【アフター4読書恒例企画】本屋大賞2022順位予想対決!

今年もこの日がやって参りました。4月6日(水)の本屋大賞2022結果発表を前にその順位を予想するという何ひとつ世の中の役に立たない本企画ですが、そんな無駄なことに全力を傾けるというその青春性に悦に入っている金次郎と宿敵Mの対決に、半ばあきれつつで結構ですのでしばしお付き合いいただけますと嬉しいです。

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【金次郎の総評】

今年で4回目となり年々候補作読み込みの質と量が上がった結果、もはや公私問わず一年で最も労力をかけるイベントとなった本順位予想対決、人生の優先順位として正しいのかとの耳の痛い問いは無視し、直近の2連敗という汚名を雪ぐべく今年も全力で臨みました。

いざ候補作を前にすると、昨年ワンツーの町田、青山両先生の揃い踏みに予想外しのトラウマから心をかき乱され、評価の難しいミステリー作品が4作も入っていることに悩み、前回痛い目に遭った待望プレミアムが見込まれる寡作作家の久々の新刊に怯え、ビッグネーム渾身の長編や王様のブランチBOOK大賞受賞作といった読む前から上位を意識させる作品を前に必至で冷静になろうとするなど、無駄に頭でっかちとなってしまった金次郎は内容を吟味する前から混乱の極みでした。

それでも、過去候補作全部読みプロジェクトを通じた気付きや全18回の実績検証の結果も参考にどうにか順番を付け、今回大賞としたのが「スモールワールズ」(一穂ミチ著)です。6作の各短編が全く違う空気感の世界に読者を誘う物語の宝箱ぶりは群を抜いており、この小さいけれどどこまでも深い世界を一般小説ではほぼ無名の著者が描いたとあれば書店員の玄人気質を刺激せぬ筈がなく、背水の金次郎も安心して読書家のプライドを預けられる一冊でした。

次点は「黒牢城」(米澤穂信著)です。金次郎イチ推しの米澤先生に大賞をとのファン心理を割り引いても、歴史ミステリー、人間ドラマ何れの角度からも最高ランクの内容であり、迷いましたがやはり直木賞受賞はマイナスに作用するだろうとの辛うじての冷静さから涙を呑んで2位としました。

3位は社会派の旗手と伏線の狙撃手の対決となりましたが、フレッシュな次世代感と毎年強いBOOK大賞を評価しつつ、自分の好みで「正欲」(朝井リョウ著)を推すと外すとの勘に従い「六人の嘘つきな大学生」(浅倉秋成著)を選出しました。

【Mの総評】

コロナが流行し始めてから気が付けば2年、ようやく世の中がそれを克服し元の生活に戻っていこうかというところで今度はロシアによるウクライナ侵略が発生、益々不透明感を増していく世の中において具体的に生き方の処方箋になりうる作品が世間に求められる(=本屋としても売っていきたい)傾向と理解しています。

とはいえ、まずは完成度が高く個人的に推したい「残月記」「スモールワールズ」「正欲」「夜が明ける」「黒牢城」を1-5位群としました。中でも、今を生きることについての名状しがたい難しさを作品という形を通して世へ問おうとしている朝井リョウ「正欲」、SFファンタジーながら現代を生きる我々へ生きること・愛することについてのヒントを与えてくれている小田雅久仁「残月記」のどちらを大賞と予想。朝井作品は結構既に売れている一方、寡作の小田雅久仁がスターダムにのし上がることを多くの書店員が願っていることに賭して「残月記」を1位と予想しました。

その後は、本当は「夜が明ける」「黒牢城」「スモールワールズ」の順としたいところですが、既に名声を得ている「黒牢城」については本屋大賞で売り出すインセンティブが低いため劣後、逆に一穂ミチへは逆の力が働くと予想し「スモールワールズ」を3位に据えました。

