ミステリーホラーの注目作家澤村伊智作品を読む

ややとっつきにくいタイトルではありますが、「闇の自己啓発」(江永泉ほか著 早川書房)という本が最近売れています。公開されているまえがき、にもありますが、社会や組織にとって都合のよい〈人形〉になるための自己啓発と一線を画し、自己を保ち続けるために企画された〈闇の〉自己啓発としての月例読書会の内容を書籍化したこの本は全6章から構成されており、それぞれの章はダークウェブやAI、反出生主義などのテーマを取り上げた課題図書について議論された内容が記載されている、筈です。筈、と書いたのは、金次郎は未だ本編を読んでおらず、課題図書から取り掛かっているためで、かなり内容の重たい本を合計7冊読む必要が有り、このブログで感想を紹介するにはもう少し時間がかかると思います。お楽しみに!という内容になるか不明ですが(笑)、しばしお待ち頂ければと思います。ちなみに第1章の課題図書は「ダークウェブ・アンダーグラウンド」(木澤佐登志著 イーストプレス)でした。

さて、闇つながりというわけではないですが、今回はホラー小説の名手である澤村伊智先生の作品を紹介します。

澤村先生は、2015年に日本ホラー小説大賞を受賞した「ぼぎわんが、来る」(KADOKAWA)でデビューされ、本作は選考委員も絶賛の出来栄えで後に「来る」として岡田准一主演で映画にもなっています。また、登場人物の比嘉琴子・真琴姉妹はその後の作品にも度々出てくる人気キャラクターとなっています。

勿論、本編に登場する謎の化物ぼぎわんの強大な呪いの力も非常に怖いのですが、人間の心の闇や他人とのちょっとしたすれ違いや認識の相違によって生じる隙間が呪いを引き寄せているという構図にリアリティが感じられて怖さ倍増です。また、ぼぎわんそのもののおどろおどろしい描写を通じて感じられる表面的な知覚的怖さではなく、こういう気分の時にこのタイミングでこう呼びかけられたらそれは怖い!というように、怖さの概念そのものに働きかけられているという感覚が新鮮でした。

「恐怖小説 キリカ」(講談社)は「ぼぎわん~」の受賞から出版、二作目の「ずうのめ人形」(KADOKAWA)の執筆プロセスをドキュメンタリー的になぞりつつ、恐ろしい連続殺人が進行するというフェイク・ドキュメンタリーの手法で描かれた作品で、圧倒的なリアリティを読者に感じさせることを通じて破壊力のあるホラーに仕上げた意欲作です。勿論主人公は著者澤村伊智本人となっています。途中まで、どの登場人物がどう恐ろしい存在になるのか分からず、歯医者さんで虫歯の治療を受けている時に、いつどんな痛みがやってくるのかと身体に力を入れて身構えるあの感覚で読まされるのでかなり疲労しました(笑)。しかし、本作は講談社から出ているのに、KADOKAWAの話がばんばん出てきて、こういうのって大丈夫なのかな、という気分になったり、前2作のネタバレにはなっていないかなと気をもんだりするのもハラハラするミニホラーな感覚でした。

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ニューヨークを舞台にダイヤモンドを巡る陰謀が繰り広げられる「カッティング・エッジ」を堪能

いよいよ今週から医療従事者の皆さんへのワクチン接種が開始されるようですが、妻に「ファイザーのワクチンはマイナス80度で保存するから、接種するときかなり薬が冷やっとするらしいよ。」と言ったら、かなりびびっておりました(笑)。それはさて置いても、もう少しワクチンについて説明が有ればいいのにとは思います。厚労省のHPを見れば書いてあるのかな。

さて、2月に入り、森会長の女性蔑視発言が取りざたされておりますが、英文の記事では、

Mr.Mori made a sexist comment.

のような感じで書かれます。少し、あれ?と感じますが、Sexistには名詞の〈性差別主義者〉という意味が有る一方、形容詞で〈性差別(主義)的な、性差別(主義者)の〉のような意味も有り、~シストというとナルシストやピアニストのように~な人というふうに名詞で使いがちな日本人にはちょっと違和感の有る形になっています。また、うっかり間違って、

Mr.Mori made the sexiest comment.

としてしまうと、森さんは最高にわくわくするような発言をした、となり意味がおかしくなってしまうので注意しましょう。(sexy【セクシーな、魅力の有る、わくわくする)の最上級がthe sexiestですね。)

言葉の形にこだわってしまう金次郎は、sexistが形容詞ということを知り、最上級はまさかthe sexistestなのか、と思い辞書を引いてみましたが、比較級・最上級の表現は見当たりませんでした。でも、似たような単語で同様に形容詞が有るracist【人種差別主義者(の)】には最上級でthe racistestと記載が有りましたので、恐らくそのように変化するものと思われます。でもよく考えると、差別主義は黒か白かしかないので、コンセプト的に比較級や最上級が存在することがそもそもおかしいわけで、若干マシな差別主義者がいるかのような誤った使い方をしないよう注意しようと思いました。

ここで本題ですが、全く何のきっかけも無く「カッティング・エッジ」(ジェフリー・ディーヴァー著 文芸春秋)を読んだところ、これがかなり面白くてはまりました。捜査中の事故による怪我の後遺症で四肢マヒに苦しむ天才科学分析官であるリンカーン・ライムが、僅かに現場に残された証拠から魔法のように犯人に迫るサスペンススリラーで、知らなかったのですが既に本作でシリーズ第14作とのこと。作品毎に一つのテーマを著者が徹底的に深掘りしてストーリーを作り込んでいるので、読後にはちょっと事情通になった気分にもさせてくれる、テーマ、スピーディーな展開、どんでん返しの連続と一粒で三度美味しい作品となっております。

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金次郎、「カネを積まれても使いたくない日本語」(内館牧子著)の内容に慄然

