〈知の巨人〉佐藤優を読んで相変わらず傷心+楡周平のビジネス小説を読む

コロナ禍でみなさん大変かとは思いますが、金次郎は用心しながら少しずつ夜の会食を再開し始めております。感染対策がそれなりに整ったお店に少人数で行くことを励行しておりますが、行きつけのお寿司焼き鳥イタリアン和食のお店がしっかりと対策をされ、元気に営業されている姿を見ることができて本当に良かったと嬉しく思っております。しばらくは頻度を上げるのは難しいですし、忘年会という感じでもないですが、地味にgo to eatと言うかgo out to eatしようと思います。

こじつけと思われるかもしれませんが、はい、こじつけです(笑)。「食王」(楡周平著 祥伝社)は食をテーマにした新しいビジネスモデルを世に問う内容となっていますが、オーナー企業や老舗料亭、築地仲卸を取り上げながら〈後継者問題〉にも焦点を当てる構成となっています。エンタメ小説としてそれなりに面白く読めるのですが、既に懐かしい外国人観光客へのB級グルメも含めた地方の売り込み、復興が進まない津波被災地の問題等も欲張って盛り込んでしまったために、本題のビジネス部分がややぼやける結果となりちょっと残念でした。あと150ページぐらい紙幅が有ればもう少し練られた感じが出せたのに。

さて、蔵書量が数万冊と圧倒される佐藤優先生は、著書のかなりの部分が参考文献からの引用という一見省エネ作家ですが、数万冊の中から文脈に沿って適切に抜き書きし、自分の主張を伝えるだけでも十分に凄いので、私は佐藤先生を〈知の巨人〉とリスペクトしております。かつてヨーロッパでは自由七科を入り口に哲学、神学とステップアップするのが学問を究める王道だったわけですが、神学部卒の佐藤先生による宗教関係の本は非常に勉強になる一方、当然ですがレベルが高すぎて理解できない部分が多く、自らの教養不足に頻繁に悲しい気持ちになります(苦笑)。今回読んだ「宗教改革の物語 近代・民族・国家の起源」(佐藤優著 KADOKAWA)もまさにそういう本で、頑張って500ページ以上も読んだのに打ちのめされる結果となってしまいました。14世紀から15世紀にかけて、分裂時代のカトリック教会、教皇の在り方を批判し、信仰に基づく見えざる教会、聖書至上主義を掲げ、最終的には異端として処刑されたチェコ人ヤン・フスの思想に焦点を当て、聖書を中心に様々な文献を引きながら、カトリックとプロテスタントの違いや、共同体の中に埋め込まれ、その後19世紀に芽吹くことになる民族国家の源流について解説しているこの本は、宗教改革と言えば1517年のマルチン・ルターによる95か条の論題に端を発すると勉強した金次郎世代にとってはなかなかにショッキングな内容です。ポストモダンと言われますが、依然として近代は続いているという立場で、寧ろプレモダンの視点で近代的現象である民族主義の動きを捉え直し、そこから現代起こっている事象への示唆を得ようとする見方は佐藤先生の一貫した姿勢であり、大いに参考になるとも言えますし、ちょっと意味が分からないとも言えます(笑)。ローマ教皇の生前退位の戦略性についての言及はなかなか興味深かったですね。

せっかくですので、キリスト教関連の本を何冊か紹介します。「神の小屋」(ウィリアム・ポール・ヤング著、原題The Shack サンマーク出版)は〈アメージングジャーニー〉で映画化もされた問題作です。何が問題かと言うと、キリスト教福音主義を強く押し出していて他宗派の批判的な表現も見られるところや、神(=パパ)の人種問題とか(作中では黒人女性の姿で登場)、色々です(笑)。とは言え、分かりにくいキリスト教における三位一体の考え方や、神と人間のかかわり、愛について等、作者なりの理解をカジュアルに描いてくれておりイメージし易いのでありがたいです。そして何よりもストーリーがそこそこ面白くてすんなり入ってくるのがいいですね。

「ロシア正教の1000年 聖と俗のはざまで」(広岡正久著 日本放送協会出版)は馴染みが薄いわりに地政学的に重要な東方正教会、とりわけロシア正教について知るために大変有用な本です。ロシア文学からウクライナ問題まで、ロシアに関する事柄と不可分な宗教的背景をずっと理解したいと思っていたので、この本に出会えて良かったです。皇帝権力や近代化との折り合い、ソビエト無神論体制下での迫害、東方正教会内部でのポジショニング等、非常に興味深い内容多数で一気に読めました。

「キリスト教の原点 キリスト教概説1」(百瀬文晃著 教友社)、「キリスト教の本質と展開 キリスト教概説2」(同)は上智大学の講義用に書かれた教科書ですが、様々な文学作品の下敷きとしてのキリスト教を理解する導入としては、内容がまとまっていて分かり易く、加えて批判的で冷静な視点にも共感できたので読んで良かった本です。

読了まで時間がかかること請け合いですが「イエスの仮説」(ヴィッソリオ・メットーリ著 ドン・ボスコ社)は分量に見合う読みごたえの有る本です。イエスは取るに足らない大工の息子であった、とか、イエスにまつわる話は布教のために都合良く作られた神話的フィクションである、等々の仮説を一つ一つ検証して、最後はキリスト教のオリジナリティまでを語り尽くします。例えば、布教のためのフィクションならもう少し当時の社会通念上受けの良いストーリーにできた筈なのにそうなっていない、よって事実が語られている可能性が高い、のように検証されていきます。一部の偏り(と言えるほど知見無いですが)を割り引いても充分楽しめる一冊です。

いよいよ秋競馬のG1シーズンも始まり、読書、ブログ、競馬予想+観戦、と非常に忙しくなり困っております。。。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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