「赤と青とエスキース」は個人的には平凡と思いましたが、昨年この作者は2位に入ったこと、また生き方の指針を示すタイプの作品ではあるので、6位まで押し上げました。毎度下位に予想して少し申し訳なさもある知念先生の「硝子の塔の殺人」は面白かったですが、本格ミステリーで上位入賞は聊か苦しいかと。「星を掬う」は個人的には6位ですが、昨年大賞を受賞したことが当然向かい風になると予想。「同志少女よ、敵を撃て」は(既に売れてはいるものの)なんだかんだ上位に食い込む予感もしており、今年の本屋大賞予想対決に分水嶺がとあるとするとこの作品かなと思っています。

【金次郎順位予想】

大賞 「スモールワールズ」(一穂ミチ著 講談社)

2位 「黒牢城」(米澤穂信著 KADOKAWA)

3位 「六人の嘘つきな大学生」(浅倉秋成著 KADOKAWA)

4位 「正欲」(朝井リョウ著 新潮社)

5位 「同志少女よ、敵を撃て」(逢坂冬馬著 早川書房)

6位 「赤と青とエスキース」(青山美智子著 PHP研究所)

7位 「星を掬う」(町田そのこ著 中央公論新社)

8位 「硝子の塔の殺人」(知念実希人著 実業之日本社)

9位 「夜が明ける」(西加奈子著 新潮社)

10位 「残月記」(小田雅久仁著 双葉社)

【M順位予想】

大賞 「残月記」(小田雅久仁著 双葉社)

2位 「正欲」(朝井リョウ著 新潮社)

3位 「スモールワールズ」(一穂ミチ著 講談社)

4位 「夜が明ける」(西加奈子著 新潮社)

5位 「黒牢城」(米澤穂信著 KADOKAWA)

6位 「赤と青とエスキース」(青山美智子著 PHP研究所)

7位 「硝子の塔の殺人」(知念実希人著 実業之日本社)

8位 「星を掬う」(町田そのこ著 中央公論新社)

9位 「同志少女よ、敵を撃て」(逢坂冬馬著 早川書房)

10位 「六人の嘘つきな大学生」(浅倉秋成著 KADOKAWA)

【候補作別評価】

「赤と青とエスキース」(青山美智子著 PHP研究所)

(金)6位:平凡な留学中の仮初恋ばなをずっと読まされるのかと思いきや、二人の恋はその結実した瞬間を瑞々しく描きとったエスキースとしてパウチされ、そのエスキースが時空を越えて人々に大切な絆を結ばせるという、意外にもスケールの大きな展開になり、流石やるなと感心しました。ただ、ラストに向かう仕掛けが分かり易く今一つ驚きが足りない点と、出来上がった構成に合わせて物語を置きにいった感じが引っかかり上位進出ならずでした。

(M)6位:一枚の絵をめぐるストーリーという着想はそれなりに面白いですが(それでもこのテーマですら類想はあるかもと思います)、人物の深掘りが浅く食い足りなさが残りました。特に四章の主人公の男女がどう作品全体と繋がってくるのか、とても重要な点なのにしばらくピンときませんでした。「お探し物は図書室まで」と同様、新聞記者時代に得意としたであろう取材記事を小説に翻案しただけという印象の域を出ません。

「硝子の塔の殺人」(知念実希人著 実業之日本社)

(金)8位:雪深い森にたたずむ美しい硝子の塔にミステリーマニアの大富豪によって集められたクセのある登場人物たちが立て続けに発生する密室殺人に巻き込まれるという、うんちくも含め本格的本格ミステリーの構造で、巧みかつ新鮮なトリック、幾重にも精緻に組み上げられたプロット、予想を越える展開のラストと内容に何の文句も有りません。ただ今回他候補作にもミステリーが多く一般受けという観点で本格はやや不利と見て8位としました。

(M)7位:私にミステリーの知見がほとんどないので作中のトリックの妥当性については勘所なく、また作品内で散りばめられている(であろう)過去の名作ミステリーへのオマージュを隠れミッキー的に見つけ楽しむということも出来なったのですが、それでも非常に良質なエンタメとして消費できました。ただラストの展開は如何せんご都合主義的で、リアリティーを大事にしたい私としてはそこで減点としたいと思います。

「黒牢城」(米澤穂信著 KADOKAWA)