バレンタインデーはまだなのに、日本橋三越で2月初旬から始まったバレンタインイベントで購入した年に一度の楽しみである高級チョコをなんともう食べてしまいました。今年はDelReYの10個セットで、外側のチョコ部分は勿論、中に入っているガナッシュが抜群でした。コーヒー、キャラメル、ピスタチオなどの定番だけでなく、金次郎がやや苦手としているパッションフルーツやエキゾチックフルーツのガナッシュも息が止まるほど美味で、不要不急かつ禁断のセカンドDelReYを買うかどうか真剣に妻と二人で検討中です。ちょっとお高いのは気になりますが、1個いくらという計算を忘れて楽しみたいクオリティです。

さて、自称読書家でもありますし、それなりに日本語は気を付けて使っており、会社ではメール内でのおかしな表現には中年らしく目くじらを立てております。会議中でも「今の発言は意味がよく分からない。」や「今の発言、これまでの議論の文脈と整合してないよね。」などと言ってしまう煙たいおっさんそのものです。

そんな金次郎が愕然とさせられた本が「カネを積まれても使いたくない日本語」(内館牧子著 朝日新聞出版)です。最初に出てくる〈ら抜き〉のあたりでは未だ内館先生と共に世の乱れた日本語を糾弾しよう、と意気込み、有名スポーツ選手が「オリンピックに出られる。」が言えずに「~に出れる。」でもなく微妙に変化して「オリンピックに出れれる。」と言ってしまったエピソードに、レレレのおじさんかよ、と突っ込みを入れる余裕すらありました。お名前様やご住所様などの表現にも違和感が有ったので、これに対する批判も、よしよし、と読んでおりました。

ところが、いきなり【させて頂く】がやり玉に上がると、時々使っていることに冷や汗。更に、【結構~します】や【というふうに】、【してみたいと思います】、【普通に】、【仕事で汗をかく】などの高使用頻度の表現がどんどん気持ち悪い、美しくないと断じられ、読み終わる頃には最初の勢いは消え、すっかり意気消沈でした。徹底的にへりくだる、断定を避けて存在しないリスクすら回避する、という姿勢が最近の言葉の乱れの背景とのことで、勇気を出してシンプルかつ美しい日本語でリスクを取っていこうと少し思いました。【やばい】というのはその筋の方が使っていた言葉のようですが、今ではすっかり定着し、上品なおばさままでもが「やぼうございます。」と言ったとの話は面白い。また、判断するを、判断【を】する、のように【を】を入れる表現もおかしいと書かれていて、読んだ直後に森会長が「不適切な発言につき、撤回をさせて頂きます。」と言っていて笑えました。

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瀬尾先生の新作長編「夜明けのすべて」と犬はやはり泣ける伊吹先生の「犬がいた季節」を読む

以前のブログでカタカナ表記がおかしいと書いた途端に民主党候補指名レースから離脱してしまったので薄く責任を感じていたピート・ブティジェッジさんですが、バイデン新政権の運輸相となって温暖化ガス排出削減の推進役になられるようです。低排出と言えば、そうEVです(笑)。前回はEVの充電が切れそうになり、ナビに従ってようやくたどりついた充電ポイントで家庭用コンセントを提示され暗澹たる気分になったところまで書きました。既にその段階でPONR(Point of no return=引き返す方が遠くなるポイント、ケミストリーではない)を越えつつあった我々も簡単にOK, thank youと言うわけにもいかず、何か手段が思いつかないかと日産ディーラーの店員さんに食い下がりました。暫く沈思黙考した店員さんは、環境意識が高そうには見えない割に無謀なEVドライブを繰り広げるおっさん二人組を憐れんでくれたのか、「うろ覚えやけど、そっちの方にくさ、暫く走ったところにたい、コンビニがあろうが、そこにくさ、充電ポイントが有ったっちゃなかったろうか。」、と若干方言がきつ過ぎる記憶の改竄がされている気はしますが、頼りないもののなんとか首の皮一枚つながるアドバイスをくれたのでした。非常に心もとなくはありましたが、この藁に縋るしか選択肢が無いおっさんコンビは再び無言で腹ペコになりつつ店員さんの指し示す方角にリーフを走らせ、30分ほどで目指すファミマを遂に発見。しかし、こんなカエルの大合唱が響く田んぼの真ん中に最新テクノロジーのEV充電ポイントなど有る筈も無いと絶望しかけたその瞬間、興奮した後輩が日本語の苦手な帰国子女のような指示代名詞だらけの声を上げました。

「金次郎さん、あのあそこの駐車場の端っこに有るあれ、まさかあれのあれじゃないでしょうか!」

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期待通り面白かった染井為人先生の「正体」を紹介!

最近やたらと環境意識が高まっており、2030年代にはガソリン車も販売されなくなるなど時代は大きく変わっているなと感じます。これからはハイブリッド車や電気自動車(EV)の時代になるのだと思いますが、先日ふと思い出した10年前にEVに乗った時のことを書きたいと思います。大きな会議に参加するために福岡に出張した際に、日程的に土曜日の昼間が空いてしまい、一つ下の後輩にレンタカーを運転させ長崎まで行ってカステラを買おうとの話になりました。カッコいい車を借りるよう後輩にお願いしていたところ、後輩が借りてきたのはまだ出たばかりの日産リーフ。当時は珍しい100%バッテリーで動くEVで、確かに運転席もパソコンみたいというか、近未来的でカッコよく、でかしたと後輩を褒めていざ出発。やや曇り空なのは今イチでしたが、走行中の音は静かだし、始動からの加速はすごいし、ナビシステムも当時としてはかなり画期的な感じで、最初のうちは非常にノリノリだったのをよく覚えています。長崎ではちゃんぽんにしましょう、いや皿うどんだろう、などと軽口を飛ばしつつ高速も軽快に飛ばしていた頃の我々には、その後この旅に恐ろしい展開が待ち受けていることなど知る由も有りませんでした。。。続きは次回(笑)。

