2019年振り返り(2~3月)

読書の話をしていると、どうやって次に読む本を選んでいるか、と尋ねられることが結構多いです。これといって定まったやり方があるわけではなく、いつも少し返答に窮するのですが、強いて言うなら①その時興味を持っている分野について、キーワード検索してみてヒットした本を適当に読む、②面白かった本の最後に書いてある参考文献を読む、③推薦書まとめ本を読んで参考にする、④王様のブランチbookコーナーを見る、⑤いま売れている本を読む、⑥会社の同僚や友人との会話の中で短期間に複数回話題に上ったテーマについて何冊か集中して読む、という感じでしょうか。また、なんとなくでも傾向を把握するために、テーマや作家毎に複数冊まとめて読むことが多いです。

あとは、「ローマ人の物語」(塩野七生著 新潮社、全15巻)、「興亡の世界史」(講談社、全21巻)、「徳川家康」(山岡荘八著 講談社、全26巻)等のように長く楽しめる面白いシリーズものを狙って読んでみるのも効率的です。上記⑥とも関係しますが、最近田中角栄元総理について会話する機会が多く、ちょっと関連書籍を読んでいて、今はまっているのが「小説吉田学校」(戸川猪佐武著 学陽書房、全8巻)です。感想またどこかで書きますね。

さて、そんな感じで去年の2~3月に選んで読んだ本の中で印象に残っているものをいくつか紹介します。

先ずは「歪んだ波紋」(塩田武士著 講談社)です。この本は、ネットとの競合が激化する中、フェイクニュースやメイクニュースに翻弄されつつある、かつての‘第四の権力’である マスメディア産業のディープな内情をリアルフィクションの連作短編形式で描いた秀作です。

それぞれの短編がいい具合に絡みあって行くので、最後まで一気に読むしかないスピード感と、ストーリーが折り重なっての重厚な読後感はなかなかのものです。 様々な利害や信条の狭間で揺れ動く記者たちの苦悩に焦点を当てる一方、ノンフィクション を得意とする著者の理想とする記者像もしっかり主張されていて、読んでいてこちらの視点がぶれにくく読み進めやすいです。 これまで「罪の声」(講談社)、「騙し絵の牙」(KADOKAWA) と読みましたが、塩田先生の派手ではないけど淡々とリアル を描き込む迫力有る作風かなり好きです。 【参考:「罪の声」】 この本はグリコ・森永事件をモチーフ に事件の真相に迫る内容で、あれってどんな事件で犯人は誰だったんだろう、というモヤモヤにフィクション形式ではあるものの一応の答えを提示してくれるのでスッキリします。のどかに小学生やってた頃に、左翼活動、仕手筋、警察内部の対立など複雑な背景が絡んだ事件が起こってたんだな、と感慨深いですね。‘キツネ目の男’の記憶が蘇ってちょっと怖いですが。

【参考:「罪の声」】 この本はグリコ・森永事件をモチーフ に事件の真相に迫る内容で、あれってどんな事件で犯人は誰だったんだろう、というモヤモヤにフィクション形式ではあるものの一応の答えを提示してくれるのでスッキリします。のどかに小学生やってた頃に、左翼活動、仕手筋、警察内部の対立など複雑な背景が絡んだ事件が起こってたんだな、と感慨深いですね。‘キツネ目の男’の記憶が蘇ってちょっと怖いですが。

【参考:「騙し絵の牙」】 こちらは、俳優(大泉洋)の当て書き小説という新たなメディアの形式で、 苦境の出版業界を描くという、唸らされる企画の作品です。主人公のユーモアセンスが大泉洋のイメージ で増幅されて、かなりの破壊力。接待を物真似で盛り上げる場面などとにかく面白い。ノンフィクションとしても、 「罪の声」で証明済みの筆力で出版産業の現在と、大きな変化のうねりが丁寧に描かれていて、ビジネス 小説としても読みごたえ充分です。

「雪の階」(奥泉光著 中央公論新社)は「シューマンの指」(講談社)でミステリーをシューマン音楽解説で埋め尽くした奥泉先生による、戦中昭和初期を舞台にした幻想サスペンス・ミステリーです。

三島由紀夫の「春の雪」のような華族恋愛ものかと思いきや、純然たるミステリーであり、 しかも‘天皇機関説’をめぐる政争を中心に描きつつ、 独ナチ思想の日本への影響、軍部で高まる緊張、更には当時の風俗とセクシャルマイノリティにまで描写対象の幅が広がって、かつそれらを全編幻想的な雰囲気を漂わせつつ表現するという何とも贅沢というか盛沢山な内容になっています。最期の方ちょっとごちゃごちゃしますが、これだけ描き込んで全体の統一感がきちんと保たれているのは凄い筆力だと思いました。

ちょっと毛色は違いますが、「シルクロードの宗教 古代から15世紀までの通商と文化交流」(リチャード・C・フォルツ著 教文館)は、 ゾロアスター教、ユダヤ教、ネストリウス派キリスト教、イスラム教、仏教、道教、マニ教 などが、様々な民族に仲介されながら、地中海から東アジアにまたがる広大なシルクロード 地域で如何に盛衰したかについて詳述した、(あまりいないと思いますが)この方面に興味の有る人には最高にそそられる一冊です。特にゾロアスター教 に土台を置きつつ、ギリシャ的な精神と 物質の二元論や禁欲主義、一神教的概念から道教までを統合した当時の世界宗教である マニ教についての記載は、双方向の東西交流のダイナミズム も感じられて面白く読めます。概念が複雑すぎて草原での生活に適合しにくく、 交易にも寛容でないネストリウス派キリスト教 が1000年の長きにわたってこの地域で信仰され続けたことはかなり驚きですが、捉えづらい三位一体よりはグノーシス的二元論の方が、ゾロアスター教という価値観の土台の上ではまだ理解し易かったということかな、とも思います。

「歪んだレンズ」(宮城啓著 KADOKAWA)は光学機器メーカーO社事件の全貌を詳述したノンフィクション小説で、 ニュース流し読みでは理解し辛かった同社の‘飛ばし’及び損失隠蔽スキームが よく分かる内容になっています。著者が税理士ということもあり臨場感も充分な上に、多様な登場人物の心情描写も巧みで前作「ヘルメスの相続」(幻冬舎)より各段に面白く読めました。コーポレートガバナンス強化の流れやベンチャー企業のM&Aも出てくるのでなかなかエキサイティングで仕事的にも興味深い一冊です。 日本企業がバブルのつけを20年以上も支払い続けていたことや、リーマンショック を機に負の遺産を全部清算してしまおうと目論んだ思惑、そしてその行為が社会的に激しく批判される現状と平成を象徴する変化を俯瞰する意味でもおすすめです。

読んだ本それぞれに思い入れがあったり、関連本で読んでみた本も紹介したくなったりと、この振り返りは思った以上に書くのが大変で若干始めたことを後悔していますが(笑)、 とにかく最後まで頑張ってやり切ってみます。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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