芥川賞・直木賞・新井賞発表!

本日1月15日に第162回芥川賞・直木賞、そして書店員新井さんによる第11回新井賞が発表となりました。いずれも未読で悔しいのですが、以下が受賞作です。

【芥川賞】

「背高泡立草」(古川真人著 集英社)

【直樹賞】

「熱源」(川越宗一著 文芸春秋)

【新井賞】

「ライオンのおやつ」(小川糸著 ポプラ社) 

「熱源」はアイヌの人々が出てくる話のようで、最近読んだ「凍てつく太陽」(葉真中顕著 幻冬舎)や、「日本奥地紀行」(イザベラ・バード著 平凡社)でもアイヌ文化に触れる機会有り興味深かったので、これは直ぐに読まねばと思います。

【参考:「凍てつく太陽」】

社会派ミステリー作家である葉真中顕先生による北海道を舞台にした作品で、 戦時中の三国人差別問題、特高警察と軍部憲兵の対立構造等の 重いテーマを丁寧な調査に基づき社会派小説に仕上げた労作です。 アイヌの血を引く若者を主人公に据えることで、それぞれの魂が持つ使命のレベルで 思考することにfocusし、イデオロギー は都度着替えて良い衣服のようなものだと主張させるあたりかなり唸らせられました。どんでん返し有り伏線の回収も見事で秀逸なミステリーとして満足度高いです。

【参考:「日本奥地紀行」】

英国の女性探検家が明治初期に訪れた東北地方の農村や蝦夷地に暮らす人々の生活を描いた紀行文です。脊椎に持病を抱えながら、悪路を馬に乗って進む過酷な旅を3か月も続けた著者の冒険心や好奇心は驚異的です。また当時の西洋人としては極めて偏見を排した視点で日本人及び蝦夷地先住民について描写している姿勢が何より価値が高いと思います。日本人はとにかく子供をかわいがる(=英国人はもっと子供に厳しい)、日本人は馬などの家畜を物として扱う、飲酒に対する考え方の違い、等興味深い東西の比較が随所に見られて非常に面白い。とりわけ歴史的にも貴重とされるアイヌの人々についての記載は知らないことだらけで知的好奇心が充たされます。

前置きが異常に長くなってしまいましたが、書きたかったのは第161回芥川賞の今村夏子先生の作品についてです。

芥川賞作の「むらさきのスカートの女」(今村夏子著 朝日新聞出版)は、むらさきのスカートの女と友達になりたくて仕方ない黄色のカーディガンの女をはじめ、出てくる登場人物が全員ヤバい小説です。そういう人いるよね、という感じなのに、そこはかとなく薄気味悪い雰囲気が全編に漂うのは、普通の人と所謂危ない人のその境界線の曖昧さ、空気のようにすぐそこに存在し得る狂気、が読み手の肝をじわじわ冷やすからなのだと思います。

このあたりの作風の萌芽は第24回三島由紀夫賞作である「こちらあみ子」(筑摩書房)で既に現れており、‘普通’であることの脆さや危うさ、人間同士がどこまで行っても分かり合えないことへの諦念が淡々と描かれていて何とも言えない迫力です。単行本に収められている短編「ピクニック」も人間関係のエッセンスが詰め込まれていて、かなり怖いです。

そして、ワンパターンではありますが王様のブランチの豪華作家陣による好きな作品紹介企画(これ結構参考になって面白い)で、これまた芥川賞作家の村田沙耶香先生が涙ながらに推薦されていた「星の子」(朝日新聞出版)では、新興宗教にのめり込む両親との暮らしの中で、 上記あみ子とは違って歯を食いしばって‘普通’を保ち続ける主人公ちひろの姿が抑制された文体で描かれますが、彼女の内面に共感した瞬間に、抑え込まれている様々な感情が読み手の心に溢れるように流れ込んできて何とも言えぬ衝動を感じることになって、いつもはちょっと難しい村田先生へのシンパシーを感じられる一作です。

並べて読んでみると、家族をモチーフに日常に潜む狂気を描いたという点では、「こちら~」と「星の子」は同じ系統の作品で、この世界観を拡張してより一般化したという意味で「むらさきの~」が芥川賞を取ったことに納得感有ります。これからの作品が楽しみな作家だと思います。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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