「正体」(染井為人著 光文社)は、注目作家である染井先生の最新刊で、逃走を続ける脱走少年死刑囚と、そうとは知らずに彼と関わる人々の交流を通じ、人間の持つ多面性や他人を信じることの難しさを問いかけるサスペンス小説です。読者は最後の最後まで日本中を震撼させた殺人鬼とされる主人公の〈正体〉を見極めるべく登場人物たちと共に悩むことになります。状況や相手によって態度をあっけなく変える人間の弱さや醜さもさることながら、いつどんなはずみでネガティブなレッテルを貼られるかわからない危険だらけの現代社会で、信頼されるに足る人間として生きて行くことの大切さについて考えさせられる作品でもあります。様々な属性、評判やレッテルに惑わされることなく、相手の〈正体〉を感じ取れる眼力を身に着けたいところですが、かなりハードルは高いと言わざるを得ませんね(苦笑)。過去三作同様(紹介はこちら)充分面白く読めたのでおすすめ作品であることは間違い無いものの、もう一つのテーマである死生観については、やや踏み込みが甘かった印象にて、次回作での更なる飛躍に期待です。

 

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【アフター4読書一周年記念】人気記事ランキング発表!(1~5位)

金次郎家ではテレビを垂れ流し的に見ることがあまり無く、ニュース以外は録画してある番組を見るのがほとんどなのですが、そんなたまにしか見ないテレビでこの数か月気になってやまないCMが有ります。そのCMとは、はいあの〈やっちゃえ、日産〉でお馴染みの木村さんの出演されている一連のシリーズです。最新の自動運転バージョンでは、〈スカイラインなんて自分で走る方が ゼッタイ 楽しい〉、〈でも、意外とさぁ〉、〈こいつの運転も、かなりイケてる〉、〈やるじゃん、プロパイロット〉と次々に繰り出される台詞でじわじわとぞわぞわ感が高まり、とどめの〈追い越しちゃう?〉で言葉にできないざわつきが金次郎の心を支配します。木村さんはカッコいいですし、同世代のスターであることに全く異論無しなのですが、このCMは確実に彼のそういうポジティブで分かり易い一面を売りにしたものでなく、もっと何か得体のしれないものに心の奥底に働きかけられているような焦燥を感じさせられ、新しくて怖いCMだなぁ、と思いながら目が離せなくなっております(笑)。皆さんの印象は如何でしょうか?

前回→【アフター4読書一周年記念】人気記事ランキング発表!(6~10位)に引き続き、いよいよ人気上位記事の発表です!前回の内容を読んだ妻に、どうして10位から発表しなかったのか!、とさんざん詰(なじ)られましたので(涙)、今回はきちんと下位の記事から発表させて頂きたいと思います。

5位:金次郎、中学生になった文学女子への本の紹介に挑戦(2020年6月30日)

改めて紹介した本のリストを眺めていて、大人げないと言うか大人過ぎるセレクションにかなりのKY印象を禁じ得ません(苦笑)。住野先生を気に入ってもらえたことと、大人である文学女子のお母さんに楽しんで読んで頂けたことがせめてもの救いです。とは言え、いずれ劣らぬ名作揃いであることは間違い無いですから、このブログを読んで頂いている未読の方は是非お試し下さい。

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【アフター4読書一周年記念】人気記事ランキング発表!(6~10位)

昨年12月に始めたこのブログですが、試行錯誤しながらどうにか一年続いて参りました。ストックしていたネタの枯渇懸念により、途中からやや更新ペースが落ちてしまったものの、前回分までで計72投稿とそれなりに頑張れたかなと思います。とりあえず、目つきの悪いヤンキーが公園のゴミを拾っているのを見た時のような、あの飲み会担当の金次郎さんが真面目に文章を書いている!、というポジティブギャップによる好印象戦略を継続する意味でも、二周年に向けて楽しんで頂ける記事を書いていこうと思います。引き続き宜しくお願いいたします。

と言うことで、前回のブログの最後に予告しました通り、一周年を記念して、これまでに読んで頂いた回数の多い記事のランキングを作成してみました。金次郎(とその妻)以外にこの順位に興味を持たれる方はそんなにはいらっしゃらないと思いますし、記事の最後に〈いいね!〉ボタンを付けているわけでもないので、どちらかと言うとたくさんクリックされたタイトルランキングのような気もしてきましたが、あまり細かいことにはこだわらず、先ずは以下6~10位の発表です。

6位:ダイヤモンドプリンセスは呪われているのか?(2020年2月21日)

思えばまだこの頃は日本国内での感染者も少なく、他人事感満点の内容となっておりますね。最近レースの機会も無く、目標を見失って料理にはまっている海外準エリートランナー友人へのエールが今は昔、という雰囲気です。最後まで読まないと出てきませんが、マリファナの本についての感想はなかなか良いですね(自画自賛)。

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気が早いですが、金次郎は2024年のアメリカ大統領選挙に注目!

ようやく落ち着いてきたアメリカ大統領選挙ですが、アメリカではトランプ大統領をどうしても再選させたくない人々を〈ネバートランパーズ〉と呼ぶようで、英語って面白いとちょっと思いました。日本でも大阪の梅田がバイデンと読めるとか、宇部市のバス停の上梅田がジョーバイデンと読めるとか、福井県小浜市ばりの微妙なフィーバーが少し笑えます。やや気の早い話ですが、金次郎は次の2024年の選挙に注目しておりまして、さすがに81歳になるバイデンさんはちょっと更に4年は難しいと思うので、にわかにブームとなっているカマラ・ハリス副大統領が民主党候補として選挙を戦う可能性も大いに有ると思っています。共和党はと言うと、勿論たくさん候補はいると思いますが、有力候補の一人が前国連大使のニッキー・ヘイリーさん。こちらもインド系の女性ということで、もしカマラvsニッキーという戦いになれば、アメリカの多様性と新しい時代の象徴の選挙になりそうで、今回の白人のおじいさん同士のシルバーな選挙戦とは違った形で盛り上がれるのではないかと今から楽しみにしているところです。ちなみに民主党にはアレキサンドリア・オカシオ=コルテス(通称AOC)さんという、スーパー左翼の女性候補(現在31歳)も一部の人にかなり人気が有り、こちらが出てきてもやっぱり面白い。早く4年後にならないかな、と思ったりする今日この頃です。

