又吉直樹「人間」 VS 尾崎世界観「祐介」

いよいよ来週15日に迫った芥川賞・直木賞、そして同日に発表されるカリスマ書店員新井さんによる新井賞の発表がたいへん待ち遠しいですが、私にとってそれより重要なイベントが本屋大賞のノミネート10作品の発表です。

こちらは1月21日(火)の予定ですが、去年に引き続き今年も宿敵Mとの順位当て対決を「純金の栞」(あるいはそんなに!と驚くぐらい高額の栞)を賭けて実施する予定です!対決の模様につきましては、追ってルールや予想、結果など、このブログで報告していきますので興味をお持ちいただけるレアな皆様は乞うご期待です!

さて、前置きが長くなってしまいましたが、芥川賞ということで同賞受賞作家である又吉直樹先生初の長編である「人間」(毎日新聞出版)を読んでみました。同作は、文中に100回以上読んだとでてきますが太宰治の「人間失格」(新潮文庫)へのオマージュ的一面を持つ小説です。

まさに「人間失格」で描かれる‘世間’に対する‘道化’として、‘罪’と‘罰’が目まぐるしく入れ替わる都会での生活に疲れた主人公永山が、自身の原点である故郷沖縄で自由な魂の在り様としての‘人間’の姿に触れ、その心がほどけて行く様子がなかなかに文学的に描かれており流石です。

著者の内面で葛藤する幾つもの相矛盾する考え方が、すれ違いぶつかり合う登場人物相互の関係として作品中に現れていると感じられ、永山も中野も奥も飯島も全部どことなく又吉先生に思えてきて、私小説ならぬ私達小説みたいな雰囲気ですね。途中に出てくるブログでのやり取りはかなり面倒臭いですがわかりますw

芸能人つながりということで、人気バンドクリープハイプの尾崎世界観さんの小説デビュー作品である「祐介」(文芸春秋)を改めてじっくりと再読してみることに。

話題になった時に一度読んでみた当時はストーリーだけを追っていたためそのナンセンスさに気を取られ、分かりにくいエログロ小説との印象でしたが、気を付けながら読んでいくと、一人称の地の文だけで、徐々にその輪郭を明確にする希望の無い世界が主人公の前に広がっている様子を、会話文に逃げずにひたすら描写し続けられている筆力が素晴らしいと感じました。

何の変哲もないはずの世界から、薄汚れてネガティブな部分だけを切り取ってみせる祐介の世界観が、これでもかと繰り返されるメタファによってまさに音楽のように脳全体を刺激する効果と共に流れ込んできます。 たくさんの嫌な奴が頼みもしないのに鮮やかに脳内で再生されてしまうのはちょと気持ち悪いですが、救いようのないどん底から、その現実を自覚しても尚、 情けなくても恰好悪くても未来が見えなくてもとにかく前に進むんだな、という退廃でない終わり方はいいなと思いました。

私のような者が文学の優劣を論じるのは僭越ですが、人間失格のカードを切ってしまった又吉先生に対し、粗削りなデビュー作というこの段階の世界観先生のポテンシャルを評価したいかな、と思います。ちゃんとフォローできてないので最近何か書かれていたらぜひ読んでみたいところです。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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