一昨年は「かがみの孤城」(辻村深月著 ポプラ社)、昨年は「そして、バトンは渡された」(瀬尾まいこ著 文芸春秋)を年末に選出し、見事翌年4月の本屋大賞受賞作を世に出した先見の明のブランチbook大賞、私の予想であった「いつかの岸辺に跳ねていく」(加納朋子 幻冬舎)はあっけなく外れ、今年はこれがデビュー作という「線は、僕を描く」(砥上裕将 講談社)が受賞となりました。
この本は残念ながら未読なばかりか聞いたこともなく、年間8万冊出るといいますが、改めてまだまだたくさん本が出版されていることを実感。内容はと言うと、老師に才能を見出される若者、という少年漫画的なプロットなのですが、この作品がありがちなエンタメものにならず踏みとどまっているのは、描く対象でなく自分の内面を見つめ、美ではなく命を捉え、そして描かれなかったものと何も描かれていない余白にその本質を見出すという、何とも奥深い水墨画の世界がテーマになっているからに他なりません。モチーフがもう少しありきたりだったら、一瞬でラノベ的な雰囲気にのみ込まれ教の気分にそぐわない読書体験になっていたと思うので良かったです。
自身も水墨画家である著者によって切り取られる、芸術家の視点で見た世界、に触れ、なんとなく自分の周囲の景色が鮮やかになるような気がする一冊です。こちらも好きな本です が、「羊と鋼の森」(宮下奈都著 文芸春秋)に雰囲気近いですね。
さて、折角なので、改めて紹介するまでもない気もしますが、冒頭三作の感想を少し。「かがみの孤城」はよく練られたプロットのおかげで読後にもやもやが残りません。最後に詰め込み過ぎな印象もやや残る一方、終盤の勢いとも言えるし、単純には語れない<不登校>問題を抱える中学生の心の揺れを繊細に描くためには必要な長さだったとも感じます。結構うるうるしますが、鼻の奥がつーん、という表現の場面で実際そうなるので、作者にやられた気分になります(笑)。
「そして、バトンは渡された」は、父親3人母親2人というちょっと変わった環境で育った優子が、その環境ゆえにこれでもかと様々な形の親子愛に育まれて、芯の強い素敵な女性に成長するという何ともほっこりするお話です。とにかく3番目のお父さんである森宮さんが最高で、読みながらにやにやしてしまいます。
「いつかの岸辺に跳ねていく」は来年の本屋大賞レースに絡んできそうな感動ミステリーです。前半は護の視点で語られる幼馴染徹子のちょっと理解不能な言動の数々、後半は徹子によって明かされる思いもよらない苦悩に満ちたその背景、という構成になっており、同じ場面を二度なぞるので徹子への感情移入がどんどん深くなって、いたたまれない気分になって、そしてラストに突入という勢いで一気に読めてしまいます。不器用がゆえに誤解され、たくさん削られながら、それでも真面目に、必死に愚直に黙々と生きる徹子の姿には心を打たれる人多いと思います。