さて読書ですが、読もうかなどうしようかな、と何度も迷って遂に読んだのが「いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件」(大崎善生著 KADOKAWA)です。闇サイトで出会った3人の男が、全く見ず知らずの女性を金目当てで連れ去り殺害した悲惨な事件を被害者の人生に焦点を当てて描いたずっしり重いノンフィクションです。事件の起こった2007年当時も報道を観て気にはなっていましたが、この本を読み、悩みながらもひたむきに生きようとしていた被害者の方の無念、母一人子一人のささやかな幸せを失った親御さんの塗炭の苦しみの一端を知って、犯人を許せない気持ちは勿論ですが、なんとなくニュースを消費していただけで、事件の後に30万人以上の署名を集めて、一人殺しても死刑にはならない、との所謂〈永山基準〉の壁に立ち向かわれたご遺族の活動も知らなかった自分が非常に情けなくなりました。お母さんにマイホームをプレゼントする夢のためにこつこつ貯めた貯金を守ろうと、犯人の脅しに屈せず暗証番号を絶対に明かさなかった被害者の方の途方も無い勇気にただただ首を垂れるばかりです。彼女の食べ歩きブログが署名活動に使われていた関係でまだ閲覧できるのですが、日常を奪われた無念が胸に迫ってくるようで殆ど読めませんでした。

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金次郎はビジネスパーソンとしてちゃんとビジネス書も読んでいます

今回ちょっと長いのでいきなり本の紹介です。ネタ切れではありませんのでご心配なく(笑)。感想を書くのに骨が折れるのでやや敬遠気味でしたが、たまにはビジネス書的なものも紹介せねばと思い、どうせならと長らく積読となっていた「ティール組織:マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」(フレデリック・ラルー著 英知出版)を気合で読んでみました。

この本は組織をその発展段階によって幾つかに分類した上で、現在その中でも最も進んだ形態であるとされる〈進化型組織〉に焦点を当て、その仕組みや優れている点について実例を挙げながら解説する内容となっています。

それぞれの発展段階にイメージカラーが付されているのが面白いのですが、原始時代の環境を受け入れるしかない狩猟採集を目的とする組織は〈受動型組織(無色)〉と規定され、呪術的な〈神秘型組織(マゼンダ)〉、そしてマフィアのような〈衝動型組織(レッド)〉と続きます。

現在の日本企業は〈達成型組織(オレンジ)〉から〈多元型組織(グリーン)〉への移行期という大まかなイメージですが、この本で紹介されているのは更にその先の形態である〈進化型組織(ティール)〉ということになっています。ティール色がどんな色かよく分からないので調べると青と緑の中間的な色のようで、何となく自然の多様性を穏かな精神で俯瞰するようなイメージの色かな、という印象です。

〈多元型組織〉への移行に四苦八苦している金次郎のような凡人には、より進んだ組織と言われてもなかなかピンと来ませんが、〈進化型組織〉を象徴する特徴は1.セルフマネジメント、2.全体性(フォールネス)、3.存在目的、ということで、簡単に言うと、ノルマも戦略もリーダーもない少人数のチームの集合体として構成される組織が、組織の存在目的だけを羅針盤に、完全な情報公開と助言システムを活用して、ひたすらに目的達成を追求する、ということのようです。利益や成長が一義的な目標とされておらず、もう一段高い存在目的のレベルで組織の在り方を考えており、営利企業にも非営利組織にも活用可能、株主利益至上主義でなくスチュワードシップに対応している、という点でなんとなく最先端感は出ています。

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単なる童話ではない「ハーメルンの笛吹き男」の真相に迫る名著を読む

最近ようやく海外渡航VISAが取得できるようになり、海外赴任が決まっていた同僚が少しずつ移動を始めています。本屋大賞予想対決で戦った宿敵Mもドイツに赴任となり、オフィスで読書の話ができなくなるのは寂しいですが、往復の隔離検疫期間4週間を考えると、海外出張が現実的でない状況ですので、海外駐在員の働きが以前にも増して重要になっており、MにはぜひEUを股にかけて大活躍して欲しいと期待しています。忙しくて読書が疎かになれば、来年の予想対決で金次郎が〈金の栞〉をゲットできるチャンスが増すのでそれにも期待ですね(笑)。

金次郎と宿敵Mによる本屋大賞2020予想対決!

金次郎と宿敵Mによる本屋大賞2020予想対決、結果発表!

ドイツと言えば、子供の頃に読んでなんとなく薄気味悪い印象を持った記憶の有るグリム童話の〈ハーメルンの笛吹き男〉の話について、その成立の背景を分析した「ハーメルンの笛吹き男:伝説とその世界」(阿部欽也著 筑摩書房)を読みました。

話のあらすじは、①鼠の害に悩む村に、珍しいいでたちの笛吹き男が現れ、礼金と引き換えに鼠の退治を請け負い、②笛を吹いて鼠を集め、池で鼠を溺れさせて退治したものの、③村人が礼金の支払いを渋って男が激怒して、④男が笛を吹くと村の子供たち130人が男について歩き始め、山のかなたに消えて行方知れずとなる、というものです。どうやら1284年6月26日に実際に起こった何らかの〈事件〉を下敷きにこの物語は生まれ、そこから700年以上にわたり少しずつ形を変えながら語り継がれているようなのですが、その〈事件〉とは何だったのか、この話が伝説となり長きにわたり伝えられるに至った社会的背景はどんなものか、物語の細部が微妙に変容を遂げた要因は何か、について解き明かすのが本書の目的となっています。

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金次郎、数十年ぶりに「ロビンソン・クルーソー」を読んで感心

