「石油の帝国」とグレタさんとアンチ・グレタさん

せっかく調べてまで覚えたのに(→こちら)、米民主党予備選からピート・ブッティジェッジ氏が撤退とニュースで見て、知性を感じる語り口がやや気になりかけていたところだったので、非常に残念な気分になりました。しかし、あまりにも弱かったですね。まだ38歳とお若いので今後に期待しましょう。

気を取り直して読み方の微妙な海外の方をもう一人。環境活動家として非常に注目を集めているグレタ・トゥンベリさんは有名ですが、 最近アンチグレタを標榜して急激に知名度を上げているオルタナ右翼ドイツ人女子がいるとの情報を聞き調べてみると、その名はNaomi Seibtさん(19)。

ファーストネームのナオミは問題無いとして、ファミリーネームはちょっと読みづらいですね。この方ドイツ人とのことでドイツ語的に正しく読むと〈ザイブト〉になるようで、ナオミ・ザイブトさんということになります。当面消えないことを願ってこちらを覚えることにしました。

このナオミ・ザイブトさんは自称climate realistだそうで、温室効果ガス排出による地球温暖化というロジックを〈馬鹿げた話〉と一刀両断し、再生エネ駆動ヨットで大西洋を東奔西走するグレタさんと完全に対立ポジションを取っています。気になったのでこれも調べてみて分かった、Naomiという名前のヘブライ語の意味であるpleasantnessとかsweetnessとかからイメージされる可愛らしさとは無縁の感じですね。

これまたいつものこじつけで恐縮ですが、漸く読了した「石油の帝国 エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー」(スティーブ・コール著 ダイヤモンド社)は エクソン・ヴァルディーズ号の石油流出事故に始まり、レイモンドCEOによるモービル買収(810億ドル)、後を引き継いだティラーソンCEOによるXTO買収(410億ドル)の顛末や、ナイジェリア、チャド、インドネシア、赤道ギニア等政情不安定地域での生産活動に伴う時には反政府勢力、あるいは反政府勢力より厄介な政府との交渉を含む様々な問題、 ロシアやベネズエラ、サウジアラビアといった巨大埋蔵量を抱える独裁国家 との苛烈な交渉から、 徐々に重要性を増してきた気候変動問題への対応まで、非常に多様なテーマについてのこれまで秘されて明るみに出なかった事実を惜しげもなくさらけ出す大変素晴らしいノンフィクション作品です。

GAFA台頭以前はずっと米国で最も収益力の高い企業であったエクソンモービルは、殆ど米国政府と一心同体で、その意思決定は政治的な文脈と不可分かと思っていたのですが、 この本を読むと、徹底的に自社の利益を追求する姿勢が鮮明で、時には政府と真っ向から対立してでも自社すなわち株主利益の最大化を目指すという宗教的とも言える信念で一貫していてなんともアメリカ的で潔いです。

その他にも、他メジャーとはレベルの違う契約絶対主義とか、RRR(=Reserve-Replacement Ratio)維持への強迫観念とも言える拘りとか、同社の行動を読み解く上でヒントとなる示唆に富む内容で、仕事の役には立たないかもしれませんが、とにかく面白い。BS上の埋蔵量を増やす=RRR改善、のためにPS(=Production Sharing)契約を死守しようとする、というのはとても腹落ちする情報でした。ティラーソンCEOが排出権vs炭素税のせめぎ合いの中、早くから炭素税を支持していた、という事実は似たような業界にいたのに全く知りませんでした。

関連してエネルギー分野の名著を紹介するならやはり、「石油の世紀 支配者たちの興亡」(ダニエル・ヤーギン著 日本放送出版協会 上巻 / 下巻)になるかと思います。

大作ではありますが、石油という切り口で19、20世紀の歴史を眺め直せる内容で、飽きずに最後まで読め、特に中東を巡る地政学という観点では、足元の混乱を読み解く上での参考書にもなる一冊です。こちらも、あまり表に出てこない、石油利権やOPECに関して検討されたものの実現しなかったたくさんの企てや試みが紹介されていて面白いです。

長くなってしまいましたが、簡単に昨年8~9月に読んだ中からおすすめ本を紹介します。この振り返りシリーズは3月中には終わらせたい。。。

「ホモ・デウス」 テクノロジーとサピエンスの未来(ユヴァル・ノア・ハラリ著 河出書房新書 上巻 / 下巻)は「サピエンス全史」がベストセラーとなった著者による恐ろし気な人類の未来の可能性についての書です。

内容が濃すぎて一読して理解するのは難しかったというのが正直な感想ですが、生命をアルゴリズムを通じたデータ処理機関と言い切って、 意識や意志の自由性を否定し自由主義の限界を喝破しようとする試みはかなり刺激的です。

人間と動物の関係を未来のテクノ超人と人間との関係と対比したり、データ至上主義による〈神の死〉後の時代を謳歌してきた ヒューマニズムの超克、すなわち人類を含めた有機体の凋落の可能性を指摘したりと、不安をやたらと煽っているものの、何となく好ましくない未来を予言することで、そういう未来の到来を回避しようとするメッセージとも読めます。ニーチェの影響強い感じですね。

あとがきにも有りますが、歴史を学んで過去から自由になり、偏りの無い視座で未来について考えるヒントとしても示唆に富む良書と言えると思います。どこかでもう一度読みたい作品です。

「使える弁証法」(田坂広著 東洋経済新報社)は難解なイメージのあるヘーゲル哲学の基本理論を分かりやすく解説してある内容で、物事を考えるヒントがたくさんつまっており非常に参考になりました。基本法則である、矛盾の止揚(aufheben)による発展の法則では、矛盾や対立のような否定的な状態を理性的に超克して高い次元での解決を目指す道筋が語られますが、矛盾こそが成長の源泉であり、矛盾を包摂する包容力を持たないロジカルシンキング は成長の原動力とはなり得ない、という批判はなかなか興味深い、と言うか耳が痛いです。

その他にも螺旋的発展の法則、否定の否定による発展の法則、対立物の相互浸透による発展の法則、とまさに今起こっていることを説明すると同時に、将来を見通す上で羅針盤となり得る考え方が具体例と共に説明してあり確かに〈使える〉感じです。とは言え難しいので、併せて「ヘーゲル 生きてゆく力としての弁証法」(栗原隆著 日本放送出版協会)を参考書として読みましたが、こちらも難解で別の参考書が必要。。。

米民主党予備選は〈普通のおじさん〉ジョー・バイデンさんがリードしているようですが、どうしても谷垣禎一元自民党総裁を思い出してしまうのは金次郎だけかな。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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