にも迫力をもって描かれるいぶし銀な内容でした。物語全体のトーンは抑制的なのですが、仄めかしや伏線、あるいはミスリードではないかと勘繰ってしまう表現が多数ちりばめられているために、読み手は緊張状態の維持を強いられ、それが読後の安堵感に繋がっていると思います。同じく雫井先生の「引き抜き屋1 鹿子小穂の冒険」(PHP研究所)、「引き抜き屋2 鹿子小穂の帰還」(同)も読んでみましたが、こちらはやや軽いタッチのビジネスエンタメ小説で何の心配も無く最初から最後まで楽しめる内容でした。父親が創業者社長を務めるアウトドアグッズメーカーの後継者と目され、20代で取締役に抜擢されていた鹿子小穂は、父親が外部から招聘したやり手常務の策略で会社を追われることになります。ひょんなことからヘッドハンターとなった小穂は、全く経験が無く右も左も分からない仕事の内容に戸惑いつつも、試行錯誤を重ねながら人脈を広げ経験を積んでいく中で、ヘッドハンティング業務のみならず、ダイナミックなビジネスの面白さにも改めて気づき成長していきます。微妙にご都合主義な部分が散見されるのはご愛嬌ですが、関係会社経営のキモが適切な経営者選定であることは間違い無く、ヘッドハンティング実務の一端を垣間見ることで、そのセレクションプロセスや要諦をより具体的にイメージすることができるようになり非常に参考になりました。しかし、お読みいただくと分かりますが、雫井先生はどうも商社に悪い印象をお持ちのようで残念でした(笑)。

少し前にブログで1~2巻を紹介したシリーズの最新作である「営繕かるかや怪異譚 その参」(小野不由美著 KADOKAWA)も読んでみました。今回も建物にまつわる怖ろしく切なくそして優しい物語6編が収められた短編集となっております。嫁に対する姑の憎悪がその死後も怪異となって継続する「火焔」は結構悪意の有る怖さでこのシリーズらしくないですが、「誰が袖」は住民に災厄をもたらす箪笥の供養を行うことで怪異が解決し家族愛も深まるという、背筋が凍りつつもほっこりする新感覚ホラーな内容で楽しめました。愛情を知らずに育った弥生が製作するドールハウスが怪しげに変貌を遂げていく「歪む家」は営繕尾端の謎解きもすっきりしている上に、読後に気持ちも前向きになる金次郎イチ押しの秀作でした。その他にも、切なく悲しい死者の魂の物語である「骸の浜」、亡くなった姉に執着し偏愛する母親との確執に悩んでいた響子が母親の死後に、茨の蔦で覆われた実家の離れで見出した救いを描く「茨姫」などそれぞれの作品に短編ながら喜怒哀楽がきっちりと描かれていて、読み始めたら引き込まれずにはいられないおすすめの一冊でした。

「ALIVE 10人の漂流者」(雪富千晶紀著 KADOKAWA)は日本人観光客10人を乗せた観光船がマダガスカル沖でエンジントラブルをきっかけに遭難するところから始まるサバイバルホラー小説です。絶望的かつぎりぎりの状態がずっと続くのも怖いのですが、状況の悪化に伴い人々が豹変する様もまた恐ろしい。食べられるものとそうでないものを見分けたり、植物の毒性や栄養価を把握して生存のために適切な判断をすることができるように、科学に裏打ちされたサバイバルの知識は絶対に必要だなと思う一方で、精神的に弱い金次郎は1日たりとも漂流に耐えられない自信が有るので、そもそも遭難しそうなことは絶対にやめようと心に誓いました。若干ネタバレとなりますが、全体を通じ、場面場面でのリアリティレベルのバランスが微妙なのですが、とりわけ途中で出てくる難破船での脅威はいくら何でもやり過ぎでしょうと思いました(笑)。

そういえば、数年前に現在奨学金の給付を受けているという学生さんの就活にお付き合いし高級うなぎをご馳走したことを思い出しました!でもやっぱり、そんなことぐらいでは黒田奨学会への恩返し&罪滅ぼしは全くできていませんね。。。何か方策を探したいと思います。


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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