早速ですが、先日読んだ「マイク:Mike」(アンドリュー・ノリス著 小学館)はちょっと変わった内容のなかなか興味深い児童書で、テニスの錦織選手を目指す実力が有るにも関わらず、さかなクン先生の人生を選ぶイギリス人少年の物語です。イギリスジュニアテニス界で順調に実績を積み上げ、将来のウィンブルドン制覇も夢ではない実力を身に着けたフロイド少年にだけ突然見えるようになった謎の男マイク。やたらとテニスの邪魔をしながら、フロイドの将来についてアドバイスと呼べる程には明示的でないサインを送り続けるこの男は何者なのか、という謎で読者の興味を引きつつ、苦悩と葛藤の果てにフロイド少年が手に入れた幸福を描く感動ストーリーになっています。大人は子供の将来という難しい問題にどういうスタンスで臨むべきか、という答えの無いテーマに挑戦しているチャレンジ精神は大いに評価できますが、そもそも錦織>さかなクン、という価値基準を一般化するところから全てが始まってしまっているのが必ずしも適切とは言えない点が気になります。また、本当にやりたいことを突き詰めれば社会的にも成功し充実した人生が送れる筈という精神論的ご都合主義のせいで、自らの心の声をしっかりと聞き、自分の信じられる道を進むことが、社会的な評価とは無関係に幸福な人生を送る上で重要な指針であるとの主要かつ大切なメッセージがシンプルに伝わりにくくなっているところが惜しい(笑)。アンハッピーエンドは児童書向きではないですし、金次郎も好きではないですが、やはりこの作品には一般化され過ぎたステレオタイプのハッピーエンドを持ってくるべきではないと思います。あ、けなしているわけではなく、それなりに楽しめた上での感想ですので誤解なきようにお願いします^^

そんな錦織選手もコロナに感染してしまいましたが、コロナと言えば最近プール式PCR検査に関連した記事を複数目にしました。日経新聞にも出ており皆さんご存知とは思いますが、非常に合理的だなと思いましたので、読書とは何の関係も有りませんが紹介しようと思います。この〈プール式〉とは、被験者から複数のサンプルを採取し、数人分の唾液検体を混ぜた上でPCR検査を行う方法のことで、市中感染率が低い感染症のPCR検査を無症状の人を中心に大規模に実施するのに適しています。市中感染率を仮に0.1%、PCR検査コストを3万円/回とすると、従来のやり方だと一人の陽性を見つけるのに1000回の検査で3千万円かかる計算となります。これを複数人(例えばここでは4人とします)一組のプールでまとめて検査する〈プール式〉で行うと、確率的には250回の検査で249グループは陰性とわかるので、陽性となった1グループ4人それぞれに検査を行えば合計254回の検査で済み、762万円でOKということになります。慎重な検体のハンドリング等の高い検査技術が求められる点と偽陰性の問題もクリアすべき課題ではありますが、一つのボトルネックとなっている検査キャパとコストの問題を解決できる合理的な方法と感じました。

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直木賞作である「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」を読む

アンジャッシュWさんの問題で、美味しいものを食べに行くのが好き(=グルメ)と何となく胸を張って言いづらい世の中になってしまいましたが(苦笑)、かつては金次郎も無難な中の上ぐらいのグルメを自負しておりました。ただ最近はコロナ騒ぎの再燃でお気に入りのお店に行けず不義理をしてしまっており、非常に心苦しい状況です。特に仕入れのリスクが大きいお寿司屋さんはどうされているのか心配なのですが、行く予定も無いのに「調子どうですか?」と電話もかけづらく悶々としております。最近全くお小遣いを使っておらずお財布に少しだけ余裕が有りますので、感染状況が少し落ち着いたら少人数早帰りベースで週一ぐらいはひいき店巡りを始めたいと思います。なんだか先日のケーキの話もそうですが食べることばかり書いている気がします(笑)。

さて、ずっと気になっていた昨年の直木賞作である「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」(大島真寿美著 文芸春秋)をようやく読みました。本作は人形浄瑠璃(文楽)作者である近松半二の人生を通して、虚実入り乱れる人間世界の形を結ばぬ曖昧さ、時空を超えて流れる魂の表出としての物語、といった著者が一貫してこだわり続けてきたテーマを描く内容になっています。文楽や歌舞伎の世界で多くの演題が伝統芸能の垣根を越えてリメイクされ続けている事実や、創作活動がゾーンに入った状態では具体的に表現せずとも共同作業の中でイメージを共有できるといった描写からは、この世界に流れている〈念〉によって作者は動かされ物語を表現させられている、という著者の思いがよく伝わってきます。主人公の半二が近松門左衛門の硯を受け継ぐ者、という設定もなかなかにくいですね。半二のライバルである弟弟子の屈託の無さや、半二が〈浄瑠璃はもっと良くなる〉の一心で素直に創作することを通じて成功する様からは、著者のクリエイティビティの源泉についての強い思いが感じられます。

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どうにかこのブログも半年続きました(感謝)

意を決して昨年12月から始めたこのブログもはや半年以上続いており、意外と頑張っている自分を少しだけほめている今日この頃ですが、更新ペースもやや落ち気味となり、更に続けていくにはやり方を少し変える必要が有るのかな、と思ったりもしています。仕事も少しだけ忙しくなりましたし、毎回の分量がそれなりに多いのがやや重荷になっているところも有るので、今回はちょっとショートバージョンを試してみます。

先日も書きましたが、小説には視点という物が有り、この視点をぶれさせないことが、読者が物語世界に没頭し続けるための重要な条件となります。最近読んだ本の中では、「逆ソクラテス」(伊坂幸太郎著 集英社)は小学生が主役の短編集で、後書きでも触れられている通り、視点が子供なので難しい言葉や大人しか使わない表現抜きでの描写が求められるという制約の中で、深い人生の機微を伝えようとする著者の試みはなかなか見上げたものだと思います。それぞれの短編の表題に〈逆〉とか〈非〉や〈アン〉のような否定を表す言葉が配されていて、無意識に流してしまう思い込みを鮮やかに反転させられるストーリー展開になっており、独特の伊坂流が遺憾なく発揮されていて最近の作品の中では好きな方に入る一冊でした。短くてすぐ読めるのでおすすめです。

 