(金)2位:国内ミステリー4冠を制覇し、山田風太郎賞、直木賞も合わせ6冠を達成した本作、これ程史実に忠実な歴史小説でありながら上質なミステリーかつヒューマンドラマでもあるという驚嘆の内容で正に兜を脱がされました。地下深くの土牢の中から誰にも気づかれることなく場を支配し自らの企みを実現する人間離れした知略を操る官兵衛の姿が読者を翻弄する米澤先生と重なります。ただ一転既に売れているという理由のみで次点としました。

(M)5位:さすがの米澤先生、直木賞その他の賞を総ナメにした作品であり素晴らしいの一言に尽きます。主人公荒木村重の居城・有岡城の地下牢に幽閉された黒田官兵衛はじめ登場人物の造形が非常に丁寧で話の展開もよくグイグイと読み進められます。全体的なストーリーのオチについては途中から少しづつ予測できてしまう感もありますが、それよりも深い大きなテーマで以て着地点を目指そうとしていくのも流石です。

「残月記」(小田雅久仁著 双葉社)

(金)10位:デビュー12年目で著作が僅か2作という著者の待望の新作ということで、蓄積された期待感が投票に繋がり易いことを念頭に注意深く読んだ本作ですが、幻想小説というジャンルが不得手なせいか、〈月〉にまつわる収録3作品のいずれにも今一つ入り込めず、歴史上の忌まわしきディストピアのごった煮に感染症要素を盛り込んだ表題作には若干食傷気味でした。期待感からの上位リスクは感じつつも、自分に正直に最下位とします。

(M)大賞:独裁者が牛耳る近未来の日本を舞台に「月昂」なるウイルス性の感染症を発症した一青年の生涯を描いた表題作が抜群に良かったです。SFファンタジーではあるものの設定は現実と十分なリンケージがあり、かつ文章の美しさ・巧さで電書のページをスワイプする手が止まりませんでした。生きることの喜び、愛の力が十分に謳われています。最初の2作も月という共通の素材を下敷きにしたSFファンタジーで、序曲風に響きグッドでした。

「スモールワールズ」(一穂ミチ著 講談社)

(金)大賞:それぞれに異なるタッチ、多才な様式で描かれた様々な家族についての6つの物語が収められた本作を読み、短編の限界を超えて深く広く鮮やかに物語世界のイメージを喚起する表現力に感嘆し、自分は何故この著者を知らないのだろうと訝しく思いました。BL作品で実績充分とのことで納得ですが、凪良先生のパターンが繰り返されるという予想で本当にいいのか悩み抜くも、本屋大賞らしさを重視し今年はこの作品に賭けようと思います。

(M)3位:オムニバス形式の掲題作ですが、特に往復書簡の話がとても好きでした。かなり器用な作者で文体も自由自在、泣き所はしっかり泣かせ、作家としての能力はすごいの一言に尽きますが、例えばホラーを主題とした話を本作に挿入する必要があったかどうか。家族というテーマに作者としてどうアプローチしたいのか、ということがもっとクリアカットに見えてくると読み手の読後の納得感も高まったのではと思います。

「正欲」(朝井リョウ著 新潮社)

(金)4位:社会の価値観が大きなストーリーへの依存から多様性の受容に劇的に転換する中、想像力の限界が生み出す社会の陰の部分で苦悩し諦念に至るスーパーマイノリティの人々を描くことで、みんな違ってみんないい、という耳障りの良い言葉の奥に潜む偽善を暴き出そうとした著者の意欲は買いますし、テーマも好みで発想も構成も素晴らしいのですが、それこそ読者の想像力の制約により僅かに感情移入し辛い懸念分を割引きこの順位とします。

(M)2位:多分朝井リョウはあまり巧い作家ではないのだと思います。情景描写で同じ手法が作中何度も使われたり、全体的に表現のこなれなさも気になります。しかし2020年代の今を生きる難しさをそのまま抱きとめつつ、かつどうそれを乗り越えていくべきかという点に正面から向きあっており同世代としても強い共感を覚え、かつ何よりその姿勢にリスペクトの念を持ちます。今後どんな作品を生み出していくのかが楽しみな作家です。

「同志少女よ、敵を撃て」(逢坂冬馬著 早川書房)