ちょっと古い作品ですが、「パーフェクト・ブルー」(宮部みゆき著 東京創元社)は元警察犬の目線で物語が語られるという突飛な設定のミステリーです。非常に中立的な間合いでバランス良く登場人物を描写する効果を生んでおり、他の誰の視点をメインにしても、完全な三人称複数視点にしても、この作品のジャズバンド感は出せなかったのではないかと著者の工夫に感服いたしました。また、犬が実際に出来事を見聞きできるポジションにいないと物語を進められないのですが、非常に自然に犬が同伴できる状況を作っているところに著者の苦心と巧さが感じられ、唸らされっぱなしで読みました。ちょっとした不祥事で直ぐに大会出場を辞退する高校野球の異常な雰囲気に若かりし金次郎が違和感を感じていたちょうどその頃にまさに出版されたこの本を読んで、当時の気分を思い出しました。

全く話は変わりますが、現役医師の作家さんと言うと「神様のカルテ」シリーズの草川先生が思い浮かぶところですが、金次郎は久坂部羊先生が結構好きでよく読みます。医療ものは死生観をつきつけられるので苦しい時も有りますが、日ごろ目を背けがちな老いや病について強制的に考えさせられるので時々読むようにしています。

「悪医」(朝日新聞出版)と「祝葬」(講談社)はガン治療の功罪を医師ならではの視点で描いている秀作で、特に「祝葬」の方は短命医者一族の死の謎に迫るというサスペンス要素も有り面白いです。「破裂」(幻冬舎)と「テロリストの処方」(集英社)は治療中の事故や病院経営、終身制になっている医師免許の信頼性など、医療現場の課題に光を当てるミステリーです。「怖い患者」(集英社)は医療にまつわる医師や患者の狂気を描いた短編集で本当に怖い気分でぞくぞくできるホラー作品。「無痛」(幻冬舎)はドラマ化もされたサスペンスミステリーで先天性無痛症の役柄を中村蒼さんが熱演、今かなり来ている浜辺美波ちゃんも金髪姿で登場していました。

いつもの半分ぐらいですが、これぐらいならさすがに負担は少ないです。内容が薄くなっていたらすみません。。。

 

 

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金次郎、中学生になった文学女子への本の紹介に挑戦

先週は三日出社だったのですが、毎日会社に行って時々飲み会して、時には客先訪問をしたり出張に行ったりしていた日々が幻だったのではないか、と思うほどかなり疲労してへとへとになりました(笑)。今後徐々に慣れて行くのか、それとも加齢により元には戻れないのか、慎重に様子を見なければと真剣に思った一週間でした。

土曜日にE美容師を訪問し髪の毛をさっぱりと切り、ダイエット中というE美容師にはやや酷だったかなと後で思った「難事件カフェ」(似鳥鶏著 光文社)、「難事件カフェ2 焙煎推理」(同)を紹介しておきました。どうして酷かと言いますと、このミステリーには至る所に超美味しそうなスイーツの数々がそれにぴったりと合う珈琲や紅茶と共に登場し物語に彩を添えており、空腹に耐えながら読むのは不可能な内容になっているためです。もやし食べて頑張っているEさん、ごめん。

さて、このブログでお馴染みの文学少女への本紹介シリーズは、ありがたくも多くのviewを頂いておりますが、今回も晴れて入学式を済ませ中学生となった文学少女改め文学女子A&Bさんに僭越ながらいくつか本をお薦めいたします。東野圭吾、村上春樹といった著名作家の作品を読み漁られているということで、あまり制約無しに会社で隣に座っている同僚に紹介する感じでやってみますので忌憚のない感想を頂ければと思います。お恥ずかしながら、うちの同僚よりA&Bさんの方が読書はたくさんされていますね(苦笑)。。。

(これまでの紹介記事はこちら)

金次郎、懲りずに文学少女に本を紹介+楡周平作品を読む

金次郎、本の紹介を頼まれてないけどまた紹介+直木賞作「熱源」を読了!

金次郎、本の紹介を頼まれる+2019年4~5月振り返り

【金次郎から文学女子ABさんへのおすすめ作品9選】

「カディスの赤い星」(逢坂剛著 講談社):初版は昭和60年ぐらいだと思うのでちょっと古い本にはなりますが、とにかくページをめくる手が止まらなくなるストーリー展開の吸引力、スペインにも飛ぶ大きなスケール、最後に驚かされるミステリーとしての完成度、とどれを取っても傑作と言って良いクオリティです。金次郎が、面白いミステリーを紹介して下さい、と頼まれた際に必ず候補になる作品で楽しめること間違い無しです。

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猫エッセイを読んだことによる道草で「新宿鮫」をほぼコンプリート

前回のブログ(金次郎、久々に出社して中途覚醒が改善)では、「おひとり様作家、いよいよ猫を飼う。」(真梨幸子著 幻冬舎)を読んでしまった結果、真梨ワールドにはまってしまい予定していた読書計画が大幅に狂ってしまったというようなことを書きました。これを書いている今も「殺人鬼フジコの衝動」(真梨幸子著 徳間書店)を読んでおりますので、その影響は継続しているのですが、ここに辿り着くまでにも大きな山が有りました。

「おひとり様~」では、真梨先生も二冊持っていて参考にしているという「小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない」(大沢有正著 角川文庫)という本が紹介されており、ちょっと前のブログで物語を書く難しさを痛感した金次郎は、どうしても興味が湧いてしまいこの本も読んでみる誘惑に勝てず。

エンターテイメント小説界の大御所である大沢先生が惜しげもなく面白い小説を作り上げるための心構えと技術を提示して下さっているこの本は、悩める小説家志望の生徒へのダメ出しで溢れていて、少しだけ金次郎のサラリーマン駆け出し時代を思い出します(笑)。

力の有るキャラクターを細部の設定まで練り上げること、どのポイントで読者の心を動かそうとするのか、そのために必要な謎とトゲを物語にどう折り込むのかを考えること、主人公を苦しめてその人生に変化を与えること、破ってはならないフェアネスのルールなど、たいへん興味深い内容が盛りだくさんですし、これまで読んで面白かったと思う作品を振り返ってみると、やはりこれらの要素がきちんと充足されていたなと改めて感心したりもしました。

まぁ理屈はそれなりに理解したとしても、実際に創作しようとすると凡人の金次郎にはイケている文章は全く思いつかないわけですが、中でもとりわけ難しいと思うのが、やはり〈視点〉の問題だと思います。基本的なものとして、一人称の私小説、三人称一視点、三人称多視点という選択肢があるわけですが、物語のテーマが最も効果的に読者に伝わるものを選べと言われても、分かるのは一人称だと読者が感情移入し易い代わりに直接体験しか描けない制約が有ることぐらいで、それぞれの効果がどう違うのかを明確に区別して理解するのが難しい。更に、視点が決まったとしても、その視点をぶらさぬように矛盾を排除し客観性を保ちながら物語を進めるとなると、もはや完全にギブアップで、世の作家の皆さんは本当に凄いと脱帽いたします。

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金次郎、久々に出社して中途覚醒が改善

このところ苦しんできた中途覚醒不眠ですが(→金次郎、中途覚醒症状に苦しみつつ読書は継続)、色々と生活の中で対策を講じてみたり、かかりつけの鍼灸の先生に診てもらったりした結果、一進一退しながら少しずつではあるものの症状は快方に向かっておりました。

そんな中、緊急事態が解除され、会社の判断も諸々留意しながら一部出社せよということになりましたので、断続的にやって来る眠気と闘いながら3か月ぶりに会社に行って参りました。

そうしたら!今週は一度だけの出社だったのですが、その晩、次の晩とかなり長時間眠ることができ、何のことはない、金次郎の身体メカニズムが25年の社会人生活を経て、ヒューマンビーイングからサラリーマンビーイングにリプログラムされていただけだったというオチで、嬉しくもあり切なくもなる出来事でした。

とは言え、まだ完快ではないので、もっと会社に行かねばと思う一方、快適で読書にも便利な在宅勤務を離れがたいという気持ちも有り、このジレンマに悶々としましたが、とりあえず来週は2日出社でお茶を濁します(笑)。

さて、金次郎は妻と共にネコ好きで、我が家に家族としてネコちゃんを迎えるかどうか悩むことが最早趣味と言うかお約束となっていますが、なかなか決断できずにおり、その反動かついついネコをタイトルに含む本を手に取ってしまいがちです。そんなことで、今回たまたま読んだのが「おひとり様作家、いよいよ猫を飼う。」(真梨幸子著 幻冬舎)で、ネコちゃんの話は後半にしか出てこないこのエッセイ集を読んでしまったために、組み立てていた読書計画が大きく狂うことになりました。

元々の計画では、「英仏百年戦争」(佐藤賢一著 集英社)、「双頭の鷲」(同 新潮社)と連続で読破して面白かったので、佐藤先生の「小説フランス革命」全12巻を冊数を稼ぐシリーズものとして、集中して読むことにしておりました。

「英仏百年~」では、当時の欧州大陸側から見た英国の位置づけが、日の沈まぬ大英帝国を経験した現代のものとは全く違う周縁的なものであった事実を改めて認識することができ、その後長らく続いて行く英仏抗争の根源に触れることができます。シェークスピアでしか歴史を学ばない英国人が、英仏戦争は英国の勝利に終わったと事実誤認しているという点は、前回のブログに書きました「すばらしい新世界」に登場した野蛮人ジョンを思い出してちょっと笑えます。

 

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金次郎、中途覚醒症状に苦しみつつ読書は継続

これまでもちょこちょこ書いておりますが、5月に入ったぐらいから不眠というか中途覚醒というか、まともに夜寝て朝起きる、というリズムが乱れ、2~3時間眠ってはパッチリと眼が冴えるというやや辛い状態になる日が時々発生していました。

日光に当たっていないせい?、運動不足?、知らぬ間のストレス?、などと原因に思いを巡らせて、散歩をしたり、暑いのを我慢してカーテンを開け放ったり、呼吸法を試したり、眼が冴えても頑張って布団の中で羊ではつまらないので、学生時代の部活を思い出して、走り幅跳び1本、走り幅跳び2本‥と100本ぐらいまで数えてみたりと試行錯誤してみたものの、結局徒労に終わりました。走り幅跳びカウントはなんだかとても疲れた上に眠れないので最悪でした(苦笑)。

そうこうしているうちに、5月も終盤となり、この症状がもう1か月も続いており、このまま悪化したらどうなってしまうのだろう‥とやや不安になりましたが、なんとなく最近長めに眠れるようになってきた感じなので原因は結局不明ですが一安心です。ご心配をお掛けしました。ちょうど異動の時期と重なっているので、まさか緊張?、とも思いましたが、さすがにそれはないかな。でも、自分のことはよく分からないというのがたくさんの小説で語られている事実なので、そういう自分もいるのかも、と思ってストレスをいつの間にか溜め込んでいるような事態にならぬよう気を付けます。

さて、そんな不規則な生活の中、朝の2~4時ぐらいに読書をすることが多かったのですが(苦笑)、中途覚醒と戦いながら読んだ本をいくつか紹介します。

「コンビニチェーン進化史」(梅澤聡著 イースト・プレス)は、我々の暮らしに欠かすことのできない存在となった、ビッグ3に代表されるコンビニエンスストアの起こりから現在に至る産業史をコンパクトにまとめて解説している内容で、コンビニの歴史と金次郎の人生がほぼ重なることもあり、非常に興味深く読めた一冊でした。

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金次郎と宿敵Mによる本屋大賞2020予想対決!

いよいよ金次郎と宿敵Mとの本屋大賞予想対決の時がやって参りました!今日は余計なことは書かず、それぞれの総評、順位予想と一言コメントを紹介させて頂きます。

4月7日(火)に公式順位が発表される予定となっており、予め合意したルールに従って点数を計算、決着を付けることになります。 (詳細は→本屋大賞2020ノミネート作品発表!)