(金)5位:女性狙撃手の視点で戦争を描くという新味、余りにも人間の命が軽く扱われてしまう悲しい戦場のリアリティ、それぞれが複雑なバックグラウンドを持つ登場人物の見事な描写ととてもデビュー作とは思えぬ著者の筆力に圧倒される本作、舞台となっている独ソ戦とロシアによるウクライナ侵攻という現実世界とのシンクロもあいまって当初高評価としましたが、投票期間が侵攻とほぼ重なっていないと気付き若干冷静になって5位としました。

(M)9位:直木賞候補作であり、雪下まゆの装画の評判も相俟ってある程度売れている本作ですが、個人的にはかなりネガティブな評価です。取材が甘く、リアリティーが感じられませんでした。エンタメ小説という整理ならまぁいいのかもしれないですが、ウクライナで本当に戦争が起こりそれこそ女性スナイパーの存在も報じられる中、独ソ戦の惨禍をこうして消費する気には私にはなれませんでした。むしろ、大木毅「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)」を代わりにおすすめします。

「星を掬う」(町田そのこ著 中央公論新社)

(金)7位:自分の人生は親のものでも子供のものでもなく、自分自身のものとして誰にも委ねることなく自ら切り開くべきとのメッセージは理解できるも、弱虫の金次郎には茨の道過ぎて堪えられません。様々な問題や悩みを抱えた登場人物たちの再生が感動的に描かれてはいるものの、DV、毒親、ボロボロの主人公といった前回大賞作「52ヘルツ~」の要素の再構成との印象が拭えず、次作での新たな世界観に期待ということで下位としました。

(M)8位:昨年の本屋大賞受賞作「52ヘルツのクジラたち」とテーマとしては近く、社会的に弱い立場にある人間がどう生きていくか、強さを具えていくかという内容です。主人公の心の成長及び自分を捨てた母親との関係の整理が進んでいくプロセスについてはそれが丁寧に描かれており納得感が高いのですが、作品としての完成度は昨年の大賞作と比べるとすみませんがやや劣るかなという印象で下位に留まりました。

「夜が明ける」(西加奈子著 新潮社)

(金)9位:著者の思いの丈が詰まった久々の長編である本作では、虐待、貧困、過重労働といった現代社会が抱える問題とそれを助長する自己責任論の呪縛への警鐘が、主人公の〈俺〉と〈俺〉によって無名俳優アキ・マケライネンのアイデンティティーを与えられた異形の男深沢暁の人生を通じて切実に描かれます。人間の持つ多面性という深淵なテーマにも同時に挑戦する気概や良しなのですが、詰め込み過ぎ故の消化不良は否めず9位としました。

(M)4位:設定自体は奇抜な印象もありますが、救いようのないつらさの中に砂金のように混ざるわずかな光がひたすら眩しく、それが素晴らしい作品でした。胸につねに悲しみがのしかかってくる感じもありつつ読後感が不思議と明るいのもたしかに救いがあるからだと思います。ただ最後の数ページについては作者自身がフィクションの世界から顔を出して急に演説を始めてしまったような印象もあり、個人的には蛇足と思いました。

「六人の嘘つきな大学生」(浅倉秋成著 KADOKAWA)

(金)3位:学生と社会人という相異なる世界が混ざり合う就活という舞台で、誰もが仮面を被りそれぞれの理想像を必至で演じる滑稽さを、伏線の狙撃手の異名を持つ著者がミステリーの手法を駆使してシリアスに描き出します。巧みなミスリードの連続で何度も頭の中のイメージを崩壊させられる衝撃はカタルシス満点で、本作が本屋大賞で実績の有るブランチBOOK大賞作であることも考え併せ上位にミステリーが多い懸念は有れど3位に推します。

(M)10位:就活を舞台にしたミステリーという着想自体は面白かったですが、良くも悪くもそれ以上の魅力が感じられませんでした。特に、人間を表面的なところでジャッジして理解できた気になっていないかという作品の主題がそもそも平板で、さしずめ朝井リョウ崩れ、といったところと思います。ディテールや人物描写がもう少ししっかり詰められていればまだ良かったのかもしれませんが…。

 

最後までお付き合いいただきありがとうございました。「残月記」どうなることやらです!


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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