本を背負って本を読みながら本の山を積み上げる金次郎が勝つのか、老獪な言葉の魔術師Mがその感性の冴えを見せつけるのか、結果が待ち遠しいところです。

金次郎

【総評】

上位6作はすんなり選べたのですが、いずれ劣らぬ秀作揃いでそこからの順位付けに悩みに悩みました。結果、一番心に深く刺さったという基準で大賞は「夏物語」、当てに行く気持ちを少し忘れて、こんな時だから明るくなれる「店長が」を次点に推しました。多くの人に受け入れられるエンタメ作品として「線は、」は外せず第3位です。直木賞でスケールの大きさが売りの「熱源」は逆に壮大過ぎて理解が追い付かないかもと第4位、「ライオン」は素晴らしいが新井賞作は上位に来ないジンクスを信じ勝負に徹して第5位にしました。ミステリーは本屋大賞に弱い実績から「Medium」は泣く泣く第6位とさせて頂いております。

【順位予想】

本屋大賞:「夏物語」(川上未映子著 文藝春秋)

静かな社会現象である非配偶者人工授精を切り口に、生まれてくることを自ら選択できない子供の完全な受動性というある意味究極の理不尽に光を当てた本作は、家族の在り方を世に問う社会派小説であると共に、そもそも不条理な人生に苦悩しつつも立ち向かう覚悟の美しさに気付かせてくれる感動と導きの書でもあります。

第2位:「店長がバカすぎて」(早見和真著 角川春樹事務所)

バカという名の理不尽に振り回され、怒り、悩み、焦り、疲れ果て自分を見失いながらも、仕事に真摯に向き合い続ける苦境の契約社員書店員谷原さんがなんともチャーミングな本作は、同時にノミネート作中随一の笑える作品でもあります。そして、自分の部署には無理だけど、隣の部署にはいて欲しい山本店長は本当にバカで最高です。

第3位:「線は、僕を描く」(砥上裕將著 講談社)

老師に才能を見出される若者の成長を描くという少年漫画プロットの本作が、普通のエンタメ作品と一線を画す高みにあるのは、描かれなかったものと何も描かれていない余白にその本質を見出すという、奥深い水墨画の世界を、その世界に身を置く芸術家である著者の感性で鮮やかに疑似体験させてもらえるからだと思います。

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金次郎、父に電話をする+「興亡の世界史」シリーズ(全21巻 講談社)もいよいよ終盤

昨晩はユリコショックにより、海外赴任する友人の送別会が急遽キャンセルとなり(海外赴任そのものも当面難しそうですが)、在宅勤務終了後、在宅だらだらを楽しみつつ、実家@福岡の父に連絡してみました。

福岡はコロナ患者が11件というまずまずの優秀県ということもあり、幸い父はすこぶる元気そうにしており安心したのですが、逆に「東京は大変なことになっとらんか?あの街に集まっている若者はなんばしよっとか?電車にはどげんして乗りよるとか?」と立て続けに質問&激しく心配され親のありがたみが身に染みると同時に、地方からは東京はそれほどデンジャラスに見えているのだな、と改めて感じました。

SARSが流行した2003年にシンガポールに駐在しておりまして、感覚的にはあの時より危機感は高い気がしており、ネットメディアによる情報過多のせいか、年を取ったせいか、はたまた本当に危険な状態なのか、正直分かりませんが、親に心配かけぬよう感染防止には最大限気を付けたいと思います。 (あの時は、コンラッドホテルで食事した後、車寄せのおじさんに当日の宿泊者数を聞いたところ「5人!」と言われて絶句したことを鮮明に覚えています。)

コロナは勿論大変なのですが、読書が趣味というのはとても都合が良く、外出できないストレスも無く、在宅勤務修了時点で一瞬で趣味の時間に移行できるというのは非常に幸せです。おかげさまで今月は目標の25冊を既にクリアし、28冊目に突入しているというハイペースになっており、今年も300冊が見えてきたぞと密かに喜んでいるところです。

さて、いよいよこのシリーズも終盤に差し掛かってきましたが、ずっと読んでいる「興亡の世界史」(講談社)の紹介です。

#17「大清帝国と中華の混迷」(平野聡著):

万里の長城を越え、異民族でありながら漢人・朱子学・華夷思想が支配した明の後継国家となった清が、朝貢国としてチベット・モンゴルを従え、東アジア国家から内陸アジア国家に転換しつつ版図を拡張していく中で、仏教の保護者、騎馬民族のハン、そして中国皇帝という性格の異なる統治者という矛盾を内包していたこと、 やがて朱子学の引力が満州人の漢人化をもたらし、19世紀後半から再び東アジア国家となって西欧列強と日本を含む帝国主義抗争に巻き込まれたとの流れ、が分かりやすく解説してある本作は、このシリーズの特徴である教科書に無い歴史における視座を与えてくれるという意味で非常に面白いと思います。

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「日本列島回復論 この国で生き続けるために」(井上岳一著)とその関連本を読む

このブログで書いてから少し間があいてしまったので、あれやらないのかな?と思っている読者の方もいらっしゃるかもしれませんが、〈本屋大賞対決〉、忘れておりません。

先週末に「流浪の月」を読了し、ノミネート10作品全てを読み終えましたので、これから順位予想を悩みに悩もうと思います。対決の相手であるMに確認したところ、「熱源」を残し9冊読み終えたとのことで、我々二人だけの非常に狭い世界でのどうでもいいニッチな争いではありますが、コロナのせいで刺激の少ない日常が続く中、4月7日の発表までこのネタで気分を上げて行こうと思います。

さて、学生時代のの先輩が推奨されていたので「日本列島回復論 この国で生き続けるために」(井上岳一著 新潮社)を読んでみました。

著者が4年の期間を費やして思いのたけを詰め込んだだけのことはあり、平易ながらも非常に理知的な文章で綴られる内容は多岐にわたり、情報の量と幅広さに、 気を抜くと圧倒されて迷子になってしまいそうです。

日本の国土の7割弱を占める森林が人々の生活の基盤であった時代から紐解き、 明治維新後の富国強兵、立身出世の流れの中で山村を中心とする地方の〈労働力源〉化が始まり、 回遊マグロのように安価な労働力を求め続けざるを得ない資本主義の進展と、 石油へのエネルギー転換、貿易自由化があいまってこの傾向が加速し、都市と地方の二極化構造が生まれた経緯を分かりやすく解説してあります。

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